あちらこちら文学散歩 - 井本元義 -

井本元義の気ままな文学散歩の記録です。

№105 ギリシャ神話 アテネ エーゲ海クルーズ トルコクシャダス ミコノス サントリーニ クレタ ソフォクレス

2018-11-02 17:19:06 | 日記
長い間の希望だったギリシャ旅行とエーゲ海のクルーズに参加した。その前に読むべく本棚からギリシャ神話とギリシャ悲劇集をとり出した。大まかな筋は覚えているものの、読んで感動した印象がかすかに蘇る。頁をめくると頁を折ったりメモ線がある。学生時代のものだろう。ソクラテス、プラトン、ソフォクレスのエレクトラ、アンチゴーネ、オイデプス、アイアス、ヘラクレス、エウリピデスの悲劇、など。

文学散歩と言いながら、文章を書くのが今回は難しい。神話は膨大で、それに連なる悲劇集はあまりに関係が複雑で、生半可な記憶と説明では十分に文章にならない。その神話と悲劇の現場の遺跡をたどると感動に襲われて、簡単なエッセイでは表現できない。それで一応、旅の報告と記録ということで記すことしかできない。ギリシャは語るにはあまりに深い。

「1」メテオラ ギリシャ北部の切り立った岩山、絶壁のそれぞれにギリシャ正教の24の僧院があり今も6か所ほど僧が修行している、尼僧院もある。空中に浮かぶ僧院、まさに絶景である。一か所を訪れるだけで疲れ果てる。祈りの部屋の神秘。1000メートルの山は雪も深く、夏は灼熱の世界である。

「2」デルフィ アポロン宮殿遺跡 標高2700メートルの山頂の遺跡の円柱が紺碧の空中にそそり立つ。美しい。アポロンのお告げを求めて、ギリシャ各地から王やその使者が礼拝に来て栄えた。廃墟であるからなおさら美しい。紀元前千年ほど前だろうか。ながいギリシャの歴史は途中で何度も異民族の襲撃を受け破壊もされたのだろう。ソクラテスも訪れたかどうか、ガイドに聞いたがわからないという答え。

「3」エフェス エーゲ海の対岸のトルコの遺跡、トロイのかなり南に位置する。シザーとクレオパトラが一時住んだ都は港で栄え、周辺の人口を入れると25万人だったとか。ローマ帝国はキリスト教を国教としこの町は重要視されず、800年ころ異民族に荒らされて滅びた。美しい大きな町の廃墟である。アレキサンドリアともう一つどこかとここの図書館が三大古代図書館だ。この図書館の遺跡は見応えがある。ほかに下水道の施設、娼館、いくつかの神殿、そして円形劇場は2万5千人収容でき、今でもその廃墟で大掛かりなコンサートも開かれる。ゆっくりあるいて2時間弱、圧倒される。いままで知らなかった。とにかく圧倒された。
   その近くの丘にキリストが処刑されたあとマリアが住んだという教会がある。ローマも認めたらしい。

「4」ミコノス島、小さな可愛らしい島。そこにエーゲ海の夕日が沈んだ。真っ白な教会、風車、レストラン、ヴァカンスでは一番の人気らしい。昔から憧れていたがそのころはまだ人もまばらで、静かな景色だった。

「5」サントリーニ島。火山でできた島の山頂に真っ白な家が密集している風景をクルーズ船から眺めると実にきれいだ。海に面した崖にこじんまりした小さな白い家が、普通の静かな生活をしている。そして毎日夕陽を見ている。サントリーニ産のワインを買う。

「6」パトモス島 聖ヨハネが黙示録をかいたという島。クリスチャンには意味ある島だろう。港町を歩く。路地に入ると花々が家々を飾っている。サントリーニ島とあわせて、その美しさと静けさに心うたれるが、小生は10年は続けて住むことはできないだろう。

「7」ギリシャ神話の宝庫のクレタ島。クノッソス宮殿の遺跡。神の怒りに触れた王の子供は半獣紳、顔は牛で体は人間。それを閉じ込めるためにも宮殿には400以上もの部屋が造られた。ある王は10年に渡るトロイ戦争から凱旋する途中にポセイドンに嵐を鎮めるために誓いをたて、そのために愛する息子、10年ぶりに会う息子を生贄にしなければならなかった。

どの島もまばゆいばかりの紺碧の海上に浮かんでいる。船のデッキの海風も心地よい。太陽の強い日差しも日陰に入ると涼しい。至福のエーゲ海だ。
気が狂っていくスタブローギン「ドストエフスキーの悪霊の主人公」が夢見るのは至福の多島海だ。またカミュが恩師と語る至福の島々も多島海だ。

「8」アクロポリス 毎日が晴天だった。パルテノン宮殿ほど紺碧の空に映えるものはどこにもないだろう。ペルシャ軍や異民族との何度もの戦いの度に破壊されまた再建されて、永遠にその姿をよみがえらせるだろう。これについては語ることはできない。あまりに多くの紹介があるので小生が語ることはないしできない

「9」ミケナイの文明、宮殿 小高い丘の上のアクロポリス。周りの山々や平原を見下ろして優雅であったろう宮殿の廃墟。トロイ戦争の凱旋帰国したアガメムノンはその夜、弟に殺される。戦死したと思われていたので、弟はその妻と結婚していた。エレクトラとその弟は復讐し、母と義理の父を殺すが、復讐を遂げた弟のオステレスもまたは母親殺しの呪いに狂っていく。この廃墟も雄大で美しく悲しい。これは神話なのだが、この悲劇を書いたソフォクレスはここを訪れたに違いない。この物語を読んで訪れたのは正解だった。深い感銘が残った。
   ミケナイの古代遺跡の前にたたずみ1000年前の悲劇の構想を練ったソフォクレスが書いた「エレクトラ」、それをまた2000年以上たって美しい廃墟を見つめながらその悲劇を読む小生、感動しないわけはない。
   

本で得た知識だけでは古代ギリシャは複雑で雄大で理解することができない。現物を目の前にしても、あまりに深くわが幼い筆では表現もできない。親殺し、子殺し、生贄、近親相姦、恨み、復讐、嫉妬、愛、狂気、不倫、憎悪、神の気ままさ、あらゆることが神話と悲劇で語られている。人間たち、英雄も、卑怯者も、すべて運命に踊らされて滅んでいく。正義が報われるのでもない。ただ、運命、その不条理においつめられて人間も神も英雄もただ耐えるだけである。愛の女神を怒らせて、愛の矛盾で滅んでいく女性はまだいいほうだ。

ギリシャはふしぎな国だ。今のギリシャははどこも貧しい。中心の繁華街でもシャッターを閉じているのが多い。車はどれも貧しい。上海に比べると驚くほど貧しい車。観光だけに頼ってやっと生きている感じだ。いまは経済で中国の進出が盛んと聞いた。だがまだ中華レストランは少ししか目に付かない。日本食堂は全くない。この国はどうなるのか。
下街の店で適当にCDを買った。ロックと思ったがもの悲しい曲だった。はっとする黒衣の美しい女性にも逢った。

哲学者プラトンが語る愛、エロスは対象が少年愛だった。そういえば、小生の好きなジャンジュネ、おかま泥棒強盗の作家詩人がはじめて海外旅行したのはギリシャで美少年を連れてだった。

考えてみると、紀元前数百年前の中国はすでに孔子孟子荘子の哲学が語られていた。ギリシャ哲学と比べると非常にその差が面白い。東洋と西洋とはこんなにも違うものなのか。ただ、根底は同じだ。不条理に翻弄され虚無を実感した人間がそこにいる。そして闘いの日々。

          闘いはかくあるべしと言いし時君飲む酒はエーゲ海色






コメント (2)
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