老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

1427;寂 寥 感

2020-03-01 11:59:59 | 老いの光影 第6章 「老い」と「生い」
寂 寥 感

末期癌を抱え
歩くこともままならぬ老女は
長年住み慣れた家を離れた
空き家になってしまった我が棲家
  
いまはサービス付き高齢者住宅の一室
申し訳程度の腰窓だけのせいか殺風景
掃き出し窓ならば季節の風も感じるのだが
過去の思い出から遮断された時空間

妹 老いた父母 弟 を見送り
独り身で暮らしてきた老女

老女は呟く
「こうして独りでいると言葉まで忘れてしまう」 
髪の毛が抜け落ちるように 記憶までも失っていく
残るのは寂寥感

癌の痛みにもじっと耐え
泣き言ひとつこぼさない老女

痩せ細った老女の手を握り返し
「また来るね」と手を振る

遣る瀬無く 
せつなく
どうしようもない

老女の最期を見送り
ささやかな葬式と家族が埋葬されている墓に納骨した