諸角さんの「ヴィオラマスターズクラス2019」の詳細なレポートは、今回が最終回です。
諸角さんありがとうございました。
今井信子小樽ヴィオラマスタークラウスに学んだたくさんの優秀な若手ヴィオラ奏者の成長は、最近富に顕著です。2018年、ヘス・イ Hae-sue Lee (韓国、2017年~2019年)が2018年プリムローズ国際ヴィオラコンクールで1位並びに聴衆賞を受賞しました。同じく2018年、セジュン・キムSejune Kim(韓国、2010年~2011年)及びジユ・シェン Ziyu Shen(中国、2015年~2017年、2019年)が共に2018年東京国際ヴィオラコンクール第2位を受賞しました。
私は、小樽ヴィオラマスタークラスから生まれた驚くべき成長のサプライズは受講生だけではないことにふと気がつきました。高野るみさんのサプライズは、今井信子ファン、ヴィオラファンという一介の主婦が、小樽ヴィオラマスタークラス実行委員会代表として、今や音楽事務所を独りで運営できる程の凄腕の女社長になったと言っても過言ではありません。先般北海道新聞「ひと」の欄で「世界的ビオラ奏者の講習会を毎年開催」という見出しで紹介された高野るみさんは次のようにに語っています。「今井信子さんと交流を深める中で信頼され、自然豊かな小樽で若手を育てたいと講習会の開催を打診されると、二つ返事で引き受けた。協賛金集めや日程調整、バスの手配、決算など運営をほぼ1人で担い、今年も講習会の合間に開く音楽界の準備など裏方作業に追われている。講習会の開催前は、海外の受講生と英語のメールでやりとりし、楽譜をネット経由で送る。15年前は英語もパソコンも初心者だったが、今井さんは絶対にできないと言わない人。つられて成長してきた。」
もう一つの小樽ヴィオラマスタークラスから生まれた驚くべき成長のサプライズは、小早川麻美子さんです。ヴィオラ奏者にとって、演奏する作品の数が少ないというのは大問題です。今井信子さんは若手ヴィオリストの育成に加えてヴィオラ作品の発掘に取り組まれています。今井信子さんの依頼で、ヴィオラ奏者であり編曲者の小早川麻美子さんは、小樽ヴィオラマスタークラス2013年にスメタナ:交響詩「わが祖国」からモルダウ(ヴィオラ四重奏版)やマスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」から間奏曲(ヴィオラ四重奏版)等を編曲、その後モーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲K364(弦楽四重奏曲版)の編曲を手掛け、最近はプロフィールにあるように、ヴィオラスペース2015にバッハ:ブランデンブルク協奏曲第3番 ヴィオラ合奏版(小樽ヴィオラマスタークラスによる委嘱作品)を寄稿、その模様がNHK-BSプレミアム「クラシック倶楽部」でも紹介され、待望のヴィヴァルディ:協奏曲集「四季」(ヴィオラ合奏版)全曲の世界初演が、小樽ヴィオラマスタークラス2016及び小樽ヴィオラマスタークラスin台湾2016にて行われました。今年最後の小樽ヴィオラマスタークラス2019では、モーツァルトの最高傑作のオペラの一つ「ドン・ジョヴァンニ」をヴィオラを中心とする器楽アンサンブルに編曲という偉業を達成しました。
「小樽ヴィオラマスタークラス2019」を振り返って、最後に心に残ったことを付け加えたいと思います。
(1) 百戦錬磨のピアニスト草冬香は凄い。
数年前ヴィオリストの大島亮さんが、若いピアニストが初めて小樽ヴィオラマスタークラスのピアノ伴奏者として参加した際に、彼等にどのようにピアノ伴奏をするか百戦錬磨の草さんから学んだら良いと言っていたのを聞いた時から、百戦錬磨の草さんという表現が私の頭の中に定着しています。それはさておき、草冬香さんが、インフルエンザに罹ってしまい大変なことになりました。彼女は、10日に小樽ヴィオラマスタークラスを支援してくださった地元の小樽・朝里まちづくりの会の皆様のために感謝を込めて開催される朝里クラッセサロンコンサートで、ヴィオラ・アシスタントのファイト・ヘルテンシュタインさん(ドイツ・デトモルト大学教授)、東京フィルハモニー交響楽団首席ヴィオラ奏者須田祥子さん及び札幌交響楽団首席ヴィオラ奏者廣狩亮さんのピアノ伴奏という大きな仕事が待っていたのです。この大役はやらねばと覚悟を決めた草冬香さんは、マスクをしてこの大役を完璧に乗り切ったのです。その迫力には、さすがのインフルエンザウィルスも退散したようです。恐るべし、百戦錬磨のピアニスト草冬香!
(2) ザ・イマイ・ヴィオラ・クァルテット登場
2017年に今井信子さんがヴィオラだけのクァルテット、「ザ・イマイ・ヴィオラ・クァルテット」を結成。メンバーは、東京国際ヴィオラコンクールの入賞者ファイト・ヘルテンシュタイン(2009年第1回第3位、大衆賞)とウェンティン・カン(2012年第2回第1位)、そして上海音楽院教授のニアン・リウという次世代を担うヴィオリストたち。新しい夢、より高い目標に向かってやり遂げる覚悟を決めて躊躇なく行動する今井信子さんの新しい挑戦が始まった。新たに若いヴィオラ奏者の育成、ヴィオラ作品の発掘に取り組むのであろう。小樽ヴィオラマスタークラス2019では、下記のコンサートで緊張感溢れる演奏を披露しました。
・1月11日スペシャルブーケコンサート
ラヴェル:ソナチネ第2楽章及びシューベルト:君はわが想い
・12日ニューイヤーコンサート in 札幌
ピアソラ:リベルタンゴ/オブリビオン/フーガとミステリオ(三浦一馬編)
バンドネオン奏者三浦一馬と共演
・13日「小樽ゆき物語/ランチタイムコンサート 台湾の仲間たちを迎えて~」杉山洋一:ヴィオラ四重奏のための「子供の情景」より
(3) バルトークのヴィオラ協奏曲が今後のどのような道をだどるか憂う
1月5日山本一輝君のレッスンの作品はバルトークのヴィオラ協奏曲でした。彼が弾き終わった後に、このことを言うべきかどうかと前置きして、ヴィオリストにとって必須の曲であるバルトークの協奏曲は旧版あり、新版あり、混ぜて弾く生徒おり、自分流の版を出す者もあり、そうなるバルトークのヴィオラ協奏曲は危険だから弾かないということになりかねない、バルトークのヴィオラ協奏曲が生き残るかどうかヴィオリストにとって大変な現状を語った。彼のような若い演奏家にこの問題をしっかり受け継いで欲しい、この問題に共に向き合いたいという思いを語られたようだ。その後そのような問題意識で彼女の彼に対するレッスンは進行した。今井信子さんは、この問題を2007年に春秋社から出版された(2013年増補版出版)「今井信子 憧れ ヴィオラとともに」の第8章「ヴィオラという楽器」の中のバルトークのヴィオラ協奏曲のところで議論されている。
今年の小樽ヴィオラマスタークラスを振り返ると、最後ということで本当に感動の連続でしたが一方ハラハラドキドキの連続でもありました。“No Risk, No Glory”、すなわち決めた大きな夢に向かって躊躇することなくやり切る覚悟で突き進むとはこういうことなのでしょう。
そして今井信子さんは次の夢、より高い目標に向かって新し挑戦を始めているような気がします。決めたらやり遂げる覚悟はできていることでしょう。