ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

夏へ

2007年04月13日 | 日々の思い

 ケネディスクールに限らず、アメリカの大学・大学院の特徴の一つが学期中と休みとの間の極めて明確な「メリハリ」。

 学期中はそれこそ寝食の時間も削ってリーディングやレポート、グループワークに終われる日々ですが、その後にはなが~~い休みが待っています。ケネディスクールを例に取ると、現在格闘中の春学期は5月20日前後に実施される期末試験を持って終了し、その後9月の上旬までの丸々3ヶ月以上が夏休み!!

 この長期の休みに学生達が打ち込むことの代表例が企業や政府でのインターンシップとボランティア活動。将来の就職の足がかりとして、教室で培った問題意識と専門知識をリアルワールドにぶつける機会として、あるいは視野を広げ、人間として成長するために、多くの学生達はキャンパスを長期間はなれ、世界各地に飛ぶことになります。

 こうした学生達のニーズに応えるべく、ケネディスクールは「Summer Job Opportunities」というデーターベースを学生用のイントラネットで提供し、民間・政府・NGO別、あるいは環境、外交、福祉など政策分野別に様々なインターンシップやボランティアの機会を提供しています。

 もっとも、溢れるほどの情報の中で、自分の問題意識や必要とする条件に合うインターン先を見つけ、激しい競争の末オファーをもらうのは至難の業。僕もレジュメ(履歴書)やカバーレター(志望動機を綴ったペーパー)、そして幾つかのサンプルライティングを希望する先に合計10箇所ほど提出した結果、先日ようやく“アツイの夏”に向けた切符を手に入れることができました。

 2007年夏・・・

  僕はインド、そしてケニアに向かいます。

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 インドでは、6月初旬から約一月半、マイクロファイナンスの分野で活躍するBASIXというNGOでインターンとして働くことになります。

 バングラディシュのグラミン銀行とその創設者ムハマド・ユヌス氏が昨年ノーベル平和賞を受賞したこともあり、マイクロファイナンスは今、開発の分野で世界的な注目を集める手法となっています。

 マイクロファイナスとは、一言で言えば途上国で貧困に苦しむ人々に、低金利で小規模の金額を貸し出すビジネスです。これがビジネスとして、さらには貧困を解決するための持続的なツールとして成功を収めている背景には、いわゆる「貧困層」に対する見方の大きな転換があります。

 途上国の貧困層は、これまで先進国の人々、あるいは途上国の富裕層の人々にとって、援助・保護の対象と考えられてきました。その背景には、

 「そんな人々に金利を取ってお金を貸すなんて、搾取もいいところではないか!」という考えや、

 「担保になるような資産も持っていないような人々にお金を貸してもどうせ返ってきやしないからビジネスになる訳はないよ。」

という哀れみや蔑視に似た感情があったのかもしれません。

 一方で、補助金や寄付、政府の援助だけに頼る従来型の手法には、貧困にあえぐ人々の自主的かつ持続的な努力を引き出すためのインセンティブ(動機付け)に欠けるという指摘や、せっかく膨大なお金を援助しても汚職や官僚機構の非効率のため現場まで届いていないと言う批判がありました。また、担保や過去の返済実績が貸出の条件となる一般の銀行にとって、貧困層はビジネスの対象になり得ないため、逆に高利貸し(ヤミ金融)が蔓延り、貧困の悪化に拍車をかけているという指摘があったのも事実です。 

 経済学の博士号を取り大学で教鞭をとりながらも、既存の学問やビジネスがなんら貧困の解決に役立っていないことに苛立ちを覚えていたユヌス氏は、バングラディシュの路上で暮らすホームレスや、郊外の村で貧困に暮らす人々と実際に話をする中で、彼らが家計を支える仕事を始めるためのほんの少しの元手、例えば数ドル、さえあれば、貧困から抜け出すきっかけをつかめるかもしれないという気付きを得ることになります。

 そうしてはじまったのがマイクロファイナンス事業。多くの人々の予想に反し、そしてユヌス氏の予想通り、貧困のどん底にあえいでいた多くの人々が、グラミン銀行から借り入れたごく小規模のお金を手に始めた個人事業により、貧困からの脱却のきっかけをつかんだのです。更に驚くべきは98%という返済率。その背景には、5人一組になってお金を借り、誰か一人が返さなければ他の人がかぶらなければならないというシステムや、女性に特化した貸出、さらには、個人ビジネスを軌道に乗せ、計画的にお金を返すための知識を借り手に伝えるというグラミン銀行の行員の努力があります。

 以上がマイクロファイナンスビジネスの概略です。現在、グラミン銀行のビジネスモデルについては、その成果を過大評価しているのではないかという指摘や、金利設定のあり方について一部議論もあるようですが、世界的に大きな注目を集め、南アジアや中南米を中心に大きな広がりを見せています。そして、僕が6週間お世話になるインドのBASIXもその分野でインド最大のNGOなのです。

 インドで6週間のインターンを経験した後は、ケニアに飛びます。

 ケニアではGlobal Volunteer NetworkというNGOの指導の下で、7月下旬から半月の間、ナイロビ郊外の孤児院と学校のお手伝いのボランティアをする予定。孤児院で暮らす子供達の多くはエイズで両親をなくしたり、両親からの虐待にあって孤児院に逃れてきているとのこと。彼らと生活をともにしながら、孤児院や学校の運営のお手伝いをすることになります。

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 冬休みに経験したニューオリンズのハリケーン復興ボランティアでも本当に多くを学びましたが、この夏の経験はその期間の長さも8倍。しかも僕にとっては始めての発展途上国での経験になります。

 暮らすだけでも右往左往するであろうことが予想される中、どれだけ現地の人々、そしてNGOの運営に貢献できるかは分かりません。でも、五感の全てを総動員して出来るだけ多くの事を吸収するとともに、そこでの貴重な経験を、この「ケネディスクールからのメッセージ」を通じて皆さんにもお届けしていきたいと思います。

 20代最後の夏、

   おそらく、この体力をもって享受できる人生で最後の長期の自由時間・・・

 酷暑のインドで、ケニアで、人生の困難を克服するために戦う、そして社会の矛盾をなくすために尽くす多くの人々と出会い、ともに汗を流すことで、自分を人間的に成長させ、そして少しでも現地に貢献したい。

 2007年の夏は、色々な意味で「アツイ夏」になりそうです。


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