一法学生の記録

2014年4月に慶應大学通信部に進んだ法学生の記録である
(更新)2017年4月に神戸大学法科大学院へ進学しました。

江藤新平の先駆性

2015-08-30 12:23:24 | 日本法制史Ⅱ
 明治新政府にとっての二大事と言えば、一つは地方分権的な幕政を解体して統一的な国家を建設すること、もう一つは外国との不平等条約を改定して対外的独立を確保することである。いまだ不安的であった新体制の基盤を固めるための国内政策が優先されることになるが、それは、国家としての主権が幕末以降の不平等条約によって制限されていた現状を改めるためにも、これは連続しているのである。ここまでの認識は、当時の明治新政府の首脳には、当然のことながら認識されていたのである。だが、江藤の一歩抜きん出ているのは、民権と国権にたいする関わり合いについてである。

 対外的な軍事力と言うことが意識されたのも、幕末から維新の海外情勢に応じた認識であった。とりわけ、アヘン戦争を具に観察していた幕府では、それまでの異国船打払令を薪水給与令に改めるが、その本質は、徹底した避戦政策と軍備増強であった。だが、封建主義的幕府体制の下では、莫大な財政負担を地域に強いる辺境警備の強化には自ずから制約を受けざるを得ない。この事を十分に認識していた明治新政府も、いまだ不安定である国内政策は去ることながら、中央集権化による軍備拡張は、条約改正のための準備作業である法典編纂などの政策と鏡の両面として、迫られていたといえよう。

 明治六年の司法卿を辞するにあたって、江藤は以上の認識から国家の軍備拡張を唱えるが、そのためには司法改革がぜひとも断行されなけらばならぬと説く。それは、第一に民法典の充実により、国民の権利義務の関係を正しく規定することによって、相続、婚姻、あるいは商売上の権利、移動の自由などを確保し、以て聴訟(民事裁判)の事務を適法、適正に、取扱うことが可能となる。また、第二に刑法典の充実により、犯罪捜査、捕縛、訴追、あるいは監獄の適正な実施を保障し、行政権と司法権の独立を確保することによって、はじめて国民は安心して、諸々の活動を営むことが可能となる。

 こうして、民権が保証されることによって、国民の活動は活発となり、国が富み、税収は増えるから、国家はその余剰分を軍備拡張に充てることができ、ひいては国権の確立に資することになる。こうしたことを、江藤は長文の辞表にしたためて、正院に提出したのであるから、その識見において、大正デモクラシーの思想を、すでに抱懐していたことが、明らかである。だが、当時の政府とって、民権の伸長をその本旨とする主張には、急進的に過ぎるとと映ったであろう。

 以上。

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