ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

日本の民間非営利セクターについて考える(その1)

2008年01月08日 | 日々の思い

  政府の失敗と市場の失敗を補う存在として世界的にその存在感を増しつつある非営利民間セクター。一方で、Johns Hopkins(ジョンス・ホプキンス)大学Center for Civil Socitey Studies(市民社会研究所)が2003年4月に公表した「Global Civil Society Overview」によると、日本の状況は、民間非営利セクターで働く人の割合で見ても、ボランティアに参加した人の数で見ても、また、民間非営利セクターの活動を支える寄付金の額で見ても、他の先進国はおろか、発展途上国と比較しても、その規模が小さいことが明らかになっています。

 この結果を見て真っ先に浮かんでくるのが、「そもそもこの調査って信頼に足るものなのだろうか?」という疑問。先日の記事で、調査の信頼性を高めるための基準や調査方法について記しましたが、果たして日本にうまく適用されているのでしょうか?

 例えば前回の記事でも紹介したとおり、日本で一年間にボランティアに参加した人の人数は成人人口のうちたったの0.5%にあたる48万5千人。しかし、内閣府が2000年の11月に公表した平成12年度版「国民生活白書-ボランティアが深める好縁-」を見ると、1980年代からわが国のボランティア人口は一貫して増加傾向にあり、1999年には年間700万人近い人がボランティアに参加しているとの統計結果が出ています。これは一体どういうこと??

   

 恐らくもっとも考え得る原因は、先日の記事でも紹介した人の数え方の問題。Johns Hopkinsの調査では、人数の数え方はフルタイム・ベース。つまり、5人の人が週に一回ボランティアに参加している状態は、週休2日制として一人がフルタイムで働いているとカウントされる訳です。一方で、上記の内閣の調査のソースとなっている全国ボランティア振興センターの「ボランティア活動年報」では、ボランティア団体に登録している人やボランティア活動に参加した人の実人数を足し合わせたものであることが、Johns Hopkinsの調査結果と大きな乖離が生じる原因となったものと思われます。

 いずれにしても、35ヶ国同じ基準で拾ったものであるため、日本人のボランティア参加率が国際的に見て極めて低いのが実態であることには変わりがなさそうです。

 また、調査対象となる民間非営利法人の範囲についても、Johns Hopkinsの日本人調査チームがまとめた個別報告書を見ると、主な情報源は経済企画庁(現内閣府)がまとめた、民間非営利団体実態調査市民活動団体基本調査等であります。これらの内容を見ると、先日の記事で触れたとおり、いわゆる特定非営利法人(NPO法人)だけでなく、社団・財団法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人なども広範にカバーされています。

 そうすると、Johns Hopkinsのチームが勝手に設定した基準で調査を進めたため、本来対象とされるべき日本の非営利法人が大幅にこぼれ落ちてしまった、という事態はあまり想像できません。

 こうしてみて見ると、やっぱり日本の民間非営利セクターは先進国の中ではもっとも振るわない部類、途上国と比較しても下位に所属する状態であることがはっきりして来ます。

 では一体なぜ?この背景にはどのような政治的・経済的・文化的な事情があるのでしょうか?

 Johns Hopkinsのチームは、韓国とともに日本を「Asian Industrialized Countries(アジアの先進国)」の括りでまとめ、両国と民間非営利セクターがともに振るわない状況の背景として、

 「政府主導の開発独裁が、市民活動を抑圧してきた中、キリスト教系の宗教団体が慈善活動を細々と続けてきた」、

 と指摘しています。

 うーむ。。。

 これは韓国には正に当てはまることではあっても、一応、戦後から民主主義国家としての道を歩んできた日本を説明するには非常にミスリーディングな解釈。一方で、Johns Hopkinsの日本人チームがまとめた日本に関する個別報告書を見ると、

 「官僚機構による様々な規制が、市民活動を阻害してきた。一方で阪神淡路大震災(1995年)、ロシアのタンカーナホトカ号重油流出事故(1997年)をきっかけに、政府の対応に限界を市民による活動が活発化し、1998年にNPO法が制定された。」

とより詳細な指摘がされています。

 要するに政府による公共サービスの独占、あるいは官主導の公共サービスの企画・立案・実施が民間非営利セクターの成長を阻んできたとの解釈です。

     *                *                 *

 しかし本当にそれだけなのでしょうか?

 民主主義の国において、官僚機構、政府は人々の意思・期待なくしては基本的には動きません。

 そして、人々の期待や意思は、その国の経済状態、経済構造や歴史、文化、宗教などによって織り成されるものでしょう。

 「なぜ日本の市民社会(民間非営利セクター)は振るわないのか?」

 この問の答えを模索するに辺り、「官僚性悪説」に走る前に、もう少し日本、そして日本人の内面を僕なりに探求してみたいと思います。次回をお楽しみに。

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