散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

沖縄補遺 4 ~ 首里城の美しさ/沖縄の未来

2014-05-26 17:31:32 | 日記
2014年5月26日(月)

 首里城の美しさにはエキゾチックなものがあり、つまり「本土」の城とは根本的に異質の合理性や美的感覚が大きな魅力になっている。要するに「違い」があるということだが、その違いの由来を問えば中国の影響を認めないわけにはいかない。
 たとえば石垣。城の石垣といえば、大小さまざまな石をその形のままに用い、その不規則さや偶然性が全体として堅牢な一塊にまとめられているところに面白さがある。ところが首里城の石垣は、四角形の切り石が緻密に整然と配列され、紙一枚の隙間もなくぴったり仕上げられている。これはこれで大変美しく、遠目にはっとするような印象があるのだが、いわゆる日本の城郭の石垣とはまったく違う。中国方式なのであろう。
 この種のことが首里城の全体を覆っており、先に記したような「上に伸びずゆったりと平面的に広がる」作りをはじめ、赤と金の多用、王権のシンボルとしての龍、中庭を囲む建物の配置、椅子式の玉座、王冠など、基本的に中国風の印象が強いのだ。同じく中国を正面としていた、李氏朝鮮のそれとも近いのではないかと思われる。実際、首里城はたぶんに紫禁城を意識して築かれたとも資料にある。

  

 そうした中国風の優勢な中に、時として日本の風味を見出すのがこれまた面白い。
 象徴的なのが畳で、こればかりは日本由来であろう。もっとも、琉球畳は独自の特徴をもっている。沖縄産の強度の高いイグサを用い、畳の目が細かいのが身上で、あわせて縁なし・正方形という独特の外形をもつ。床を敷き詰めていくパーツとしては長方形より汎用性が高く、フローリング上の部分使用などモダンな使い方にも適している。
 それはともかく、畳は琉球と日本だけに見られるものだから、琉球から日本に入ったのでないなら、日本から琉球に伝わったのである。日本畳は奈良・平安時代に起源があるというが、床一面に敷き詰める現代の形に成熟したのは鎌倉から室町の頃だというから、ちょうど尚氏王統が成立・興隆した時期に一致する。
 個人的には、それが伝わったのが島津侵攻以前か以後かを知りたく思う。こだわるようだが、平和な時代に和やかに伝わったものかどうかが、少々気になるのである。

 
((有)西田畳店のサイトより拝借)

 もうひとつ、これは日本風と思われたのは、扇子である。
 首里城内には、琉球服に身を包んだ係員が観光客の誘導にあたっている。男性は例外なく、帯に扇子を指しているのが面白く、頼んで開いて見せてもらった。厚手の障子紙のように、白の無地である。作りは日本の扇子とほとんど変わらない。無地は少々殺風景だが、簡素さは中国風より和風を連想させる。係員は「本土のものと同じでしょう」と、さらりと言った。

 七、八分の中国風に、ところどころ和風が混じる面白さ。それが琉球の歴史的位置をよく反映していると感じる。もちろん琉球は中国と日本の七・三のキメラなどではない。両者に加えて広大な南の海の彼方から、あるいは朝鮮半島から伝わってきたものを吸収し、ここに住む人々が独自の歴史と伝統を練りあげたのだ。
 琉球が日本の一部であったのは、わずかにここ1世紀半のことでしかない。そしてそれは、日本の側からの暴力的な介入の結果としてそうなったのである。くどいようだが、日本人としてそのことを忘れるわけにはいかない。首里城はそのことを雄弁に語っている。

*****

 展示スペースの資料を見ると、琉球の交易圏は昔から東南アジアの方向に向けて、遠く広く開けていたのが分かる。まさに一衣帯水、海は繋ぐのだ。西は中国大陸、北は朝鮮半島、日本本土は北東のどん詰まりで、実はいちばん発展性に欠ける方角である(丑寅の鬼門!)。焼酎の製法はこのネットワークに乗り、シャムから琉球を経て薩摩へ伝わった。ポルトガル人はその頭越しに直接ヨーロッパを持ち込んだ。
 何しろ歴史が示す通り、沖縄の島々は東アジアのハブたるべく至適絶好の位置にある。韓国は済州島をそのような場所として発展させたがっているが、立地の良さでは沖縄に到底およばない。加えてこの観光資源がある。国際通りを散歩すれば、北京語に広東語、韓国語に英語が入り乱れて賑やかなことこの上ない。人々はそうした状況に慣れ親しんでいる。
 いつか東シナ海に恒久的な平和が訪れ、米軍の重荷と中国の野心から解放されるとき、この地域は大発展を遂げる可能性をもっている。「本土」は沖縄を必要とするが、沖縄は「本土」を必要としない、そんな構図さえ想像に浮かぶのだ。 
 独立?
 もしも琉球の人々が望んだなら、それはけっして夢物語などではない。
 O先生、私もそう思いますよ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。