チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その40

2012-08-27 19:56:11 | 福祉の現場から「希望の樹」
 お昼御飯も順次終わって、連絡帳の記入もぼちぼち。
「あ、すみません、タマキさん。来週火曜日の五時から会議がありますのでよろしくお願いします。」
「はい、ありがとうござます。」
「では、次、一緒に休憩行きましょうか。」
今日はサカタニさんとペアだ。
 休憩室。
「わー、かなり蒸し暑いですね。」
「そうですね、エアコン入れましょう。」
ピ!
「ありがとうございます、お疲れさまでした。」
「お疲れさまでした!」
どんな職場でもそうだけど、休憩時間って物凄く貴重で、いい時間だよな。ここには、嫌な人もいないし。こうしてペアで休憩するから、割と内緒の話でもできちゃう。 
 天井を仰いだまま、サカタニさんが口を開く。
「この時期、調理の人も大変ですよね。」
そうですね!
「ね!湿度が高いと、食中毒の問題が。」
そうそう、梅雨の時期から危ないんだよね。今日の調理は、ヒロノさん・・・
「すごく神経使ってられるでしょうね。何せ、抵抗力のない人達に食べさせるわけじゃないですか。」
「そうですよね。私もね、ちゃんと調理師の資格のある人を雇うべきだって言ってるんですけどね。」
私もそう思う。やっぱり、知識も経験もある人でないと。
「所長はね、お金をケチってしんどくさせてるだけなんです。」
 随分ストレートに言うんだな。でも、確かに、もう少しお金を出してくれたら、うんと楽になる事は多いと思う。
「今度の会議も、やっぱりアカリちゃんの事でしょうかね?」
「そう思いますよ。」
だけど、本当にどうして?いくら聞いても納得できないよ。
「タマキさん、アカリちゃんってどうです?支援のやり易さとして。」
うーん。
「どちらかというと、やり易い人だと思います。」
だって、自傷があるわけでも、他傷があるわけでもない。勝手に動き回って施設を出て行く事もしないし。むしろ、自分の世界を自由に楽しんで過ごしているだけなんだと思う。
「なんかもう、気の毒に思えるんです。自分の幸せを満喫してるのに、何もわかってない他人に勝手にいじくりまわされてるみたいで。」
 どうしよう・・・脳裏に、嫌な風景がフラッシュバックした。反対側に寝返って、ギュッと目を閉じる。アカリちゃんにもっと手間をかけたいのか、手がかかるから楽にやれるようにしようって思ってるのか。
「施設としての、集団活動の輪に入れようとは思ってないみたいですけどね。」
確かに、こういう支援の仕事をしてる人なら、それは思ってないだろう。診断がなくても、アカリちゃんを自閉症だと思ってるとしたら。


 


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