雨は、絶対にいい作品が多いと思い、覚悟しながら読みました。
やはりパンチのある作品が次から次へと・・・・。
<振り返り>
この辺りからようやく題に振り回されることが減り、自分の書きたいものを模索するようになりました。
徐々に波の乗り方を掴みはじめていくような気分です。
やはりパンチのある作品が次から次へと・・・・。
死にたての匂いがすると猫の目が膨らむ そうね、雨になるわね 水須ゆき子 題詠を走り始めたばかりのころ、まだ皆さんの作品をよく読んでいない私の目にとびこんできたのが、水須ゆき子さんのこの作品でした。 キッカケは五十嵐きよみさんのお茶会。 とても印象的な作品でした。 「死にたての匂いがすると猫の目が膨らむ」 迷信めいた、暗示のような一節がどきっとします。 猫って、とても神秘的な生き物だと思います。 夜になると黒目が大きくなったり、 顔を洗うと雨が降るといわれたり、 魔女が飼っている動物なんて言われたり、 なにか変化を読み取る、そんな動物のように思えます。 ですから、「死にたての匂いがすると猫の目が膨らむ」なんて現象は、さもありなん。という感じで、すんなりと沁みこんできました。 そして、「死にたての匂い」はまた、「雨」の予感を呼んでいます。 「そうね、雨になるわね」 と、まるで猫にささやいているかのような、やさしい物言いが、「死にたて」「雨」というような寒々しく陰鬱とした空気をやわらかくしている気がします。 この作品は、31字のなかにとても濃厚な予感めいた空気が凝縮されていて、猫と作中主体は、それをそっと肌で感じている様子が伺えます。 そしてまた、こちら(読み手)にもその空気が肌を通して伝わってくるのです。 |
約束も雨女だとからかってくる人もないはずなのに、降る 末松さくや 一編の物語みたいな、せつない雨の作品。 そのなかで読点がいい位置に置かれていて、くっと立ち止まってしまいました。 降る理由がないのに、降る雨。 読点の位置になんだか言いたいことや感情やいろいろ詰まっている気がしますが、それは全部ぐっと読点におさめてしまって、「降る」。 この作品が終わったあともずっと、しとしとと雨が降り続けているようです。 |
小糠雨のようなセックスずっとずっとずっときれいなからだでいたい 田丸まひる 下手な言葉を添えたら、かえって汚してしまいそう。 反則級にステキです・・・。 心にどごっと穴があきました・・・・。 女の子は刹那的に愛し続けようとするから、脆くて痛いよ。 せつない。せつない。 |
いっしんに雨になろうとする君をいだけば常夜灯のわたくし 笹井宏之 なんだか、いいなぁって思ってしまいました。 「君」も「わたくし」も一生懸命な人だぁ。 雨になろうとする君。ずっと照らし続けるわたくし。 雨になろうとする君は、とてもひたむきなひとで、 常夜灯のわたくしは、ひとを守ることのできるひとですね。 愛っていいなぁ。 ふたりっていいなぁ。 羨ましいほどに、愛おしい光景です。 |
アパートに雨の匂いとふたりして遊び果てても埋まらないもの 柴田菜摘子 遊び果てても埋まらないもの。 そのアパートの埋まらないものの場所に、雨の匂いが漂っていて、 だから、埋まらないってわかってしまう。 とてもとても静かな光景が浮かびます。 アパートにふたりの息遣いはあるのに。 雨の匂いと埋まらないものが、ただただ静かにずっしりと部屋を占めていて。 |
<振り返り>
この辺りからようやく題に振り回されることが減り、自分の書きたいものを模索するようになりました。
徐々に波の乗り方を掴みはじめていくような気分です。
お気に入りの歌なので、うれしいです。
雨は、それだけで雰囲気の出る単語なので、
使いやすい分、難しい気がします。
水須さんのこの歌は、濃密で、
一度味わったら忘れられなくなりました。
「死にたての匂い」と「猫」と「雨」の、
この組合せだけでもいいのに、
全体を包み込むやさしさがたまりません。
この「どごっ」ときた気持ちがうまく言えなくてもどかしいです。
そんな、なぞりにくいようなラインが描かれているのが、もう絶妙!なんですけどね。
水須ゆき子さんの作品もすごいですよね。
言葉自身が空気を纏っているような感じがするというか。
なかなかこうはいきません。