チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「ロストジェネレーション」第1章 二十世紀の終焉 その5

2009-03-24 22:13:01 | 就職氷河期「ロストジェネレーション」
アスカ、大丈夫かな?
ヒカルにとって
この間の食事の時に言われた言葉以上に
気になるのは、アスカの顔色だった。

いつも強気で、前向きで・・・。
私なんかぐいぐい引っ張って行っちゃうぐらいなのに。
メールだって、こっちが送ったら、いつもきちっと長い文章で
返してくれたのに、最近は、「了解!」ぐらいの
単語で終わっている。

でも、アスカは何回か面接行ってるって言ってたよね。
それに引き替え私は、いくらエントリーしても、面接にすら届かない。
あーあ。どうなるんだろう?
考えたら、卒論の提出期限まで、二ヶ月しかないじゃない。

今日はアスカは大学に来ないので、ヒカルは一人、
食堂で昼食を取っていた。

近隣の学生の話が、否応なしに耳に入ってくる。
「ねえ、何社ぐらい回った?」
「うーん。六十社ぐらいかな?」
「あーあ。厳しいね。あ、そうそう。うちのサークルの子がね、
就職諦めたってさ。」
「えー!どうして?あの子、結構面接行ってたでしょ?」
「どうやら、面接でセクハラにあったらしいのよ。」
「うわー。嫌だね。」
「で、彼女、泣いてた。もう就職活動はしないって。」

話を聞いているうちに、ヒカルは血の気が引いてきた。
面接に呼ばれても、呼ばれなくても地獄。
もう、諦めるしかないのだろうか・・・。

家に帰って、郵便受けを見ると、
また履歴書が返ってきていた。
どうして?いったい何がいけないの?
がっくりと肩を落として、家に入った。

「ただいま。また、履歴書帰ってきた。」
力なく言うヒカルに、お母さんは
「そう・・・残念だったわね。」
と、同情的に、慰めるように言ってくれたけど、
その直後に厳しい口調で話を始めた。

「で、ヒカルみたいな、いい学校の子がどうしてダメなのかしらね?
まさか、あなた、いい加減な事書いているんじゃないでしょうね?」

この言葉に、ヒカルは驚いて反論した。
「そんな事していないわよ!」
「それなら、どうして面接にも行けないの!
ひょっとしたら、あなた、本当は成績悪いんじゃないの?」
「どうして!全部優で通っているわよ!」

こんなやり取りから、今日はとんでもない言い争いに発展してしまった。
夕食の時間を忘れ、お母さんの、まるで人格を否定するような発言に
ヒカルは力任せで反論して行く。

傷つき、疲弊したところに、お父さんが帰ってきた。
「おい、どうしたんだ!」
「あ、お父さん、ヒカルの就職の事よ。履歴書がまた帰ってきたのよ!」

「ふーん。厳しいご時世だとは聞いていたけどね。」
「ちょっとあなた!あなたから何とかアドバイスしてやってよ!
あなたの周りの若い人たちは、どうされているの!」

「理系の子ばかりだからな。俺は文系の就職は知らない。
ヒカルも二十歳を過ぎているのだから。
もう大人なんだから、自分で考えるだろう!」
お父さんはむっとして、自分の部屋に引き揚げていった。

「もう!男の人って肝心なところで役に立たないわね!
ま、いいわ。ヒカル。これから履歴書出すときは、私がチェックするわ。
何としても、仕事にありつかないと。」

この言葉を聞いた瞬間、ヒカルは真っ青になった。












2 コメント

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うーん (INF)
2009-03-28 22:47:30
世間体がすごく気になる母親なのでしょうかね。
やる気をなくさせるような言動は、いやですね
親の気持ち (チコ)
2009-03-29 22:43:56
>ケンさん

親の気持ち・・・それは、親にならないとわからないものかもしれませんね。

自立してほしい気持ち、まだ離したくない気持ち。
なかなか難しいと思います。

さーて、どうなる事やら?!

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