散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

英文読解

2022-06-20 21:34:33 | 日記
2022年6月20日(月)

 What Is Community Development? Community development is any set of initiatives designed to develop the social resources of the community in order to enhance its quality of life. This means that community development initiatives may cover a broad range of recreational, health, welfare, educational and workplace dimensions of social life. However, what distinguishes community development initiatives from simply government or business initiatives is that the needs, wants or problems identified are those articulated by a cross-section of the community affected by those needs or problems. Furthermore, solutions to the newly identified needs or problems are not sought simply in advocating for greater provision of private or government services. Solutions are sought in connecting people and resources together in new or novel ways. Indeed, sometimes the impetus for community initiatives has to do with the limitations or shortcomings of existing social services. For example, police cannot be everywhere at all times so ‘safety houses’ for children and ‘neighbourhood watch’ are initiatives developed by neighbourhoods with police to transcend the understandable limitations of a paid surveillance workforce such as the police.
—『Compassionate Cities』Allan Kellehear著
https://a.co/1NKLmI1

 Yさん:
 問題の英文を拝見しました。
 翻訳本の出版を待たず、おつれあいの力を借りながら自分で読み込む熱意に、まずは敬意を表します。本当はすべての学習者がそのようにあるべきなのですよね。私たちはみな中学以来さんざん英語を勉強してきており、そこで学んだことの水準は、世界的に見てもけっして低くはないはずです。なのに大方の人が「学校の英語は役に立たない」と決め込んで、英会話スクールだの何だのに大枚をつぎこむか、あるいは単に諦めてしまうのは残念なことです。
 私は英語の専門家ではありませんが、妻および当時3歳と1歳の息子たちと一緒に事前準備ナシで渡米し、三年間たっぷり楽しんできたという生活実績(?)はちょっとした成功体験です。それと英語の論文を読むこととは、まあ別の話なんでしょうが、ともかくYさんの心意気に感じて御一緒に一汗かいてみるとしましょう。

 さてさて、なるほど訳しづらいですね。さしあたり私から二つの提案をしておきます。

 その一は、Yさんを悩ませているキーワード initiatives について。
 ぴったりハマる言葉がなくて迷いますが、こういう時に心がけたいのは、「英和辞典に挙げられている訳語の中から一つ選んであてはめる」という姿勢を捨てることです。そうではなく、その言葉がどういう成り立ちでどういう意味をもつのか、英語そのものの背景の中で理解することを考えたい。
 高校の英語の先生から、「できるだけ早く英和辞典を卒業して、英英辞典を使いなさい」といわれた時には「無茶なことを言う」と思ったものですが、これはまことに至言でした。
 で、早速 initiative を手許の英英辞典 ~ Webster の古いもの ~ で引いてみると、こんなふうに出ています。

 An introductory act or step; the first active procedure in any enterprise; power of taking the lead or of originating.
 
 どうでしょう、わかりやすいと思いませんか?料理でいえば素材と調理法を簡潔・具体的に解説してくれています。一方、英和辞典で「手始め、率先、首唱」などと書かれているのは、できあがってお皿に盛られた料理の完成形にあたるもので、それだからしっくり来ないのです。
 そしてYさんはもう「あ!」と声を挙げているのではないでしょうか。昨日の Zoom ゼミで、「ふらっと」のTさんが繰り返しおっしゃいましたね。
 「何か手伝うことはありませんか、と言ってくれる人はたくさんいるけれど、率先して旗を振ってくれる人がいない」と。
 まさにその「率先して旗を振る行為」が initiative、つまり the first active procedure in any enterprise なのです。Tさんは文面を読まずして言い当てていたのですね、素晴らしいですね。
 坂本龍馬が蘭学塾でいつも寝転んで聞いているばかりでオランダ語はちっとも勉強しないのに、ある日突然「今の訳は違う」と言い出したという『竜馬がゆく』の一場面を思い出します。日頃語られる内容と、首尾一貫しない訳文が語られたことに反応したわけです。外国語読解の達人は、皆このセンスをもっていますけれども、それは私たちも心がけて養えるものでしょう。
 そうとわかっても的確な日本語に落とし込むのは簡単ではありませんが、少なくともYさんのイメージの中では、正解のありかが明確になってきたのではないでしょうか。
 このように initiative を「(率先して旗を振るような性質をもった)住民活動」と理解し、そのニュアンスを伝えることができているなら、実際の訳文の中では「活動」「住民活動」と表記してもさしつかえないと私は思います。

 提案その二。
 冒頭第二の文の修飾語をすべてはぎ取って骨格だけを残すと、"Development is a set of initiatives." となりますね。この文はちょっとヘンじゃないでしょうか。上述のような意味での initiative のセットが development だと言うのだけれど、そのまま日本語に置き換えるのはどうしたって不自然です。
 住民活動がコミュニティの発展を「支える」「加速する」とか、この種の活動が次々に出てくることが発展を「可能にする」とかいうなら分るのですが、イニシアティヴ(のセット)そのものが発展「である」というのは、日本語でも往々見られる品詞ズレの悪文と私には思われます。
 なお、原文5行目の simply はマチガイです。どうしたって形容詞が来なくてはいけない位置に、副詞が来ちゃってるんですから。編集者の怠慢かもしれませんし、これなどは単純なミスだとしても、全般的な印象として Kellehear 先生、たぶんそんなに英語はうまくないのではないか。日本人研究者だって、日本語のヘタクソな人は山ほどいますからね。
 そこで今はすっきりした日本語にすることを優先し、思いきって言い換えてしまいましょう。目下のところ、私たちが「共感都市」をしっかりイメージできることが最優先ですから。

 以上二点を踏まえ、さしあたりこんなふうに書いてみました。「意訳が過ぎる」と叱られるかな?

***

 コミュニティの発展とは、そもそも何だろうか?
 住民のQOLを高めるためにコミュニティの社会資源を開発するようなデザインの、あらゆるタイプの住民活動が活発に提起され着手されること、それがコミュニティ発展の意味するところである。そのような活動は、レクリエーション・健康・福祉・教育・職場といった、社会生活の広汎な次元に自ずと拡がるものとなるだろう。
 こうした住民活動を政府・自治体や企業の活動と区別するのは、ニーズや課題に突き動かされた住民自身によって発信されているということである。そして、このように新たに認知されたニーズや課題は、民間や行政の既存のサービス拡大を訴えるだけでは解決できない。解決策は、人々と社会資源とを、これまでとは違ったやり方で結びつけるところに求められる。
 既存の社会的サービスの制約や限界が、住民活動の起爆剤になるということも、往々にして起きるだろう。たとえばの話、必要とされるすべての場所に警官が常駐するのは、不可能な話である。そこで子どもたちのための「安全な家」や「近隣の見守り」を実現しようとすれば、地域住民と警察の協力のあり方を工夫することにより、警察のように税金で支えられる公共監視システムのやむを得ざる限界を克服することが必要になる。

 以上、どうぞ参考になさってください。
Ω

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。