チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「ロストジェネレーション」第8章 より良い選択を その36

2010-11-19 11:13:01 | 就職氷河期「ロストジェネレーション」
事が事だけに、仕方ないんだけど、
会った事もない事務局長にまで・・・
波紋は、どこまでも大きく広がっていく。

結局、家族には本当の事を打ち明けられず。
その代替策として、
ヒカルは所内の健康保健センターで受診するように
命じられた。

本当は精神科に行くように言われたんだけど、
以前のトラウマもあり・・・
センターにも、定期的に精神科医が来ているので、
その日に予約を入れて受診するように言われたのだ。

結果、シロ。
「疲れたんでしょう。」
というのが、医師の見解だ。

その後、しばらく、所長からの音信も途絶え。
知らないところで、どんな話が進んでいるのか。
気が気でないまま過ごす、そんなある日。

プルルルル!
「ヒカルさん、所長からお電話です。お昼から
研究所に来てください、という事です。」

午後。電車の時間に合わせて昼食を済ませる。
この本部から研究所は大体一時間位。
ヒカルは電車と不安に揺られて過ごす、その時間。

あ、ここだ。
降車。改札を出てさらに行くと、
研究所の敷地。懐かしい建物、所長に指定された部屋を目指す。

コンコン!恐る恐るノックすると、
「どうぞ。」
ドアの向こうには所長。

神妙な顔のまま、すすめられた席にかけるヒカルに、
静かに話し始めた。

「お疲れさん。あれから事務局長と交渉したけど、
向こうはノーの一点張りでな。
僕のところに帰って来てもらおうかと思ったけど、
こちらも体制を変えたし・・・そこで、君には
客員のウエダ先生の所へ行ってもらおうと思う。」

よかった!何とかクビはつなげてもらえた!
「あ、ありがとうございます。」
丁寧に頭を下げるヒカルに、所長は
「ウエダ先生は良く知っているだろう?そこで秘書として働いてくれたらいい。
ただし、今年度いっぱいになるけどな。」

「・・・わかりました。やっぱり、ここでずっとお仕事させていただく事は
できないですか?」
厚かましいと思いつつ、すがる思いで尋ねてみるけど、
「それは難しいと思うよ。」

再びうなだれるヒカル。所長は
「早速で悪いけど、行こうか。」
と、それに構わずウエダ先生の部屋へ引率した。

ウエダ先生の部屋は、敷地のかなり奥にある。
歩いて歩いて、さらに歩いて・・・
「ここだ。・・・ウエダ先生!」
ノックの音にこたえて、この部屋の主が出てきた。

「あ、所長。お待ちしていました。ヒカルさんですね。」
挨拶もそこそこに、
「空いている机があるから、それを君の席にしよう。」
早速三人でセッティングを始める。

「・・・よし。では、明日午前中は向こうを片づけて、
午後からこちらへ来てもらおうか。」
心配するな、という顔の所長。それに、ウエダ先生が続けた。

「ヒカルさん、要するにいじめられたんだな。
心配しなくていい。ここは二人だけだから、
私の事も気楽に思ってくれたらいい。」

優しい言葉に、潤む視界。
「ありがとうございます!」
ヒカルは深々と頭を下げた。