中目黒の『CAFE FACON(ファソン)』さんです。
冒頭から少し話が逸れますが、私は飲食店の優劣を論じることは基本的にあまり好きではありません。また私は飲食店の方と必要以上に親しくなることも基本的にはあまり好みません。それから、飲食店内での写真撮影にも基本的に抵抗があります。
つまり、この“大人のカフェ巡り”をアップすることは、実は私のそんな信条に自ら抗するというちょっとした冒険でもあるということを私自身の備忘録としておきます。
私がファソンさんで最初に心魅かれた点はやはり珈琲の美味しさでした。ご主人はご自分の目で拘って選んだ最高の豆(この豆は“スペシャリティー・コーヒー”というカテゴリーの特別な豆だそうですが、素人の私の説明では心許ないので詳細はファソンさんのHPにお願いしたいと思います。)を、ご自身の手で店内焙煎し、挽きたての豆を五感を研ぎ澄ませて一杯ずつドリップ(ペーパー式とネル式いずれかを選べます)で丁寧に抽出しています。私の知る限りでは、そういう“至極真っ当なこと”をされているお店は極めて少数派だと思います。
珈琲はオリジナルブレンドが2種類とドゥミタス、またストレートが何種類かあり、その時々で特別に仕入れた豆などもあるようです。私の好みは店名を冠した“ファソンブレンド”のネル式。飲みやすく後味すっきりとしたミディアムローストの珈琲で、はじめの薫りはやや控えめながら、一口含んだ瞬間に爽やかな酸味と共に複雑な印象の豆の旨みが口中にぱっと拡がって、鼻腔を貫けるフレーバーは芳醇この上ありません。
ご主人は目に鮮やかな器も拘りつつコツコツと揃えているそうで、殊にリチャード・ジノリがお好きなのだとか。今日はどの器かな、と思いながら珈琲が点てられるのを待つのもまた一つの楽しみです。
他にもカフェオレなどの類やジュース類も充実しています。食べ物も充実していて、私はこれまでチーズケーキとサンドイッチを頂きましたがどちらも大変美味しく、珈琲同様丁寧に作られている印象でした。また紅茶にも拘ってらっしゃるようですが、残念ながら私はまだ頂いていません。
店内装飾で一際目を惹くのは壁に掛けられた大きな絵。伸びやかな筆致で暖色中心に描かれたその絵は、画家を志す若いお客様にファソンさんをイメージして描いてもらったそうです。
都会のビルの3階にあるお店にも拘らず、ベランダに小さなテラス席が2つあるのも中々チャーミングです。気候の過ごしやすい頃は何とも心地好く、風情が感じられるのだとか。またその他の装飾、フロア中央にある曲線の壁で仕切られた半個室、BGM、スタッフの皆さんの接客姿勢などどれも借り物ではないユニークさが感じられます。お客さん目線の大小のアイディアに溢れ、雰囲気作りを大切にした店内はどこに座っても居心地良く、時間の流れがゆっくりと感じられ、お客さんは皆さん思い思いにリラックスして過ごされているように感じます。
さてさて、先日から“大人のカフェ巡り”と勇んで銘打ち今回が2店目ですが、早くもその存続が危ぶまれます。何故なら今後の更新の際、こちらのお店が間違いなく一つの“基準”になることが予想されるからです。それに最近はこちらに足繁く通っていて、いったい次の“カフェ巡り”は果たしていつになることやら・・・つまりそれ程、私にとってまことに素晴らしいお店ということになります。
今回のアップですが、じつは大変時間が掛かりました。撮影をさせていただいたのは今日、たまたま他のお客さんがいない午前中の早い時間でした。午後には自宅に帰り、それからずっとPCの前に座っています。
何故なら、これまで何度かこちらに伺い、最近はご主人とお話をする機会を得られるようになり、恐らくご主人は私とほぼ同世代(間違っていたらごめんなさい汗)ではないかなと思うのですが、その珈琲に対する見識の深さ、技術の確かさ、事業に対する情熱、将来への展望と志の高さ、自らのスタイルへの拘りに、未だ僅かばかりの邂逅にも拘らず、私は偏に感じ入ってしまい、またそれら全てがご主人が点てる珈琲の一滴一雫に凝縮されて味となっているのかしらと考えたり、翻って我とわが身を省みては筆が止まることが一度や二度ではなかったから、なのです。
店名の“FACON”はフランス語で、“流儀”を意味する言葉だそうです。
最後ですが、ファソンの皆さん、図々しいお願いにも快くお応えいただき恐縮しています。ありがとうございました。