連載第4回 若草幼稚園「すくすくの森」と子どもたち・・・生命の尊さと生命のつながりを学ぶ
(その2 生き物にはそれぞれに生きる場所がある ①カマキリの飼育)
高知市若草幼稚園 園長 岡林道生 執筆 〔『保育の実践と研究』(第16巻第1号)より転載〕
生命の尊さと生命のつながりを学ぶ
すくすくの森には多くの生命の営みがあります。その生命の営みに囲まれて子どもたちは一日を過ごします。草花を摘み、虫や小さな生き物を追いかけ、捕まえて遊びます。その行為が相手の生命を奪っているとか、そこに暮らす動植物の生命の営みに影響を及ぼすなどとはその時は気づきません。
しかし、虫や小さな生き物に対する親しみが増すに連れて、彼らにも家族がいるに違いないと考えるようになったり、なぜ草花はそこに咲くのだろうと考えるようになります。そして先生と一緒に「どうしてかな」と考えたり、絵本や図鑑をひもときます。そのなかで、自然の中にあるものは、それぞれに役割があり、つながりあって生きているということがわかるようになります。
すると子どもたちは、段々、むやみに花を摘んだり、虫を捕まえて乱暴に扱ったりしなくなります。以下では、子どもたちが実際に生命とかかわる中で、何を感じ、何を学んでいくのかについて述べていきたいと思います。
2 生き物にはそれぞれに生きる場所がある
①カマキリの飼育
10年も前でしょうか。年中児のつき組で、カマキリの卵を持って帰り、赤ちゃんが生まれたら育てようということになりました。当時の担任のレポートから、事例を紹介します。見つけたのは、K季とR太でした。子どもたちは、それから毎日、観察を続けました。そしてある朝、「生まれちゅう、生まれちゅう」と大騒ぎになりました。
孵化したばかり幼虫は、驚くばかりの数で、飼育箱の中をガサゴソ、ガサゴソと動き回っています。最初に見つけたK季は、驚きと喜びを友だちみんなに伝えたくて、来る子ども来る子どもを飼育箱に誘っていました。
誘われて飼育箱を覗く子どもたちの驚きの声は段々増えて、興奮の渦が部屋全体に広がるようでした。餌は草と思っていた子どもたちはその日は幼稚園の庭にある草を摘んで飼育箱に入れて帰りました。
次の日も次の日も同じことを繰り返していましたが、4~5日たったある日、K季くんが草を食べた様子がないこと、カマキリの数がめっきり減っていることに気付きました。
「たいへん、たいへん、カマキリがいなくなってる!!」と友だちのR太に話しました。「ほんとうや、どうして」またまたクラス中が大騒ぎになりました。
カマキリはいったい何処へ行ったのだろうか。草を食べると思っていたのになぜ食べないのだろうか。この日は、逃げ出さないようにフタをきちん確かめて帰り、明日はキューリやナス、スイカを持ってこようということになりました。
さてあくる日、スイカやキューリを持って来る子どもをしり目に「スイカもキューリも食べんで」とF二くんが言うではありませんか。「エッ、なんで!!」と驚く子どもたちにF二くんは「お父さんが、カマキリは草とか野菜は食べんて言うた、肉食やき、他の虫とかを食べるって言いよった」またまたクラス中が大騒ぎ。
「どんな虫食べるが?」「ハエとかゴキブリも食べるって言いよったで」それでは明日はハエを取って来ようということになりました。次の日、数人の子どもがハエを持って来て、飼育箱に入れて様子をうかがいましたが、カマキリは全く食べようとはしません。
子どもたちは口々に「食べんで、食べん」「どうして食べんがやろ」と言い合いながら、めっきり数の減ったカマキリの数を数えて困ってしまいました。
子どもたちのやり取りを見ていた担任が「どうする?」と聞きました。「F二くんがハエやったら食べるって教えてくれたけんど、食べんね」
担任「どうしてやろうね」
子どもたち「ウーン、わからん」
担任「先生にも詳しいことは分かりません。どうしたらいいかな」
子どもたち「F二くんのお父さんに聞いてみたら」「そうでね」
担任「そうね、聞いてもらいましょうか」
するとM敏が、「えーとね、先生、僕、カマキリの絵本と図鑑を年長さんのゆり組さんで見たことがあるで」と言いました。「借りに行こう!!」と数人の子どもがどどっと走り出し、それについていくようにクラスのみんなが走り出しました。
ゆり組さんの子どもたちは何事かと驚いたようですが、快く図鑑と絵本を貸してくれました。つき組に帰ると、我先に絵本や図鑑に群がり、ケンカさえ起こりそうでした。
そこで担任が読むことを引き受け、子どもたちに話して聞かせました。そこには、カマキリは肉食で、しかも生きたものしか食べないということが書いてありました。そして、エサがない時は仲間を食べることも分かりました。
毎日、カマキリの数が減り、残ったカマキリが大きくなっているのがなぜかわかった子どもたちは困ってしまいました。数人の子どもが、「ハエを生きたまま捕まえてくる」、「ゴキブリは夜出てくるき、待ちよって捕まえてくる」等、何とか生きたままで虫を持ってくると言いました。しかし、実際にそれはなかなか大変で、毎日はとても無理だということがわかりました。
みんなで困っていると、K季くんとR太くんが顔を見合わせ、そしてみんなに問いかけるように「すくすくの森に返そう」と言いました。カマキリの卵を見つけたのはこの二人で、持って帰ってきてからも、毎日カマキリの様子を観察し、その変化をみんなに伝えていたのもこの二人でした。
HN:ちるどれん
◎かしこくて、たくましい子どもに育てる(高知市・若草幼稚園の実践)
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