2020年1月4日(土)
これも愛媛新聞の紙面から。
アフガンで没した中村哲医師の、母方の祖父が松山出身。玉井金五郎(1880-1950)というこの人物が相当の傑物であったらしい。旧温泉郡潮見村ミカン農家の三男として生まれた。(僕のところは同じ旧温泉郡の河野村で、潮見村は10kmほど南の松山よりである。)生来進取の気性に富み、福岡に移って港湾労働者として働いたが、義侠心もあれば人を束ねる才覚もあったらしい。港湾労働者を守る「玉井組」と呼ばれる一種の組合組織を作り、若松市(現北九州市)の市議会議員を6期勤め、同地で没した。
玉井金五郎の長男が作家・火野葦平(1906-60)である。『糞尿譚』というタイトルからして尋常ならぬ作品で芥川賞を取り、『麦と兵隊』を初めとする兵隊三部作がベストセラーとなった。自伝的作品とされる『花と龍』に父のことが描かれており、火野自身、著述の傍ら玉井組の二代目を務めた。中村哲医師は玉井金五郎の孫であり、火野葦平の甥(妹の子息)ということになる。
血は争えない、などと一言で済ますものではないだろうが、それでもそう言いたくなるものがここにある。「中村医師と金五郎を見ると、考え方、行動パターン、風貌までそっくりで重なる部分が多い」と地元史家の言が紹介されている。なるほど風貌はよく似ている。
記事のタイトルは「人助けの精神 松山にルーツ」とあり、どこまでもお国自慢だが新聞としては当然のところ。論理的に正しいかどうかに関わらず、思い込むことが人を作るということは確かにあるから、これはこれで良いとしよう。
それよりも、この一族に火野葦平という個性的な作家が生まれていることのほうが僕には気になる。伊豫とりわけ中豫は、なぜだか不思議に文筆家を生む土地である。
愛媛新聞 2019年12月15日(日)5面
・・・確かに似ている。二人だけでなく、写っている男性の全員が!
Ω