散日拾遺

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心の旅路 Random Harvest

2020-07-30 07:34:40 | 日記
2020年7月29日(水)
 少し前に録画してあった『心の旅路』を夕食後に見た。原題は "Random Harvest"、『失われた地平線』『チップス先生さようなら』で知られる英作家ジェイムズ・ヒルトン James Hilton (1900-1954)の1941年の同名小説が、翌年アメリカで映画化されたものである。
 これには思い出があり、おそらく1970年の初め頃にTVで放映されたものを名古屋で見た。翌日登校したら、隣席の女子が「昨日TVで見た映画がすごくよかった」という。中学一年の教室で、見た映画の感想が女子らと一致することは珍しかった。相手の名前も顔もよく覚えており、席替えで隣になった時の小さな騒動も記憶にありで、そんなことから映画を見た時期も特定できるのである。
 しかし、それからちょうど50年経っている。ビデオもDVDもない頃で見直す機会もなかったのに、感動的なラストを含め重要なシーンの大半を克明に覚えていたのが、不思議であるようなないような。
 ただ、後半のストーリーが記憶の中で軽く改竄されており、男性の輝かしい出世や主人公らの二度目の結婚はあらかた省略され、彼女が南米へ、心の休養のためではなくある種の断念のために出かける途上で、一転クライマックスを迎えたものと思っていた。そうであっても全体の主題には影響のないことで、人は聞きたいものを聞き取り、覚えている必要のあることを覚えているものである。

 記憶の中のグリア・ガースン Greer Garson (グリーアと書いた方が近そうだ)は完全無欠な美人だったが、見直せば意外に粗(あら)が隠せない。女優37歳の作品であってみれば無理もなく、かえってその好演を称えたい気持である。
 作品は、イギリスのとある郡の精神病院から始まる。主人公はそこを恐れ嫌って戦勝の騒ぎにまぎれ逃げ出すのだが、医師らの対応は決して非人道的というのではなかった。彼が恐れたのは別のことである。作中には、やはり精神科医とおぼしき別の人物が、重要な役割を帯びて登場する。これらは記憶に残っていなかった区分に属するが、そのイメージがどこかに沈潜してその後の自分に影響を与えた可能性をことさら否定しようとも思わない。
 自分という存在は、自分ではない多くのものの関数としてできあがっており、自分で思うよりはるかに深い根をこの世界におろしている。おぼろげな記憶がその根のほんの一断面を、折に触れて照らしてみせる。
Ω

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