白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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勝負師(小山三段-小林覚九段戦)

2016年10月23日 23時52分07秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日も幽玄の間中継棋譜をご紹介します。
小山空也三段(黒)対小林覚九段戦です。
小山三段の御両親は、小山竜吾六段小山栄美六段です。
また、小山竜吾六段の御父上は小山鎮男八段なので、小山三段は3代目の棋士という事になります。
棋士の家系らしく、ちょっとやそっとでは土俵を割らないしぶとさを持っていると思います。
それでは対局の模様を見ていきましょう。



1図(実戦白18~白20)
白1の緩い挟みから、一転白3と激しくツケて行くのは、近年よく見られる手法です。





2図(変化図)
ここで黒1と下をハネれば、白2(1の下)の捨て石を使って白6まで、外勢を得る事ができます。
黒は全体の位が低く、少しつらい分かれでしょう。
これが白の注文です。





3図(実戦黒21~黒25)
という訳で黒1と上をハネましたが、これに対しても白2が手筋です。
黒を切り離す狙いがあります。
ここから色々な変化が考えられますが、黒5は初めて見ました。
この手の狙いを考えてみてください。





4図(変化図)
白1と押さえれば、そこで黒2のブツカリが好手になります。
白3とあくまで切ろうとすれば、黒8までとなって逆に白が取られます。





5図(実戦白26~黒29)
当然、白も黒の狙いを察知し、白1、3と変化しました。
黒は白△、白は黒△を切り離す振り替わりになりました。
この後さらに白Aと仕掛け、戦いは続きます。





6図(実戦白58)
その後、白△までと進みました。
右下の白はそれぞれ生きている一方、黒はどちらの石にも不安が残っています。
白有利の分かれだと思います。
小林九段相手にこの状況はかなり厳しいのですが、しかしここから強いのが小山三段なのです。





7図(実戦黒73~白78)
その後、黒は1~5と左辺を頑張りましたが、白6と打ち込まれています。
ますます苦しくなってように見えました。





8図(実戦黒79~黒87)
前図のようになると、とりあえず逃げる事を考えそうです。
ところが、実戦は黒1から9と反撃!
無理筋とも思える力強さです。
こんな際どい打ち方ができるのは、深い読みの前提があってこそですね。





9図(実戦黒111)
案の定下辺の黒が閉じ込められる事になりましたが、黒△の粘り!
一見黒が苦しく見えますが、左下の白にも眼が無いと主張しています。





10図(実戦黒157~黒159)
難解な戦いの結果、黒1、3とコウに勝ち、逆に右下の白を取ってしまいました!
コウ替わりに白2から左上黒を取られますが、後に手を付ける手順に恵まれ・・・。





11図(終局図)
左上の黒も生きて、勝負を決めました。

小山三段は線が細く、体力がありそうには見えません。
しかし碁の体力は素晴らしく、中盤以降秒読みになっても乱れません。
私が対局した時も、中盤まで優位を築きながら、後半追い抜かれた苦い経験が・・・。
多少形勢が悪くてもじっと我慢し、チャンスが来たら一気に勝負に出る、というのが逆転のための心得です。
最近活躍している若手は、皆それを実行できていると思います。
本局の小山三段の打ち回しからは、勝負師根性を感じました。