わたしがもつ歴史認識を鋭く問うような本や話を、わたしは求めている。日本近現代史というわたしが主に学んでいる(最近は研究をしていない、ただ学び続けているだけである)分野でも、そうした刺激あるものがなくなっていると思わざるを得ない。
今私は、担当している歴史講座の準備をしているが、そこでは浜田知明という画家をとりあげる。彼には、「初年兵哀歌」というシリーズがあるが、画家として何を描こうとしていたのか、を考えている。浜田知明の展覧会は、今まで四回行き、その都度図録を購入している。そのため、材料にはことかかないのだが、彼の絵からも、日本の「戦争」に対する歴史認識が鍛えられる。
従軍して何を見るのか、あるいは自分自身の脳裡に何が刻印されるのか。それは個人個人に任される事柄であるが、主体としての浜田が見たものを、あるいは刻印されたものを考えることによって、戦争の本質をうかがうことはできはしないか。
そういうことを考えながらいたときに、岡真理、藤原辰史さんらによる『中学生から知りたいパレスチナのこと』(ミシマ社)を知った。さっそく図書館から借りてきて読んでいるのだが、これは購入して読むべきものだと思った。わたし自身の歴史認識をびしびしと問い詰めるのだ。知らなかった事実が次々と突きつけられる。それらの事実は、それぞれが重く、すぐには咀嚼できないのだが、少なくともわたし自身が持っていた歴史認識が激しく動揺していることを感じる。
素晴らしい本である。多くの人に読んでもらいたいと思う。
この本は『週刊金曜日』9月27日号で知った。その書評の最初、藤原さんの「そもそも、歴史学そのものが、人間の足跡と尊厳を簡単に消すことができる、人の生きてきた痕跡をなかったことにできる暴力装置である・・」が引用されていて、歴史学に多少とも関わってきたわたしとしては、この記述に驚かされたのである。早速読まなければならないと思った。
こういう歴史認識を揺るがすような研究がおこなわれなければならないのだが、わたし自身は一線から身を引いているので、何とも言えない。せめてみずからの属する研究会こそ、そういう研究を、と思っているのだが、その動向を見ていると、あまりにも専門的な研究ばかりに偏っている。
わたし自身は、問題意識が鋭角的であればあるほど良い研究ができると思いながら研究してきたが、そういう姿勢は、「時代遅れ」なのかも知れない。