一法学生の記録

2014年4月に慶應大学通信部に進んだ法学生の記録である
(更新)2017年4月に神戸大学法科大学院へ進学しました。

ゼミ 厳選43

2017-01-15 19:07:16 | 新・刑事訴訟法
ゼミ 厳選43

第一章 刑事手続きの基礎
1.実体的正義と手続き的正義についてまとめなさい
 刑事訴訟法は、刑罰権の具体的実現を目的とする手続きを定めた法律である。その目的は、①実体的真実の発見と、適正手続きの保障である。裁判とは、司法機関である裁判所は裁判官が具体的事件について行う公権的な判断のことである。刑法はどのような行為が犯罪とされ、その犯罪に対してどの刑罰を科すかについて抽象的に定める。しかし、現実事件は多様である。したがって、抽象的な刑法を、具体的に実現する手続きを定めた法律である。〔1〕刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することを目的とする。その意味は、①実体的真実の発見と、②適正手続きの保障、両者の均衡を図ることである。
①実体的真実主義とは何か。裁判所の事実認定が真実に合致していなければならないとする立場を指す。イ)積極的実体的真実主義(犯人必罰)ロ)消極的実体的真実主義(無辜の無処罰)〔317〕事実の認定は証拠による従って、証拠に基づかない事実認定は許されないし、証拠により認定される事実ができるだけ真実に合致するを要する。しかし人間の判断は不完全である。従って、〔336〕被告人が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡しをしなければならぬ。また、刑事訴訟は、迅速な手続き及び手続きの適性が要求される。確定判決に確定力が認められ、法的安定性の見地から、容易に覆すことができない(この意味で、実体的真実主義の限界)。また、当事者主義は真相解明に資する。しかし、イ)当事者が訴訟追行の責務を負うので争いの無い事実を真実と扱い(形式的真実主義)真相解明を阻害し、ロ)過度の闘争主義を産む。従って、職権主義が補充的機能を果たす。
②適正手続きの保障とは、刑罰を科す手続きが形式的な意味の法律に根拠を持っているだけでなく、その法律の内容が実質的に適正なものでなければならないという、原則である。すなわち、ア)憲法的刑事訴訟(刑事訴訟が憲法によって支えられている。)、イ)手続法定(刑事訴訟が適正な手続きによる)。なお、適正手続きは裁判所における公判手続きだけでなく、捜査手続きにおいても求められる。その基本的な要請は、被疑者・被告人或いは処分を受けるものに対し、告知と聴聞の機会を与えること(判例)である。

2.手続的正義の観点から見て、刑事手続きの特徴とは何か

第二章 捜査・公判の構造と登場人物
3.当事者(弾劾)主義と職権(糾問)主義についてまとめなさい
 訴訟追行の主導権を裁判所に委ねる建前を職権主義と言う。これに対して、訴訟追行の主導権を当事者に委ねる建前を当事者主義という。すなわち、検察官による訴因の主張・立証(攻撃)と被告人の反論・反証(防御)につき、裁判所は公平な第三者から判断する。その目的は、裁判所と検察官の役割を区別することである。なお、当事者主義を担保するため、〘37〙は、被告人に訴訟活動に必要な種々の権利を与え、十分な防御権の行使ができるように、定める。たとえば、訴因制度、証拠調べ等。現行法においては、訴訟の対象は当事者処分主義、証拠の収集は弁論主義、訴訟の進行は職権進行主義を採る。なお、裁判運営に関して、①糺問主義とは、裁判所が被告人を取り調べの客体とすることであり、イ)犯罪の真相解明に当たるもの(糾問官)が手続きを開始し、ロ)訴訟関係者に真相解明に必要な証拠の提供を求め、ハ)司法警察官がこれを補佐する。二)結果、被告人は手続きの客体である。これに対し、②弾劾主義とは、イ)訴追者により訴追されることで手続きが開始し、ロ)訴追者が主張・立証の責任を負い(被告人は訴追者に協力する義務を負わぬ=何人も自己に不利益な証拠の提供を法的に義務付けられない(自己負罪拒否権))、ハ)訴追者・被告人とが手続きの主体となることである。⇒〔247〕国家訴追主義、〔256②〕検察官が公訴事実を起訴状に記載する

4.公平な裁判所とは何か。そのための制度には何があるか。
5.警察職員、警察の組織についてまとめなさい。
6.検察官、検察組織についてまとめなさい。
7.刑事訴訟法上の「裁判所」とは何か。
 裁判所とは、司法権を行使する国家機関であるが、①国法上の意味と、②刑訴法上の意味がある。①は、イ)職員全部及び施設を含めた官署としての裁判所、ロ)裁判所法に依って定められた、裁判機関の集合体を指す。②は、個々の事件について裁判権を行使するために裁判官によっ構成された裁判機関としての裁判所を指す。すなわち、受訴裁判所である。

8.被告人の訴訟能力について簡単にまとめなさい。刑法上の責任能力との違いは何か。
 
9.弁護人の役割についてまとめなさい。日本司法支援センターとは何か。
 被疑者・被告人の利益を保護するのが弁護人である。被疑者・被告人は、弁護人を依頼し、弁護人から有効な弁護を受ける権利がある〘34〙〘37〙〔30〕。刑事訴訟では、弁護人は原則として弁護士でなければならぬ。弁護士は、法律専門家として基本的人権の保護と社会正義の実現を使命とする公的な性格を有する。弁護人は、訴訟行為の性質が代理に親しまないものを除いて、その性質が許す限り、被疑者・被告人がすることのすべての訴訟行為について、包括代理権を有する。弁護人は、被告人の正当な利益と権利を擁護するため、最善の弁護活動に勤めるへし(弁護人の誠実義務)。弁護人は、被告人に不利益な真実を明にする義務はない。たとい、真実であっても、被告人に不利益な証拠を、その意思に反して提出することは許されぬ。すなわち、弁護人が、個人的に良心や正義感から、被告人の不利益となる弁護活動を行えない。しかし、被告人の正当な利益の擁護に留まるので、偽証教唆や虚偽の立証は許されない。また、弁護人は被告人が犯人であることを知っていても、証拠不十分などを理由に無罪の弁論をしてもよい。被告人が身代わりとして有罪を望んでも証拠不十分として無罪の主張が許される。被告人は黙秘権があるので、黙秘を勧めることもできる。なお、被告人に禁反言があり、かつ、無益な否認であることが明のとき、弁護人は、有罪を前提とした弁論できる。

第三省 捜査総論
10.捜査の基本構造についてまとめなさい。
 捜査とは、捜査機関が犯罪があると思料するとき、公訴の提起及び維持のため、犯人を発見・確保し、証拠を収集・保全する手続きをいう。

11.令状主義とはなにか。
 捜査すべき範囲を法律が規律し、その範囲に入るものを捜査し、入らないものは捜査しない仕組みである。具体的には、令状主義による司法審査を通じて、捜査の要件を担保する仕組みであり、司法的コントロールと言う。令状主義は、捜査機関による一般的・探索的な捜査活動を抑止(一般令状の禁止)を目的とするものである。

12.強制捜査の原則をまとめなさい。
 〘31〙強制の処分は、法律に定めのある場合でなければ行うことができないに由来する刑訴法上の原則〔197①但〕である(強制処分法定主義)。何をもって「強制」とするか、①直接的な有形力の行使、②被処分者に法的義務を負わせる、③被処分者の意思を制圧し、その権利を制約する、など諸立場があるが、通信の傍受などプライバシーの権利を巡っては①に網羅されない(平成11年通信傍受に関する法律)。従って、任意捜査と強制捜査の区分は、被処分者の権利の内容と制約の程度を実質的に考慮すべきである(重要な権利制限が伴う捜査)。なお、国会を通じて法律(≒令状主義)が捜査の要件を定立する仕組みは、民主的コントロールと呼ばれる。

13.任意捜査の原則をまとめなさい。
 〔197(1)〕は任意捜査を原則とし、強制捜査を例外とする。何が任意捜査に当たるか?判例は、①被処分者の意思に反する権利・利益の制約を伴わないか、②伴うとしてもその態様が、被処分者の意思を制圧する程度の物でないか、③あるいは制約される権利・利益が重要でない場合に限られるとする。任意捜査が許容されるためには、捜査比例の原則から、目的の正当性と、手段の必要性および相当性の要件を満たす必要がある。

14.最判昭和53年9月7日(違法収集証拠)についてまとめなさい。
15.KがXの左手を掴んだ行為の適法性を論じなさい。

第四章 任意捜査
16.告訴・被害届についてまとめなさい。
 告訴とは、犯罪の被害者その他法律に定めた告訴権を有する者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をいう。捜査の端緒と言う意味では共通するが、被害届には、犯人の処罰を求める意思表示を伴わない。なお、告訴は親告罪において訴訟条件となり、告訴できるものを告訴権者と言う。告訴は、書面又は口頭で、検察官又は司法警察員に行う。口頭で為された場合には、告訴調書を作成しなければならない。告訴は、公訴の提起があるときまでは、これを取消すことができる。告訴権者の強いによる刑事司法権の発動を未然に防ぐためである。告訴を取消したものは、更に告訴できない。なお、告訴権の放棄は認めない(S28)
 親告罪に妥当する告訴不可分の法則とは、告訴の効力は①一個の犯罪事実(客観的不可分)、②共犯者全員に及ぶ(主観的不可分)ことをいう。なぜなら、告訴は犯人に対してではなく、犯罪に対してなされる。但し、被告人の意思尊重に反する場合には①客観的不可分につき、例外がある。一通の文書で数人の名誉を棄損したような名誉棄損罪のときなどである。
 司法警察員は、告訴を受理したとき、速やかに捜査を遂げた上、これに関する書類および証拠物を検察官に送付しなければならない(捜査送検義務)。例外として、親告罪は告訴がなくても捜査を開始できる。なぜなら、親告罪の告訴は訴訟条件であり、捜査条件ではないからである。

17.写真撮影についてまとめなさい。
 〘13〙人はみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由ないし利益(肖像権)をもつ。同意のないまま、又は気づかぬ内に捜査機関より行われる撮影行為をいかに規制すべきか。公道での写真撮影は、被撮影者のプライバシーが縮減されているから、証拠保全の必要性・相当性に照らして許容される。居宅内での隠し撮りは、被撮影者のプライバシーが放棄されているといえないので、許されない。犯行現場での写真撮影は、①犯罪の嫌疑が明認され、②証拠としての必要性があり、③緊急事態であり、④撮影方法が相当である場合などに許容される。判例では、自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、同乗者の容ぼうを撮影することになっても〘31〙〘21〙に反しない(S61)

18.おとり捜査についてまとめなさい。
 捜査機関又はそのその依頼を’受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に隠して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する操作方法をいう。その手法には、機会提供型(始めから犯罪を行う意図を有していたものに対して機会を提供するもの)と、範囲誘発型(おとり捜査によって犯人に新たに犯意を惹起するもの)がある。判例は、機会提供型は違法でないとしながら、犯意誘発型は違法であるとするものがある(S59)。なお、違法なおとり捜査については、おとり捜査によって得られた証拠を排除するのが判例の立場であり、公訴棄却までは求めない。

第五章 強制捜査(1)-身柄の保全
19.逮捕から勾留までの手続きの流れについてまとめなさい。
 被疑者の逃亡および罪証隠滅の虞を防止するため、逮捕及び勾留の手続きがある。
(1)被疑者の逮捕は、その身体を官公署に引渡したときに完了する。逮捕した被疑者は、引致後速やかに、指紋を採取し、写真その他鑑識資料を確実に作成し、ア)指紋、イ)余罪、ウ)指名手配の有無、について照会する。なお、被疑者を逮捕したとき、逮捕手続き書を作成する。なお、司法巡査が被疑者を逮捕したとき、直ちに司法警察員に引致す。私人が現行犯人を逮捕したときは、直ちに地方検察庁、区検察庁の警察官又は司法警察員に引渡す。司法警察員が、自ら逮捕したとき、又は司法巡査から受け取ったとき、直ちに犯罪事実の要旨と弁護人選任権を告げたうえで、弁解の機会を与え、留置の必要がないと判断すれば、直ちに釈放する(弁護人選任権の告知に当たっては、被疑者国選弁護人制度の教示をする)。留置の必要があるときは、被疑者が身体を拘束されたときから48時間以内に検察官に送致す。なお、黙秘権の告知は取調べの要件なので、ここでは不要である。被疑者の弁解を録取するにあたり、弁解録取書を作成する。なお、供述が犯罪事実の核心に触れるなど、弁解の範囲外に亘るときは、被疑者供述調書を作成しなければならぬ。48時間以内に送致の手続きをしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならぬ〔203④〕送致された被疑者を受け取った検察官は、弁解の機会を与え、留置の必要ありと思料するとき、身柄を受け取ったときから24時間以内に、①裁判官に被疑者の勾留を請求し、又は、ロ)公訴を提起しなければならぬ〔205①②③〕。すなわち、制限時間内に公訴の提起をしたときは、勾留の請求を要しない。なお、制限時間内にイ)、ロ)しない時は、直ちに釈放する。なお、この時間制限は、被疑者が身体を拘束されたときから72時間を超えることができない〔205②〕。
(2)検察事務官が被疑者を逮捕したときは、直ちに検察官に引致〔202〕する。イ)検察官が被疑者を逮捕したとき、又は、ロ)検察事務官から被疑者を受け取ったとき、直ちに、犯罪事実の要旨と弁護人選任権を告げた上、弁解の機会を与え、留置の要否を判断する。被疑者が身体を拘束されたときから48時間以内に、裁判官に被疑者の勾留請求をするか、公訴を提起する〔204①〕。以下同じ。
(3)被疑者の勾留は、被疑者を拘禁する裁判及びその執行を言う。なお、拘禁とは、身体の自由を継続的に拘束することである。被疑者の勾留とは、起訴前の段階において、検察官の請求により、裁判官が勾留状を発して行う強制処分で、イ)被疑者の逃亡の恐れ、ロ)罪証隠滅の虞を防止することを目的とする(⇔被告人の勾留は、起訴後の段階に、イ)公判への出頭、ロ)刑の執行確保、ハ)罪証隠滅防止を目的とする。)。被疑者の勾留には、勾留の理由と必要(実体要件)および、勾留上の請求・発付(手続き要件)が必要である。「勾留の理由」は、被疑者が罪を犯したと疑うに足る相当な理由であり、①住所不定、②罪証隠滅のおそれ、③逃亡の恐れなど。なお、取調べの必要は、勾留の理由には含まない。「勾留の必要」は、事件の性質、年齢、健康状態、家庭事情に照らして判断する。被疑者の勾留請求は、検察官が、所定の事項を記入した勾留請求書に、疎明資料を添付して裁判官に提出する。なお、被疑者を勾留するにあたっては、逮捕が先行していなければならない。検察官から勾留の請求を受けた裁判官は、①被疑者に対して被疑事件を告げ、②勾留質問をおこない被疑者の陳述を聞き、イ)勾留請求が適法であり、ロ)勾留の理由及び必要があると認めるとき、勾留状を発する〔207①本〕。さもなければ、勾留請求却下の裁判をくだし、他d地に被疑者を釈放する。
(4)勾留状は、検察官の指揮によって、①検察事務官、②司法警察職員が執行する〔207①・70①〕。なお、刑事施設にいる被疑者に対して発せられた勾留状は、検察官の指揮によって、刑事施設職員が執行する。執行とは、勾留状を被疑者に示し、速やかに指定された刑事施設に引致することである(なお、急を要するときは、緊急執行が認められる。)。被疑者を勾留したときには、直ちに弁護人にその旨を通知する。被疑者の勾留期間は、原則、勾留請求の日から10日以内である。なお、やむを得ない事情があるときは、さらに10日を超えない期間を延長する。「やむを得ない事情」とは、①被疑者若しくは被疑事実が多数あり、計算が複雑であること、②被疑者・関係者の供述その他証拠が食い違うこと、③重要参考人の病気・旅行・所在不明または鑑定など証拠収集の遅延・困難など。従って、単なる余罪捜査の必要だけでは、延長できない。交流の場所は、刑事施設である〔64①〕。刑事施設か、都道府県警察の留置施設か、裁判官の裁量で決定する。勾留請求又は勾留期間の延長に対する裁判に対して不服があるとき、準抗告ができる。準抗告裁判所に理由を明記した申立書を提出する。勾留されている被疑者、その弁護人、保佐人、配偶者、直径の親族、兄弟姉妹、その他利害関係人は、勾留理由の開示を請求できる〔82①②〕。裁判官が勾留理由開示の請求を却下したときは準抗告できる。勾留理由の開示は、公開の法廷で行う。
(5)逮捕前置主義は、被疑者の身体拘束について、①逮捕、②勾留の2段階の司法介入による人権保障である。逮捕前置主義によって、逮捕の基礎となった被疑事実と同一の事実による勾留請求が要件となる。そして、逮捕の被疑事実と拘留の被疑事実を比べ、両事実の基本的部分が同一であることを必要とす。従って、勾留の切り替えは許されない。すなわち、甲事実で逮捕された被疑者に乙事実での逮捕を経ずに、直ちに乙事実で勾留をすれば、逮捕から始めるよりも身体拘束期間が短縮されるようにも見える。sかし、乙事実について逮捕段階において司法審査がなされていないことは、逮捕の必要のない勾留がなされる危険がある。但し、逮捕理由である甲事実に乙事実を加えて勾留請求することは妨げない。なぜなら、被疑者に不利益がないからである。

20.逮捕の種類と手続きについてまとめなさい。
(1)通常逮捕の要件は、①逮捕の理由及び必要(実体要件)および、②逮捕状の請求・発付(手続要件)である。「相当な理由」とは、犯罪の嫌疑を肯定できる客観的・合理的な根拠があることで、捜査官の単なる主観的な建議では足りないが、充分な理由よりは程度が低い。また、「相当な理由」あるときも、逃亡のおそれなく、罪証隠滅の恐れない時は、逮捕の必要はない。逮捕状の請求権者は、①検察官および司法警察員である。所定の事項を記載した逮捕状請求書を管轄裁判所の裁判官に提出する。なお、提出にさいして、①逮捕の理由、②逮捕の必要、を認める資料を提供する。
 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認めるとき、明らかに逮捕の必要なしと認めるを除き、逮捕状を発行しなければならぬ。なお、検察官又は司法警察員は、通常逮捕状を請求するとき、同一の犯罪事実または現に他の捜査中である他の犯罪事実について、その被疑者に対し前に逮捕状の請求又は、発行が有った時は、その旨を裁判所に通知しなければならない。
 通常逮捕を行うのは、検察官、検察事務官及び司法警察職員である。被疑者が罪を犯したと疑うに足る相当な理由があるとき、裁判官の予め発する逮捕状により逮捕することができる〔199①〕。逮捕状により被疑者を逮捕するときには、逮捕状を被疑者に呈示しなければならぬ。
(2)急を要する場合には、被疑者に被疑事実の要旨を告げて逮捕することができる(緊急逮捕)。このときできるだけ速やかに、逮捕状を示さねばならぬ。なぜなら、被疑者にその内容を理解させ、棒業の機会をあたえなければならぬ。なお、逮捕のとき、社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認めるべき限度で実力を行使できる(警察比例の原則)。
 緊急逮捕ができるのは、検察官、検察事務官および司法警察職員である。イ)死刑、無期または長期三年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したと疑うに足る十分な理由があるとき、かつ、ロ)急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき、その理由を告げ、被疑者を逮捕できる〔210①〕。「充分な理由」は、「相当な理由」より程度が高い。「緊急性」は、直ちに逮捕しなければ、被疑者が逃亡し又は罪証隠滅のおそれがあるときである。なお、緊急逮捕上の請求は、通常逮捕と異なり、検察事務官及び司法巡査もできる。
(3)現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者を、現行犯人という〔212①〕。罪を行い終わって間もないと明らかに認められる者であり、①犯人として呼追されているとき、②贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる凶器その他の物を所持しているとき、③身体又は被覆に犯罪の顕著な証跡があるとき、④誰何されて逃亡しようとするとき、準現行犯人という〔212②〕。誤認逮捕の恐れが無く(現認性・明白性)、逃亡・罪証隠滅の恐れ(緊急性)があるので、現行犯人及び準現行犯人の逮捕は、何人でもこれをできる(〘33〗憲法上の例外)。現認性・明白性・緊急性の要件以外に、通常逮捕と同様の逮捕の必要性が必要である。

21.事件単位の原則についてまとめなさい。
 逮捕・勾留の効力が及ぶ範囲について、事件単位の原則がある。これは、被疑者の逮捕・勾留の効力は、逮捕状及び勾留状に記載されている犯罪事実に及び、それ以外の事実に及ばない原則である(これと対比されるのが、人単位説および手続き単位説である)。すなわち、裁判官は、甲事実について勾留請求がなされたところ、甲事実については勾留の理由はないが、勾留請求なされていない乙事実(余罪)について勾留の理由があるとき、乙事実について考慮してはいけない。したがって、根拠が明確であるが、同一人を数罪で重ねて逮捕・勾留することもできる(二重逮捕・二重勾留)。なお、甲事実で逮捕又は勾留中に、乙事実を操作することは差支えなく、事後的に甲事実による身体拘束が乙事実の捜査に利用されたということを被疑者の利益に考慮することができる。

第六省 強制捜査(2)-証拠の収集
22.証拠を収集する処分の種類についてまとめなさい。
 まず、捜査において収集の対象となる証拠には、①物的証拠としての、書証、証拠物など、②人的証拠としての、被疑者の供述、第三者の供述、および鑑定などがある。証拠物の収集方法には、①物的証拠の収集方法としては、イ)強制処分としての、捜索、差押、検証、鑑定処分など、ロ)任意処分としての、領置、実況見分、公務所への照会などがあり;②人的証拠の収集方法として、イ)強制処分としての、裁判官による尋問、ロ)任意処分としての、被疑者・参考人の取調べ、鑑定嘱託、通訳・翻訳の嘱託などがある。
 捜索とは、一定の場所について人または物の発見を目的として行われる強制処分である。欧州とは、物の占有を取得する処分である。押収の内、差押とは、所有者、所持者又は保管者から、証拠物又は没収すべきと思料する物の占有を強制的に取得する処分であり;領置とは、被告人、被疑者その他の者が遺留した物、又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物の占有若しくは保管者が任意に提出した物の占有を取得する処分である。検証とは、五官の作用により、場所、物、人の身体について、その性質、状態を実験・認識する強制処分である。実況見分とは、任意処分の点において検証と異なる。鑑定とは、特別の知識経験に属する一定の法則そのもの又はこれを適用して得た具体的な事実判断の報告を言う。

23.強制採尿についてまとめなさい。
 被処分者が体液を任意に提出したとき、これを領置すればよい〔221〕。しかし、被処分者が拒否したり、任意に提出することができないとき、強制的に出来るかどうかが問題となる。
 ①身体検査令状説、
 体液の採取は、〔218①〕の検証の一種であり、〔222〕により準用される〔139:身体検査の直接強制〕によって、捜査官は身体検査令状により、直接強制ができるのであるとする。
 ②鑑定処分許可状説
 身体の損傷を伴う内部検査は医学的専門知識と技術を必要とするから、性質上、〔225〕→〔168①:鑑定の処分〕に属する。従って、〔172〕の準用ないし類推適用を認めることで、解決すべし。しかし、鑑定受託者による鑑定処分には直接強制を認める規定がない。
 ③併用説
 身体の損傷を伴う内部検査は鑑定処分に属するが、直接強制を必要とする時は、鑑定処分許可状では直接処分が許されないことを前提に、身体検査令状によるとする。しかし、身体検査と鑑定処分とでは相互補完的な機能をもたない。
 ④条件付きの捜査差押許可状(判例・実務)
 判例は、「体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有すると見るべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜査差押令状を必要とすると解すべきである。ただし、右行為は人権の侵害に亘る恐れがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する218条5項(現6項)が右捜査差押令状に準用されるべきであって、令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であるとかいさなければならない」と、捜査差押許可状説をとる。すなわち、体内にある証拠物を強制的に採取するので、捜査・差押としての性格をもつが、身体への侵襲との側面から身体検査と共通するので、〔218⑥〕により条件を付ける必要がある(S55)。但し、条件付きの捜査差押許可状は法の予定しないものである。

24.強制採血についてまとめなさい。
 採決は、被疑者が同意したときは任意捜査をしても許される。しかし、被疑者が同意しないときは、鑑定処分許可状と身体検査令状による。なぜなら、血液採取は、尿以上に身体侵襲の程度が高いと思われる。判例では、交通事故で失神状態の被疑者から承諾なく採血することはできない。鑑定嘱託の上、鑑定処分許可状および身体検査令状を得ておこなうべき。

第七章 供述証拠の収集と被疑者の防御活動
25.黙秘権についてまとめなさい。
 〔198①〕捜査機関は、犯罪の捜査をする必要があるとき、被疑者に出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は逮捕又は勾留されているをのぞき、出頭を拒み、又は出頭後何時でも退去することができる。被疑者の取調べは、適正な起訴・不起訴の決定のために、被疑者から弁解・主張を含む供述を聴取して、犯罪の嫌疑の有無及び情状を明らかにすることにある。そして、〔198②〕被疑者の取調べに際し、被疑者に対し、予め、自己の意思に反して供述する必要ない旨を告ぐ(←〘38①〙)。しかし、黙秘権を保障したうえで、偽りのない供述を得るのは容易ではないため、無理な取り調べに至らないように、法的規制が必要である。このため、弁護人選任権及び、被疑者国選弁護人制度が設けられ、被疑者に対して勾留状が発せられているときには、これを告知しなければならない〔203①、204①〕。

26.国家訴追主義・起訴独占主義についてまとめなさい。
 公訴の提起とは、検察官が、裁判所に対し、特定の犯罪事実について特定の被告人に対する実体的審理及び有罪の判決を求める意思表示である。公訴権とは、国家機関たる検察官が裁判所にに対し、公訴を提起する権限をいう。〔247〕公訴は検察官がこれを行う。すなわち、私人訴追を許さない(国家訴追主義)。公訴提起は検察官のみの権限(起訴独占主義)。例外として、準起訴手続〔262・269〕。起訴独占主義の特徴は、検察官同一体の原則に由来し、一般人の意向が反映しにくいことである。

27.起訴裁量主義についてまとめなさい。
 〔248〕検察官は、捜査を遂げた事件について、犯罪の証明が十分であると認める場合にも、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重並びに犯罪後の状況により、訴追を必要としないとき、公訴を提起しないことができる(起訴便宜主義)。また、当事者主義の下では、訴追範囲を決定する権限を有する。従って、検察官は、犯罪事実の一部を訴因として提起することができる。現行法において、反対概念の起訴法定主義の例外が、少年法において認められる。また、〔257〕検察官は、第一審判決があるまでは、公訴を取消すことができる(起訴変更主義)。このとき、裁判所は公訴棄却の決定を下す〔339①<3>〕。このとき、一事不再理の効力は生じないが、新たに重要証拠が発見されたときを除く。なお、検察官の訴追裁量に対するコントロールは、①公正な職務執行を為し得る見識と資質をそなえることと、②個々の検察官の不当な職務執行に対する規制による。①については、イ)検察官の資格に厳格な要件を設置し、ロ)検察官に裁判官に準ずる身分保障を与え、ハ)検察官適格審査会による資格審査を行う。②については、二)検察審査会による不起訴処分の当否の審査制度、ホ)裁判所の準起訴手続、がある。
 さて、不当な不起訴を防止するため、①〔260・261〕起訴・不起訴の告訴人などへの通知義務、②〔特別法〕検察審査会制度、③付審判請求制度(準起訴手続)、④上級検察官の指揮監督権の発動がある。②検察審査会は、イ)検察官の控訴を提起しない処分の当否を審査する事項、と、ロ)検察事務の改善に関する建議又は勧告に関する事項を扱う。検察官のした不起訴処分に不服のある告訴、告発、請求をした者、又は犯罪の被害者遺族は、その処分の当否を検察審査会に申し立てることができる。
 検察審査会は、各地方裁判所に衆議院議員の選挙権者の中から公事で選ばれた11名の検察審査員により構成される。任期は6カ月。3か月で改選され、起訴議決制度をもつ。審査会が行った起訴相当の議決に対し、検察官が不起訴処分をしたとき、又は、法定の期間内に処分を行わなかったとき、検察審査会は、再度審査し、その結果起訴議決されたとき、その議決に拘束力が生じる。なお、審査会議では、法律上の問題点について、弁護士である審査補助員から助言を得ることができる。この議決を受けた裁判所は、公訴の提起とその維持にあたるものを弁護士から選任し、指定された弁護士は、速やかに控訴する(基礎独占主義の例外)。
 付審判請求制度とは、職権乱用の罪、破壊活動防止法、無差別大量殺人を行った団体規制法の罪につき告訴・告発したものが、不起訴処分に不服があるとき、地裁に対し、事件を裁判所の審判に付すことを請求するもの〔262①〕。不起訴処分を受けた日から7日以内に請求書を公訴を提起しない処分をした検察官に差し出す〔262②〕。府審判請求につく審理又は裁判は、合議体で行う〔265〕。しかし、請求が法令上の方式に違反するか、請求権の消滅後か、請求の理由の無いときには、請求は棄却される。請求に理由があるときは、事件を管轄地裁の審判に付する決定を行う〔266〕。この決定をもって公訴の提起とみなす。審判に付された事件は、裁判所の指定した弁護士が公訴維持のため検察官の職務を行う〔268〕。
 検察官の不起訴処分につき、民事訴訟又は、行政訴訟を起こすことはできない。

28.起訴状一本主義の意義と禁止される記載についてまとめなさい。
 〔256⑥〕起訴状には、裁判官に事件つき、予断を生ぜしめるおそれのある書類その他のものを添付し、又はその内容を引用してはならない。それは、〘37①〙「公平な裁判所」実現の要請である。従って、四時記載はしてはならない。たとえば、被告人の前科などは、それが訴因を明示するに必要なときの他、起訴状に記すことは許されない(S27)。

29.公訴時効についてまとめなさい。
 公訴時効とは、確定した刑の執行を消滅させる刑の時効(刑法上の)と異なり、判決が確定する前にもはや処罰できなくなる制度である。公訴時効制度の根拠としては、①一定期間起訴されなかった事実状態の尊重し、犯罪の社会的影響の減少により刑罰権が消滅する(実体法説)。②時間の経過による証拠の散逸により生ずる審理の困難さ(訴訟法説)。③一定期間起訴されなかった事実状態の尊重し、国家の訴追権限を限定し、犯人の法的地位の安定を図る(新訴訟法説)。時効期間は、法定刑を基準に定められている。公訴時効の起算点〔253①〕にいう、犯罪行為とは、刑法各条所定の結果を含む。なお、共犯については、最終行為の終わった時から、全ての共犯について時効期間を起算する〔253②〕。公訴時効は、公訴の提起により進行を停止し、管轄違い又は公訴棄却の裁判が確定したときから、残りの時効期間が進行する〔254①〕。共犯者の一人に対する起訴による時効停止は、他の共犯に効力が及ぶが、裁判が確定したときから再び進行する〔254②〕。犯人が国外にいるとき、又は、犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本を送達できない時は、時効は、国外にいる機関又は逃げ隠れている期間その進行を停止する〔255①〕。

30.現行法制度において裁判所が審判する対象は何か。
 現行法において審判の範囲は、起訴状一本主義を前提として、検察官の設定した訴因に限られる(訴因の拘束力)。裁判所は、証拠により訴因の存否を判断する。これを訴因制度という。従って、裁判所は、訴因変更の手続きを経ず、訴因と異なる事実を認定することは許されない〔378<3>:絶対的控訴理由〕。訴因説(⇔公訴事実説)の特徴は、訴因が審判対象であって、公訴事実は訴因変更の限界を画する機能的な概念にすぎず、公訴の提起は裁判所に対する検察官の処罰請求であり、検察官が犯罪構成要件にあてはめて法律的に構成した具体的な犯罪事実の主張が訴因である。その特徴は、訴因の設定・変更の権限は検察官に与えられているので、裁判所は一般的な訴因変更命令を発する義務なく、訴因変更命令に形成力はない。

31.訴因とは、どの程度特定されていればよいか。
 〔256②〕公訴事実は、訴因を明示してこれを記載すへし。訴因を明示するには、できるかぎり、日時、場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定してこれをすへし。従って、「被告人は財物をせっしゅしたものである」の記載は無効である。訴因の特定を書くときは、起訴は無効であり、公訴棄却の判決が下される〔338<4>〕。なお、訴因の明示にミスがあり、訴因が明らかでないとき、裁判所は検察官に釈明を求め、検察官がこれに応じないとき、公訴を棄却スベシ(S33)。その特定の程度は、審判対象の限定し得る程度とする、識別説がある(←実務⇔防御権説)。なお、起訴状に罪となるべき事実の特定に必要かつ十分な程度になされるべきである。なぜなら、過度な小説は裁判官へ予断を生じさせる恐れがあるからである。例外的に、事案の特殊事情によっては、幅のある記載が認められる。
 次に、訴因と罪数の関係については、(不告不理の原則)が妥当する。一罪としての起訴につき、数罪を認定する場合、公訴の提起がないかぎり、裁判所は審理し得ない。従って、数罪を認定するためには、相応する数個の事実が起訴されている必要がある。そのさい、一罪毎の訴因として、特定されているべき(一罪一訴因の原則)である。従って、一罪の起訴に対し、数罪の認定をするとき、原則、数罪の訴因に補正(訴因の浦西)が必要である。

32.訴因はどのような場合に変更しなければならないか。
 〔312①〕裁判所は、検察官の請求あるとき、公訴事実の同一性を害しない限度で、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならぬ。裁判所が訴因と異なる事実を認定するためには、訴因の変更が必要(訴因の拘束力)。起訴状の訴因は、捜査によって収集された証拠に基づき、検察官が犯罪構成要件にあてはめた具体的な犯罪事実の主張であるが、当事者主義では、この訴因を巡り、後半において、検察官は主張・立証を行い、被告人が反論・弁償を行う。その結果、起訴状記載の訴因と異なる犯罪事実が証明されることがある。そうすると、起訴状記載の訴因と裁判所の心証が食い違ったとき、裁判所は検察官の主張する訴因を超えて審判できないから、起訴状記載の訴因につき、合理的な疑いを容れない証明がない以上、訴因につき、無罪判決を言い渡すほかない。そこで、訴因変更制度が存在する。訴因変更が必要になる場面は、まず、訴因変更の可否判断を行う。
    ①罰条に変化が生ず時(罰条同一説)、
    ②構成要件の修正・形式の変更(既遂と未遂)、
    ③法律構成の変更(作為犯と不作為犯)
訴因から法的評価が同じでも、犯罪事実にずれが生じたとき、訴因変更が必要(事実記載説)。
また、訴因と心証にずれがあっても、訴因としての同一とみられない時は、訴因変更が必要。

33.訴因変更命令とは何か。最決昭和43・11・26は、訴因変更命令義務についていかなる場合に認めたか。
 〔312②〕裁判所は、審理の過程に鑑み、適当と認めるときは、訴因を追加又は変更すべきことを命ずることができる。なぜなら、検察官が訴因変更しないとき、裁判所は無罪の判決をしなければならぬ(訴因の拘束力)。従って、裁判所は検察官に求釈明し、事実上訴因変更を促す義務ないし、命じる義務を有す。検察官が起訴状記載の訴因につき、有罪立証できたと確信しているが、裁判官の心証は訴因と異なるとき、裁判官が訴因と異なる心証を形成したことが不合理だとかんがえるとき、これに当たる。なお、一般に、裁判所には訴因変更命令を発する義務はない。しかし、犯罪が重大であり、証拠が明白であるにもかかわらず、検察官が訴因変更をしないとき、裁判所は、訴因変更命令を発すべき義務があり、命令を発しない時は、訴訟手続きの法令違反となる〔379:控訴理由〕。検察官が起訴状記載の訴因に固執し、変更に応じないとき、裁判所は訴因変更命令を発する義務なし(形成力無し)。

34.公訴事実の同一性を判断する基準についてまとめなさい。
 訴因変更の許される範囲を規律するときの概念である。〔312①〕訴因変更は「公訴事実の同一性」を害しない限度で許される。従って、同一性が認められない訴因を審判の対象に加えるためには、追起訴が必要である。又は、併合罪の関係にある数個の訴因の内、一つ又は数個を審判の対象から取り除くためには、訴因の撤回ではなく、公訴の取消しによる〔257〕。一方、すでに起訴されている事件と公訴事実の同一性が認められる事件を別に起訴することは、二重起訴に当たる〔338<3>、339①<5>〕。公訴事実の同一性には、公訴事実の単一性と、公訴事実の同一性(狭義)が含まれる。なお、公訴事実の同一性を否定する場合には、併合罪関係にあり、かつ、両立し得る場合であることである。
(1)公訴事実の単一性とは、公訴事実が1個か数個かと言うこと。犯罪の個数の問題であり、刑法上の罪数論によって決する。たとえば、窃盗と住居侵入は、併合罪であるか、科刑上一罪又は包括一罪の関係にあるかどうか、後者の場合に単一性が肯定される。公訴事実の単一性が認められるとき、一個の判決で足りる。従って、事実の一部に無罪があるとき、残りの部分に有罪の言渡しをする以上、理由中でそのことを明にすれば足る。
(2)狭義の公訴事実の同一性とは、起訴状記載の訴因と訴因変更請求されるべき訴因とを比べて、同一のものと言えるかと言うもんだいである。たとえば、窃盗の訴因で起訴したところ、審理の結果、盗品有償譲受の事実が明になったとき、訴因変更が生じるが、同一の事実(公訴事実)と評価できるかどうかである。判例の立場は基本的事実同一説である。起訴状記載の訴因と、訴因変更が問題となっている訴因に示されている両事実の基本的な部分が同一であれば、公訴事実の同一性が肯定される。すなわち、A訴因とB訴因との間に日時などの基本的事実関係の同一性ないし近接性があれば、罪名は異なっていても、公訴事実の同一性を認めてよいとする。「某日A方より同人所有の時計を窃取した。」「某日防暑でBよりAの時計を盗品と知りながら買い受けた」近接した日時場所において不法に両得された時計に関与した事実において同一と見る。しかしなお明確さに欠けるとし、一方の訴因が成立すれば、他方の訴因は成立しないという関係(択一的関係)を要求する立場・判例もある。

第八章 公判の手続き
35.公判前整理手続についてまとめなさい。またその実効性を担保する仕組みは何か。
 司法に対する国民の理解の増進と信頼の向上を期す裁判員裁判の制度。対象事件は、①死刑または無期の懲役禁錮に当たる事件と、②法廷合議事件の内恋の犯罪行為により被害者を死亡させた事件に限る。裁判官3、裁判員6(或、裁判官1、裁判員4)の合議体である。裁判官及び裁判員の検眼は、①有罪・無罪などの終局裁判に至る事実の認定、と②法令の適用及び刑の量定の判断である。協働して合議により行い、そのための審理も両者で行う。裁判員制度は、第一回公判期日前に、公判前整理手続に付さなければならぬ。なぜなら、裁判員の負担を考慮し、なるべき連日開廷を行い、事前の争点整理と証拠整理を十分に行う必要があるため。また、裁判官・検察官・弁護人は、再場認が職責を全うできるよう、審理を迅速で分かり易いものとすることに勤めるべし。また、検察官が、冒頭陳述により証明しようとする事実を明らかにするためには、公判前整理手続きの結果に基づき、証拠との関係を具体的に明示すへし。裁判所は、充実した公判の審理を継続的・計画的かつ迅速に行うため、必要あると認めるとき、検察官及び被告人又は弁護人の意見をきき、第一回期日前に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を公判前準備手続きに付す〔316の2〕。その内容は、①裁判所が主催し、検察官又は弁護人が出頭し、被告人も出頭できる。被告人に弁護人が無ければ、手続きを行うことができない(必要的弁護事件)従って、裁判所より、被告人に弁護人がいないときは、職権で弁護人が選任される。①訴因又は罰条を明確にさせること、②訴因又は罰条の追加、撤回又は変更、③予め主張を明にし争点を整理すこと、④証拠調べの請求、⑤前号の請求に掛る証拠につき、立証趣旨、尋問事項を明らかにすること、⑥証拠調べ請求に関する意見を確認すること、⑦証拠調べの決定又は却下の決定、⑧証拠調べの順序・方法を定める、⑨証拠調べに対する意義申し立てに対する決定、⑩証拠開示に関する裁定、⑪被告事件手続きへの被害者参加申出に対する決定又は決定の取消決定、⑫公判期日を定め、又は変更することその他公判手続きの進行上必要な事項を定めること、とす。なお、⑦証拠調べの決定のため、必要に応じ、事実の取調べもできる。しかし、証拠能力、殊に自白の任意性については、その信用性と密であり、本来公判で行われるへき。では、公判前整理手続きで訴因変更できるが、その後の後半審理で変更が許されるか。充実した争点整理や審理計画の策定された趣旨を没却するような訴因変更は許されない。しかし、整理手続きで争点にならなかった事項について、公判の証人尋問で明らかとなり、訴因を変更する必要が生じ、かつ審理計画を大きく変更しない時はOK。

第十章 証拠法総説
36.証拠裁判主義の意義についてまとめなさい。
 証拠裁判主義とは、〔317〕事実の認定は、証拠による。と明記。今日では、イ)法律が使用することを認めた証拠、ロ)法律が要求する手続きによる証拠、でなければ犯罪事実をン三んていできない、という趣旨である。これは、民事裁判の当事者主義「当事者間に争いがないこと」と好対照をなす。すなわち、事実判断の根拠として、刑訴法では、証拠に基づく認定が要求される。

37.挙証責任についてまとめなさい。挙証責任の転換と推定は何が違うか。
 挙証責任には、実質的挙証責任と形式的挙証責任がある。イ)実質的挙証責任とは、一般に、立証が尽くされたものの事実の真偽が不明な時、不利益な判断を受ける一方当事者の地位をいう。ロ)形式的挙証責任とは、不利益な判断を受ける恐れのある当事者がこれを免れるために行う立証行為の負担をいう(実質的挙証責任の反映??)。職権主義であろうと当事者主義であろうと、立証が尽くされても、なお事実の真偽がどちらとも決め兼ねる事態が生じうる。しかし裁判所は判断を回避できない。従って、当事者のいずれかは不利益な判断を受けざるを得ない。ところで、当事者主義訴訟では、立証の負担はその都度当事者に生ずる事実上の立証の必要である。たとえば、犯罪事実については、まず、検察官は証明する証拠を提出、被告人はその犯罪事実を否定する証拠を提出するという、事実上の立証の必要(立証の負担)が生じる。そして、刑事裁判では「疑わしきは被告人の利益に」から、挙証責任は、原則として検察官が負担する。なぜなら、「無罪を証明できなければ有罪である」など正義に反するからである(〘31〙推定無罪の原則)。犯罪事実の挙証責任は検察官にあるが、例外的に被告人が挙証責任を負担する時がある(挙証責任の転換)。ア)刑法207の同時傷害(外形上共同正犯と見得るような暴力考が有ったとき)、イ)刑法230の2の名誉棄損(名誉棄損に外小棹する適示事実が真実であることの証明)、ウ)児童福祉法60④但(児童の年齢の不知について過失がないこと)。即ち、①「合理的関連性」被告人に挙証責任のある部分を推認するのが妥当と言える、②「立証の容易さ」、③「実質的可罰性」被告人としての挙証すべき部分を除いてもなお犯罪として相当の可罰性が残るとき、に認められるに過ぎない。
 一方、推定とは、前提事実が証明されたとき、推定事実を推認することである。事実上の推定とは、前提事実が存在すれば、論理則・経験則上、推定事実が存在すると推認されるときであり、事実上の推定は、自由心証の作用の一つである。たとえば、構成要件に該当する事実が存在するとき、通常、違法性阻却事由や責任阻却事由が存在しないから、前者の存在が証明されれば、後者の不存在は証明不要となる。間接事実が証明されれば、直接事実が推認されるという関係も同様である。しかし事実上の推定は法律上の推定とは違い、積極的に反対事実の推定が無くても、裁判官の心証を動揺することがあれば、推定は破られ証明が必要となる。たとえば、殺人罪の構成要件に該当する事実が証明されると、違法性阻却事由の不存在が推定される(検察官は挙証不要)。しかし、正当防衛を疑う証拠が出てきたとき、推定は破られる(検察官は正当防衛でないことを証明すべき負担が生ず)。これに対して、法律上の推定とは、法律上、前提事実の存在が証明されれば、反対事実の証明がされないかぎり、推定事実が証明されたものと定められる場合をいう。法律上の推定には反証を許すものと反証を許さないものがある。反証を許さないとは、推定事実そのものに法律効果が与えられるので、証明が問題ではなく、実体法の問題となる。いわゆる「みなす」規定である。これに対し、反証を許す推定としては、被告人が他の証拠により推定事実の不存在を証明できる場合である。

38.証拠能力についてまとめなさい。
 証拠は、事実の認定に用いるためには、証拠能力と証明力が無ければならぬ。証拠能力とは、犯罪事実の認定に用いることができる法律上の資格(証拠の許容性)をいう。従って、証拠能力の無い証拠は公判廷に提出して証拠調べできない。証明力は、事実を認定させるための証拠の実質的な価値を言う。証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる〔318〕としている。広義の証明力は、証拠の信用性(個々の証拠自体が信用できるか)と狭義の証明力(証拠が事実認定にあたって有する価値、事実を推定させる力)によって成り立つ。証拠には少なくとも、要証事実を推認させるのに必要な最小限の証明力が無ければならない(=自然的関連性)が、これは証拠決定の段階における問題である。一方、証明力は証拠調べをした後の評価の問題である。照明手続きにおいて、裁判所に不公正な予断を抱かせたり、訴訟経済に反する証拠を用いることは、適当でないので、法政策的に一定の制約がある(法律的関連性)。関連性が有っても、その証拠を用いることが、訴訟外の優越的利益を損なったり、適正手続きの保障を害したりするとき、その証拠の使用は禁止さる。たとえば、証人拒絶権、証言拒絶権、押収拒絶権、を侵害して得られた証言又は証拠が典型である。証拠能力がない証拠も証拠調べのために公判廷に提出することは許されない。この様な取調請求は裁判所が却下すべきであるが、当事者も異議申し立てできる。

39.自由心証主義と証拠評価のルールについてまとめなさい。
(1)厳格な証明と自由な証明
 訴訟法上問題となる事実につき、裁判官が心証を抱くことを、広く「証明」という。訴訟法上の証明は、自然科学の実験でいう「論理的証明」でなく;「歴史書的証明」であり、前者の真実そのものを目標とするが、後者は、真実の高度な蓋然性で足る(判例)。「高度な蓋然性」とは、通常人(合理的な思考力を有する者)なら誰でも疑いを差し挟まない程度に真実らしいとの確信を得ることである。疫学定証明については、疫学証明ないし因果関係が、刑事裁判上の種々の客観的事実ないし証拠によって裏付けられ、経験則に照らして合理的であると認められれ、証明が有ったものとし、法的因果関係が成立し得る(判例)。厳格な証明とは、証拠能力があり、かつ、適切な証拠調べの経た証拠による証明をさす。他方、自由な証明とは、証拠能力および適切な証拠調べが不要であり、適せんの証拠と手続きによる証明である。厳格な証明の対象は、刑罰権の存否及びは荷を定める事実につき、構成要件に該当する違法(違法性)、有責な具体的事実(有責性)または、これらの事実の不存在の証明などに、用いられる。処罰条件足る自自ル、法律上刑の加重減免、累犯加重の理由となる前科の認定も、これに当たる。では、被告人の犯罪成立阻却事由やアリバイの立証に厳格な証明が必要か。刑訴法は「犯罪事実の存否の証明」とし、被告人に有利な証明にも証拠能力を要求する場合がある。通説では、厳格な証明が必要。しかし学説は、被告人の立証は検察官の立証に対する弾劾裁判の性格を有し、証拠能力のある証拠が出せないから無罪立証ができないのは、正義に反するから消極的に解するべきとする。一方、自由な証明の対象は、①情状に関する事項である。イ)犯罪事実に属する者(犯情)⇒厳格な証明の対象、ロ)いわゆる情状(被告人の経歴など)⇒自由な証明。なぜなら非類型的であり、証明に適さない。②訴訟法上の事実であり、例えば、親告罪における告訴の事実、その他訴訟条件などの事実である。しかし、被告人の防御のためには適せんの取調べが必要であるが、自白の任意性など訴訟法上の事実は、刑罰権の実現に密接な関係を有するものであり、厳格な証明に依るべきとする説がある。量刑事情等はこれに当たろうが、被告人のアリバイは厳格な証明によると、却って被告人の無罪の主張が困難(弾劾証拠)となるから、自由な証明で良い。なお、簡易公判手続きでは、原則は緩和され、当事者に異議ないかぎり、伝聞証拠に関する証拠能力の制限はなくなり、証拠調べは、公判廷における当事者に証拠を争う機会を与えれば足るとする(適正な証拠)

第十一章 伝聞法則
40.伝聞証拠とは何か、伝聞証拠が原則として証拠にできないのはなぜか。
 伝聞証拠とは、公判期日における本人の供述以外の供述を指す。イ)公判期日外の他の者の供述を内容とする供述(伝聞供述)、公判期日における供述に換える書面(供述書及び供述録取書)。これらは原則として採用することができない。なぜなら、供述調書とは、知覚⇒記憶⇒表現⇒叙述の過程を経るため、その過程に誤りがないか吟味しなければ、供述の信用性は担保されない。公判での証人尋問で、イ)偽証罪の制裁の下に真実を述べる旨の宣誓、ロ)相手方当事者による反対尋問にさらされ、ハ)裁判所は供述態度や状況などの観察を通じ、信用性を判断する。しかし、供述証拠は、法定外で為された供述を内容としており、公判における供述の信用性の吟味の手段が十分に保障されない。従って、供述の信用性が吟味されないものは認定できない。当事者主義の帰結であり、十分な証拠立証と反論反証の機会があたえられるべきであり、証人に対する当事者の反対尋問を通じて供述の信用性を吟味することが重要である。殊に、〘37②〗被告人の自己に不利益な証人に対する反対尋問権は憲法上の権利である。
(1)伝聞証拠であるか否かは、その証拠によって立証しようとする要証事実との関係で決まる。つまり、「供述内容の真実性」を証明する証拠には伝聞法則の適用があり、書面の存在自体や供述の存在自体により、要証事実を証明する場合は適用なし。ただし、供述に代わる書面や間接供述であっても、共謀に当たり、その内容を記載したメモは、要証事実が右記載に相応する事前共謀の存在と被告人の本件への関与であるときは、知覚・記憶の過程を伴わず(そのばで書き留めたものであるから)、表現・叙述のみが問題となるところの表意者の精神状態に関する証拠であり、その伝聞証拠としての正確性のテストは、必ずしも反対尋問による必要はなく、表現、叙述に真摯性が認めうる限り、伝聞法則の適用例外として証拠能力を認めうるを相当とする(S57)。順て、供述証拠であるが伝聞証拠でないものに、①原供述自体が証明されるべき事実であるとき。たとえば、名誉棄損事件において証人甲が「被告人は私たちのいるところでAに対し『Aは人殺しだ』と言っていました」と証言するとき、要証事実が「Aは人殺しだ」と言ったかどうかであり、Aが本当に人を殺したかどうかではない。②原供述者の心理状態など原供述の真実性以外の事実を証明するための状況証拠としてしようするとき。たとえば、証人甲の証言の要証事実が被告人の狂気を証明しようとするや、甲が被告人の供述によって動揺をうけたことをしょうめいするとき、被告人がAを殺人犯だと信じ込ませようとしていたことを証明するため、には許される。
③行為に付随し得発せられたことばで供述としての性格を持たないもの。被害者の「やられた」などの言葉。これらは、供述の内容が証拠となるのではなく、供述の存在が証拠となるので、言葉を被供述証拠として利用するものであるので、伝聞証拠とは言えない(非伝聞)。また、伝聞証拠であっても伝聞法則の拘束を受けない場合がある(伝聞不適応)。イ)〔320②〕簡易公判手続きによるとき、ロ)〔350の12〕即決裁判手続き、ハ)〔461〕略式手続、二)〔326・327〕同意したとき、である。

41.被告人以外の者の供述を内容とする書面(供述者の書面・押印あり)が許容される要件をまとめなさい。
 伝聞証拠であっても、これを証拠とする必要性が有り、かつ、その供述についての信用性の状況的保障が認められるときは、例外的に証拠能力を認める。原則として、伝聞証拠は当事者による反対尋問による供述過程の吟味を経ない供述であり、事実認定者である裁判官の面前で証人尋問されたものでないから、一般にその信用性に疑問ありとし、証拠能力が否定される。しかし、必要性要件、すなわち、犯罪を立証するにあたり、原供述者からそれ以外の証言を得られないので、原供述を用いる必要があるとき、例えば、立証に不可欠な証人が死亡したり、所在不明である、国外移住のばあいである。信用性の状況的保障とは、その供述のなされた外部的状況から判断して、反対尋問により供述過程を吟味しなくても良い程度に、その供述の信用性が肯定されることをさす。
(1)被告人以外の者が作成した供述書・供述録取書
 原供述者が公判審理において、被告人の反対尋問にさらされないという意味で、原則として伝聞法則が適用される。しかし、要件を満たす時には例外を適用する。被告人以外のものがさくせいした供述書とは、供述者自らがその供述内容を記した書面であり、供述書には供述者の署名又は押印を要しない。従って重要なことは、供述者本人が作成したことが立証されればよい。供述を録取した書面とは、第三者が供述者から聞き取った供述内容を記録した書面である。これは、①供述者が公判において被告人の反対尋問にさらされない、②供述を録取したものがその内容を書面で法廷に報告する、と言う意味で二重の伝聞構造を有するため、供述者の署名と押印を要する。また、供述録取書の供述者の署名・押印は、供述者が録取内容の正確性を承認したことになり、それが供述録取書に対する反対尋問に代わる程度の信用性の状況的保障となる。従って、許沭録取書に署名・押印を書くときは原則として証拠能力がないが、供述者の署名・押印を担保する外部的状況が存するときは別(瀕死の供述者の代りに立会人が代筆)。
 ①裁判官面前調書
 〔228・179①〕による証人尋問調書の他、他事件の公判調書又は、〔163〕受命裁判官・受託裁判官による裁判所外での証人尋問調書など、裁判官の面前における供述を録取した書面は〔321①<1>前〕その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障・所在不明若しくは国外にいるため、公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき(供述不能);〔321①<1>後〕供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異なったとき(供述不一致)。「前の供述と異なった供述とは」前に裁判官の前でした供述と食い違ったときに、前の供述を録取した調書に証拠能力を与えるという趣旨であり、この点、検面調書と異なり、前の供述と相反するが実質的に異なったものである必要はない。前の供述の方が詳細で証明力が異なるだけでも可。
 ②検察官面前調書
 イ)供述不能、若しくは、ロ)相反・実質的不一致、の場合に証拠とできる。但し、〔321①<2>後〕公判準備又は公判期日における供述より前の供述を信用すべき特別の事情の存在するとき(特信情況)を要する。なぜなら、〔321①<2>前〕供述不能の要件とは、検察官は公益の代表者として真実の発見に努めるものであるところ、信用性の状況的保障が認められ、供述不能というきわめて高度の必要性もあるため証拠能力も認められる但し、検察官は一方の当事者であり、必要により証人尋問も請求できるのであるから、供述不能と言う理由だけで証拠能力を認めるべきでないとする見解もある(違憲論)。実務では、供述不能のとき、検面調書の証拠能力を認める要件として、積極的に信用性の状況的保障が必要とまでは解されないが、その供述が特に信用性を失わせるような外部的事情の下ではなかったことは必要である。しかし、供述不能のとき、供述の比較ができないので、相対的特信性(供述不一致)を求めるのは理論的に困難である。〔321①<2>後〕特信性とは、原供述者が公判で証人として出頭しており、被告人による反対尋問にさらされているから、検面調書と同一趣旨の供述を得られないという意味で必要性が認められるが、それは、供述不能の時ほど高くない。すなわち、公判に比べ検面供述の法が信用できるという状況(相対的特信情況)として、イ)検面供述が一般より高い信用性を置ける状況の存在を証明する、ロ)公判の供述には一般より信用性を著しく低下させる状況が存在することを証明する、ことになる。だが、「信用すべき特別の事情」は、証拠能力を与えるための要件であり、いずれの証明力が高いかと言う、証拠価値の比較の問題ではない。そして、その判断基準は、供述内容の信用性の比較に求めるのではなく、外部的付随事情を基準とする。たとえば、被告人の面前では供述し得ない事情があるなど。前の供述が公判廷での供述に比して理路整然としており、経験則に照らして首肯し得ることなど供述内容自体も外部的付随事情の存否を推測せしめる一資料となり得(S30)。実務では、検面供述に特信性を肯定できるというより、公判準備若しくは公判期日における供述の際の状況に信用性が欠けるため、検察官の面前の方が信用が高いとされる方が多い。従って、前の供述と相反するか、実質的に異なった供述において、考慮される。なお、相反性の有無の判断は、公判における供述を全体的に考察して決す。たとえば、証人が検察の主尋問では供述調書通りに供述したところ、弁護人の反対尋問において、主尋問での供述を大幅に撤回したり、併存するような内容の供述をしたりして、支離滅裂な供述をすることがある。なお、〔321①<2>後〕前の供述を信用すべき特別の事情の要件は、証拠能力の要件だから、検察官がその存在を立証すべき。実務上は、検察官が供述者に対する尋問や取調官の証人尋問などによって、特信情況の存在を立証し、書面で相反部分若しくは実質的に相違する点及び特信情況を立証する方法が取られる。又は、公判廷における供述が信用しがたい事情を明にし、間接的に前の供述の特信情況を推認させるという方法が取られる。〔
 321①<3>〕被告人以外のものの供述録取書や供述書であり、たとえば、司法検査何時職員に対する参考人の供述調書、告訴調書、告発調書や、収税官吏・税関職員・消防職員などの質問顛末書や参考人が作成した答申書・上申書・始末書・被害届など。必要性としては、供述不能、不可欠性、信用性の状況的保障としては、絶対的特信性の要件がある。

第十二章 自白法則
42.自白法則の根拠と排除基準についてまとめなさい。
43.補強法則の意義についてまとめなさい。
 〘38③〙何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白であるときは、有罪とされ、又は刑罰を科されない。
 補強法則とは、被告人について、有罪の認定をするためには、自白の他に必ず自白以外の証拠(補強証拠)を必要とするという証拠法則のことであり、自由心証主義の制約の一種である。なぜなら、自白の強要を間接的に防止し、自白の偏重を避けることで、誤判を防止するためである。〔319②〕被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠であるときは、有罪とされない。つまり、公判廷における自白にも補強証拠が必要なのだろうか。判例は、公判廷では自白強要の危険はないが、刑訴法が憲法の趣旨を超えたものであるとし、否定する。この問題は、①〔405〕による上告ができるか、②アレイメント制度との関係で憲法はどこまで及ぶかに関係する。アレイメント制度とは、公判の開始前に、被告人が有罪の答弁をしたとき、証拠調べを省略し、事実審理せず直ちに量刑手続き及び判決の宣告をする制度であり、否定説に立てば、〔319②〕の改正によりできるが、肯定説では憲法改正が必要となる。補強証拠の必要な範囲は、犯罪事実について必要であり、それ以外の事実には必要ない。犯罪事実のどの部分に必要であろうか。イ)犯罪の客観的側面(行為・客体・結果などの外形的事実)、ロ)犯罪の主観的側面(故意・過失)、ハ)犯罪の主体的側面(犯人と被告人が同一であること)の内、学説では、イ)又はその少なくとも重要な部分について必要であるとする。ロ)故意や目的・盗品であることの認識など犯罪の主観的側面について、補強証拠を必要とせず自白のみで足りることに異説無し。ハ)についても同じ。なぜなら、証拠収集が困難であるからである。しかし、自白の信用性は、犯人でなければ知りえない事情を供述するという「秘密の暴露」が重要なのであり、捜査機関が自己の知識に合わせて自白させたことが否定されなければ秘密の暴露と言えない、従って、犯人が被告人であることを示す事実についても補強証拠が必要とする立場もある。なお、罪体について補強証拠が必要とする説を罪体説と言う。罪体とは、①客観的な法益侵害の事実(死体など)、②何人かの行為により、法益侵害が生じたことを示す事実(他殺体など)、③被告人の行為により法益侵害が生じたことを示す事実(被告人の殺人行為による)。次に、被告人の自白を補強する証拠は必ずしも自白に掛る犯罪構成要件の全部亘ってもれなくこれを裏付ける必要はなく、自白に掛る真実性を保障し得るものであれば足りるとする実質説が罪体的形式説と対立する。これによれば、たとえば、盗品等有償譲受罪において、被告人の自白と被害者の被害届があるとき、①そのものが盗品であること、②そのものを有償で譲り受けたことにつき、被害届によって客観的に裏付けができるのは①のみであるが、②を証明するための補強証拠を不要とする立場である(判例)。なお、補強の程度については、①補強証拠だけでい一応の心証を抱かせる程度の証明力を要求する絶対説と、②自白と相まって事実を証明できる程度でよいとする相対説がある。判例は、補強証拠は自白に係る事実の真実性を保障し得るものであれば足り、被告人の自白とあいまって犯罪事実を認定できる程度の証明力で足る(②)とす。最後に、補強証拠の的確に関して、補強証拠も実質証拠であり、証拠能力が無ければならず、自白から実質的に独立した証拠でなければ補強証拠たりえない。従って、被告人の供述は原則として補強証拠にならない。しかし、被告人の供述であっても、自白としての実質を備えていないもの(脅迫状や帳簿など)は、補強証拠としての適格を有す。
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8.物権変動に関する意思主義を、形式主義と対比して説明せよ

2016-10-12 18:27:23 | 新・刑事訴訟法
8.物権変動に関する意思主義を、形式主義と対比して説明せよ

 物権変動における意思主義とは、当事者の意思により権利変動が起こるということである。つまり、当事者はお互いに物権変動を目的とする意思表示を示し合わせれば、それでよろしい(フ民)。これに対して、公示方法を具備しなければ、物権変動が起こらないとするのが、形式主義である(ド民)。動産では引渡しを、不動産では登記を備えなければ、物権変動は生じない。前者は、物権の得喪変更が快活であるが、第三者の関係では、別途、対抗要件主義を設ける必要が出る(日民)。これに対して、後者は、公示に基づき権利関係が明快であり、制度上、第三者の問題をクリアできるが、意思表示と公示内容とのずれを、如何に是正あるいは生じないようにするかが重要となろう。

 以上

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231.補強証拠が必要とされる証明力の程度について、判例の立場及び主要な考え方を踏まえて説明せよ

2016-10-11 19:51:46 | 新・刑事訴訟法
231.補強証拠が必要とされる証明力の程度について、判例の立場及び主要な考え方を踏まえて説明せよ

 主要な学説は、絶対説に立つ。すなわち、補強証拠だけで裁判官に一応の心証を抱かせる程度の証明力が必要だとするが;判例は、相対説を採る。すなわち、自白とあいまって事実を証明できる程度で足りるとするが、理由は、230.実質説の考え方:自白に係る事実の真実性を保障する指向にある。

 以上
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230.補強証拠が必要とされる事実の範囲について、判例の立場及び主要な考え方を踏まえたうえで、具体的事例に即して説明せよ

2016-10-11 19:51:14 | 新・刑事訴訟法
230.補強証拠が必要とされる事実の範囲について、判例の立場及び主要な考え方を踏まえたうえで、具体的事例に即して説明せよ

 補強証拠による証明は、犯罪事実について必要である。犯罪事実には、イ)行為・客体・結果などの客観的側面;ロ)故意・過失・目的などの主観的側面;ハ)犯人と被告人が同一であるとの主体的側面がある。多数説は、イ)又はその主要部分について必要であるとする。しかし、自白の信用性の本質はいわゆる「秘密の暴露」であるとする立場から、ハ)を求める見解もあり、裁判例もある。

 犯罪事実について必要だとして、罪体説(形式説)と実質説についての対立がある。(教科書の例に習えば)罪体とは、①客観的な法益侵害の事実(例:死体);②何人からの行為により法益侵害が生じたことを示す事実(例:他殺の死体);③被告人の行為により法益侵害が生じたことを示す事実(例:被告人の殺人行為に依る死体),である。

 しかし、通説・判例は、補強証拠は必ずしも犯罪事実の骨子を証明するものではなく、自白に掛る事実の真実性を保障し得るものであれば足りる。すなわち、自白の信ぴょう性の担保を指向する。それでいけば、たとえば、盗品等有償譲受罪につき、被告人の自白は、被害者の被害届があれば宜しいとされる。被告人が自白をし、その自白と何らの連絡なく、自白の事実関係と一致する被害届があれば、被告人の自白は事実らしいと判断される。しかし、罪体説では、犯罪事実の骨子が要請されるので、盗品を買ったことについての証拠が必要になる。

以上
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229.補強証拠になり得る証拠(補強証拠適格)について、補強法則の趣旨をふまえて、説明せよ

2016-10-11 19:50:38 | 新・刑事訴訟法
229.補強証拠になり得る証拠(補強証拠適格)について、補強法則の趣旨をふまえて、説明せよ

 要素は、イ)補強証拠も実質証拠であり、証拠能力があること、ロ)自白から実質的に独立した証拠であること

 したがって、被告人の供述は、原則として、補強証拠にならない(ロ)。しかし、自白としての実質を備えていないもの、たとえば帳簿などには、補強証拠の適格を備えるものもある。

 判例では、捜査とは無関係に作られた被告人の取引関係とを記した未収金控帳が、補強証拠になるとした。また、第三者の供述であっても、実質的に被告人の自白を繰り返すだけになるにすぎない場合には、補強証拠にならないとした。

 以上

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