あちらこちら文学散歩 - 井本元義 -

井本元義の気ままな文学散歩の記録です。

ナンバー110 邪宗門 北原白秋 酔いどれ船 バトーイーブル ランボー クリムト 松方コレクション ライオン

2019-07-02 13:41:31 | 日記
ある会合に出席するために6月に上京した。
時間をゆっくりとっていったので、ずっと気になっていた場所へも行けた。東京在住の人から見たら、特別のものではなかろうが、僕には若いころの東京の4年間が人生には大きな意味を持っていたから、その場所もいつまでも気になっている。
そのいくつかあるうちの一つであるカフェは荻窪にある「邪宗門」だ。荻窪の中央の駅を降りてちょっと右に行くと、古い商店街がある。昔はこれが荻窪の駅前の中心ではなかったろうか。ラーメン屋「中華そば」やいくつか並んで、喫茶店「邪宗門」がある。見慣れたというより、懐かしいというより、思い出したというのが正解かもしれない。まだあるとは思っていなかった。うれしくてすぐに入った。古く,半間ほどしかない入口。北原白秋の詩集の題からとったのだろう。禁教キリシタンの意味があるが、エキゾチックな響きで若者の心に共感する。一階はごちゃごちゃして狭い。昔はカウンターもあった気がする。2階はアンチックというか古典趣味というか、ただ古いだけというか、とにかく僕が訪れたのは55年ぶりである。4席と2席でぎっしり入っても20名しか座れない。音楽はまあまあ音のいいジャズが流れている。昔はクラシックだった。そのころ貧乏だった僕はラジオを持っていいるだけなので、好きなクラッシックを聞くには喫茶店に行くしかなった。苦しいことや悲しいことがあるとクラシックを聴くことだけが僕の逃げ道だった。今もその音楽を聴くと、その苦しかった内容を思い出す。そのころおばあさんがコーヒーを入れていたが、今回訪れてみて驚いた。90歳のおばあさんが狭い階段を上り下りしてコーヒーを運んでくる。そのころの人だということで、あの頃の人はまだおばあさんではなかったのだ。

新宿の「らんぶる」渋谷の「ライオン」などクラッシックを聞きに通ったものだった。この二つはまだあるのでまだ通っている。早稲田に音のいい「白鳥」というのがあったが多分ないだろう。
50年前には邪宗門はもう一つ国立にあった。これもアンチック風で置物装飾は古く珍しかった。ウインナーコーヒーが名物でおいしかった。夫婦は柳川に出身といったような気がする。これは10年ほど前に訪れると、建物はゆがんでいて面影だけを残してもうなかった。邪宗門の相席を頼んだ若者に昔の話をした。彼が言うには下北沢にも「邪宗門」という店があるということだった。

前にも書いたが、パリに「バトーイーブル」というカフェがあった。ランボーの詩の題名で「酔いどれ船」が日本語である。パンテオンの裏の古いデカルト通りのヴェルレーヌが死んだという部屋の前だ。立ち飲み用のテーブルとカウンターとテーブルが少し。音楽は激しいロック。天井にランボーの写真が印刷してある。僕が一人で飲んでいると、何でここに日本の年寄りがいるのか、という不思議な顔をするのもいる。だけど僕は心地よい。
何年か前におとずれると、そこはスポーツバーになっていて若者たちがテレヴィのサッカーに興じていた。一番最近に訪れるとそこは閉まっていて、貸家になっていた。
又、サンルイ島にも「バトーイーブル」という静かなバーがあった。そのあと行くとインターネットカフェになっていた。
フランス人の友人にその話をして「バトーイーブル」がなくなるのは寂しいと言ったら、彼は答えてくれた。心配しなくていい、フランス中に「バトーイーブル」は沢山ありすぎるくらいある。それで、この「邪宗門」という美しい名前のカフェは日本全国沢山あるだろうと思うと、うれしい。

今回の滞在はでは、ついでに上野の東京都美術館のクリムト展にも行った。平日だったがそれでも待ち時間は30分だった。代表作の「接吻」はなかったがもう一つの傑作は見ることができた。ウイーンで「接吻」は見たことがあるのでそう落胆はしなかった。分離派美術館にある、べート―ヴェんの第九の壁画が展示してあったので、壁を剥いできたのかと聞くと、係員がいやレプリカです恥ずかしそうといった。どこにもそれは書いていなかった。
上野に来たからせっかくだから、西洋美術館の松方コレクションも見てきた。見慣れたものが多かったが、さすがに二つは疲れた。疲れをとるのに渋谷の「ライオン」で二時間ほど休んだ。気持ちのいい午後だった。夜も時間があったので、2軒ほど新しいバーを巡った。阿佐ヶ谷にある「ざらめ」という店は、福岡の友人が是非と進めるので覗いてみた。安くいい店だった。もう一軒、新橋でピアノバーとあったので、頭からシャンソニエときめて入ったがそうではなかった。そして高かった。
コメント
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