
急事態宣言の対象地域が全国に拡大された。“接客を伴う飲食店”の休業要請もあり、「働きたくても働けない」と嘆くキャバクラ嬢などのナイトワーカーは多い。
彼女たちにとっては、まさに死活問題。スマホやパソコンなど自宅から利用可能で三密を避けられるオンラインキャバクラが出現。TwitterなどのSNSでは“パパ活”に励むキャバ嬢も見受けられるなど、だれもが生き残りをかけている状態だ。
※写真はイメージです(以下同)
そんななか「結婚してキャバ嬢を辞めることにしました」と電話越しに話すのはキャバ嬢歴8年の茉里奈さん(28歳・仮名)。少し前まで繁華街の高級キャバクラ店に勤めていた。そんな彼女は、決して上客ではなかった一般男性と結婚したという。今回、いかにして“コロナ結婚”に至ったのか理由を聞いた。
上客ではなかった彼を夫に選んだ理由
「4月頭からお店が休みになって、状況次第で開けるって話だったんです。はじめは1週間ぐらいかなぁと呑気に構えていましたが、毎日コロナの感染者は増え続ける一方。ニュースでも『ナイトクラブの自粛を……』って言われ続けたじゃないですか。このままずっとお店の自粛状態が続いたら本当にどうしようって思い始めて」 先行きが見えないなかで気持ちが不安定になり、次第にうつっぽくなっていった。そんなとき、相談に乗ってくれたのが今の夫だという。もともと彼は、客のひとりだった。 「まわりでは気にせず外出する子もいたけど、万が一、自分がコロナの保菌者で誰かに移してしまったらとか、いきなり発症して重篤化してしまったらとか考えてしまって。ひとり暮らしだし、恋人もいないし、どうなってしまうんだろうって。働かないまま暮らしていけるほど貯金もない。
そんなことを彼は毎日、LINEや電話で聞いてくれたんです」 多くの客から連絡がきたものの、食事や飲みの誘いばかり。なかには「パパ活」をもちかけてくるものまであり、茉里奈さんは「全然乗り気になれなかった」と振り返る。 そんななかで彼に悩みを相談するうちに、ささやかな“デート”をすることになった。 「外出自粛とはいえ、多少は運動したほうがいいって言うじゃないですか。それで一緒に散歩したんです。けっこう距離をとって、お互いにマスクして。そこで急に『今言うことじゃないけど、コロナが落ち着いたら付き合って欲しい』って言われて。だけど私は、『付き合うんじゃなくて結婚しよう』って逆プロポーズしました」
想いを寄せていた彼女から、まさかの逆プロポーズ。彼も驚いた様子で慌てふためいていたそうだが、快諾してくれたという。

恋人という関係を飛び越え、いきなり結婚までしたいと思った理由は何だったのだろうか。じつは彼、職業は銀行員で一般的には高給取りなのだが、茉里奈さんが抱えている客の中では、決して上客ではなかったそうだが……。 「もちろん、勢いもありました。お客さんでもっとお金持ちもいたし、何人にも口説かれていたけど、彼を選んだいちばんの理由は堅実なところです。私のことを指名してくれていたけど、お金の使い方が良い意味で普通というか。シャンパンは私の誕生日に1回だけいちばん安いのを入れてくれた。それが逆に信頼できると思ったんです」
キャバクラで大金を使えばいいというわけでなかった事実に、ある意味、衝撃だが……。
コロナショックで“安定”が大事だと思い知った
茉里奈さんは、今回のコロナショックで仕事に対する考え方も変わったという。 「以前は『昼職なんて……』とバカにしている部分もあった。でも、この騒動があってから、やっぱり昼職っていいなと思い改めました。一般企業で正社員として働いている友人は自宅待機でテレワーク中だけど、ちゃんとお給料が出ているし、最悪潰れても失業保険がもらえる。
昼職はものすごく給料があがることもないんだろうけど、ゼロにはならない。私はこの店で稼げなくなったら他の店に行けばいいやって考えていたけど、この時期に営業している店で働くなんて怖くて無理だし、前みたいに稼ぐのは不可能だろうなって。いちばん嫌っていた“安定”が、こんなに大事だとは思いませんでした」
仲良くしていたキャバ嬢仲間には「もったいない」「もっといい男と結婚できたかもしれない」と引き止められたと言うが、全く響かなかった。 「私は将来のことを考えているようで考えていなかった。売上も容姿も全部がそこそこで、有名なキャバ嬢さんみたいに店を出したり、ブランドを作ったり出来る気もしなくて。ゆるやかに売上も落ちていたし、最後に華々しく引退イベントをするなんて無理だろうなって、薄々気づいていました。
考え方によっては不幸中の幸い。コロナがきっかけで自分自身のことを深く考える時間が出来た。あのままの生活を続けていたら、日々の短絡的な楽しさだけを追い求めて婚期を逃していたと思います。あるいは、成金とノリだけで結婚して失敗していたかもしれない。たぶん、旦那の良さにも気づけなかったと思う」
現在は彼と入籍を済ませており、6月を目処に一緒に暮らし始めるそうだ。 いま世の中の価値観が大きくひっくり返りつつある。コロナ禍のなかでは“真面目で堅実”こそが、大きな武器と言えるのかもしれない