某社の営業マン。教室に入るなり、セールストークの定番か、きっかけに振ってよこしたネタが…。
「宝くじ、凄い当たりが出たんだそうですね。」
ぼくはすかさず辺りをうかがいつつ人指し指を唇の前で立てて、
「シーッ!」
先方はぎょっとした顔をする。声を押し殺してぼくは続ける。
「この話は誰にも知られたくないんや。」
こう切り出すぼくにさらに身を乗り出して、
「もしかして、当たった方というのは…、あ、あなた様?」
「えーっ、何かい、あんた、誰ぞに聞いて来てくれたんと違うの?」
「いえいえトンでもない、聞いてません、でも…、ええーっ?!」
「これっ、声が高すぎぃ。漏れたらどうするの!」
「あぇ~ッ?!」
「考えてもみてご覧。こんなこと知れたら、大騒ぎになって平和が崩れるやんか。
夜は鍵かけやないかんし、寄付の依頼は来るし、親戚がいっぺんに増える。」
「でも、まさか…? そんなっ?!」
「一億円が当たっても、平気な顔でそ知らぬ顔を決め込む難しさ、オタク、分かる?」
「いえ、そりゃあ直ぐ顔に出てしまいますし、誰かに喋らずにはおられませんよぉ。でも、確かに知られるとコトですねぇ。」
知らず知らず彼の声もヒソヒソ声になっている。
「なっ、明るみにすると、とんでもない難儀が降りかかるのは目に見えるやろ? だから、こうして黙っているのが一番なん。」
「ほんとに誰にも明かさないので…ぇ?」
「当たった、当たったってかい! ふれ回ってどうするよ、蜂の巣を突っつくような真似ができる? フセイン処刑後のイラクやがなぁ 。」
「それでも嬉しいでしょうに…、表情に出ません?」
「この間、信号待ちしてる時、思わずニンマリ笑い出してしまったのを反対側に停車してた友人が見てたらしく、
『気色悪いな、どないしたん?』
って心配して電話かけて来たん。アレは、危なかったねぇ。」
「宝くじ当たる人って、絶対、他人に喋らんって言いますけど、本当なんですね。」
「そうさぁ、あんただって当事者になったら分かるよ、口が裂けても言えんもんやんなぁ…。」
てな話でいっとき盛り上がったが、『あるある何とか』に比べると、他愛のないものである。宝くじは買わなきゃ当たらないものなのだ。
それにしても、おとやの大将、そろそろイタリア旅行のスケジュールを教えてくれてもええ頃やないかい…な、んなっ?
焦らされるも快感である。
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