昨日朝、Harvard Square駅前の売店の棚は松坂投手の顔でいっぱいでした!特にBoston Herald紙の一面は「ようこそ!」と巨大な日本語の大見出し。また、Boston Globe紙の一面には甲子園で松坂投手が胴上げされている懐かしい写真まで登場しています。
松坂投手については、ここボストンの人気球団Boston Red Soxが西武ライオンズとの独占交渉権を史上最高の約60億円で落札した際にもブログで紹介しましたが、一昨日(13日)未明、紆余曲折を経て、ついに松坂投手のボストンレッドソック入りが決定し、昨日Fenway Park(Red Soxのホーム球場)で入団記者会見が開かれました。
各紙を目を通すと、松坂の高校野球時代からこれまでの輝かしい経歴や、元ニュースキャスターの倫世婦人について、また、一時は決裂かと思われた代理人Boras氏と球団側のギリギリの交渉劇の詳細や、6年間で5,200万ドル(約61億円)の契約金に加え、個人通訳・マッサージ師・マンション・年間80回分の渡航費用等が含まれる契約内容の詳細等、何面にもわたって報じられています。その中で、個人的に一際目を引いた記事が、「Translation will take some time」と題されたBoston Globle紙の記事です。まるまる2ページにわたる長い記事でしたが、以下、概要を紹介します。
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アテネオリンピックやワールドペースボールクラシック等、数々の大舞台で戦ってきたMatsuzakaにとって、本当の困難は、マウンドでの投球や高い期待から来るプレッシャーではなく、言葉の壁、文化の違いを乗り越えて、如何にチームやボストンの町に溶け込めるかである。
確かにMatsuzakaには専属の通訳がついているが、昨日の記者会見を見ても、まったく不十分なのは明らかだ。例えば以下の二つのやり取りを例を見てみよう。
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○ 記者:Fenway Parkのマウンドでピッチングした後、どのような印象をお持ちになりましたか?Fenway Parkの第一印象を教えてください。
○ Matsuzaka(通訳):シーズンが始まって、プレーが出来るのが今から楽しみです。
○ 記者:今日と言う日が実現することについて、これまで自分の中で疑いを持ったことはありますか?
○ Matsuzaka(通訳):日本で僕のニックネームは“怪物”でした。
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私は日本語は分からないが、彼がもっと多くのことを語っていたのは、彼の笑顔や身振り手振り、そして声の調子から明らかだった。チームメイトに対して、自分の意思を伝えるときに、こんな調子の通訳に常に頼らなければならない状態は極めて危なっかしい。
かつてRed Soxでプレーをした野茂英雄投手や韓国のKim Byung-Hyun投手はともに練習熱心で優秀な選手であったが、言葉の問題に加え、練習に打ち込むあまり、チームに上手く溶け込むことが出来なかった。その結果、あまり心地良いRed Sox生活を送ることなく、短期間でボストンを去ることになった。
Matsuzakaは、ストイックに練習に励むよりもまず、自分が心地よくプレーできる環境を作っていくことが大事だ。そのためには、New York YankeesのMatsuiのようにチームメイトに愛される存在になることが必要だ。彼が笑顔でい続けられることを願いたい・・・
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確かに、彼が偉大なピッチャーであり、どのような場面でも冷静さを失うことなく、投球を続けてきたことに疑問を感じる人はあまりいないでしょう。しかし、彼のその偉大なプレーは、気のおけない日本人のチームメイトとともに、慣れ親しんだ日本語でプレーできるという環境においての話です。言葉も、文化も、それこそ表情の作り方さえ異なる人々の間でプレーすることの精神的な負荷は本当に高いと思います。
偉大な松坂投手と自分を同一視するのは全くおこがましいのですが、この記事を読んだ時、身につまされる思いがしました。本当に情けない、無力感と挫折感に満ちた生活を強いられたケネディスクールでの最初の1ヶ月間のことが思い出されたのです。
僕が所属するケネディスクールのMPP(Master of Public Policy Program)は米国人比率が高いことで知られますが(約7割)、留学生について見ても、カナダやオーストラリア、インドなど英語圏出身者が多いほか、その他についても、アメリカかイギリスの大学を卒業している学生が殆どで、驚くべきことに、クラス約50名の中で、英語で勉強やビジネスをした経験がない学生は僕一人でした。
こうした環境の中、クラスのディスカッションにはろくに参加できない、せっかく参加した著名人の講演会の内容も殆ど聞き取れない、リーディングのスピードも日本語の三分の一以下・・・ 特にフラストレーションが高まったのが「飲み会」でした。酔っ払ったクラスメートが高速で発するスラングと騒々しいBGMも手伝って殆ど会話が成立せず、楽しむどころかますます疎外感を味わうばかり。野茂投手ではないですが、思わずバーを出て黙々と図書館で“自主練”に没頭したくなる気分にさせられたものでした。
渡米する前からこういう環境であることは織り込み済みだろう、と思われる方もいるかもしれません。
確かにその通り。
だからこそ、また、せっかく留学の機会を頂いた以上、留学したその日から、自分の本来の力を発揮できるようにすべく、日本で英語力を磨いてきました。TOEICやTOEFLは満点近いところまで上げ、英検1級を取得し、週末は英会話学校に3年間通い続け、その他にも職場の提供するプライベートの英会話レッスンも1年以上続けました。それでもなお、予想と現実の途方もないギャップに愕然とさせられ、孤独感と挫折感と疎外感に“勝手に”浸ってしまいました。
つまり、僕の経験では、こちらで感じる言葉の壁やそこから来る心理的なプレッシャーは、日本で育った者がどんなに想像力をたくましくしてもなお、ギャップがある程、高く厳しいものであると言うことです。
そして、そんな時に励みになったのが、ケネディスクールで同じような苦難を味わいながら戦っている日本人の同期たちでした。
上で紹介した記事にもありましたが、幸い、松坂投手も一人ではなく同じくRed Soxに移籍予定の岡島秀樹投手、そして何より家族と一緒です。また、ボストンには多くの日本人コミュニティーがあります。
松坂投手には、こうした環境を最大限活用しつつ、厳しい練習とチームに溶け込むための社交を笑顔で両立してもらいたい・・・9月から約3ヶ月、本当に本当に小さなマウンドで不器用ながらも必死に戦ってきた無名の一“日本人代表”から、これから大いなる壁に挑む松坂投手に、精一杯のエールを送りたい思います。
英語の面では、日本人の場合は純粋な語学力もさることながら、そもそも外国語に慣れていないとか、外国人を目の前にすると緊張するとか、完璧主義とか、そんなメンタルな面も大きいのではないかと思います。
確かに「完ぺき主義」は日本人が陥りやすい語学上達の“大敵”ですよね。僕自身、3年前の夏にイントロレベルから英会話を始めた時、「文法とか細かいこと気にしないで、とにかくしゃべる!」をモットーに貪欲に機会を見つけて喋りまくったことが、その後英語の勉強が楽しくて仕方がなくなったモチベーションにつながったと思っています。
気負いすぎ・・・確かにそうだったかもしれません。むしろ、「日本でこれだけ準備したのだから、授業開始のその日から、不自由なく議論に参加できるだろう!」と“天狗”になっていた自分と現実とのギャップに愕然とさせられた部分も大きいかと思います。
ただ、お蔭様で1月半ほどで(ちょうどこのブログを始めた当たりから)英語の問題は大分解消され、授業中でも講演会でも積極的に発信できるようになってきました。なので、来学期は「自主練」のみならず、もっと積極的に「課外活動」にも楽しんでトライしていきたいと思っています。