白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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武闘派対決!(棋譜紹介)

2016年10月18日 22時19分24秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は昨日の王座戦の裏で行われていた対局をご紹介します。
第55期十段戦本戦1回戦、結城聡九段(黒)対金秀俊八段です。
正に東西の武闘派対決!
期待通りの凄い戦いの碁でした。

なおこの対局は幽玄の間で中継されていましたが、ソフト上からは既に流れていますね。
この対局も含めて、過去に幽玄の間で中継された対局は、幽玄の間ホームページからご覧頂けます。
ログイン後、中継→中継棋譜鑑賞と進むと棋譜の一覧が表示されます。
検索も可能ですので、ぜひご利用ください。

さて、それでは対局を振り返っていきましょう。



1図(実戦黒9)
黒△と白△の小目が向かい合っている、所謂「向かい小目」の布石ですね。
最近あまり見なくなりましたが、もちろん互角の布石です。

黒1に対しては、白A~Cなどが代表的な定石です。
どれを選んでも、黒石が下辺に向かう可能性が高いのですが、白はそれを防ぎたいと考えました。
そこで白が選んだ手は・・・。





2図(実戦白10)
実戦は白1!
下辺を重視する打ち方です。
Aのハザマが空いて異様な感じですが、そこは何とかなるとみています。





3図(変化図)
黒には色々な打ち方がありますが、最も簡明なのは黒1以下です。
黒は左辺に連絡、白は勢力を築く分かれになります。

ただし、この碁は右辺の配置が特殊です。
右上白8、右下白12と両方カケられ、黒の位が低くなってしまいます。
碁盤全体を見ても、黒1以外の全ての石が3線以下にあります。
いかにもバランスが悪い感じで、白としてはこんな図になれば嬉しいでしょう。

では黒はどうするべきでしょうか?
2図のAが気になっている方が多いでしょうが・・・。





4図(実戦黒11)
実戦も、やっていきました!(笑)
白を分断する手で、最もストレートな行き方です。
一見白がバラバラで、困りそうですが・・・。





5図(実戦白12~白14)
白1、3と黒を分断!
「あなたこそバラバラじゃないですか?」と言っています。
お互いに弱い石が複数できており、この戦いは良い勝負でしょう。

白のハザマを空ける手は、一時期(確か私の入段前)流行した事があります。
この図のお互いに切り合う変化も、実戦例があります。
ところが、この後の実戦は見た事もない展開になり・・・。





6図(実戦黒35~白38)
序盤から物凄い事になっています。
黒1、3で白の出口を塞ぎ、白は4で隅の黒を取りに行きました!





7図(実戦黒39~黒43)
前図の続きで、黒5までと進みました。
一体どうなっているのでしょうか?
次図で現状を確認してみましょう。





8図(現状確認)
黒7子と白8子の攻め合いになっています。
攻め合いで最も重要なのは、お互いの石が取られるまでの手数(ダメの数)です。
数えてみますと、黒5手、白4手ですね。
白番ですが、単純にダメを詰め合うと、攻め合いに負ける事が分かります。

となれば、白は何とかして手数を延ばさなければいけません。
白がどう打ったか、予想してみてください。





9図(失敗図その1)
白1と切る手は成立しません。
黒6が好手で、白攻め合い負けになります。





10図(失敗図その2-1)
白1と打ちたくなる方が多いのではないでしょうか?
黒2に白3と逃げて、一見上手くいきそうに見えますが・・・





11図(失敗図その2-2)
黒1、3、5と、緩まず止められていけません。
黒9となった時点で白の手数は4手と、全く延びていません。

この図がダメなら、白困ったように見えますね。
ところが・・・。





12図(実戦白44)
実戦は白1の2間トビでした!
妙手です!
次に黒Aなら、白Bで脱出してしまいます。





13図(実戦黒45~白52)
そこで実戦は黒1、3、5でしたが、白6に対して黒Aとダメを詰められないのがポイントです。
(黒Aと打つと、白Bと出られて崩壊します)
そこで白8と黒のダメを詰めて・・・さて、白は何手になっているでしょうか?





14図(手数の確認)
黒1(6の所)から白6までとなると、白は5手ですね。
黒は4手なので、白が攻め合い勝ちになりました。
魔法のような妙手で、白が攻め合いを逆転しました!


ただし、石を取ったからといって終わりにはならないのが碁です。
この碁も延々と戦いが続きます。
戦いの手筋も多く登場するので、ぜひ総譜をご覧ください!