個人投資を促すための投資初心者向け少額投資非課税制度、NISA(日本版ISA)が1月よりスタートし、銀行や証券会社各社は新規顧客獲得に向け、積極的に営業活動を展開。4月8日付日本経済新聞によれば、NISA開始後3カ月でNISA口座を介した株式や投資信託の購入額は5000億円に上ったという。また、テレビでは消費者金融のキャッシングやカードローンなどのCMが数多く流され、それらを利用することへの抵抗感はますます弱まりつつある。しかし、こうした金融商品への投資や消費者金融の利用にはリスクを伴うため、「個人投資」「資産運用」がクローズアップされる今、「正しいお金の知識」を身につける必要性が高まっているといえよう。
そこで今回は、三井住友銀行元支店長で、現在はアパート6棟とカフェ「SUGER COFFEE」(東京・田園調布)のオーナーを務め、3月に『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム)を上梓した菅井敏之氏に、普通のサラリーマンがリスクを負わないでお金を貯めるための基礎知識を聞いた。
--消費者金融が広く普及し、利用することへの敷居がますます低くなってきていますが、こうした傾向をどのように思われますか?
菅井敏之氏(以下、菅井) 若い社会人たちが平気でカードローンを組んだり、カードキャッシングを利用していますし、私にアパート経営の相談に来る方々の中には、1000万円の預金もないのに「どうすれば銀行でフルローンを組めるのか?」と質問する方も多いです。自己資金が1000万円以下の人はアパートを購入してはいけないのに、一攫千金を夢見て購入しようとしているのです。家庭や学校で教わらなかったために、お金の常識を知らないことが大きな原因になっています。
さらに、テレビでは有名タレントを起用したカードキャッシングのCMが数多く放送され、街中に消費者金融の大きな宣伝看板が設置されています。以前なら有名タレントが消費者金融のCMに登場することはなかったと思います。明らかに世の中が狂っていて、非常にまずい状況ですが、もちろんCMを中止させることはできません。こうした危機感から、正しい金融の知識をお伝えする目的で本書を執筆しました。
--本書では、メガバンク(都市銀行)の支店長を2店舗歴任されたキャリアから、貸し手の論理についてわかりやすく書かれていますね。
菅井 個人にとってはメガバンクよりも信用金庫を利用したほうがよいということなどを、26年間お世話になったメガバンクの手口を説明しながら書くのですから、本書の執筆に際しては葛藤がありました。しかし、知っていて社会に伝えないことは卑怯ではないのか。そう判断して、本書の執筆に至りました。
--個人利用の場合、なぜ信用金庫との取引のほうがよいのでしょうか?
菅井 社会人にとって20歳から50歳までの30年間が第1ステージで、50歳から80歳までの30年間が第2ステージです。50歳を過ぎたサラリーマンが、年金収入だけでは足りないので定年退職以降も働き続けることを想定した場合、他人に雇われ続けることを考えると気分が暗くなってしまうものです。コーヒーが好きなら喫茶店を開くなど、自分が本当にやりたいことに取り組む人生を目指すのが望ましいと思いますが、開業資金をメガバンクから融資してもらおうと思っても、個人の開業ではメガバンクに相手にしてもらえません。
そこで頼りになるのは信用金庫です。信用金庫は地域のネットワークが太く、いろいろな人を紹介してくれますし、担当者の異動が一定のエリア内なので、担当者が替わっても関係がスムーズに引き継がれます。だから、若い時から信用金庫に毎月積み立てをして、“信頼残高”を高めておくことをお勧めしています。
●売りたくない商品を売る銀行員
--本書には「預金者の資産は銀行の負債で、銀行の資産は預金者の負債」という記述がありますが、この現実を一般の人々は理解できていないように思えます。
菅井 銀行が預金者の資産形成を考えているなら、カードローンを販売するはずがありません。積立預金を販売すべきですが、国の低金利政策以降、積立預金は利息が発生するだけで儲からないので、積極的に販売しなくなりました。
しかし銀行にはキャンペーン商品の販売ノルマがあって、毎日、支店には前日の支店別の販売成績ランキングが届きます。投資信託などは販売手数料と信託報酬という二重のコストがお客様にかかるので、本当は売りたくないと思っている銀行員がたくさんいます。
銀行員には真面目な性格の人が多く、相当なストレスを抱えてしまう。カードローンなどはお客様の負債になることがわかっていても、自分の部下を昇進させたり、ボーナスを増やしてあげるには売らなければならないのが銀行の現実です。
--銀行が主催する投資セミナーには、男女問わず会社勤めをしている人々が数多く参加していますが、普段仕事をしながら株などの投資を行うことは勧められますか?
菅井 会社勤務の人は、株やFXなどの相場に手を出すべきではありません。株やFXはパチンコと同じであり、勤務時間中に相場をチェックすることは、勤務時間中にパチンコを打っているようなものです。
私は銀行員時代に多くの投資家を見てきましたが、株で儲けた人はひとりもいませんでした。ある銘柄で儲かっても、その儲けを別の銘柄に注ぎ込んでしまう。そしてやめられなくなって、必ずどこかでつまずいてしまうのです。私が見てきた投資家たちの場合、トータルの収支は全員が赤字でした。
新入行員時代、ある上場企業の役員夫人はさまざまな株式銘柄を売買されていて、私は毎月4万円の積立預金を受け取りに訪問していました。訪問を開始して2年が経過した頃に彼女から「菅井さん、積立預金がいちばん良かった。これだけにしておけばよかった」と、しみじみ言われました。印象深かったですね。
--金融商品を購入する場合、儲けるのではなく損をしないことを最優先すべきということでしょうか。
菅井 その通りです。投資以前に収入マイナス支出が常にプラスであることが、幸せにつながることに気づくべきです。銀行や証券会社などが開催する投資セミナーで説明される内容はあくまで売り手の論理であり、大手金融機関だからといって売り手のセールストークを鵜呑みにしてはいけません。それより、見栄を満たすための無駄な支出をカットし、地道に毎月3万円でも4万円でも積み立てたほうが、確実に幸せになります。
●銀行や信用金庫が信頼する人とは?
--銀行は住宅ローンなどの個人ローンの与信について、判断はどのように行っているのでしょうか?
菅井 堅実な人であれば年収の2割を貯蓄できるというのが銀行の見解です。仮に年収400万円なら80万円を貯蓄できるはずで、この水準の年収が10年続けば800万円が貯まっていなければなりません。住宅ローンの頭金や子供の入学費用など一時的な出費を差し引いても、年収に応じて、保有しているべき金融資産の額の水準があるのです。計画的に貯蓄できない人は信用されません。例えば共稼ぎで子供がいなくて、家が賃貸なのに、40歳になっても貯金がほとんどないとしたら、どれほどの浪費家なのかと判断されてしまいます。
--お金の使い方が、明らかに間違っているわけですね。
菅井 車が好きで車は人生そのものという人や、子供を有名私立小学校に入れてあげたいと思う人が、そのためにお金を使うのなら、他の支出を減らしてバランスを取らなければなりません。ところが有名私立小学校に入れると、見栄を張るために高額な自宅に引っ越したり、車を高級車に買い替えたりする人が少なくないのです。やがて行き詰まってしまいます。信用金庫はメガバンク以上に人物をしっかり見ています。お金の管理がしっかりしているかどうかで、信用できる人かどうかを判断しているのです。
--人生最大の買い物といわれる住宅の購入に当たり、守るべき鉄則はなんでしょうか?
菅井 住宅購入は不動産投資であるという認識を持つことです。不動産投資であれば、貸しやすい物件かどうか、売却しやすい物件かどうかを判断して購入しなければなりません。最悪の購入パターンは、郊外の戸建住宅です。
郊外にあって最寄り駅からバスで通うような立地にある住宅に、借り手がつくでしょうか? 購入価格から大幅に削減されない価格で売却できるでしょうか? 条件の良い物件ならば、現金が必要になった時に賃貸や売却に回せます。憧れの生活シーンに惑わされながら住宅購入を考えると、投資価値のない物件を選んでしまうのです。出口を考えて購入することが基本です。
--ところで、菅井さんは48歳で独立され、現在はアパート経営やカフェ経営をなされていますが、独立されたきっかけは、なんだったのでしょうか?
菅井 50歳までには独立しようと考えていましたが、三井住友銀行の金沢八景支店長に就任していた時、幸せそうな人を10人見たことが、今の事業のきっかけになりました。10人に共通していたのは、お金と時間から自由であるという点で、そのうち8人がアパート経営などで不労所得を得ていました。たとえ1億円の預金を持っていても、毎月の収入がない高齢者などは幸せそうに見えませんでしたが、預金がさほどの額でない方でも、不労所得で元気に暮らしていましたね。この10人を見て、不動産事業に関心を持っていたことから、土曜日と日曜日はアパート経営の準備に費やしました。
ぜひ皆さんにも、正しいお金の常識を身につけ、幸せな人生を送っていただきたいと思います。
--ありがとうございました。
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