散日拾遺

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オツな学び ~ 古文書を読む

2017-08-19 07:14:28 | 日記

2017年8月19日(土)

 先週からもちこしの話題。

 北九州の面接授業の受講者の中に、古文書を読むことを趣味のように勉強している人があり、先週末にメールで様子を知らせてくれた。面白く羨ましいので転記する。「古文書は最近プチブームだそうで、以前、日経新聞のコラムに記者さんが古文書講座に出てみた体験談が載っていました。東京にも類似講座があるのではないでしょうか?」とのこと、すぐにもどこか探して受講してみたくなった。良い講座や指導者を御存じの方、御教示請う。HNさん、貴重なお知らせをありがとうございました!

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 3年ほど前からSN学院大学のエクステンション講座に通っています。春と秋に各5回シリーズの講座だったのですが、今年から10回講座になりました。

 タイトルは「古文書を読もう」で受講生はかなりレベルが高くて(年齢も高いですが)、何十年も古文書を読んだキャリアのありそうな方ばかりです。私は、3年たってもさっぱり読めないので少しくじけますが、先生(熊本大学・安高啓明准教授)が気っ風の良い方で、内容と同時に先生も魅力的で楽しみに受講しています。

 この講座は江戸の犯罪に関する古文書を読むもので、いままで犯科帳(長崎奉行)公事方御定書その他の文献を読んできました。今年の春の講座は10回で刑罪大秘録という仕置について書かれた私文書(B4で50枚ほど)全文を読みました。

 江戸時代の刑罰はテレビで見るような大岡裁きではなく、実際はかなり厳密に判例主義に拠っているそうです。過去の判 例集を詳細に参照しながら規則に則って刑が定められ執行されているというのが先生の見解です。

 犯罪や刑罰から当時の人々の意識・観念 ー 例えば身分ジェンダーなど ー が垣間見られるところが面白いです。

 また、候文のリズムも快い響きです。

 それから医者も刑罰には重要な役割を果たしています。医師は受刑者が敲きなどの身体刑を受ける場合には立ち会うこと が定められていて、定められた刑罰を確実に執行できるよう医師が受刑者を診ることとなっているようです。受刑者が、刑の執行途中で万が一にも死亡するよ うなことがあってはならないために医師が監督しています。また、牢内で病気にかかったり怪我を負ったりしたものは医師の手当を受けたうえで釈放されたそうです。公儀の定めた刑罰は必ず厳正に行われなければならないという義務があるにせよ、江戸時代にも社会福祉という観点はきちんと存在 していたようです。

 障害者(当時の言葉では「かたわもの」)に対して犯罪を犯した者への刑罰はいわゆる健常者に対するものより一段重くなっていて、江戸時代はそういう意味では障害者に優しい社会であったのかもしれません。精神障害者に対してどういう処遇であったかはわかりませんが。

 それから古文書を読む面白さは推理力にあります。当然、当時は手書き写本なので写し間違いや抜け字もあり、書き癖も様々であれこれ推理しつつ読んで行くことが必要です。私にはそういう力はまだまだ十分にありませんが、他の受講生と先生のやり取りを聞いているといろいろな見解があり面白いものです。

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 もし古文書のことを書いていただけるのであれば追加情報を。

 犯科帳と言えば鬼平犯科帳を思い出される方は多いのですが、鬼平犯科帳は池波正太郎の創作で実在しません。フィクションなのです。もちろん長谷川平蔵は実在する人物です。

 この講座で読んでいる「犯科帳」は長崎奉行所の判決記録を指し、145冊からなるとされていますが、古文書の先生のお説によるともう1冊あって146冊だということです。

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