ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

経済危機を防ぐカギは、女性が握っている。

2011-03-19 20:16:14 | 社会
さまざまな人権団体から、企業経営など決定権のある立場で活躍する女性が少な過ぎると指摘されているフランス。女性に優しいフランス男性・・・そんなイメージが日本では一般的に浸透していますが、聞くと見るとでは大違い。女性が出世の階段を上るのは男性とは比較にならないほど困難なようですし、同じ職種でも給与に歴然たる男女格差が存在しています。

一見女性に優しいが、肝心なところではフリーハンドを認めないフランス男性。そうした男性の一人なのかどうかは分かりませんが、ラフィック・スマティ(Rafik Smati)という作家が、3月8日の「国際女性デー」に合わせて、金融財政の分野で決定権を持つ女性が増えれば、経済危機も回避できるのではないか・・・という記事を書いていました。ちょっと昔、7日の『ル・モンド』(電子版)です。女性なら、どのように経済危機を回避できるのでしょう・・・

経済界における女性の立場は、国民的関心事だ。「国際女性デー」(la Journée Internationale des Droits de la Femme)の日に、女性資本主義(un capitalisme féminin)についての議論を深めるのは、まさに時宜を得たものと言えよう。トレーディング・ルームで働いているトレーダーたちのほぼ全員が男性であることは周知の事実だ。そこで、次のような疑問が生じた。もしトレーダーたちが女性だったら、私たちが経験している経済危機は同じように起きたのだろうか。たぶん、起きなかったのではないか。

まずは、現状を示すデータから。イギリス企業において、財務上の決定権を持つ女性はわずか17%であり、銀行や保険業界では経営陣に2.5%の女性しかいない。さらに印象的なのは、アイスランドだ。財政破綻に追い込まれたこの国は、銀行のトップに僅か一人の女性しかいなかった。その女性経営者も2006年にそのポストを追われた。

ケンブリッジ大学の研究者たちは、更に詳しく調べている。研究チームによると、女性たちは金融界、そしてそこで働く男たちの理不尽な振る舞いに愛想を尽かしているが、そのあきれ返る行動には、男性ホルモンの「テストステロン」が影響しているというのだ。

研究者たちはまず、トレーダーたちの唾液を採取し、テストステロンの含有量を調べた。その結果は実に示唆に富んだものだ。リスクを伴う取引のある日や、大きな儲けのあった日にはテストステロンの含有量が異常に増えているのだ。しかし、その因果関係は簡単には断定できない。リスクを取ることによってテストステロンが増えるのか、あるいはテストステロンが原因でリスクを積極的に負うことになるのか。両者がお互いに刺激しあって増加するのは間違いないようだ。従って、経済バブルは、ある意味、テストステロンの増加とリスクを取る行為が相俟って起きるのだと言える。

ここに、資本主義の危機の重要な点があるのは間違いないだろう。世界の経済は大部分が男性によって支配されているのだから。男性ホルモンであるテストステロンをもはや占領、戦争、狩猟などで使えなくなった男性が、そのはけ口をつねにリスクと隣り合っている株取引を中心とした金融界という新たな分野に見出しているのだ。

テストステロンの影響で人はリスクを取ったり利益を上げたりするが、そのリスクや利益は興奮や大いなる喜びをもたらす。そしてこの喜びによってテストステロンの分泌量がさらに増える。増えたテストステロンは人をさらに大きなリスクへと導いて行く。このようにして、トレーダーたちはリスクとテストステロンのスパイラル状態に陥るのであり、その結果が金融バブルを大きく膨らますことになる。

では、女性の資本主義とはどのようなものなのか。それは多分、より平和な資本主義とでも言えよう。短期ではなく長期の視点に立った資本主義、資金の限度をわきまえた資本主義、教育の重要性を認めた資本主義、より真面目で、より慎重な資本主義だ。

では、トレーディング・ルームや企業の役員会に女性の割当数を決めるべきなのだろうか。私は、長年「アファーマティブ・プラン」には反対だったのだが、それはいかなるものであろうと差別には不平等の芽が見て取れるからだ。しかし、テストステロンを豊富に持つ男性ばかりが集まるとやがて危機に至ることが分かった。

男性に偏ると危機を引き起こすことはトレーディング・ルームだけではなく、大企業の役員会でも見られる。役員のわずか9%しか女性がいないのだ。そこで、社員数1,000人以上の企業において、女性役員の割合を徐々に20%に増やし、やがて40%にまで上昇させる方法が理解されるようになってきている。実際、ノルウェーなどいくつかの国々では、すでに実施に移されている。

役員会は企業の決定機関であり、そこでは戦略が練られ、長期計画が決定される。明らかに、役員会に女性が増えることは企業経営とその将来に根本的な影響を与えることになる。従って、新興市場とはブラジル、ロシア、インド、中国ではなく、それは「女性」なのだ。これから先30年における経済システムの進展に女性が及ぼす影響力は容易に推し量ることができるであろう。

・・・とうことで、女性が経営陣や金融界に増えれば、長期的な視点に立った、穏やかな金融活動が行われ、バブルが膨らんだり、行き過ぎた投機が減ったりすることが期待できるようです。

そうですか、男性ホルモンが新たな闘争の場を株取引を中心とした金融活動の場に見出したことが、金融バブルの背景にあったとは・・・これはやはり女性ホルモンで中和しないといけないのではないでしょうか。しかし、あくまで、中和です。

今から25年ほど昔、「女の時代」という広告コピーに踊らされて、多くの企業に女性だけのチームができたり、中には女性だけの子会社まで作った企業もありました。しかし、これはおかしいと思っていました。男性だけのチームに弊害があるのなら、女性だけのチームにも、その種類は違うにせよ、やはり弊害があるのではないか。そんなことを言った記憶があるのですが、鼻先で笑われてしまいました。君、今は女性の時代なんだよ!

しかし、今でも、この世に女性と男性がいるのですから、それぞれの視点を生かした複眼のチームを作るべきなのではないかと思っています。その点、あまりにも少ない女性役員を40%まで増やそうというヨーロッパの試みには大賛成です。男性だけが問題なら、女性だけにも問題があるのではないでしょうか。両者の視点、意見を組み合わせる努力をすべきなのではないでしょうか。極端から極端に走るのは簡単ですが、どうか、その中間で止まって、新たな一歩を模索する努力をすべきなのではないでしょうか。そう思っています。
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名もなき人々のお陰で、私たちの国が、暮らしが支えられている。

2011-03-18 20:26:58 | 社会
東北関東大震災の発生から1週間。フィギュア・スケートの世界選手権やサッカー日本代表の試合は中止や延期、あるいは被災者へエールを送るチャリティ・マッチになり、春の選抜も一時中止が検討されました(最終的に開催が決定)。一方、CMはACジャパン(Advertising Council Japan:旧公共広告機構)の公共広告が大半を占めてはいますが、それでも民放は通常の放送スケジュールに戻りつつあります。そして、プロ野球セ・リーグは3月25日に予定通り開幕するそうです。

3月25日には本来、フィギュアの世界選手権が東京で開催され、サッカー日本代表の対モンテネグロ戦もあり、いくら開幕試合と言えども、巨人戦の視聴率は惨憺たるものになるのではないかと言われていました。それがフィギュアもサッカーも中止。このチャンスを見逃す手はない、と思ったのでしょうか。何しろ、25日の開幕に固執したのが読売新聞・日本テレビ・スポーツ報知(巨人)であり、それを支持したのが中日新聞・中日スポーツ(中日)。TBS(横浜)も支持しているのでしょう。視聴率と新聞の売り上げが第一。最近、良いスポーツ・コンテンツがないんだよね~。計画停電が続いている可能性もあるが、どんなに電力を消費しようとやってしまえ。ツタヤ社員のツイッターと同じレベルです。

こうした日本のマスコミの動きに対し、フランスのジャーナリズムは、今でも多くの時間やスペースを日本の災害、特に福島第一原発での状況報道に割いています。16日の『ル・モンド』(電子版)が伝えていたのは、福島原発の災害現場で作業の任に当たっている方々の被曝への危惧・・・

いったい何人いるのだろうか? 日本政府の発表を聞いて、アメリカのメディアは「フクシマ・フィフティーズ」(仏語では“les cinquante de Fukushima”)と名付けている。イギリスのガーディアン紙は70人と推測しているが、ついに当事者の東京電力が170人と発表した。

まず最初に思いを馳せたのは、原発内で業務を遂行している作業員たちの孤独感だ。16日(水曜日)になって初めて、自衛隊のヘリコプターが上手くはいかなかったが原子炉を冷却しようと飛来し、警察や消防庁の放水車の使用が検討された。福島原発で働いていた800人の大部分は放射線量が増加した15日(火曜日)に避難し、日本の命運は現場に残ったごくわずかな東電社員と下請け会社の作業員に託されることになった。この事態に菅首相は東電への怒りをあらわにするとともに、現場に残った人々への称賛を表明した。その後、ニューヨーク・タイムズによると、現場で作業に携わる人数は次第に増えてきている。

現場にいる人たちの役割は? 津波によって原子炉の冷却装置が破壊されてしまった。そのため、海水を汲み上げ、タンクローリー車で運び、原子炉に注水する必要がある。また、原子炉内の圧力を下げるために制水弁を手動で操作する必要もある。そのため、隣接する別の建物に退避することができないのだ。作業員たちは、放射能に汚染された塵灰を吸い込んだり触れたりしないように、全身を覆う防護服を着、酸素ボンベを背負っていることだろう。

しかし、少なくとも一つの原子炉が野ざらし状態になって放射能を吐き散らしている状態では、放射能汚染から逃れることはできない。このように、独立放射能研究委員会(la Commission de recherche indépendante sur la radioactivité)のデボルド委員長(Roland Desbordes)は述べている。また、原子力安全委員会(l’Agence de sûreté nucléaire:ASN)・緊急事態担当のコレット理事(Julien Collet)は、放射能を浴びる危険を考慮に入れれば、東電はおそらく作業員を原発の中心部分へ向かわせるものの、可及的速やかに任務を終え退避するよう指示するものと思われる、と述べている。福島第一原発のコントロール室も15日(火曜日)時点で、もはや十分な避難場所ではなくなっており、技術者たちも避難せざるを得なかった。

15日(火曜日)と16日(水曜日)には、放射線量が400ミリシーベルトに達したため、短時間ではあったが全員が避難を行った。作業員が原発の事故現場に1時間滞在すれば、認められた量以上の放射線を浴びることになる。フランス原子力安全防護研究所(l’institut de radioprotection et de sûreté nucléaire français:IRSN)のビュジン所長(Agnès Buzyn)は、「放射線量を考えれば、作業員を現場に留め置いていることが問題となる可能性がある。放射能は汚染のレベルにまで達しており、作業員たちがどこまで持ちこたえられるか非常に心配だ」と、語っている。

独立放射能研究情報委員会(la Commission de recherche et d’information indépendantes sur la radioactivité:Criirad)は、致死量になる可能性があると指摘している。

しかし、作業員が浴びている放射線量については詳細が発表になっていない。国際原子力機関(IAEA:仏語ではAIEA)は原発近くにいる150人に対する放射能検査を実施し、23人に放射能除去を行ったと発表しているが、現場にいる作業員が含まれているのかどうか、詳細は語られていない。

従業員の犠牲を差し引くことは不可能だ。ニューヨーク・タイムズによれば、東電は社員、下請け社員併せて5人が死亡し、2人が行方不明、22人が負傷したと認めているという。しかし、東電の発表した英文のコミュニケではかなり少ない数字になっている。地震の際にクレーン操縦者が一人亡くなり、14日(月曜日)の第1原子炉の爆発で下請け社員2名を含む4名が負傷し、第3原子炉の爆発では下請け社員2名を含む6名が負傷した、となっている。

日本に住むあるフランス人は、フランスのメディアに次のように語っている。私の妻(日本人)の叔父が福島原発で働いている。その叔父が送ってきたメールは、別れの挨拶のようだった。

・・・ということで、現在進行形の危機的状況は、無名の、それも多くはない人々によって辛うじて持ちこたえられているわけです。当初50人と発表された、事故現場に踏みとどまり、任務に当たっている人々を、世界のメディアが称賛しています。「フクシマ・フィフティーズ」。“faceless 50”(無名の50人)。あるいは「50人の決死隊」。中には、カミカゼ的行為というものもありましたが。

それに対し、日本政府が行ったことは、厚労省と経産省は作業員の被曝線量の上限を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げた。さらに長い時間作業できることで作業効率を高めるためだ・・・事の重大さは十分に認識しているつもりですが、それでも、被曝の可能性のある事故現場で働く人々に「作業効率」を求めるのはいかがなものでしょうか。名もなき現場作業員の命より、いかに効率的に危機的状況を脱するかのほうが大切・・・

50人を支援するために、後から現場へ向かった方々の中には、死刑宣告を受けたようなものだ、と家族に言い残し、それでも逃げずに現場に赴いた方もいたようです。そうした名前も顔も分からない方々のお陰で、この国が、そして私たちの暮らしが、今、支えられています。
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『ル・モンド』、東京電力を叱る!

2011-03-17 20:12:57 | 経済・ビジネス
東北関東大震災は、今でも多くの避難者の皆さんに大変な苦労を強いています。ガソリンがない、灯油がない、水がない、食糧がない、薬がない、着替えがない、トイレが使えない・・・避難先で亡くなる方も出始めている逼迫した状況の中で、もう一つ大きな問題が同時進行で進んでいます。言うまでもなく、福島原子力発電所での事故。

日本政府は20km以内の人には避難指示、20~30kmの範囲では屋内退避要請を出していますが、アメリカ政府は福島原発から80km以内に居住している自国民に退避を勧告。それどころか、フランス、スイス、オーストリアなど多くの国々が、日本にいる自国民に、日本から出国するか、日本国内でも南(西日本)へ退避するよう勧告しています。

こうした勧告はジャーナリストにも適応されるようで、France2もTF1も、16日夜のニュースから特派員が東京ではなく大阪から状況を伝えていました。東京も危ない!

この危機感は、日本人の一部も共有しているようで、フランスのニュース番組が、お父さんは仕事で東京を離れられないが、幼い子供たちへの放射能の影響を恐れて、お母さんと小さな子どもたちだけで大阪など西日本へ向かっている様子を紹介していました。新幹線は満席でした。

どうしてこんなに長引いているのだ、対応が遅いじゃないか、本当に大丈夫なのか・・・国民のイライラ、政府や東京電力への不満は募るばかりですが、『ル・モンド』東京特派員のPhilippe Mesmer(フィリップ・メスメール氏:NHKのフランス語ニュースを読んだり、声優などとしても活躍中)が、16日の記事(電子版)で東電への非難の声を上げています。タイトルは、“Tepco, une enterprise trop sûre d’elle-même”(東京電力、自己過信に満ちた企業)・・・

日本が直面している壊滅的な原発事故は、福島原発を管理運営している東京電力への疑いの眼差しを生じさせている。東電は世界第4位の電力会社で、電力産業の民営化に伴い1951年に誕生した。現在1都8県に電力を供給しており、ニューヨークとロンドンにもオフィスを構えている。2009年度、東電は2,860万の契約者に29万187ギガワットの電力を供給し、400億ユーロ(約4兆8,000億円)の売り上げを上げている。

この影響力の大きな会社は、その質の良いサービス、特に日本の他の電力会社9社よりも優れたサービスを提供していることをうたい文句にしている。その質は、効率性、特に停電が世界でも最も少ない電力会社のひとつであることによって裏付けられている。この信頼感は、技術者にとって大きな魅力であり、最も優れた技術者たちが東電で働くことを望んでいる。

この素晴らしい好循環が、実は欠点となっている。東電は重大な事故が起きると、対応が取れなくなってしまうのだ。今回の福島第一原発で起きている事故への対応が、残念ながらその典型的な事例となっている。東電は、先週土曜日(12日)、最初の事故が起きるや示されたアメリカと国際原子力機関(IAEA:仏語ではAIEA、l’Agence international de l’énergie atomique)からの支援の申し出を断っている。また、繰り返し起きている事故の発表も遅れたうえに、分かりにくい内容で、多くの質問に答えることさえしなかった。そのことがついに政府の直接的介入となった。

15日(火曜日)朝、菅首相は東電の本社へ赴き、経営陣とかなりぎすぎすした打ち合わせを行ったようだ。「爆発がテレビの画面に映し出されてから政府に連絡があるまで1時間以上もかかったとは何たることだ」。

菅首相はまた、原発の事故現場から社員の大部分を引き上げ、対応を子会社に任せようとした東電の対応を、次のように激しく非難したようだ。「あなたたちがこの問題に直面しているのだ。現場を離れるなど、もってのほか。起こりうることすべてに対応すべきだ。今この状況で引き上げたら、東電は最後を迎えることになる」。

菅首相の怒りに先立ち、14日(月曜日)、東電の清水正孝社長が会見を開いたが、すぐさま批判の対象となった。最初の事故から29時間も経ってからの初めての会見であり、週末の間、東電幹部たちは多くの質問に異口同音に次のように答えるだけだった。「状況について調査を続けています」。

東電にとってコミュニケーションのまずさはこれが初めてではない。習慣的であるとすら言える。2002年には、過去20年の間に200以上ものうその報告をしていたことが政府の調査で明らかになり、経営陣が辞職した。2007年には、原子力安全保安院(NISA)によって、1978年から2002年の間に97件もの火災が発生しており、そのうちの19件は非常に重大な火災であったにもかかわらず、政府に報告がなされなかったことが公表された。この件数は電力会社10社の総件数だが、東電が最も大きな非難の対象となった。

規律違反を是正するようにという繰り返しの要請にもかかわらず、東電の体質は変わらなかった。2007年11月には、柏崎刈羽原発での火災と放射能漏れに関する正確な報告が遅かったことが批判された。この透明性の欠如は、住民に大きな不安を与え、運転再開まで21カ月も要することになった。

そして今回、多くの日本人にとって受け入れがたい対応は、東電に対して残っていた僅かばかりの信用をも失わせることになるかもしれない。

・・・ということで、エリート社員、エリート企業による問題隠しが指摘されています。民間企業となって60年。とは言うものの、社会的インフラ、ライフラインを担う企業であり、公共性が強いだけに「お上的体質」が抜けず、ガラス張りの運営・対応ができなのかもしれません。

電力や原子力発電について、自分たちより詳しい人間はいない、だから少々のことは隠し立てしても明らかになることはない。つまり、臭いものに蓋。そのような体質を持つ企業なのでしょう。社員も、新入社員のときはまったく違っていたとしても、いつの間にか社風に染まるものです。人間は強い人ばかりではない。やがては立派な東電マンとなって、問題をいかに上手に隠すかということに、せっかくの才能・知識・経験を使うようになってしまう・・・ご本人にとっても、日本社会にとっても、残念なことです。

しかし、こうしたことは、なにも東電、あるいは電力企業に限った話ではないのではないでしょうか。ガス器具メーカーの件もありました。食品関連の産地偽装など、枚挙にいとまがありません。個人の倫理観よりも、企業の業績、企業の価値観が優先されてしまう社会。一糸乱れぬ集団としての行動も、復興、再興といった場合には良い結果を生み出しますが、裏目に出ると、残念な結果になってしまう。

世の中、簡単にはいきません。そして、人生も思うようにはいきません。

などと、諦観に浸っている暇があったら、被災者の皆さんへの協力支援です!
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東京はパニックから程遠い、その理由は・・・

2011-03-16 14:22:10 | 社会
東北関東大震災については多くの国々のメディアもかなりの時間とスペースを割いて報道しています。フランスでもトップニュースですが、初めから原発への懸念が大きく伝えられていました。何しろ、フランスは58基もの原子炉をもつ原子力大国ですから、無関心でいられるはずがありません。福島原発の危険度がレベル6とか、7になったのではと言われていますが、なんとか無事に収束してくれればと思います。

地震・津波の被害、原発の危機、そして各国が伝えているのが、被害にあった日本人の落ち着いた対応ぶり。どさくさまぎれの犯罪もなく、支援物資への我先へという殺到もない。どうしてなのか・・・各国のメディアがそれぞれに考えているようですが、さて、『ル・モンド』はどう伝えているのでしょうか。13日の電子版です。

13日の日曜日、東京は地震の被害地から200kmも離れていないが、この国が大災害にあったとは微塵も感じさせないほどの落ち着きぶりを示している。東京の人々の様子からは、地震と津波に襲われた海岸地帯に立脚する原子力発電所で事故が起きているという恐怖を想像するのは不可能だ。

街の様子にはまったくパニックは感じられず、海外のメディアが深刻に語っている原発への危惧を否定しようとしているのではないかと思えるほどだ。全世界に対して、恐怖などまったくないと空威張りしているようにさえ見える。日曜日の羽田空港はパリのオルリー空港と同じように利用客も少ない。閑散とした通路では、中国からの救援隊が事の重大さを辛うじて思い出させてくれる。並んだマスコミのカメラの前でちょっと歓迎を受けた後、赤いジャンプスーツに身を固めた救援隊は遂行すべきミッションへと歩みを進めて行った。

都心へと向かうモノレールや地下鉄の中では、冗談を言い合う乗客や小さな声で言葉を交わすカップルなどもいる。マスクをかけた老婦人がいるが、特に放射能漏れに備えてではなさそうだ。仙台を中心とした東北地方で起きたことを示す唯一の事例は、東京駅に掲示されている「東北地方へ向かうすべての列車が運休となっています」というパネルだけだ。

都心では、日曜ということで、交通量は少なく渋滞もない。しかし、東京に20年暮らすフランス人、作家で中央大学教授のミカエル・フェリエ(Michaël Ferrier)は、「外出を控えている人も多いようだ。渋谷でも人出は通常の日曜日より少ない」と、語っている。実際、人々が対策を講じていることは、商店に行けばよく分かる。ペットボトル入りの飲料がほとんど売り切れている。

福島原発での危機的状況や、今後3日以内にマグニチュード7以上の余震が起きる可能性があるという情報に接しても、東京から逃げ出そうという人はいない。逃げ出したのは、大使館から退避を勧められた外国人たちだ。ミカエル・フェリエは、沖縄へ避難した友人がいると語っており、彼自身も京都へ向かう新幹線のチケットを手配している。彼はまた、日本人は勤務先からの正式な指示に従って動こうとしているようで、あたかも政府の発表は必ずしも信じていないかのようだ、と述べている。現在のところ、政府は不安はないと思ってもらえるように努めている。

・・・ということで、日本人の落ち着きぶりを紹介しています。しかし、広島、長崎での被爆体験を持つ日本人よりも、チェルノブイリやスリーマイル島での事故を知っている欧米人の方が、原発被害に過敏なのはどうしてなのでしょうか。東京近郊に5,000人いると言われる在日フランス人ですが、すでに3,000人が脱出したという報道もあります。第二次大戦はあまりに遠く、日本人の記憶は8月にならないと蘇らないほどに風化してしまっているのでしょうか。それとも、単にパニックにならないだけで、一人一人が心の中では恐怖と必死に闘っているのでしょうか。

ところで、「会社の指示を待つ日本人」。よく言われる、指示待ち人間、ですね。自主独立の精神に欠ける。しかし、協調性に富み、いったん決められた組織の目的のためには骨身を惜しまず。どのような国民性も、TPOや視点によって、美点に見えたり、悪癖に思われたりします。しかし、災害から立ち上がろうとするとき、日本人の協調性、集団への奉仕精神は、強み、大きな武器になるのではないでしょうか。

「人様に迷惑をかけない」。大震災のような生死に関わる状況下でも、日本人は秩序を崩さない。被災者という立場にあって、個人は集団から離れず、集団も個人を守る。規律を守ることこそが集団の利益を維持する最良の手段であると知っているのだ。「日本人が見せた冷静と団結は震災の恐怖を和らげてくれた」とある中国人は絶賛していた。
(3月16日:Record China)

被災者への連帯と協力を!
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フランス外交官、サルコジ外交に抗議す。

2011-03-15 20:34:00 | 政治
外交官と政治家・・・これも微妙な関係にあるようです。例えば日本でも、前原前外相は、霞が関ではお子様ランチと呼ばれているとか。ライスの島に日の丸を立てると喜ぶから。鈴木宗男前代議士の件、メドベージェフ・ロシア大統領の北方領土訪問に関する駐露大使の更迭などもありました。微妙な駆け引き、責任の押し付け合い、反目・・・なかなか難しいようです。

もちろんフランスでも同じような状況が見られるようですが、特にここ3年、つまりサルコジ大統領になって以降、不協和音が大きくなっているようです。そして、遂にたまりかねた外交官たちが、匿名でメッセージを発することに決めました。

現役外交官もいますから、匿名は仕方がないのでしょうね。現役を引退した元外交官もメンバーに含まれ、年齢、支持政党などはさまざま。ただ一点、フランス外交の立て直しを願う気持ちだけが共通しているグループだそうです。グループの名前は、初めての会合をもったカフェに因んで、“Marly”(マルリー:ルーブル美術館のリュシュリュー翼にあるミュージアム・カフェのことだと思います。コスト兄弟デザインの斬新でおしゃれなカフェ。さすが外交官、優雅な一等地で会合を開くものです・・・庶民の僻みです)。グループ・マルリーからの初めてのメッセージが、2月22日の『ル・モンド』(電子版)に掲載されていました。

政治的策略は、もはや誰をも騙すことはできない。大統領の演出で行われたことの責任が国家に押し付けられているのだ。

外交官の間では、政治権力に対する不満が爆発寸前だ。ここ3年、さまざまな声が支持家から聞こえてきた。ヨーロッパは無力だ、アフリカはフランスから距離を置こうとしている、地中海諸国はフランスを見向きもしない、中国はフランスを屈服させている、アメリカはフランスを無視している・・・しかし同時に、フランスの多目的戦闘機“Rafale”(Dassault Rafale:ダッソー・ラファル)や原子力産業(Areva・アレーヴァなどの原子力産業複合企業)は、飾り棚に載せられている。だが、世界の中でフランスの声は消えてしまった。アメリカ追従の方針に同盟国は驚きあきれている。

冷戦時代、我が国は西欧の一員でありながら、東西両陣営に影響力を持つ独特な対応をしていた。それが今日では、NATO(北大西洋条約機構:仏語ではOTAN、l’Organisation du traité de l’Atlantique Nord)への復帰表明に見られるように、アメリカの同盟国であり、大きな世界の動きに関心を持たなくなっている。その結果、フランスの存在感は希薄になり、外交戦略は力を失っている。こうした影響力の低下は、外交官に起因するのではなく、政治家の判断に由来するものだ。

大統領が外交官を尊重していないことは明らかであり、これ見よがしの侮蔑的発言をし、政治的失敗を外交官に転嫁しようとしている。わが国外交の失敗は、こうしてすべて外交官の責任にされているのである。しかし、そうした失敗のプロセスは、外交官の責任を否定するに十分だ。例えば、チュニジアやエジプトでの体制崩壊に際しての対応は、大使たちの分析を考慮に入れることなく大統領が決定したものだ。ベンアリ前大統領やムバラク前大統領を地中海を南から支える協力者として選んだのも大統領だ。

ウィキリークスが暴露した外交文書も、アメリカの外交官と同様、フランスの外交官たちが外国の為政者たちに対して辛辣な批判文を書いていたことを物語っている。外交官の言に耳を傾けていれば、素人対応、衝動性、メディア上での話題作りに起因する失敗を避けることができたかもしれないのだ。

衝動性・・・目的や方法を修正した方が良いというフランス外務省の意見を無視して始めた「地中海連合」(l’Union pour la Méditerranée)は、惨憺たる結果になっている。

素人対応・・・コペンハーゲンでの気候変動に関する会議の準備を環境省に委ねたため、フランとヨーロッパの無力さをさらけ出し、手痛い失敗となった。

メディアでの話題作り・・・メキシコとの関係がぎくしゃくしているが、これは本来は秘密裏に扱うべき文書を公開してしまったことが原因だ。

一貫性の欠如・・・我が国の中東政策は先が見えず、行き止まりにはまり込んでしまい、シリアのカードを強めているだけだ。しかも、フランスが優先的に行うべき事柄は、ほったらかし状態だ。例えば、政治的に無視され、二国間援助も姿を消したアフリカの旧フランス植民地の国々への対応だ。

フランス外交は、もはや国内事情を反映した即興と衝動の連続となってしまった。もはや誰もフランス外交の失敗に驚かなくなっている。いまや、大統領と利害を同じくする人物や会食に招待される取り巻きたちのつながりが至る所に顔を出し、決定に影響を与えている。いまや立ち上がるべき時だ。一貫性、効率、慎みに立脚した外交を取り戻さねばならない。

フランスの外交官たちはひとつの願いしか持っていない。熟慮に基づく安定した政治に仕えたいということだ。明日のEUはどうあるべきか、反体制派の蜂起が続くアラブ世界とどう向き合うべきか、アフガニスタン問題をどうするのか、アフリカ諸国との関係は、ロシアとの連携は・・・こうしたフランス外交の基本的な課題・目的を発信する場所はG8やG20以外にもあるはずだ。

外交官が望むことは、熟慮であり、熟慮に基づく政治には、その専門的能力をもって忠実に奉仕するものだ。フランス外交がもう一度、連帯、民主主義、異文化の尊重という我が国の価値観に基づくことを願っている。

2010年7月7日の『ル・モンド』紙上で、アラン・ジュペ(Alain Juppé:現外相、与党・UMP、1993~95年にも外相を務めた)とユベール・ヴェドリンヌ(Hubert Védrine:ジョスパン内閣で外相、社会党)が警告していたように、「フランスの外交機能は崩壊の危機にある」。フランス外交に外交官たちのサポートが必要なのは言を俟たないであろう。

・・・ということで、「過去との決別」をうたって、エリゼ宮に勇躍乗り込んだサルコジ大統領ですが、どこにでも顔を出し、自らが目立つことを優先し、しかも自分で即決即断。意見はせいぜい取り巻きが吹きこく耳触りのいいことだけ。これでは、裸の王さま。

ついに外交官たちの我慢も限界に達したようです。同じような状況が国防省にも見られるそうで、一足先に“Surcouf”(シュルクーフ:フランスの誇るフリゲート艦の名、あるいはナポレオン戦争で活躍したシュルクーフ提督に因んだものかと思われます)という匿名グループが、サルコジ大統領批判を行っているそうです。

支持率低下に官僚からの反旗。サルコジ大統領の「過去との決別」は、官僚との決別、国民との決別で終わってしまうのでしょうか。それとも、われらが「天罰」都知事のごとく、二枚腰、二枚舌で、再選を果たすのでしょうか。結果はあと1年ちょっとではっきりします。
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ユダヤ人社会とマリーヌ・ルペンの微妙な関係。

2011-03-14 20:23:24 | 政治
極右政党の国民戦線(FN:le Front national)といえば、人種差別発言で知られ、その対象にはユダヤ人も含まれています。従って、ユダヤ人コミュニティとFNの関係が良いわけはありません。特に前党首のジャン=マリ・ルペンは移民と並んでユダヤ人の排斥を叫んでいましたから、目の敵のようなものです。

それが、娘の現党首、マリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)になると、イスラム教は批判しても、アラブ「人」とかユダヤ「人」を批判の対象にはせず、共和国の価値などを強調して、支持層を拡大しています。そして、最近の世論調査では、支持率でサルコジ大統領や社会党の有力政治家たちを上回り、トップの座についています。

そのマリーヌ・ルペンを、ユダヤ人コミュニティ向けのラジオ局がゲストとして呼ぼうとしました。人気急上昇中、つまり旬のマリーヌ・ルペンを出演させようとしたマスコミの性なのか、あるいは彼女の真意をはかろうとしたものなのか・・・しかし、その出演はキャンセルされてしまいました。

そのラジオ局は“Radio J”といいます。“J”は言うまでもなく“Juifs”(ユダヤ人)の“J”。パリとリヨンからユダヤ人社会へ向けて発信しているFM放送局です。このラジオ局がマリーヌ・ルペンの出演をキャンセルした背景、そしてそのキャンセルをめぐる政界の反応について、9日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

9日、“Radio J”は13日に予定していた国民戦線党首、マリーヌ・ルペンの出演を取りやめたと発表した。ラジオ局の政治部長は、「彼女の出演はとても重要な意味があったのだ。彼女はショア(Shoah:ホロコースト)は残虐の極みだと述べており、父親のジャン=マリとはまったく異なる態度を示していたのだから」と、述べている。

しかし、マリーヌ・ルペンを出演させるというラジオ局の試みに対しては、フランス国内のユダヤ人コミュニティから非難の声が未だ止んでいない。因みに、“Radio J”はマリーヌの父、ジャン=マリはその反ユダヤ的言動から、一度も出演させていない。

出演していれば、ラジオ局にとっては国民戦線党首の初めての登場であり、マリーヌ・ルペンにとっても、悪魔イメージからの脱皮(dédiabolisation)作戦の重要な一歩になったに違いないのだが。

局の政治部長は、「マリーヌを呼ぼうとしたのは、“Le Point”誌の掲載された彼女のショアに関する意見を読んだからであり、もちろん番組内の質問ではいかなる譲歩もするつもりはなかった」と説明している。

しかしマリーヌ・ルペンの出演をめぐる議論は、フランスユダヤ人団体代表評議会(CRIF:le Conseil représentatif des institutions juives de France)が彼女への出演依頼を強く非難するまでになっている。たとえ容赦ない質問を浴びせようとしたにせよ、マリーヌ・ルペンがユダヤ人コミュニティのラジオ局に出演したという事実は変えようがない。その事実こそ、受け入れがたい象徴なのだ。彼女は“Radio J”への出演により、ユダヤ人コミュニティに受け入れられたというお墨付きを得ようとしたのだ。このように、CRIFのプラスキエ会長(Richard Prasquier)は憤慨している。

一方、テレビ局BFM-TVに出演したマリーヌ・ルペンは被害者然として次のように語っている。かなりの脅迫を受けたことが、ラジオ局が私へのインタビューをキャンセルせざるを得なかった理由だ。こうしたことは、共和国精神や民主主義に反することであり、CRIFのようなユダヤ人社会を代表している団体がそうであることを物語っているのではないか。我が国のユダヤ人たちは国民戦線が実は反ユダヤ的でもないし、人種差別主義でもないし、外国人嫌いでもないということを認めたくないのだ。なぜなら、そのことを認めてしまえば、これらの点において30年にわたってフランス国民に嘘をついてきたことが白日の下に晒されてしまうからだ。

祖父が強制収容所に送られた、中道政党“MoDem”の全国書記であるクリストフ・マドロール(Christophe Madrolle)は、「ユダヤ人社会のメディアにマリーヌ・ルペンを出演させることは、長年ジャン=マリ・ルペンに反対し、戦ってきたユダヤ人コミュニティが、マリーヌがもたらす新たな国民戦線を認めてしまうことになるのだ。大きな過ちだ」と、このように述べている。

・・・ということなのですが、マリーヌ・ルペンに新しい国民戦線について問い質したいという気持ちと、彼女を出演させてしまうこと自体がユダヤ人コミュニティによる極右政党・国民戦線の容認に繋がってしまうという危惧。その間で揺れるフランスのユダヤ人社会。最終的には、ジャン=マリ・ルペンに代表される国民戦線への嫌悪感、不信感はおさえがたく、マリーヌ・ルペンの出演はかないませんでした。

迫害した、あるいは差別した側はややもするとそのことを忘れやすいのですが、された方はけっして忘れることはない。子々孫々語り継ぐこともあります。差別や迫害でなくとも、私たちの現実の生活において、立場が変わると、同じものが異なって見えてくることがよくあります。何かを決めつける前に、立場を変えて考えてみることが必要なのではないでしょうか。複眼の思考。批判するのは、立場を変えて考えてみてもやはり相手が間違っていると確信してからでも遅くはないのではないでしょうか。

そう思うのですが、しかし、言うは易く、行うは難し・・・
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ニコラよ、おまえの重大な秘密を暴露してやる・・・カダフィからの脅し。

2011-03-13 20:27:31 | 政治
膠着状態に入ってしまったようなリビア情勢ですが、ここにきてフランスのかなり前のめりな対応が目立ってきています。

今まではリビア上空の飛行禁止区域の設定などへ向けて、イギリスのキャメロン首相の先走り感が指摘されていましたが、急にサルコジ大統領がリビア制裁の先頭に立ったようです。

反カダフィ派の作る国民評議会(le Conseil national de transition)を最初に承認し、国民評議会からの駐フランス・リビア大使を受け入れると表明しました。

こうした動きに、カダフィ派はもちろん黙っている訳はありません。数年前、パリを訪問し、テント暮らしをしながらルーブル美術館を訪問するなどサルコジ大統領との蜜月ぶりを披露したのも、今は昔、流れに浮かぶ泡沫にすぎません。いまや、脅し文句・・・お前にとって都合の悪い極秘情報をばらすぞ! 10日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

リビアのカダフィ体制は、国営通信社を通して、10日、サルコジ大統領の退陣を引き起こすような極秘情報を暴露すると伝えてきた。これはフランス政府が国民評議会をリビア国民の代表として承認した直後のことで、リビアの国営通信社“Jana”は、暴露される情報は、サルコジ大統領をその権力の座から引き下ろすに十分なもので、しかも大統領選挙の資金に関するものだと伝えている。

このメッセージはフランスが国民評議会をリビア国民を代表する唯一の合法的組織だと承認し、フランスの大使を国民評議会側が支配下においているベンガジに派遣すると発表した直後から繰り返し報道されている。

しかも、カダフィ政権側の外務省高官は、フランスによるリビアへの有害な内政干渉に対しリビアはフランスとの外交関係断絶も辞さずとさえ述べている。

チュニジアのジャスミン革命やエジプトの体制崩壊時に、対応が遅いと批判されていたフランス政府は、リビア情勢に関しては一転、反カダフィの国民評議会を承認した最初の国になった。パリを訪問している国民評議会の代表者3名はサルコジ大統領との会談後、フランス政府は国民評議会を唯一の交渉相手と認め、現在カダフィ政権が押さえているトリポリにいる駐リビア・フランス大使を国民評議会側の中心地・ベンガジに移らせると決めた、と公表している。

今回の承認により、両国は大使の相互交換を行うことになり、最初は駐ベンガジだが、やがては駐トリポリになるだろうと、代表団の一人、アリ・エサウィ(Ali Essaoui)は語っている。

その後、会談に同席したフランスの哲学者、ベルナール=アンリ・レヴィ(Bernard-Henri Lévy:哲学者・小説家・コラムニスト、頭文字でBHLとも呼ばれる)は、新たな駐仏リビア大使には数日以内に信任状が与えられるであろう、また駐リビア・フランス大使もベンガジに移ることになるだろうと再確認している。

レヴィは続けて、われわれはカダフィがもはや合法的なリビアの代表者ではないことを初めて明確にし、そのことを会談の冒頭でサルコジ大統領が述べたのだが、その毅然とした態度には国民評議会からの代表団も驚いたほどだ、と述べている。

国民評議会の承認など、上記の内容は、代表団3名を受け入れる窓口となったサルコジ大統領周辺も、今回の決断は重要な政治的行為だと、追認している。大統領との会談後、国民評議会の代表団はまた、サルコジ大統領が11日のEU首脳会議においてリビア危機に関する包括的提案を行うようだと語っている。

しかし、包括的提案をもっていることは認めながらも、サルコジ大統領は詳細に関しては開示していないが、その概略を9日に紹介した。大統領周辺によると、サルコジ大統領は、反体制派の支配地域においてすでに国連が行っている人道支援を強化するとともに、EUとしてリビアの原油禁輸について検討すべきだと考えているようだ。また、リビアからの移民急増の可能性についてもEU首脳と対応を探りたいとしている。

またEUの枠を超えて、フランスとイギリスは国連に対して、リビア上空に飛行禁止地域を設けるよう安全保障理事会に働きかけようとしている。EU首脳会議の前日、国民評議会をリビアの正当な政府と認めたサルコジ大統領は、リビア問題について意見が分かれ、慎重になっているEU首脳をリードしようとしている。

・・・ということです。カダフィ大佐がサルコジ大統領のどんな秘密を暴露するのかは明らかになっていません。単なる脅し文句なのかもしれませんが、一方、フランス側の対応には、チュニジア、エジプトでの政権転覆の際の不手際を一気に回復するとともに、苦戦が予想されている大統領選挙へ向けて強いリーダーシップを発揮し、支持率の回復につなげたいという、サルコジ大統領側の思惑も見て取れます。

植民地時代に、西欧諸国によって恣意的に引かれた国境、石油などの資源や武器輸出などをめぐる西欧各国の思惑、強力なリーダーがいないとなかなかまとまらないと言われるアラブ各国の国民性・・・中東から北アフリカにかけては、共通の問題を抱えているようです。

過去をいかに清算し、21世紀の新たな地域政治を展開していくのか。北アフリカから中東における政変に対する国際社会の対応が、大いに注目されます。

もちろん、視線は海外だけではなく、国内へ。東北地方太平洋沖地震の被害に遭われた方々への支援の気持ちを忘れることはできません。フランスのメディアも、ニュース番組のほとんどの時間を日本の地震報道に費やしていましたし、駐仏日本大使も出演していました。また、内務省は100人規模の救援隊と物資49トン、救助犬12頭を日本に派遣することを発表しています。国際的連帯の輪が広がっています。
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中絶は匿名でも可、でも匿名での避妊薬購入は不可・・・フランスはやはり変な国?

2011-03-10 20:41:43 | 社会
2009年にフランスで行われた妊娠中絶(IVG:l’interruption volontaire de grossesse)は237,000件ほどで、そのうちの15,000件が未成年者(18歳以下)によるものだそうです。また、4,500人ほどの未成年女性が子どもを産んでいます。避妊と中絶、その現状、そして特に未成年に対する取り組みについて、7日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

一向に妊娠中絶が減らないのは問題だと一部の人々は言っているが、他方、中絶の権利が脅かされていると訴える人たちもいる。妊娠中絶を認めるヴェイユ法(la loi Veil:1975年、時の保健相、シモーヌ・ヴェイユが中絶を合法化しました)が成立して36年、中絶可能な期間を妊娠10週から12週に延長し、未成年でも親の同意書なしでOKとしたオブリー法(la loi Aubry)の成立からは10年になるが、妊娠中絶は今でも非常に微妙な問題のままだ。

ストラスブール大学病院の産婦人科医、イスラエル・ニザン(Israël Nisand)は今日の妊娠中絶をめぐる問題をさまざまに指摘している。例えば、妊娠の3件に1件は望まない妊娠だが、10年前には2件に1件だった。つまり、10年前の6割ほどしか中絶を行っていないことになる(三分の一÷二分の一=三分の二。6割強ですね)。

しかし中絶の権利に関しては、フランス人女性は無関心ではいられない。製薬会社・ノルディック・ファーマ(Nordic Pharma)の依頼で、調査会社OpinionWayが行った調査によると、フランス人女性の83%が妊娠中絶の権利を守るためなら、デモに参加すると言っている。同じ調査で、いかなる場合でも中絶は行うべきではないという意見はわずか7%だった。

ニザン医師は、未成年者の避妊に関してより良い環境づくりが必要だと訴えている。年間237,000件の中絶のうち、25歳以下のケースが増えており、未成年者も15,000件に達している。ドクター・ニザンは、初恋が中絶で終わるとしたら、とても残念な経験になってしまうし、そのことがトラウマとなって後の人生に影響することも考えられる。だが、未成年者の中絶のその半分は実は防げるものなのだ。フランスでは未成年であっても中絶は無料で、しかも匿名で行えるが(l’IVG est anonyme et gratuit)、一方、避妊用ピルを手にするにはそうはいかない(l’accès à la pilule contraceptive ne l’est pas)。フランスは避妊を内密にするのではなく、中絶をこっそりできるようにしているのだ。なんと恥ずべきことではないか。若者の性について語ることは今でもタブーとなっている。

ニザン医師は、自分の勤務する病院では、未成年女性に社会保険カードを使って無料・匿名でピルの処方箋を書くサービスを行っている。その結果、ストラスブールにおける未成年者の中絶は全国平均の半分ほどになっている。

そこで、同じような制度を全国でできないだろうかと政治家たちに訴えたところ、与党・UMP(国民運動連合)のポレッティ下院議員(Bérengère Poletti)が支持を表明してくれた。ポレッティ議員はすでに中絶や医療に関する情報提供を改善するよう、何度か法律改正案を提出しているが、この春、全国の未成年者が無料・匿名で避妊用ピルを入手できるようにするという提案を行うことになっている(une mise en place au niveau national de la contraception gratuite et anonyme pour les mineures)。

議員は次のように語っている。ポワントゥ=シャラント地方(Poitou-Charentes)で地域圏知事のセゴレーヌ・ロワイヤル(Segolène Royal:社会党の2007年大統領選候補)が同じようなことを提案しているが、この問題は全国規模で行わなくてはいけない。実際、2001年のオブリー法が目指した、中学校での性教育と避妊に関する情報提供は、全国一律とはなっていない。未成年者にさらにしっかりと情報を提供することが大切だ。こうした性教育や避妊に関する情報は、若者を早すぎる性体験へと向かわせてしまうのではないかと危惧する人もいるが、無用の心配だ。初体験年齢は2001年以降もその前と変わりがない(女性問題ではいつも社会党に先を越されてきたので、この問題ではUMPの自分が法案の立役者になるのだ、という願望が全国展開の強調に繋がっているようです)。

ニザン医師はもう一つの問題を指摘している。それは、妊娠8週を過ぎると、薬による中絶が行えないということだ。この10年間で、薬による中絶は中絶全体の30%から50%へと増えた。だが実際には、90%の女性が外科的中絶を避けたいと思っているのだが。

・・・ということで、女性の産む権利・産まない権利を守るためにヴェイユ法で中絶を合法化したフランスですが、カトリックの影響でしょうか、未成年者に対しては避妊に関する啓蒙ですらまだタブーであったり、未成年者が避妊用ピルを入手するのが面倒だったりするようです。

一部情報によれば、性交後24時間以内に服用すれば避妊の効果がある「モーニング・アフター・ピル」(緊急避妊薬)なら処方箋なしでも買えるとか、学校でも保健士がくれるとか言われていますが、通常服用するピルを未成年者が購入するには匿名とはいかないようです。

それが中絶は匿名でもOKなのだそうです。やはり、ちょっと思考回路が違うのではないかと思えてしまいます。しかし、このあたり、権利と宗教、あるいは価値観が微妙に絡んでいるのでしょうね。一筋縄ではいかないということなのでしょう。

今でもこのようにセンシブルな問題なのに、中絶の合法化を36年も前に実現したシモーヌ・ヴェイユは、やはり傑出した人物です。アウシュビッツを生き抜いた経験がそうさせるのか、生まれ付きなのか、まさに鉄の女。母性保護と女性の権利拡大も視野に、1974年には経口避妊薬などの販売を促進する法律を成立させ、翌75年にはついに中絶を合法化しました。賛否両論が渦巻くなかでの、政治的英断でした。こうした実績が評価されたのか、79年、直接選挙になって初の欧州議会議長に選ばれています。

「意志あるところに道は開ける」(Where there is a will, there is a way.)ということなのでしょう。しかしなにも西洋のことわざを持ち出すまでもなく、「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成さぬは人の為さぬなりけり」・・・日本にも上杉鷹山の名言があります。
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フランスは押さえた、次はヨーロッパだ!

2011-03-09 20:42:41 | 政治
今週、フランスのメディアは、大統領選挙に関する世論調査、リビア状況、シラク前大統領の裁判、これら三つの話題にほとんどの紙面と時間を割いているようです。その中でも、最も大きな話題と言えば、マリーヌ・ルペン国民戦線(FN)党首が支持率トップになった世論調査の結果。

14カ月後に行われるフランス大統領選挙で誰に投票するのか・・・極右政党・FNのマリーヌ・ルペンがサルコジ大統領はもちろん、国民の間で待望論に近いほどの人気をもっていると言われてきたドミニク・ストロス=カンIMF専務理事(社会党)までも上回り、トップの支持率を確保しました。マリーヌ・ルペンは、当然の結果だと涼しい顔をしているようですが、与党・UMP(国民運動連合)や社会党は蜂の巣をつついたような大騒ぎ。

フランスのアイデンティティ論争、ロマや不法滞在外国人の国外追放、ニカブ、ブルカなど全身を覆う服の公共の場での着用禁止など、サルコジ大統領が採ってきた政策がフランス国民の嫌外国人感情(la xénophobie)を刺激し、その結果、伝統的に移民排斥などを訴えてきた極右の支持率を押し上げた、という指摘が多いようです。

ただ同時に、マリーヌ・ルペンが前党首で父親のジャン=マリ・ルペンのようには、ユダヤ人を含む外国人排斥を声高には叫ばず、アラブ人といった「人」ではなくイスラム教を批判しているため、右翼支持層の一定の人々が安心して極右政党への支持を表明したのではないか、とも言われています。

いずれにせよ、今や大統領の座に最も近い存在になったマリーヌ・ルペン。極右政党が西欧の多くの国々でその支持を伸ばしている折、しかも本人が欧州議会議員ですから、フランスだけに満足せず、次はヨーロッパ全体にその影響力を広げたい・・・そう思ったのかどうかは分かりませんが、何とチュニジアからの不法移民が多くたどり着いているイタリアのランぺドゥーザ島へ出向くことにしたそうです。何のために、そしてそこで何をやらかすのか・・・一番気を揉んでいるのが、イタリアの内相だそうです。

8日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

イタリアのマローニ内相(Roberto Maroni)は8日夜、9日に予定されている国民戦線党首、マリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)のランぺドゥーザ島(Lampedusa)訪問がフランス国内向けのプロパガンダに利用されないよう注意を払いたい、と述べている。

内相は続けて、次のように語っている。ランぺドゥーザ島は非常に微妙な状況にあり、かつてないほどの緊張状態に直面している。そこで火に油を注ぐようなことは誰であろうと行ってほしくない。ルペン党首がいかなる問題も起こさないことを願っている。

内相自身、ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi)が首相の座にある右翼連立内閣の一角を占める北部同盟(la Ligue de Nord)の所属であり、この政党は反移民を叫ぶポピュリスト(大衆迎合)政党なのだが、それでもルペン党首の訪問を危惧している。

国民戦線は8日、2012年大統領選へ向けたふたつの世論調査のいずれにおいてもトップの座を占めたマリーヌ・ルペン党首が大量の不法移民が流入している現状を提起すべくランぺドゥーザ島へ赴くと発表している。主にチュニジアからやってきた不法移民は、このイタリアの島経由でヨーロッパに入ろうとしている。マリーヌ・ルペン党首によれば、流入する移民の数は、明日には数十万、更には数百万に達する可能性があるとのことだ。

・・・ということなのですが、地中海にあるイタリアの小島にまで出向いて、移民流入を大きな話題にしたようです。

いくら上手に反外国人ではなく反イスラムなのだと演じてきても、やはり本質は外国人排斥なのでしょうか。世論調査の結果に浮かれ、つい本来の姿を現してしまったのでしょうか。

それとも、今の勢いをヨーロッパに広げ、各国で勢力を増す極右勢力の中心になろうという野望の表れなのでしょうか。

あるいは、チュニジアからの不法移民の多くが向かう先は、旧宗主国のフランスですから、現状をフランス国民に直視させ、水際で不法移民の流入を防ぐ。そうすることによって、程度の差こそあれ反移民感情を抱いているフランス国民からの支持をさらに大きくしようとしているのでしょうか。

いろいろな背景が考えられますが、いずれにせよこの機に一気に有利な立場をより強固なものにしたい、という思惑がのぞいています。

この勢いのまま、大統領選の決選投票に進出した場合、その相手は社会党候補なのか、現与党・UMPのサルコジ大統領になるのか。誰が、マリーヌ・ルペンを止められるのでしょうか。

戦後65年。閉塞感から現状を打破したいという思いが多くの国々で強まっているのかもしれません。こうした状況下では、過激な発言が人心をつかみやすい。極右であろうと、極左であろうと。一般的に極右と極左は対極にあると思われていますが、地球が丸いように、思想の世界も丸いとしたら・・・相反する思想が背を向けて出発したのに、何と地球の裏側で出会ってしまう。

今日は、極右が勢力を伸ばしています。我らが日本の現状も、軍部が台頭した戦前によく似ているという発言をしばしば耳にします。短期間で繰り返される首相の挿げ替え。戦略と決断力を持たず、漂流する政治・・・

右傾化する世界・・・戦争にだけはならないでほしいと願っています。
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極右・国民戦線、支持率トップに躍り出る!

2011-03-06 21:03:41 | 政治
極右政党の党首というと、強面で軍服を着たら似合いそうな、あるいはつねに正装をした、日本風にいえば羽織袴を着たような高齢の男性を思い浮かべてしまいますが、フランスの極右政党・国民戦線(FN:le Front national)の党首は、女性。マリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)。1968年生まれですから、まだ42歳。前党首のジャン=マリ・ルペン(Jean-Marie Le Pen)の三女とはいえ、完全な世襲ではなく、党内の選挙を経て党首に選出されました。しかも、他の職業をやっていたのが父の引退で突然政界へという日本によくあるパターンではなく、弁護士を経て、1998年からは北部、ノール・パ・ド・カレ(Noerd-Pas-de-Calais)地方の地域圏議会議員を務め、また2004年からは欧州議会議員も兼職してきました。また長年、FNの副党首として、父の党首をサポートしてきました。

生まれはパリ西郊、富裕層が多く住む市で、サルコジ大統領が長年市長を務めていたヌイイー(Neuilly-sur-Seine)。パリ第2大学で法学修士号を取得。私生活では二度の結婚と離婚を経験し、三人の子どもの母親でもあります。現在のパートナーは、FNの副党首、ルイ・アリオ(Louis Aliot)。こちらも弁護士資格を持ち、公法で博士号を取得。トゥールーズ(Toulouse)第1大学で教鞭をとるほどです。南部、ラングドック・ルシオン(Languedoc-Roussillon)地方の地域圏議会議員も務めています。因みに、マリーヌ・ルペンより一つ年下です。

ということで、まだ若く、母親でもある女性が極右の党首を務めているあたりが、フランスらしいと言えば言えるのですが、そのマリーヌ・ルペンが、2012年の大統領選挙へ向けた世論調査で、なんと支持率トップに躍り出ました。これは大ニュース。極右政党の党首がフランス大統領になるかもしれない・・・・

その支持率調査の結果と政界の反応を5日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

世論調査は日刊紙『パリジャン』(Le Parisien)の依頼で、調査会社ハリス・インターラクティブ(Harris Interactive)が2月28日から3月3日にかけて行った調査で、1,618人から回答を得た。

大統領選挙の投票先について、FNのマリーヌ・ルペンと答えた回答者が23%でトップ、次いで同率21%のサルコジ大統領(Nicolas Sarkozy)と社会党のマルティーヌ・オブリー第一書記(Martine Aubry)。それ以降は大きく離されて、中道・モデム(le Modem)のフランソワ・バイルー党首(François Bayrou)が8%、エコロジストのエバ・ジョリー(Eva Joly)と前首相のドミニク・ドヴィルパン(Dominique de Villepin)がともに7%となっている。

上位2名による決選投票へ進めるポジションに初めて立ったマリーヌ・ルペンは、次のように語っている。これはフランス国民が目覚めたことを物語っている。今日、多くの人々が自分の置かれている現状に目覚めるのは時代の流れであり、フランス国民が目覚めないという理由はない。2012年の大統領選挙でニコラ・サルコジが落選するだろうと思わざるを得ない調査結果だ。

一方、社会党の第一書記、マルティーヌ・オブリーはマリーヌ・ルペンの支持率上昇の責任はサルコジ大統領にあると指摘している。明らかなことは、サルコジ大統領が昨年来、一か八かの勝負を行ってきたということだ。サルコジ大統領は政治手法を変えようとはしない。つまり国民を威嚇し、恐れさせることだ。国民のアイデンティティ論争、ロマの人々の国外追放、そして今日の移民問題だ。

社会党内でも、そして与党・UMP(国民運動連合)内でも、今回の世論調査の結果を真剣に受け止めている。社会党の報道官、ブノワ・アモン(Benoît Hamon)は次のように語っている。今回の結果は非常に心配なもので、その原因は人心をかき乱したサルコジ大統領にあると非難。左派陣営としては社会問題、給与、国民が不安視していることに対する積極的な取り組みが必要だ。

一方、与党・UMPの前報道官、ドミニク・パイエ(Dominique Paillé)はFNの躍進は与党への懐疑の表れではないかとみている。また、与党候補が決選投票に進めないという可能性は現実のものとなって来た。次の大統領選挙では、われわれ与党の政党色をまとった候補しか擁立すべきではないということを今まで以上に考慮しなくてはいけない、と語っている。

左翼党(le Parti de Gauche)のジャン=リュック・メランション共同代表(Lean-Luc Mélenchon:12年の大統領選への立候補をすでに表明)は、大統領選挙まで14カ月となった今、今回のような調査結果が出ることは容認できないとし、フランス国民だけが国のトップにファシストなんかを据えようと望んでいるなんてどうして言えるのだろう、サンタクロースが大統領になるというのと同じくらいばかげている、と皮肉っている。

Modem党首のフランソワ・バイルーは、不健全な政治状況とサルコジ大統領によってもたらされている混乱し、バランスを失った現実が、世論調査の結果を生んでいると述べている。

ここ数週間、左翼陣営、右翼陣営ともに、社会党候補のリオネル・ジョスパンが第1回投票で2位に残れず、FNのジャン=マリ・ルペンがジャック・シラクとの決選投票に進んだ2002年4月の大統領選が再現されるのではないかという危惧を大きく持つようになってきている。また、ジョゼ・ボヴェ(José Bové:社会正義を重視したグローバリゼーションを提唱するアルテルモンディアリズムの代表的活動家。1999年、アメリカからの牛肉輸入を禁止したEUに対するアメリカの報復措置に抗議して、建設中だったマクドナルドの店舗を破壊したことで名を馳せる)などヨーロッパ・エコロジー(緑の党など環境をテーマにした党の欧州議会における会派)の主要メンバーは、もし12年の大統領選で緑の党からの立候補がマリーヌ・ルペンの決選投票進出をより容易にするようなら、緑の党から候補者を出すことを辞退すべきではないかと考え始めている。

・・・ということで、極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が大統領選挙の決選投票に進むかもしれないということは、自由・平等・友愛、民主主義、人権国家のフランスにとっては一大事。2002年には父親のジャン=マリ・ルペンが決選投票に進みましたが、さすがにジャック・シラクが80%を超える得票率で圧勝しました。しかし、今回は、与党候補がサルコジ大統領。

今回の調査は社会党候補を第一書記のマルティーヌ・オブリーにしています。もしこれがIMF専務理事のドミニク・ストロス=カン(DSK)であったなら、結果はどうだったでしょうか。DSKのトップは間違いないのではないでしょうか。すると、サルコジ大統領は3番手。第1回投票での落選が現実味を帯びてくるわけです。左翼・社会党候補と極右・国民戦線候補の決選投票・・・

あと14カ月、その間にどのような政治的動きがあり、フランス国民の選択はどう変わるのでしょうか。しかし、極右から極左まで、しっかりした選択肢が幅広くあることだけでも、フランス政治は羨ましい。我が身を振り返れば、4月の統一地方選、そしてその先にあるであろう衆議院選挙、どの政党の誰に投票すればよいのやら・・・選択肢がない!

*後日の他メディア(『ル・フィガロ』など)によると、社会党候補がDSKの場合でも、マリーヌ・ルペンが24%でトップ、DSKが23%だそうです。
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