はれっとの旅路具

(はれっとのたびろぐ)田舎暮らしと旅日記
金沢・能登発 きまぐれ便

村の写真集

2006-06-29 20:14:49 | 田舎暮らし雑記
昨夜、高知の知人A君から突然の電話。
数日前NHKの番組にも出ていた彼は、四万十川の中流域で村のオンちゃん、オバちゃんたちと村おこしに奮闘しています。数年前、石川から取材と視察を兼ねて彼を訪ねたとき、四万十は土砂降り。どこにも行くことができず、昼過ぎから宿でずーっと酒を呑みながら語り合うことに。自衛消防団員の彼は、洪水防止の土嚢積み作業に出なければならないにも関わらず、視察もかなわない我々に付き合ってくれました。私も自衛消防団員なので、そのことの重大さと意味は響きました。それ以来、何度も行き来をする仲に。
そこへ金沢のAさんがしばらく投宿するそう。AA同士酔っ払い二人で「良いだろう」という電話です。(^^;ゞ

さて、映画「村の写真集」は徳島県最西部にある池田町、山城町、西祖谷山村(いずれも市町村合併により2006.03.01から三好市)の川沿いの山の斜面に張り付く集落がロケ地です。

小学3~5年生の頃、讃岐に住んでいました。
讃岐は穏やかな地域ですが、背後となる四国の背骨は深く険しい山々です。

第8回上海国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀男優賞を受賞したこの映画は、そんな山里で撮影されました。

脚本と監督は、関西のノリの良いスポーツ根性物や田舎の家族ものを撮る三原光尋さん。
((C)2004 「村の写真集」製作委員会)
主演は、父親役が藤竜也さん、息子役が海東健さん、父と住む末娘役には宮地真緒さんら。

昨夜、四国からの電話を切った後、村の写真集をDVDで鑑賞しました。

●あらすじ
村の写真集 by goo映画」作品紹介より
東京で見習いカメラマンをしている孝は、故郷・徳島県花谷村の村役場に呼び戻される。村で写真館を営んでいる孝の父・研一と二人で、近い将来、ダムの底に沈むことになった村のすべての家族写真を撮影し、「村の写真集」を作るよう依頼されたのだ。しぶしぶ誘いを受けた孝は、父とともに一軒一軒自らの足で回り、撮影を手伝う。しかし頑固者の研一と、そんな父に反発して都会に出た孝の間には、なかなか埋まらない溝があり・・・。

●鑑賞して…
途中から感涙ボロボロでした…

そして、終わってみると、
「父と息子との葛藤、ゆったり時間が流れる村と、合理性一辺倒の都会」は勿論でしたが、何より「ひとの写真を撮るということの意味」を、この映画から強く感じました。

何故私は、鉄道や風景写真を主とし、人物を撮ろうとして来なかったか…
そして、何故私の写真には伝わるものが乏しいのか…
いまさらながらその意味を、ズバリと教えられた気がします。

「写真を撮る」こととは、いわばカメラを構えてシャッターを切るだけの行為のようですが、撮るものと撮られるものとの間に、一瞬のシンクロ「共通して通い流れるもの」がなければ意味が無いのだ、と。
風景写真でも、草花でも、それはいえると思います。
人物写真ではなおさら、その人の人生の一瞬に同調するのであって、間違っても「切り取る」のではない。

だから、頑なに見える父は…
どんな険しい坂道の上の一軒家であっても車ではなく、歩いて訪ねててゆく。
シャッターボタンを握って、並んだ家族・人々の表情を丁寧に見て、独特の掛け声で瞬間を捉える。
撮り終わったら、頑固者の父親は帽子を取り「ありがとうございました」と丁重にお辞儀をする。

その意味が理解できない合理的な近代青年の息子は、面倒な付き合いとしか映らない。

後ほどご紹介するMr.Gさんもレビューで「素晴らしいと思ったのが、山奥で一人暮らしのおばあちゃんを演じた 桜むつ子さん。」と書かれていますが、戦争に行ったきり戻ってこない息子を一人暮らしで待ち続ける老婆を撮影するシーンは、撮られる側の人々への想いの深さを象徴しているものとして、深く胸を打たれます。
写真は撮らせていただくもの…なんですね。
(Mr.Gさんのレビューで、この映画が桜むつ子さんの遺作と知りました。)

この映画の深みを知るために欠かせないものがもう一つ。
「村の写真集」のホン!「村の写真集」のホン!
「アジア旅が好きで、身体が空くと、すぐに格安航空券を手に、行ってしまう。僕にとって、その魅力とは、普段着の人と出会えることに他ならない。
 日本で、東京で、見つけにくくなっている飾らない人の笑顔。電車が数分遅れただけでも激怒する、この国の息苦しさに耐えられなくなると、成田へ向かってしまう。…」と「はじめに」で三原監督は、ご自身を描いています。
「…ならば”日本のとある家族を見詰め描きたい”と、沸きあがってきた感情は、自然な流れかもしれない。…」
そして、
「とある村の現状を描いて、日本が見えてこないか。」この作品に寄せる脚本家・監督としての想い。

監督自身病気をした時の苦しい経験から制作する映画への想いも寄せられています。
「生死にかかわるその現状を、ほいほいとドラマにするな。病で苦しんでいる人で商売するな。…病院で病魔と戦っている人でも、誰もが観て、生きていく勇気になるようなドラマを。喫茶店で、誓った。」

その他、ロケハン中や、撮影中の逸話も、監督自身で書き留められています。

撮影現場で何気なくも素晴らしい気遣いをされる藤竜也さんのこと。
父親として主演された藤竜也さんは、この映画の出演が決まってから、監督やスタッフとは別に一人で、山あいの集落を回り地元の人たちと馴染み触れあいながら、役づくりを深め阿波弁も学んでいたそうです。人の情を深く描くことに携わるお話として感銘を受けます。

先ほどの一人暮らしの老婆のシーンでは、
「ある山深い一軒のおばあちゃんの家に上がらせてもらった。縁側からは、言葉をなくすくらいの美しい夕焼けに…おばあちゃんは、毎日朝の雲海を見て一日が始まり、この夕焼けで一日を終える。生まれてこのかた、海外はもとより、東京にも行ったことはないと、笑った。ふもとの村に降りないのかと聞くと、息子が帰ってきそうな気がしてと。その息子は、戦争で行方不明に…」
実話だったのですね。

写真監修にと何の伝も無く飛び込みで立木義浩さんに参加してもらうこととなった経緯。
立木さんとの話の中で、父親が一枚撮るごとに丁寧に頭を下げる所作のアイディアを貰ったこと。

同じように音楽を小椋佳さんに、突撃。主題歌の制作を依頼。

一月に一度しか出ない谷間の雲海を、徳島ロケの初日にいきなり撮影できたことも併せて、「今思えば、映画の神が後押ししてくれたような気がします。」と。実直な方なんですね。監督。

エンドロールに流れるセピア色の写真たちは、立木義浩さんが映画撮影中に撮影したもの。
小椋佳さんの主題歌「村里へ」とともに、一層印象的にしています。


これは家族と見ていただきたい作品。

写真に興味がある方には、なおさらお勧めさせて頂きます。


本編も感動しますが、DVDの収録されているメイキングがまた凄い。
監督と、花谷村職員役の甲本雅裕さんが、撮影風景のロールを見ながらスタッフや村人との裏話をしています。
どれほど地域の人々が協力したか、改めて実感できます。映画は関係者だけで作るものではないのですね。暖かい撮影環境が、どれほどスタッフの支えなったか…

後でご紹介する監督インタビューやロケ地での情報などを読むと、熱心に応援してくれた地域の方々への感謝は「一生忘れてはならない」と振り返っておられます。


兵庫県映画センターによると、2006年8月に兵庫県内各地で上映予定があるそうです!
兵庫の方はラッキーですね。是非お見逃しなく。
詳しくは村の写真集紹介ページ


●公式サイト:村の写真集


●みなさんのレビュー・感想から
soramoveさんのレビューから(2005.08.23)
「徐々に明らかになる父の息子への想いが
 なんだか不器用な自分の父と重なって
 胸に迫る。」

「かずあき」さんのレビューから(2005.06.25)
「何て映画だ。こらえきれずに大号泣してしまった。
 心のサビをきれいに剥がされた」

sabuさんの「映画感想文」レビューから(2005.05.28)
「藤竜也が好きで観に行ったのですが、良いイミで期待を裏切られました。
 今年のベスト1映画に出会ってしまいました。」

Mr.Gさんのレビューから(2005.05.18)
「こういう映画を大画面で観ているだけで、あー来て良かったなあ
 と思うのは、それだけ私が年を取ったからでしょうか。」

シスターのお勧めシネマから
「家族とは、反発したり、気持ちをうまく伝えることができなかったりするものですが、それでも心の底では互いに気にしあっているものです。そんな家族の関係を育んでいるのは、故郷の美しい風景であり、土地の人々であることを、しみじみと味わいました。わたしたちは“土地の力”に養われているのですよね。でも、そういう土地は、日本には少なくなりました。」

シネマタイムズ編集長・菅原美話氏談仙台映画情報
「なんて美しく映画らしい映画なんだろう・・・
 父と息子の関わりを通して、家族とは・・・故郷とは・・・世代を超えて誰しもが共感できる作品です!観ないと後悔しますよ~」


●監督・出演者インタビュー
受賞後の三原監督へのインタビュー(文化放送アジアンパラダイス:2005.06.20)
三原光尋監督へのインタビュー(eo映画・ドラマ:2005.04.28)
 「いつかは『二十四の瞳』のような作品を撮りたい…見終わった後に、ちょっと田舎にでも電話してみようかな、なんて思って頂けると嬉しいですね」
「村の写真集」公開記念の三原光尋監督ワンマンショーに潜入!(MovieWalkerレポート:2005.04.27)
美しい徳島の山間を舞台にした人間ドラマ「村の写真集」で若手スター、海東健が親子の絆と愛を力強く体現!(MovieWalkerレポート:2005.04.19)


●もう少し詳しい紹介
ViVaムービーレビュー:村の写真集
ムービーネット【映画情報】村の写真集
ロケ地探訪:映画「村の写真集」(虹の向こうに第16号)


●ロケ地の情報・撮影の様子など
四国放送「おはよう とくしま」から「とっておきリポート 村の写真集」ロケ地情報
 ・東京ロケ(2003.12.15)
 ・徳島での撮影終了(2003.12.08)
 ・撮影順調(2003.12.01)
 ・撮影始まる(2003.11.17)
○徳島ロケーションサービス
 ・ロケーションコラム三原監督へのインタビュー


●村の写真集DVDについて
楽天:い~でし!!
ヨドバシ・ドット・コム
紀伊國屋書店
Amazon.co.jp


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11 コメント

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「村の写真集」 (さらさ)
2006-06-29 23:09:46
この映画のことは、NHKに藤竜也さんが出演されてた番組で紹介されていて、知っていました。ロードショーされる類の映画ではないので、ここでは、観られないだろうと残念に思った記憶があります。

はれっとさんのこの記事を読み、「観たい」

思いが強くなりました。

DVDがあるのですね。

レンタルされてるのでしょうか?

是非、探してみます。

たくさんの情報ありがとうございます。
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わたしも (ての)
2006-06-29 23:45:15
観てみたいと思いました。こんど探してみます。それにしてもすごい文章量ですね。お疲れ様です。
返信する
さらささんへ、てのさんへ (はれっと)
2006-06-30 00:32:27
このDVDは、知人から強く勧められて入手しました。

DVDの通販価格も最安と定価では1,500円程違うようです。



レンタルされているかどうかは、判りません。あれば良いのですが…



価格はちょっと高目かも知れませんので、レンタルに無かったら仲間と共同購入して、回し見して、最後は図書館か教育委員会に寄付する…ですか。栃木県だったか、知事公室が挙げて推薦している地域もありますから。

その代わり「…ホン!」は図書館に買って貰いましょう。「…ホン!」の方が安いし。(^^;ゞ

両方セットで観るのが何しろお勧めです。

僕は、たまたま同時に入手できたので幸運でした。



あと、DVD収録のメイキングはハリウッド系と違って、ちょっとダラダラ感がありますが、これがまた感動した後には「文化祭・学芸会」的ノリで素朴に良かったりしています。(^-^)



このレビュー、てのさんのご指摘通り時間が掛かっていたかも知れません。一番は、検索して一件一件確認する時間だったかな…



「…ホン!」の監督の思いを先に読んであったので意外に早く纏められたのかもしれません。
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「村の写真集」へ寄せて (庭花)
2006-06-30 13:36:49
こんにちは!

「戦争で行方不明になった息子が、帰って来そうな気がして村を離れない。」という話に、目が潤みました。

それだけで、この映画の良さを伺い知る事が出来ました。

父と子の関係は、チョット複雑な部分がありますよね。あまり喋りませんから(笑)・・・
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庭花さんへ (はれっと)
2006-06-30 16:08:44
ようこそ。



映画を観るとなおさら、ボロボロになります。

どんどん人口が減っていく田舎にあっても、頑張って暮らし続けようとしている人々は居ます。



そんな奮戦振りを身近に知っているためか、思い入れが強くなりすぎたのかもしれません。



でも、素直に良い映画だと思います。



私もこの歳になって漸く、最後まで喧嘩をせずに父と酒を呑めるようになりました…
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TBありがとうございました (sabu)
2006-07-02 12:12:35
その上、記事の紹介までしていただいて感謝です。

作品だけでなく、裏にもいろいろ温かいお話があったんですね。

それを思うだけでうるっとくるほど、未だに感動が忘れられません。

邦画ということもあってか知る人の少ない作品ですが、兵庫の上映をきっかけに、関西でブレイクすることを願います。

号泣もいいところでしたので、家族で観るのは私には少々気恥ずかしい作品ですが・・・。
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ようこそ、sabuさん (はれっと)
2006-07-02 13:55:30
ご丁寧にありがとうございます。



ブログにお名前を見つけられずにタイトルでのご紹介となってしまいました。お許しください。



大スクリーンで観るのが何よりですが、DVDの良いところは、メイキングがあること。

この映画には、加えて「ホン」が出版されていることで、制作の裏側を知ることができました。



ほんとうに、関西でもブレイクして欲しい映画です。このような映画が知られずに埋もれていることが、残念に思われてなりません。
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プロセス (kimion20002000)
2006-07-21 01:19:24
TBありがとう。

そういう解説テキストがあるんですか。

古本屋ででも、探してみましょう。

こういう映画は、映画を完成させるプロセスそのものが、ドラマになっているんですね。
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ようこそ、kimion200200さん (はれっと)
2006-07-21 20:08:18
こちらこそ、TBありがとうございました。



このテキストは偶然知りました。

台本が中心なのですが、各ページのサイドにある監督からの裏話を興味深く読みました。



DVDのメイキングとはまた違った味わいがありましたよ。お勧めです。
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父から子への伝え方。 (杵島太郎)
2009-04-14 16:32:44
 この映画のロケーションが徳島と知り、さもあらんと感動しました。それに第八回上海映画祭でも最優秀作品賞と最優秀男優賞を受賞したとは流石だと思いました。

 この映画の流れによく似たような中国映画も数年ほど前に観たことがあります。題名は忘れましたが、写真屋ではなく郵便配達の父親に息子が従いて行って父親の郵便配達のやり方を勉強するシナリオでした。山間部のぽつんと立った過疎の村々を何日もかけて郵便物を配達するのです。時には目の見えない老婆には郵便屋さんが読んで聞かせて・・・・なかには文面のまま読むと老婆が落胆するかと案じ、少々のごまかしを企てるシーンもありました。都と途絶感すら感じさせる村落とのメッセンジャーボーイみたいな役割でした。

 この「村の写真集」でも父親と息子の写真屋としての葛藤でしたが、父親と裸でぶっつかって初めて、親子相互に信頼関係が醸成される流れでした。いずれダムの底になるその村の風景や景色よりも住んでる人たち、家族たちを撮ることの難しさや大切さを教えられました。

 全般的に淡々とした流れの映画で背景の村落の美しさも十分に堪能することが出来ました。それにプロとアマチュアの違いを教唆してくれる映画でもありました。ありがとうございました。 
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