あちらこちら文学散歩 - 井本元義 -

井本元義の気ままな文学散歩の記録です。

№148 関東大震災 芥川龍之介 菊池寛 谷崎潤一郎 森鴎外 堀辰雄 渋沢栄一 有島武郎 大杉栄 伊藤野枝 辻潤 甘粕 風紋 林しずえ 林聖子 

2023-02-14 14:04:14 | 日記
1923年大正12年9月1日関東大震災が起こった。今回のトルコ地震はちょうど関東震災から100年目である。九月一日のこの地震については日本では今から9月に向けて沢山のニュースが新聞やテレビで報じられるだろう。この震災のもたらした日本社会の変化や問題について、専門家がいろんなところで述べているし、今年は100年の区切りということで我々もさらに触れることになるだろう。
僕は社会歴史の専門でないので、この震災がもたらした日本の歴史について意見はあまり持たない。ただ折に触れ、その時の文学者たちの対応や気持には興味があり折に触れて読んだ。その時文学者たちは何を思って、どう行動したか、どう観察したか。渋沢栄一が、奢り高ぶった人間への天罰だ、と言ったことは聞いたし、森鴎外はその前年に亡くなっている。その3か月前に、有島武郎が軽井沢で情死し、一か月たって発見されたというのも、震災を考える時に浮かんでくる。
堀辰雄は震災でお母さんを失くした。谷崎潤一郎は箱根から帰る途中で、その後怖くなって関西へ引っ越した。ただ10年後に復活した東京はヨーロッパのように発展し煌びやかな都会に変身しているだろうと書いている。
芥川龍之介は田畑の高台に住んでいた「一度旧居跡を訪ねた」があまり東京への郷愁などなく冷静に見ている。数人の友人と見学と言っては悪いが、観察に行っている。焼死体や死体をたくさん見たと書いている。後に彼が自殺した時に、それらの死体を思い浮かべたのではないか、と誰かが書いている。冷静の割には、第三国人たちが暴動を起こして、いるなどという噂を信じて、それを否定した菊池寛と口論をしている。
他に調べれば、その時の文学者たちの気持ちがわかりそれが作品についてどう反映されているか、を見ると面白い。

僕は、震災の2週間後に虐殺された大杉栄と伊藤野枝に興味を持ち、それについて沢山調べた。大杉と野枝の孫が一時期「福岡中州のバーをしていた王丸容典」「今は行方不明」だった。大杉が住んでいた今の新大久保辺りも訪ねた。大杉が神近市子に殺されかかった湘南の日蔭茶屋も訪ねた。彼の文章も、彼に関する本も多数読んだ。「美は乱調にあり、諧調は偽りなり」という言葉は彼の言葉だと思うが、真実をついている。

4年前に閉めた、60年まえからよく通った新宿の文壇バー「風紋」についてはこの欄で度々書いたが、そこが一番の彼等との現実的な接触である。太宰や檀一雄に可愛がられたその店のマダムは林聖子さんと言って美しい人だった。一昨年90数歳で亡くなった。
そのマダム聖子のお父さんの林シズ衛「シズは字が難しい」は1930年頃活躍した画家である。もともと植字工で、大杉らの運動のアジビラなどを印刷していて、大杉に共鳴して仲間になった。ただ彼の荒っぽい純朴さを気に入った大杉は林を社会運動の仲間としてよりも、私的な弟のような気持で付き合っていた。
1923年、パリで絵を描いていた林のところへ突然大杉が現れる。大杉は偽パスポートでフランスに来て、イギリスかドイツかの世界無政府主義会議に参加するためだった。そしてビザを取るための時間に春のパリで遊ぶ。大杉は酒を飲まないが、林は嬉しくてワインが手放せない。2週間ほどの二人の幸せな時間だった。
その年の5月1日、メーデーで大杉はパリの郊外のサン・ドニというところで労働者の前で演説する。彼はフランス語は得意である。そしてつかまりサンテ刑務所に入れられる。「サン・ドニはパリの北で労働者が今も多い地区。その中心にはマリーアントネットや歴代ブルボン王が眠るサン・ドニ教会がある。何度か行ったが、パリと雰囲気が違う」林は何度も刑務所を訪れるが、フランスは政治氾にはおおらかであり、大杉は刑務所でもワインなども飲んでいる。だが、6月には強制送還される。「このころ有島武郎の情死」そしてその年の9月の震災の後のどさくさで甘粕大尉に虐殺される。しばらくして林は大杉の死を知り悲嘆にくれるが、どうしようもない。

時は流れ、林は再びパリに住み絵を描いている。偶然だが、殺人の刑期を終えた甘粕がパリに来る。革命家たちの報復をおそれ身を隠すために軍から勧められる。妻と子度の3人である。仏語を勉強したりするが目的もない日々、競馬をしたりするが虚しい日々。更に家族は勧められてノルマンディのルーアンという田舎町に住む。「ジャンヌダルクが処刑されたところ」それを知った、林は匕首を持って甘粕を狙って大杉の敵討ちにルーアンを訪れる。果たして復讐はなるか。
これらを僕は小説に書いた。雑誌「海」に「偽手紙」「ルーアンの長い日」という題で出した。まだ本にはしていない。小説なので、フィクションもあるが、そのフィクションは誰も知らない真実かもしれない。
このフィクションは面白いので、あるテレビ局に送ったが返事はない。大杉に興味がなければ面白くないかもしれない。









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