第6回東京国際ヴィオラコンクール雑感(その4)
驚いたことに、第一次審査の会場でシドニー在住の後藤和子さんにお会いしました。後藤和子さんは、米国のジュリアード音楽院卒業後、長年オーストラリア室内管弦楽団の主力ヴァイオリン奏者として活動されていて、故小澤征爾氏とはSKO共演、小澤征爾音楽塾で若手育成講師などで活躍されている凄いヴァイオリン奏者です。私が彼女に出会ったのは、私が毎年ボランティアで参加していた小樽ヴィオラマスタークラスに彼女が来られて、いつも今井信子さんと味わい深いデュオ演奏を披露されたからです。
彼女から、シドニーでヴァイオリンを教えた笠井大暉君が、予備審査に合格して第6回東京国際ヴィオラコンクールに出場していると伺ってまたびっくりしました。笠井君は、2022年小澤征爾スイス国際アカデミーに参加した際に、ヴィオラを30秒程弾いていたら、今井信子さんからヴィオラを弾いたらと声をかけられたと、ヴィオラとの出会いを語っていました。その後2ヶ月ほどヴィオラを借りて弾いて、後藤和子さんとも相談してヴィオラに転向を決断したそうです。
笠井大暉君は、第6回東京国際ヴィオラコンクールファイナルの3名に名を連ね、最終的に第2位という栄誉を獲得しました。彼は、東京国際ヴィオラコンクールで、初めての日本人男性入賞者です。ファイナルの審査結果発表後、涙がでるほど嬉しいと感激していた後藤和子の笑顔がとても印象的でした。
今回第6回東京国際ヴィオラコンクールで、中国のイーシュウ・リンさんがFirst Prize Winnerに輝きました。実は、彼女は、台湾のチンハン・リンさん(2013年~2017年及び2019年の小樽ヴィオラマスタークラス受講生)、及びジーユー・シェンさん(2015年~2017年及び2019年の小樽ヴィオラマスタークラスの受講生)から、上海で教えを受けたそうです。とりわけ、コンクール直前、ジーユー・シェンさんからレッスンを受けとか。ジーユー・シェンさんは第4回東京国際ヴィオラコンクールで第2位受賞者です。
チンハン・リンさんとジーユー・シェンさんは、小樽ヴィオラマスタークラスがきっかけで親しくなり、その後結婚されてご夫婦で、台湾の台南及び中国の上海で若い音楽家の育成活動をされているそうです。小樽ヴィオラマスタークラスで今井信子さんから学んだ受講生が、若いヴィオリストを東京国際ヴィオラコンクールに送り出すとは、本当に感激です。
第6回東京国際ヴィオラコンクール雑感(その5 最終回)
6月1日(日)14時15分、日本製鉄紀尾井ホールにて入賞者及び特別賞受賞者が発表されて授賞式が行われました。引き続き15時より、同ホールにて、天皇陛下ご臨席の下、第6回東京国際ヴィオラコンクール入賞記念コンサートが開催されました。
報道によりますと、自らもヴィオラを演奏される天皇陛下は、皇太子時代から「ヴィオラスペース」の演奏会を鑑賞されてきました。 6月1日は、「第6回東京国際ヴィオラコンクール」に入賞した国内外の若手ヴィラ奏者らによってバッハやシューベルト、ブラームスなどの曲が演奏されました。 陛下は一曲ごとに笑顔でうなずきながら拍手を送られました。演奏会終了後入賞者との懇談で、「大学に入った頃ヴィオラの音に魅了されてヴィオラを始めました」とヴィオラを始めたきっかけを明かされたようです。 また、ブラームスのヴィオラソナタ第1番について、「いまこの曲を練習しています」とお話しになり、「若い演奏家の皆さん素晴らしいですね」と感想を述べられていたということです。
さて、最後に東京国際ヴィオラコンクールの楽しみ方について一言述べさせていただきます。若いヴィオラ奏者育成のため、ヴィオラ奏者今井信子さんと小樽朝里町在住の主婦高野るみさんが意気投合して2004年に「ゆらぎの里ヴィオラマスタークラス」(通称小樽ヴィオラマスタークラス)が生まれました。高野るみさんが小樽ヴィオラマスタークラス実行委員会事務局代表として主婦業をこなしながらの奮闘に、自らヴィオラを演奏するあるいはヴィオラを愛する今井信子ファンが、この二人を支援しようと、地元北海道は札幌市、北広島市、伊達市、釧路市及び山形県酒田市や東京などから集まってきました。
朝から晩まで今井信子さんの若いヴィオリストのレッスンや発表会など高野さんが作成した緻密なスケジュールの遂行を助ける我々ボランティアは、日中は大活躍、一方深夜になるとホテルの誰かの部屋に集まって飲んだり食べたり歓談に花を咲かせるようになりました。誰が命名したか、若いヴィオリストとは対照的な我々おっさん、おばさんの集まりをいつしか「おとなの会」と呼ぶようになりました。「おとなの会」には、ピアノ伴奏者などアシスタント講師も加わり、深夜自室でご自分の練習に集中する今井信子さんも時々顔を出しました。
2009年に第1回東京国際ヴィオラコンクールが開催されました。小樽ヴィオラマスタークラスの受講生もコンクールに参加しました。その後3年に1回のコンクールに予備審査を通過したたくさんの受講生が出場するようになりました。そして入賞者も出てきました。我々「おとなの会」のメンバーは、何とか都合をつけて小樽ヴィオラマスタークラスの受講生を応援するために東京国際ヴィオラコンクールにやってきて、出場する受講生やボランティアの仲間たちと再会するのが楽しみになりました。東京国際ヴィオラコンクールは、そのような大変大切な場所なのです。
小樽ヴィオラマスタークラスは、2019年に終了しました。これから小樽ヴィオラマスタークラスの受講生が出場することはなくなるでしょう。しかしながら、今回小樽ヴィオラマスタークラスで今井信子さんの指導を受けた受講生から学んだという出場者が入賞しました。これからは、小樽ヴィオラマスタークラスの卒業生たちが、次世代のヴィオリストをコンクールに送りだすことでしょう。我々今井信子ファンの夢は益々大きくなりそうです。我々「おとなの会」メンバーは、次回東京国際ヴィオラコンクールでの再会のために、まだまだ日々元気に頑張らないといけませんね。
小樽ヴィオラマスタークラスとのかかわりでもう一言。東京国際ヴィオラコンクールの公式伴奏者有吉亮治さん及び草冬香さんは、小樽ヴィオラマスタークラスでピアノ伴奏者として活躍されました。
(転載を終えて)
諸角様からの素晴らしいレポートと画像を転載させて戴きました。
本当にありがとうございました。
「天道虫(てんとうむし)の会」事務局 砂岡茂明