ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

選挙か調整か・・・社会党の大統領選候補者選び。

2010-12-05 21:42:59 | 政治
調整、根回し、談合・・・こうしたことは、日本社会でよく見かけられます。しかも、こうしたことに秀でた人物が組織のトップへ上り詰めることもよくあります。協調型。新入社員にも、積極性と並んで協調性が求められる社会ですから、その後のサラリーマン人生でも協調性は大切です。それに欠ければ、レールから外れてしまう。一度レールから外れれば、敗者復活戦のほとんど用意されていない社会ゆえ、周辺に追いやられたままの状態を甘受せざるを得ないことが多い。

こうした事前の根回しが行われているようだと伝えられているのが、フランスの社会党。1年半後に迫った2012年の大統領選に向けて、社会党の候補者選びは来年秋。1年を切って、誰が立つのか、誰が優位なのか、さまざまな情報が飛び交っていますが、支持の高い数人の間で、どうも調整で候補者を決めようという協定ができているようだと、11月25日の『ル・モンド』(電子版)が伝えていました。

11月25日時点で、社会党にはすでに候補者を選ぶ予備選に4人が立候補を表明している。最初に発表したのは、下院議員でエヴリー(Evry)市長を兼ねるマニュエル・ヴァル(Manuel Valls)。その後、元産業通商担当大臣で、現在はサン・ディエ・デ・ヴォージュ(Saint-Dié-des Vosges)市長を務めるクリスティアン・ピエレ(Christian Pierret)、共済組合連合会の元会長、ダニエル・ル=スコルネ(Daniel Le Scornet)、そして下院議員でソーヌ・エ・ロワール(Saône-et-Loire)県議会議長を兼ねるアルノー・モントゥブール(Arnaud Montebour)
の4人だ。

しかし、知名度、支持率で有力視されているのは、別の4人。現第一書記のマルチーヌ・オブリー(Martine Aubry)、IMF専務理事のドミニク・ストロス=カン(DSK:Dominique Strauss-Kahn)、2007年大統領選の社会党候補、セゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal)、そして前第一書記のフランソワ・オランド(François Hollande)。

先のTNS Sofres-Logica(調査会社)の世論調査によると、これら4人の誰が社会党候補になっても、サルコジ大統領に勝てるという結果が出ている。マルチーヌ・オブリー、フランソワ・オランドはいずれも55%対45%でサルコジ大統領を破ることができる。社会党の候補者選びでは17%と支持の低いセゴレーヌ・ロワイヤルでも52%対48%で勝てる。最も人気の高いDSKの場合は、62%対38%で圧勝。

勝利が目の前に見えている、つまり、大統領の椅子に手が届きそうだという状況下、4人の間にさまざまな動きがあるようだ。事前の調整により、どちらか優勢な方が予備選に立候補し、他方はその支持に回る・・・こうした暗黙の協定を結んでいるのではないかと言われているのが、マルチーヌ・オブリーとDSK。現第一書記は、11月24日、テレビ局France2のインタビューに答えて、DSKとはすでに、どちらが立候補するか一緒に考えようということになっている、と公に認めた。

しかも、彼女は続けて、セゴレーヌ・ロワイヤルも一緒に相談したいということなので、三人で調整することになると思う。お互い争うことなく、三人の中から候補者一人を送り出し、他の二人はそれに協力することになる、と述べている。

こうした連携の動きに猛反発しているのが、一人だけ暗黙の協定に加わっていないフランソワ・オランド。大統領選挙は戦いであり、話し合いで決められるものではない。暗黙の協定などは、協定にサインをし、遵守する人間には価値があるのだろうが、そうでない大多数の党員にとっては、価値のないものだ。こう反発している。

一方、マルチーヌ・オブリーと協定を結んでいると言われるDSKだが、言を左右して、なかなか尻尾を捕まえさせない。11月中旬にフランスに一時戻った際、IMF専務理事はセゴレーヌ・ロワイヤルと昼食を共にした、と一部メディアが伝えており、ということは、マルチーヌ・オブリーとも会っていたに違いない。

しかし、その一方で、ドイツの雑誌(Stern)とのインタビューでは、IMF専務理事の任期を全うしたい。つまり2012年までIMF専務理事のポストにとどまる。こう述べている。2011年秋に、社会党候補となるのかどうか・・・

こういった記事が11月25日に出ていたのですが、その後(29日)、セゴレーヌ・ロワイヤルが予備選への出馬を表明しました。しかも、DSKはIMF専務理事の任期を務めあげた後で、素晴らしい首相になるだろうと、DSKの予備選出馬へ圧力をかける動きに出ました。

一番人気のDSKが出馬しなければ、4番手の自分にもチャンスがあるかもしれない。前回の大統領選挙で善戦した経験とこの美貌があれば、いかにも社会党闘士といった古いイメージのマルチーヌ・オブリーに勝てるかもしれない。まして、数年前までは事実婚のパートナーだったフランソワ・オランドなんか、弱点を知りぬいているから、怖くはない。女性初の大統領には、私がふさわしい・・・などと考えているのでしょうか。

セゴレーヌ・ロワイヤルと言えば、この予備選への出馬表明から2日後、パリ南西に隣接するブローニュ・ビヤンクール(Boulogne-Billancourt)にある彼女の自宅に空き巣が入りました。1日の『ル・モンド』(電子版)によると、実被害はなかったものの、さまざまなものがひっくり返され、床にばら撒かれていたそうです。空き巣被害、実はこれが3度目。最初は、2006年8月17日、2007年の大統領選へ向けての社会党の候補者指名選挙へ立候補を表明しようとしていた頃。2度目が2008年6月28日。そして、今回、予備選への立候補表明から2日後。セゴレーヌ・ロワイヤルへ、無言の圧力をかけるものなのでしょうか・・・

合従連衡、昨日の敵は今日の友、昨日の友は今日の仇、敵の敵は友、一寸先は闇・・・政治の世界は、洋の東西を問わず、不思議と驚きがいっぱいの魑魅魍魎の世界のようですね。さて、1年後、誰が社会党の候補になり、1年半後、誰が大統領になっているのでしょうか。

でも、候補者がこれだけいるということは、フランス政治は活力が十分あるということなのでしょう。一方、首相にふさわしいのは誰かと問われ、首をかしげてしまう。支持政党はと問われると、支持政党なしが最も多い。こうした我が国政治、なんとかならないものでしょうか。しかし、こんな政治でも、国が何とか回っていくこの国、そしてその国民は大したものだと思わざるを得ません・・・
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