飛騨さるぼぼ湧水

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連載小説「幸福の木」 347話 江戸のボテフリ?

2023-04-09 22:39:17 | 小説の部屋

ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、いやいや花散らしの雨の後、南飛騨も寒くなりました。まだ咲き初めの高山のさくらは大丈夫だと思います。藤井少年よ、七冠目指しがんばれ!と応援している先生からの原稿が届きましたので、早速、小説に参ります、はい、では開幕開幕!

347 江戸のボテフリ?

やがて土間の竈で大釜のご飯が炊けた。
魚も焼けて、土間の奥のいくつかのカメの中からヌカ漬け野菜も出された。
それ等は小皿で丸い飯台の上に並べられた。
「さあ、皆さん、お昼ご飯にしましょう、好き勝手に席に着いてください」
ママさんは、火鉢の上の小さな鍋から味噌汁をお椀に装って、皆に手渡した。
そして、空になった鍋の代わりにヤカンを火鉢に置いた。
その様子を見ていた木花咲姫が、感心したように聞いた。
「あのー、その火鉢って、とっても便利そうですね、炭火を起こしたり鍋を煮たり、ヤカンでお湯を沸かしたりして。その火鉢はいつも炭火が保存されているんですか?」
するとママさんは笑って答えた。
「ホホホ、そうですね、もし、この便利な火鉢が江戸時代にあれば、きっと大儲けができるでしょう。江戸城の大奥から売ってほしいとたくさんの小判を積まれるかも知れませんね、ホホホ!
実は灰の中に電気コンロが隠してあるのです、なのでその上で炭に火を点けたり、鍋やヤカンを沸かしたりできるのです、これも大家さんのアイデアで火事対策です」
「えーっ、電気コンロなんて、そんなのインチキだわ!」
ハナとハナナが口を尖らせた。
が、ママさんは平然としていた。
ター坊は、それまで黙ってモクモクとご飯を食べていたが、突然口を開いた。
「おいら、このご飯に卵をかけて卵かけご飯にしたいな、それに食べ終わったらアイスクリームを食べたいな」
それを聞いてハナとハナナがびっくりして箸を置いた。
「何を言い出すの?突然、卵なんて無いわよ、江戸時代は高級品よ、病気になった時しか食べられなかったのよ、今も少し高くなっているけど」
ハナが叱ると、ハナナも続けた。
「それにアイスクリームなんて江戸時代には無かったわ。ここにそんな物が有るはずないでしょ?ここは江戸の長屋なのよ、ちょっと考えてみなさいよ」
と、怒り出した。
しかし、グー太は、ママさんと同じように平然としていた。
「いや、卵もアイスクリームもあるよ、おいら、見つけたんだ、この奥の部屋で」
とグー太は勝ち誇ったような顔で、土間の奥を指さした。
そこは野菜のヌカ漬けや保存食や小さな調理台が置いてある場所だった。
「えっ、見つけたって?」
ハナやハナナ達が驚いたが、それ以上にママさんが慌てて口から噴き出しそうだった。
「あの、グー太君、どう言う事なの?説明して!」
木花咲姫の横の侍女が、箸を置いて、向き直って聞いた。
「どう言う事って?そんなの、そこの壁みたいな戸を開けると、中に小さな部屋があって、冷蔵庫とシャワーとトイレがあるよ、その冷蔵庫の中に入っているのを、おいらは見たよ」
とグー太は悪びれる事なく答えた。
「まーっ、そんな所を開けたの?いつの間に?わーっビックリ、ほんとに油断も隙もないわね!」
ママさんはあきれていたが、そのうちに笑い出した。
「ホホホホ、まあ、こうなったら仕方ないわね、バレちゃった!って感じね、ホホホホ。
本当は秘密なのよ、その部屋は鍵をかけて絶対に見られないようにしてるんだけど、今日はちょっと油断しちゃったわ、これからは小さい子には気を付けなきゃね、内緒にしておいてねホホホホホ」
とママさんは、口に指を当てて、一瞬だけ恐い顔でグー太をにらんだ。
ハナ達も秘密の部屋が有る事には驚いた。
「えーっ、それじゃ、奥にはトイレもシャワーもあるの?」
すると、ママさんはひらきなおったように平然と答えた。
「そうよ、それに小さなキッチンもあるわ」
ハナ達はさらに追求した。
「それじゃ、飲み水は?」
ママさんは面白がっていた。
「そう、お客さん達が見ている時には江戸時代のように、毎朝、井戸から汲んできた水を、そこの土間のカメに貯えるのよ。
そして、そのカメの水お沸かしてお茶など入れるのよ。
でも、客がいない1人の時は、こっちの水道水を使うわ」
と笑って舌を出した。
「へえーっ、あきれた、それじゃ、洗濯物は?」
ハナ達は、さらに追求した。
「奥の納屋の中に、大型と中型の洗濯乾燥機があるわ、そこは外からも観光客にも見られないわ」
「えーっ、またまたーインチキ・・」
ハナとハナナ達が、さらに口を尖らせた。
その時、
「えー、魚ー、魚ー!野菜ー野菜ー!」
と外の広場から大きな男の声が聞こえてきた。
ハナ達は話を止め、顔を見合わせた。
「ああ、あれはいつものボテフリよ、魚や野菜を売りに来たのよ」
ママさんが答えた。
「ボテフリ?」
皆はママさんの顔を見た。
「そうよ、まあ、言ってみれば、行商みたいなものよ、天秤棒の両端に桶や籠をぶら下げて肩に担いで商品を売り歩くのよ。
江戸ではそうして魚や野菜など売り歩いていたのよ、なので今の人達のようにスーパー店へ買いに行かなくても家の前で買えたのよ」
「へえーっ、昔はそんな売り方だったんだ」
「それなら、お年寄りや忙しい人達には大歓迎ね」
ハナとハナナが答えた。
「そうなのよ、他にも豆腐や煮物やオカズや珍しいものも、ああやって声を出して売っていたのよ」
ママさんがそう言った時、
「えー、タマゴー、タマゴー!アイスクリームー、アイスクリームー!」
と言う声が聞こえてきた。
「えっ、タマゴだって?アイスクリームだって?」
グー太が、箸を投げ出して外へ飛び出した。
「えーっ?まるで、私達の話を聞いていたみたい」
ハナとハナナが不思議がった。
「タマゴはいつもの事よ、それに今日は子供達がいる事を知ってて子供達の欲しいそうな物を揃えて来たのよ、全く、あきれる程、抜け目ない上手な売り方だわ」
商売上手なママさんも敵わない様子だった。
「へえーっ、そうなんだ」
ハナとハナナは感心するばかりだった。
さて、話しが変わって、村長さんと車夫はと言えば?
二人は、大家さんの家に招かれていた。
座布団に座って生菓子とお茶を出されていた。
「いやいや、昭和村の村長さんがきてくださるとは珍しい事です。確か、この長屋には初めての事じゃないですか?さあ、どうぞ、どうぞお菓子を召し上がってください、これはボテフリから買ったわらび餅です」
すると、村長が尋ねた。
「ボテフリ?何じゃそれは?」
大家は江戸時代のボテフリの説明をした。
「あっ、そう言えば、忘れていた、すぐに電話しなきゃ、ちょっと失礼!」
大家は慌ててスマホを袂から取り出して、電話した。
「もしもし、オケラ長屋の大家じゃが、大急ぎでボテフリを出してくれ、そうそう、大至急だ。そう、今回はいつもの魚と野菜、それに肉もだ。そうそう、人数は二十人ほど、で半数は子供だ。なので子供の好きそうなスイーツやアイスもな、そうそう、じゃあ頼んだよ」
と大家は電話を終わってホッとした顔になった。
「なーんだ、そう言う事か?大家さんが連絡していたんだ?それでちょうどいい頃に行商が売りに来たんだ、なーるほど」
車夫は膝で手を叩いていた。
「いやいや、実は、売上の分け前がこちらにも入りますのでな、ハッハッハー!」
と大家は大笑いした。
しばらく雑談をしていると、広場から声が聞こえた。
「えー、魚ー、魚ー!野菜ー野菜ー!」
村長と車夫が顔を見合わせていると、
「ああ、来ましたね、ボテフリですよ、よかった早く来てくれて」
と大家が笑顔になった。
「それにしてもちょっと早過ぎるのう、電話したのはほんのちょっと前じゃ、ボテフリが出るスーパーって、そんなに近くじゃったかのう?」
村長が不思議がって小首をかしげていた。
すると大家は、
「ハハハハ 確かにこの江戸村は住宅がたくさん集まっているのでミニスーパーがあります。でもあんなに早くボテフリが来たのは別の理由があるんですよ」
と笑った。
村長と車夫がボテフリを見ようと、戸口から外へ出た。
広場の井戸の方をみると、ボテフリが背負っていた天秤棒から桶を地面に降ろしていた。
その桶の中の商品を皆が取り囲んで見ていた。
しばらくすると、ボテフリノ男はまた天秤棒を担いで別の桶を運んできた。
(えっ?・・あの桶はどこから担いで来るんじゃ?)
村長と車夫は質問するように大家の顔を見た。
「ハハハハ、実はここのミニスーパーは、商品の半分は車に積んで奥山の村や住宅地まで運んで売っているんですよ、まあ言って見れば、移動スーパーです。
商品は桶に入れて車の後ろに並べているので、天秤棒ですぐに運べるんです、車はこの長屋から見えない所に駐車してるんですよ、ハハハハハー」
と大家は大笑いした。
「何だ、そう言う事じゃったのか?そう、電話が来たので、慌ててこの長屋へ駆けつけた訳じゃ、どうりで早く来れた訳じゃ」
村長も笑いながら納得していた。
三人が井戸に近づくと、ボテフリの若い兄ちゃんが皆に見られながら包丁で大きな魚を素速くさばいていた。
大家が、
「おお、美味そうな刺身だ、そうだ、村長さん、今日の昼ご飯は刺身はいかがですか?」
と尋ねた。
「ああ、ワシは何でもよい、刺身は大好きじゃ」
切り出される美味そうな刺身を見ながら村長がうなづいた。
「はーい、おまたせ!刺身ができました、このカツオを買った人、どうぞ持っていってください」
ボテフリのお兄ちゃんが叫んだ。
はーい、私達でーす」
母親と子供達が、山盛りの刺身の大きな皿を受け取った。

(つづく)

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