ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

野次られるより、野次馬の方がましだ!?

2012-03-03 21:50:58 | 政治
「弥次馬 / 野次馬」・・・『広辞苑』によると、①馴らしにくい馬。強い悍馬。また、老馬。一説に、「おやじうま」の略で、老いた雄馬ともいう。②自分に関係のない事を人の後についてわけもなく騒ぎ回ること。また、そういう人。という意味なんだそうです。「おやじうま」が転化したもの・・・「おやじギャグ」などを連発していると、根っからの野次馬根性の持ち主と見做されかねないですね。ほどほどにしないと・・・

ところで、確かに野次馬は多いですね。特に有名人の周囲には、野次馬が殺到する場合もあります。スターにとっては、有名税と諦めるしかないのでしょうが、ありがた迷惑なこともあるのでしょうね。なったことがないので、想像するしかないのですが。

ただ、殺到される、取り囲まれると言っても、ふつうは温かいまなざし、あるいは好奇の目で見られるだけで済む場合が多いのでしょうが、スキャンダルの渦中にいたり、捜査対象にでもなろうものなら、罵声を浴びせられることもありますね。野次馬が、野次を飛ばすことになります。

パパラッチも含め、野次馬に囲まれることの多い著名な政治家たち。特に、大統領、あるいは大統領選候補者ともなれば、地方遊説など、どこに行ってもカメラのフラッシュと多くの国民に取り囲まれます。しかし、所属する党の地方支部などが準備万端、しっかりガードしますから、野次馬はいても、野次られることは少ないのでしょう。ところが、どうもサルコジ大統領には、野次や有権者とののしり合いが付いて回るようです。

有名なのは、就任の翌年2008年、農業見本市で大統領が会場にいた国民に握手をしようと手を差し出したところ、「触るな、汚らわしい」(Tu ne me touches pas, tu me salis.)と拒絶されてしまいました。怒ったサルコジ大統領は、「お前こそ、とっとと消え失せろ」(Alors casse-toi, pauv’con.)と叫び返しました。多くのメディアの前でしたから、国民に広く伝わってしまいました。

それから4年、今年の農業見本市では、終始、笑顔を振りまいていましたが、3月1日、南西部、スペイン国境に近い、バスク地方のバイヨンヌ(Bayonne)で、騒然とした状況に巻き込まれてしまいました。しかし、さすがに大統領を5年近く務めてきたせいか、言い返したり、怒鳴ったりすることはありませんでした。その状況は、フランスのニュース番組を見る限り、凄まじい野次、怒号の嵐でした。野次馬どころではない。クルマから降りるのもままならないほど。具体的には、どのような状況だったのでしょうか。そして、政界からはどのような反応が起きたのでしょうか・・・1日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

サルコジ大統領は3月1日、バイヨンヌで、多くの反サルコジ派の野次と怒号に出迎えられた。すると、その騒動の責任をフランソワ・オランド(François Hollande:社会党の大統領候補)に帰し、国家のトップを浄化すると言って下部組織を煽ったせいだと非難した。

この日の午後早く、バイヨンヌの歴史地区では、数十人の反サルコジ派の若者たちが大統領の到着を待っていた。大統領が到着すると、クルマから降りるより早く、彼らは一斉に野次を飛ばし始めた。「富裕者のための大統領、サルコ」、「サルコジ、さっさと失せろ」・・・こうした野次を覆うように、「サルコジを大統領に」という支持派の声も上がったが、反対派より少なかった。

「バイヨンヌの路上で、野次と小競り合い」(Bronca et incidents dans les rues de Bayonne)というタイトルの記事を早速、日刊紙“Sud Ouest”(本社はボルドー、南西部を中心に配布される新聞で、発行部数は約35万部)が自社のサイト上(Sudouest.fr)に発表した。また多くのジャーナリストが、ツイッターでこの出来事を広めた。例えば、日刊紙“Parisien”の政治記者、フレデリック・ジェルシェル(Frédéric Gerschel)は次のように伝えている。

「ニコラ!ニコラ!」と叫ぶ支持者に交じって、多くの反対派が「ニコラ、立ち去れ」(Nicolas kampora ! )とバスク語で叫んでいた。大統領はバイヨンヌの狭い道を辛うじてスペイン通りにあるバーへと逃げ込んだ。大統領へは、バスク語で“Batera”と呼ばれる、バスクとしての自治体設立を要求する団体から、多くの小さな投票用紙が投げつけられた。

サルコジ大統領は午後4時頃そのバーに駆け込んだが、窓には卵が投げつけられた。バーの前には多くの人だかりができ(野次馬ですね)、大統領が外に出られるようにCRS(Compagnies républicaines de sécurité:機動隊員)が急遽、増員されたほどだ。

大統領は午後5時頃CRSに守られてそのバーを後にしたが、メディアに対して、早速、社会党の対立候補を非難して、「オランドは国政のトップを浄化すると言ったが、そのことが下部組織の人々を熱くさせた」と述べた。というのも、2月19日、フランソワ・オランドは、ニコラ・サルコジをUMP国家(UMP=Union pour un mouvement populaire:与党の国民運動連合)とも言える組織を警察や司法に作ったと批判し、もし自分が大統領に選ばれた暁には、その組織に繋がっている高級官僚を総入れ替えすると述べていたからだ。UMPはこの発言をまるで魔女狩り(chasse aux sorcières)だと非難した。

サルコジ大統領は、さらに批判を展開し、「オランド氏の支持者である社会党員が、暴力を伴うデモで独立主義者たち(バスク独立派ですね)と協力するとは残念ことだ。もしこうした行為が社会党の言うデモクラシーなら、我々のデモクラシーとは異なっており、論戦を始めざるを得ない。今日の騒動は、政党の名にふさわしくない行為だ」と語った。

オランド候補の後塵を拝しているというサルコジ大統領にとってありがたくない世論調査の結果がいくつも公表された週の最後を激しい口調で締めくくったようなものだ。

オランド陣営は、1日の夜、大統領サイドからの攻撃に、素早く対応した。「フランソワ・オランドとその陣営は、いかなる暴力も批判する。つねに挑発者はいるものだ。だが、もめごとや暴力に社会党員は決して加わっていない」と、オランド陣営の報道官、マニュエル・ヴァルス(Manuel Valls)はテレビ局・BFM-TVの番組で語ったが、「浄化する」という言葉には触れなかった。

フランソワ・オランド自身も、木曜の夜、リヨンでの集会の後、「我々は選挙戦のレベルを維持すべきであり、決して不要な論争や言葉の暴力、ましてや身体的暴力に堕してはいけない。我々が有している唯一の権利は抗議する権利であり、同時に我々の義務は投票する義務だ」と述べた。

・・・ということで、バスク地方という独特な状況にある地域での騒動でしたが、第1回投票まで2カ月を切り、国民レベルでもかなりヒートアップしているようです。

第1回投票は4月22日。誰が5月6日の決選投票に進むのでしょうか。ますます、目が離せません・・・と言えば言うほど、野次馬ぶりが明らかになってしまいます。さすが、おやじうま!