1月31日の閣議で東京高検検事長だった黒川弘務氏の定年延長が決定された。その際、法務省、人事院、内閣法制局は決定過程にどのように関与し、あるいはしなかったのか。情報公開請求で開示された文書を見ると、閣議決定後に都合よく作られた疑いが出てきた。(鈴木祐太) 【写真特集】自民・河井あんり議員 これが疑惑書類の数々だ(5枚)
◆不可解な情報開示…誰がいつ相談したか不明
安倍政権は、1月31日に黒川東京高検検事長(当時)の定年6カ月延長を閣議決定したが、神戸学院大学法学部の上脇博之教授は、この閣議決定の経緯を知るため、法務省が人事院と内閣法制局に相談した文書などの情報公開請求を行った。その結果、閣議決定前に省庁間で相談した内容とされる文書が一部開示されたが、閣議決定後の記録は一切、開示されなかった。 法務省によって公開された文書の一つである「応接録」は次のようになっていた。
「相談年月日 令和2年1月17日~令和2年1月21日」 「相談者は法務省刑事局総務課」 通常、「応接録」は相談した日付、時間が明示され、応接した人の肩書や名前、応接方法などが分かるように作成される。ところが開示された文書には日付も入っていない。 閣議決定前に内閣法制局が法務省と相談した文書である場合は、送付書などの付属文書が存在するはずだ。上脇教授が追加で情報公開請求したところ、「応接録」以外に文書がないとして非開示とされた。 上脇教授は、「定年延長の閣議決定に至る判断の過程を知るために不可欠な文書であり、開示された文書は、閣議後に作成された文書ではないかと疑念を持っている」として、開示決定、及び不開示決定について、取り消しを求めて6月1日大阪地裁に提訴した。
◆安倍答弁まで担当大臣も官僚も閣議決定の内容知らなかった?
日時も不明確な法務省の「応接録」。情報公開請求で開示された。(上脇教授提供)
2月10日の衆議院予算委員会。 無所属の山尾志桜里議員による「いつから制度として検察官の定年延長が認められるようになったのですか?」という質問に対し、森雅子法務大臣は「国家公務員法が設けられた時と理解しています」と答弁している。 つまりこの時点では、黒川検事長の定年延長が閣議決定で解釈変更されたものの、検察官全体につにいても定年延長が認められるようになったという認識はない。 また、閣議決定後の2月12日の衆議院予算委員会で、人事院の松尾恵美子総務局給与局長は「(検察官の定年に関して)検察庁法により適用除外されていると認識しております」と答弁し、さらに「現在までも、特にそれ(定年延長)について議論はなかったので同じ解釈を引き継いでいる」と述べた。 しかし、安倍首相は2月13日の衆議院本会議で、「検察官の定年延長にも国家公務員法の規定が適用されると解釈した」と答弁した。この後の松尾局長の答弁も、安倍首相に合わせるものになった。松尾局長の答弁は変化したのである。
◆首相答弁に合わせて文書改ざんを疑う 今回、公開請求によって開示された公文書も、安倍首相の答弁に合わせるために事後的に作成されたものなのに、あたかも閣議決定前に作成したと虚偽の説明をしたのではないか、上脇教授は訴状で疑いを指摘している。もし改ざんが事実なら、安倍首相の答弁に合わせるために財務省職員が公文書を改ざんした森友学園事件と類似している。
上脇教授は「安倍首相は従来の政府の法解釈を変更して黒川氏の定年延長の閣議決定を行った旨、国会答弁しているが、そうであれば、その法解釈の変更についての政府内の議論の過程がわかるように文書が作成されなければならない。しかし私に開示された文書では、それが不明であり、本当に閣議決定前に文書に基づいて相談が行われたのだろうか」と疑問を呈す。 さらに上脇教授は、黒川氏の定年延長問題だけでなく、法務省など行政文書の作成や情報公開の在り方もこの裁判で問うとして、次のよう語った。
「この疑問を明らかにするためにも、いつ、どこで、誰と誰が参加して意思決定されたのか、また、法務省、人事院、内閣法制局の各文書がどのような経緯で作成されたのかを裁判で明らかにしたい。さらに、私に開示された国の文書が、法令に基づいて作成された文書とは言えないのではないか、ということも明らかにしたい」