白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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部分の形・効率の良い形

2016年10月29日 23時35分45秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
現在、関東の大学囲碁部のリーグ戦が行われています。
リーグ戦には、私の出身である中央大学囲碁部も参加しています。

駅伝と同様、囲碁部もかつて名門と呼ばれました。
このリーグ戦でも、18回の優勝を誇っています。
最年長の河合哲之五段以下、プロも4人輩出しています。
しかしいつしか優勝から遠ざかり、近年では1部リーグ(上位8校)と2部リーグを行ったり来たりしています。
そして今回はアクシデントもあり、3部陥落の危機・・・。
ちなみに中央大学は、リーグ戦創設以来80年間、3部に落ちた事がありません。
駅伝とそっくりの状況ですね。

長年守ってきた伝統とは、重みがあるものです。
強い気持ちで、しかし責任は感じずに頑張って欲しいですね。
結果がどうなろうとも、OBとしては現役部員の頑張りを応援します。
明日の最終日は日本棋院で行われるそうなので、見に行こうかな。


さて、本日は久しぶりに五反田での指導碁を題材にしましょう。
テーマは部分の形効率の良い形です。



1図(テーマ図)
白△と打たれた場面です。
黒、どう打ちますか?

ここまで、黒はしっかりした形の手をノータイムで選んでいました。
その雰囲気から、次にどこに打たれるかは分かっていました。





2図(実戦)
実戦は、ノータイムで黒1と打ちました。
△からのケイマであり、ここだけ見れば自然な形です。
しかし、問題は黒〇の存在です。
この図で黒〇は、一手の役割を与えられているでしょうか?





3図(続・実戦)
白5まで、隅に根拠と地を確保したのは大きな手です。
全体の白が、ゆったりした事が感じられるでしょう。
碁は一手打つごとに、大きく景色が変わるゲームです。
では、黒△によって景色が変わっているでしょうか?





4図(参考図)
前図から黒AとBを抜かしてみました。
ここから2手かける事に、効率の悪さを感じませんか?
どちらか1手だけで十分であり、もう1手は他に回した方が良さそうですね。

碁の上達には、石の形を学ぶ事は欠かせません。
しかし、多くの方が見落としている事ですが、石の形には2種類あります。
それが部分の形効率の良い(悪い)形です。

例えば「ポン抜き」は良い形ですし、「空き三角」や、「2目の頭」をハネられた形は、悪い形といわれています。
ここで言う形とは、部分の形です。
部分の形を覚えておくと、石が取られるようなケースが減りますし、逆に相手の形を崩す事もできるようになるでしょう。

しかし、部分の形を覚えるだけでは、石の形は半分しか身に付いていません。
もう一つ石の形として重要なのが、効率の良い形です。
基本的に石は、手をかければかけるほど強くなります。
しかし、1手で済む所を2手、3手かけてしまうと、効率が悪くなります。
酷い場合には、丸々1手、2手パスしたも同然の結果になってしまう事もあるでしょう。
お互いに1手ずつしか打てないゲームですから、序盤・中盤でパスしてしまうとなかなか勝てません。
パターンとしての部分の形と、周辺の状況に合わせた効率の良い形、両方学ぶ必要があります。
特に有段者が高段者を目指すような場合は、絶対に避けては通れません。

ちなみに、よく中国や韓国のプロは形に拘らないと言われますが、その意味を誤解されている方が多いように思います。
実際は、彼らも石の形を非常に重視しています。
形に拘らないのではなく、部分の形に拘らないのです。
その分、効率の良い形を心がけて打っています。
プロによって、それぞれの形への比重の置き方が違うだけなのです。






5図(正解その1)
さて、それでは正解を見ていきましょう。
といっても、唯一絶対の正解がある訳ではありません。
碁は自由ですから、悪い手を打たなければ、色々な打ち方ができるのです。

まず、読みに自信がある方なら黒1の押さえです。
これで隅を守るというのは、部分の形ですし、同時に効率の良い形でもあります。
何故効率が良いかと言えば、この手は隅を守るだけの手ではないからです。
1手で複数の意味がある手は、効率が良いと言えます。





6図(続・正解その1)
下辺の白を守らなければ、黒2から動き出す狙いがあります。
黒14まで、前図の押さえが働き、黒攻め合い勝ちとなります。
尤も、これは高段者クラスの読みが必要ですから、この図を目指さなければいけないという事ではありません。
前図の押さえが、効率が良い手である事の証明です。





7図(正解その2)
中央を止められそうで心配、という方もいらっしゃるでしょう。
それなら、効率の良い形で守りましょう。
黒1が一例です。
ただ中央に頭を出すだけではなく、具体的な狙いを持っている事がポイントです。





8図(続・正解その2)
白が下辺を放っておけば、ここでも黒2が狙いになります。
黒8まで、△が働いて脱出できます。





9図(正解その2・変化)
黒1に白2と守れば、先手で中央に進出できたことになります。
黒3、7と大場に回り、3図とは1手の差が生じました。





10図(正解その3)
そもそも、右辺の黒が強いと見れば、最初から黒1と大場に向かう事も可能です。
黒7まで、やはり3図とは1手違います。


如何ですか?
悪い手を打っていない筈なのに上手くいかない、とお悩みの方は多いと思います。
しかし実際は、効率の悪い手を打ってしまっているケースが多いのです。
多くの方に共通の弱点ですから、上達にお悩みの方は、確認してみましょう!