チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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時は管理教育「この時代を」第7章 真夏の子どもたち その16

2014-12-11 19:27:21 | 時は管理教育「この時代を」
 えー!まだ暑いのに?でもね、暦ではもう秋なの。今日から残暑見舞いって書くのよ。今日は立秋、ユウが新聞を読みながら、
「高校野球、始まったの?」
「そうよ!ユウだけよ!中学生で部活もしないで家にごろごろいるのは!」
お母さんのきつい一言に、びくっとするユウ。しまった、こういう話題、口にするべきじゃなかった。
 高校野球は、高校生だけどね。中学生だって、部活部活で毎日追い立てられてるわけで。
「ほら!今のお話聞いてた?十代っていうのはね、何か打ち込んだってものがないと。マコトちゃんを見習いなさいよ。マコトちゃん、毎日吹奏楽部に行ってるんですって!」
いい加減にしてくれ!お母さんに何も言い返せないまま、ユウは、新聞を放り出し、自分の部屋に逃げた。何だよ!部活が何が何でも絶対みたいに!
 バタン!閉めた自室のドアにもたれかかって、崩れるように床に腰を落とす。何だよ、何だよ!私、中学生になった途端、全部全部悪者みたいに!
『どうせ、悪いことしに行くつもりなんでしょ?』
陸上部をやめたあの時の言葉、絶対に許せない!部活辞めたら犯罪者、スカートが嫌いなら病気。性同一性障害ってなんだよ!私は女の子、ちゃんと女性用のトイレに行ってる!おかしいのは大人のほうだよ!ここまで、個人というものを認めないなんて。大人ってどうして、皆同じにしたがるの?矛盾ばっかり!自分たちに理解できず、扱いにくかったら、結局放り出すんじゃない。キョウコちゃんのこと、私も聞いてる。あんなの酷過ぎるよ・・・汗が出てきた。この部屋、窓と後ろのドアも開けてないと夏は暑いんだ。まあいいよ。汗ぐらい拭いておけばいいし。
 同じ頃、第一中学校音楽室。
「ま、文化系は、お盆は一週間休めるしいいよね。」
「そうそう。」
部屋の隅っこで、小さくなって床に腰を下ろしているマコト。
『田舎のお土産。吹奏楽部の皆さんにも持っていきなさいね。』
お母さんに持たされて、小さいキャンディがたくさん入った缶を持ってきてるんだけど・・・私はここにいないって状況、だれにも渡せないよ。練習からもずっと外されてるのに。
『秋の演奏会、ぜひとも聞かせてもらいたいわね。』
どうしよう、本当にどうしよう・・・
 


時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その15

2014-12-10 19:39:00 | 時は管理教育「この時代を」
 女の子は女の子らしく、男の子は男の子らしく。
「ユウ!」
「嫌だ!嫌だよ!」
学校の制服を無理矢理押し付ける両親に抵抗するユウ。性同一性障害か何か知らないけど、誰がなんて言おうと治さないと!夏休みの間に!
「個性なんてものはないんだぞ!ユウ!」
「あんたのやってることはただのわがままよ!ユウは女の子、男の子の体になるはずないの!」
嫌だ!嫌だ!力づくで、学校の制服を着せる。
 何で?・・・涙目のユウ。
「やっと普通の格好になったな。」
「そうよ。中学生らしくてかわいいわよ。」
「嫌だー!」
泣き叫び、制服を引きちぎり始める。
「何するんだ!やめろ!」
 次の日。自分の部屋に閉じこもったままのユウ。一階の和室で、両親。
「あなた、ユウだけど、ちょっとやりすぎたかしら・・・」
「ん?いまさら何言ってるんだ。夏休みの間に治すって言ったのお前だろ?」
「そうだけど・・・じゃなくて、あの子、今日は一回も降りてきてないじゃない。ご飯も食べてないし。ちょっと見てくるわ。」
二階へあがっていく。あーあ。やっぱり母親って甘いのかしら?ううん、これはそうじゃない。おなか減ってないかとか、のど乾いてないかとか。ユウの部屋はエアコンも何もないから。
 トントン!木のドアを薄く開ける。
「ユウ?」
パジャマのまま、ベッドの上で体育座りをして、じっと窓の外を見ている。声をかけていいものかしら?
「ユウ?ほら、制服。こんなことして。自分でやったんだから、ちゃんと直しなさいよ。お父さんも一生懸命働いて買ってくれれてるんだから。」
「やっぱり、高いんじゃない!」
後ろ向きのまま声をあげるユウ。制服は決して安くない。確かにその通り、って、問題はそれじゃない!
 こういう話は冷静にならなくちゃ。ユウのベッドに腰掛け、ユウと背中合わせになる。
「ねえ、ユウ。ユウは、自分のこと男の子だって思ってるの?」
「え!どうしてそんなこと?!」
本人も、答えようはないのかしら?仕方ないのかもしれないわね。




 

時は管理教育「この時代を」第7章 真夏の子どもたち その14

2014-12-08 20:21:05 | 時は管理教育「この時代を」
 キョウコの面談の後、そのままスーパーへ。駐車場に車を止めて出た時、
「奥さん!ツチヤさん!」
「あら!アヤセさん!」
マコトちゃんのお母さんと出会ってしまった。買い物を早く済ませたい気持ちもあるけど、ちょっとぐらい大丈夫、一緒に喫茶店へ。
 向かい合わせにかけて、アイスコーヒーお願いします。
「アヤセさんのところ、個人面談終わったのよね?うちは今日だったのよ。」
「そう!で、どうでした?」
「ううん。仕方ないんですけどね、あまりにも理不尽で。腹立つばっかりだったわ!成績は仕方ないと思っていたけど、病気なら出ていけみたいな言い方!」
カラン!アイスコーヒーの氷が解けて沈む。いけない、少し気持ちを落ち着けて、
「アヤセさんのマコトちゃん、うらやましいわ。物凄く優秀で。」
「そんなの!奥さん、全然!マコトなんか硬すぎて。心配も心配ですよ。この間ね、私の実家に里帰りした時なんか、上から下までばっちり制服で行くんですよ。」
「アハハハハ!そうなんですか!・・・ひょっとしたらマコトちゃんって純粋に、おじいちゃんおばあちゃんに制服姿を見せたかっただけかもよ。」
 アハハハハハ!そうかもしれないわ。よその親御さんとお話しすると、また違う目で見えてくるものね。
「あ、そうだ。アヤセさん。第一中学ってどう思われます?」
「どうって?学校の雰囲気とかですか?」
家庭が落ち着いている子が多くて、開校以来、大きな事件もない。タバコを吸う子も変なふくそうしている子もいない。
「なんか、おかしすぎません?私も、キョウコがいなかったらこんなこと思いもしなかったですけど。」
 時代の変化というものかもしれない。マコトちゃんのお母さん、
「うんうん!私も、マコトの生徒手帳見てびっくりしたわ!保護者説明会でも!私たちの時も制服とか校則とかあったけど、あそこまで厳しくなかったですよね!」
「そうそう!制服を着崩すって結構やってたりして。先生も生徒を信用していたわよね?」
アハハハハ。
「私もマコトに言ってるんですよ。学校何てそこまで言いなりにならなくていいって。でも、今は学校がダメっていうみたいで・・・」
「そうなのよね。ちょっとでも校則に従えない子は出て行けって感じなのよね。」
それが、病気とかどうしようもない理由であっても。


時は管理教育「この時代を」第7章 真夏の子どもたち その13

2014-12-06 19:26:32 | 時は管理教育「この時代を」
 ジジジジジジ・・・セミの声の混じるグラウンドで、体育系部活動の子たちが練習している。中学生ってあんなにかわいらしいのね、ユウスケもこんな感じだったかしら?ついこの間なのに思い出せない。だけど、全員丸刈りなんて、どことなく受け入れられないわ。今日は、キョウコの個人面談で学校に来た。一年一組の教室、トントン。ノックすると、
「はい、どうぞ。」
担任のクロダ先生!この先生には本当に頭に来てるわ!・・・学校全体に対しても、だけど。
 すすめられて席にかける。キョウコのことで言いたいことはいっぱいあるけど、ぐっと辛抱して、先生の話を聞くことにするわ。記録帳を開いて、資料を提示しながら話し始めるクロダ先生。
「キョウコさんの一学期の成績ですが・・・定期テストはすべて問題なかったですが、病気で欠席が多かったことで、この評価になっています。ご存じだと思いますが、相対評価ですので、五は何人、一は何人、という風に、成績を割り振っていくわけですね。」
それで、欠席を理由に、キョウコは評価を低くされる。
「体育はどうしても見学になりますから、一だろうって親子で覚悟してたんです。でも、中間テストも期末テストも満点だったのに、学科もこの評価になって、キョウコはかなりショックみたいです。」
「まあ、中学一年生のこの時期は、大体おっしゃいますよ。小学校と違って受験がかかってきますからね。」
「あの、先生。キョウコは病気なんですよ!特別扱いしてくださいとは言いませんけど、校則校則って、どうしてそこまでがちがちなんですか?ここは公立の学校ですよね?この辺に住んでいたら皆、ここに通わなくちゃいけないですよね?いろんな事情の子がいるのに、ちょっと学校の物差しに合わなかったらダメって、おかしすぎませんか?」
ついつい荒くなる口調、しかし、クロダ先生はあくまでも冷静で。
「ですから、以前から申し上げてるわけですよ。養護学校という選択肢もありますよ。病弱児用の学校もあります。そこなら、もっとキョウコさんの病状に合った計画を立ててくれますし。もちろん、高校受験にハンディもありません。養護学校からでしたら、一般の高校も養護学校も受けられますし、むしろ、選択肢は広がりますよ。」
 ありがとうございました!大人だから、上っ面はつくろうけどね、親として本当に腹が立ったわ!要するに、養護学校へ行けって言われてるのよ!別に、養護学校がダメとは言っていないわ。でも、キョウコは、普通の子と一緒に勉強することを望んでいる。あの子だって一生懸命、先生たちの一方的理不尽な校則に合わせて生きているのに!

 

時は管理教育「この時代を」第7章 真夏の子どもたち その12

2014-12-03 20:09:15 | 時は管理教育「この時代を」
 見守りましょう・・・やっぱりそう言われるわよね。読み切れていたような気もするんだけど。病院を出て歩くユウの両親。
「それしかないと言えば、そうなんでしょうね。」
「まあな。しかしな、お前。この頃は何でも病気だって言いすぎだと思うぞ。ユウだってまだ子どもなんだ。そうだ、ちょっと喫茶店にでもよって帰るか?」
主人とコーヒーを飲みながら。
「だけど、心配よね。あの子、夏休み明けたらもっとショック受けるんじゃないかしら?」
「そうだな・・・」
子どもの一か月はものすごく長い。この夏休みに、きっと物凄い変化をしていく。
 自宅で一人のユウ。買ってきた漫画雑誌を読みふけっている。へぇ、こんなところにも。
『背を伸ばす方法』
『胸を小さくする方法』
・・・。Tシャツの隙間から見えるふくらみが、ものすごく気になる。こんなところばっかり、どんどん大きくなってきてるよ。昨日、マコトちゃんの家に集まった時、キョウコちゃんが背が伸びてびっくりした。小学校の時は同じぐらいだったのに、完全に追い越された。漫画雑誌を投げ出し、顔を伏せるユウ。こんなこと!こんなこと!私ばっかり!だって、早すぎるよ。中学どころか私、小学校からでしょ?そんなの、二十歳になってからでいい、ちゃんとお金を稼げるようになってからでいい!
 投げ出した雑誌に視線を向ける・・こんなところにも特集してるなんて、皆、悩んでるってことなのかな?ガチャ!玄関の鍵が開く音、いけない!飛び起きて玄関へ走っていく。
「おかえり!・・・あれ?」
玄関で靴を脱ぐお父さんとお母さん。
「ただいま。」
「一緒に出掛けてたの?」
「いや、そこの角で会ったんだ。」
お父さんの言葉、嘘だってすぐわかる。たぶん、私のことでどこか相談にでも行ってたんでしょ。お母さんと一緒に。

時は管理教育「この時代を」第7章 真夏の子どもたち その11

2014-12-02 20:20:46 | 時は管理教育「この時代を」
 夕方。
「そっち行ったぞー!」
公園でドッヂボールに興じている、揃って丸坊主、ジャージの男の子たち、
「こら!何やってんだ、お前ら!」
どこかのおじさんの怒鳴り声が飛び込んできて、逃げるように走っていく。一体何だよ!俺たち、普通に遊んでただけだろ?

中学生ってだけで、俺たち犯罪者みたい!

 年齢が上がるとともに、周りも自分も変わっていって当たり前。思春期の始まりって多感だとしても・・・小児科の待合で腰かけている、ユウの両親。親としては、ユウがあそこまで極端に拒否的なのが心配で。お盆までに相談することにしたのよ。ここに来てることはもちろん、ユウには内緒。
「タカクラさん。」
呼ばれて、診察室へ。
「どうもこんにちは、お久しぶりです。」
ユウが大きくなって足が遠のいたけど、本当にお世話になってきたお医者さん。上の子の白血病を見つけてくださったのも・・・
「こんにちは。お久しぶりです。今日は、ご夫婦で?」
笑顔のしわが、あの時より深くなっている。
 どうされましたか?
「あの、ユウも今年から中学生になりまして。それが、小さい時から男の子みたいな子でしたけど・・・」
主人は横で黙ってるけれど、この四月から何回、同じ話をしてきたことか。
「なるほど、五月の連休から制服を拒否するようになったと・・・」
カルテに書きつける先生。その横から主人が、
「父親として見ていますが、ユウは特段、女の子として変わっているとは思わないんです。見た目、男の子みたいと言っても、ああいう子は結構いますからね。」
「だけど、母親としましては、あそこまで拒否感があるものかなって思うんですよ。制服ぐらい、学校だけなんだから少々嫌でも辛抱できないのかって思うんですよね。」
 今、一番の問題は学校。ハンカチで目頭を押さえながら、
「もう、保護者面談で何回も言われたんです。性同一性障害じゃないですかって!」
お医者さん、さすがに驚いて。
「え!そんなこと言われますか?・・・ユウちゃんはまだ、十二歳でしょ?そんな結論を出すのは早すぎますよ。思春期って、誰でも多少、揺れるものです。ジャージでなら学校に行けるならいいじゃないですか。学校の先生のことはともかく、今は、ユウちゃんを温かく見守りましょうよ。」

 

時は管理教育「この時代を」第7章 真夏の子どもたち その10

2014-12-01 19:47:45 | 時は管理教育「この時代を」
 深夜。三日ぶりの自室のベッドで、まだ寝付けないマコト。おじいちゃん、おばあちゃん・・・
『そう!うまくいってるんじゃない!』
『よかったよかった。大したものじゃないか。』
『秋の文化祭はぜひとも行きたいわ。吹奏楽部での活躍、見せてほしいもの。』
どうしよう・・・壁側に寝返り。
 お母さんもお父さんも、学校の先生も、皆、私は学校でうまくやっていると思ってる。校則はきちんと守ってるし、一学期の成績も。でも私、中学なんか何も楽しいと思ってない。今は夏休みだけど、何も救われてない。吹奏楽部・・・私、何も悪いことしてないじゃない。それなのに始めから。
『アハハハハ。』
私は、そこにいないみたいに。楽譜なんか、一回も私のところに回ってきたことない。だから、演奏する曲なんて・・・どうしよう・・・文化祭におじいちゃん、おばあちゃんが来たら・・・どうしよう・・・
 次の日。ピンポン!
「こんにちは!お邪魔します!」
約束の時間通り、ユウちゃんとキョウコちゃんがやってきた。
「あらあら、こんにちは!久しぶりね!」
いつもキョウコちゃんの家に集まるから、うちのマンションに集まるのは、かなり久しぶりだと思う。中学に入ってからは初めてじゃないかな?
「あ!マコトちゃん、私服姿!めちゃくちゃ久しぶりじゃない!」
指さし、声をあげるユウに合わせて、キョウコ、
「本当だ!中学入ってから、制服しか見てない!」
「当ったり前じゃない?校則で決まってるわよ。」
ムッとなるユウを、落ち着かせるキョウコ。
 皆、本当に大きくなったわ。よそのお子さんを見ると本当にそう思う。
「お母さん、お茶持っていくね!」
「はいはい。ほら、お菓子も!」
本当にいいお嬢さんだもん、マコトも、どんどんいい影響受けてほしいわ。
「そうだ、忘れないうちに、二人にお土産!」
「わー、かわいい!ありがとう!」
うちも、来週から田舎に行くんだ。そうなんだ!うちも。
「そうそう、宿題やってる?ちょっとわからないところあるんだけどさ。」
「え?どこ?教えてあげるよ。」