高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

ビックリハウス

2005-03-24 | Weblog
パルコ出版から、ビックリハウスという雑誌が出ていて、読者として楽しんでいたけど、ごくまれには書かせてもらうこともあった。編集長の萩原朔美さんはハンサムで素敵な人だった。(のちに編集長は高橋章子さんに)
表紙には「安くて美味い小銭雑誌 へぇーい、手巻き、いっちょあがり!」とある。(300円)
「ひとつの言葉から・フルーツポンチ」という特集で橋本治、中西俊夫、峰岸達、小松政夫さんなどに混じって、「フルーツポンチ娯楽食」なんて書いている。読み返してみると、何言ってるんだか、私も若かったなーと照れます。(いや、今もそれほど変わってないかも、、、) 以下がそれ。

わたしは、食べることや食べるものに割合真面目な方で、おいしいものを一生けんめい食べるのが好きです。
たとえば、皮ジャンにリーゼントで、オートバイを乗りまわしているようなお兄さんには、「あした死んでもいい」っていうセリフや、コークのラッパ飲みが似合うと思う。(人生の一瞬には、そんな時もある) でもわたしは道路を信号無視で渡るとしたら、左右五百メートル車がいない時じゃないと出来ないので、パッソルにすら乗れないし、コークは3年に一回しか飲まないひとなのです。でも、スタイリストという仕事は、突発事故の連続線のうえを歩くようなものだから、主義主張で三度三度食べるわけにもいきません。ある海外ロケのとき、自然食主義のディレクターが、自分はナチュラルヨーグルトを常食としているから、冷蔵庫付きのスィートの部屋でないとダメだと主張し、それが通りました。
わたしはそのかたよりも7、8年前から自然食もどきをしているけど、そんなこといえる権限もないし、自分の方法をそういうふうに主張するのはハズカシイと思っちゃうほうなので、ホテルの近くの安い朝食屋さんにみんなと通いました。毎朝通って、店の人と仲良くなったり、その国の味を知るのは、おもしろいことだから。
ヒコーキの機上食に、「ベジタリアン」っていうのがあっても、それを注文するのはハズカシイから、おにぎりとたくわんをもって乗ります。そして、機上食が油ゴテゴテのトリ肉焼きだったりすると(割引の某ヒコーキなんかそうですね)、おにぎりとたくわんで生き延びるのです。人間は正しい食べものだけを食べていると、清く正しく平和になりすぎちゃうときいたことがあります。わたしの知っている高名なヨガの先生は、抵抗力をつけるためには、ときには悪食(アクジキ)も必要といってます。この先生と焼肉とベトナム料理を食べまくったことがあります。わたしはワルイ食べ物と呼びたくないので、そういう食べ物は「娯楽食」と呼んでいます。都心をはなれたスタジオに詰め込まれ、仕出し弁当だけなどという日は、急に、「おはぎ」とか「シュークリーム」とかが食べたくなります。だから、わたしのアシスタントは、代々、田んぼの真ん中で、お菓子屋さんへ行くことを考えさせられたり、多摩川べりから、ダンキンドーナツへ走らされたり、、、、、そんな試練を乗りこえて、一人前になってゆくのです。
一日中、街を走りまわって仕事の手配をしているとき、キラキラと陽気に輝くフルーツパーラーは、夢の国の入り口のように見えます。そんなときはちゅうちょなく入って、けばけばしいフルーツポンチをおいしいなと思って食べるのです。