浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

自死へのみち

2021-01-12 19:16:57 | 芥川

 久しぶりに芥川を読む。前回「歯車」について書いたが、私はそこに死の臭いを嗅いだ。

 次に「西方の人」を読んだ。キリストに関することついての感想が綴られたものだ。芥川は、キリストに関心をもち『聖書』を丁寧に読んだようだ。その跡が記されている。

 そして有名な「或旧友へ送る手記」。ここには自死の理由として、「唯ぼんやりとした不安」ということばが記されている。その不安の中身への言及はない。

 その後の「闇中問答」も、「或声」と「僕」との問答により成りたっているが、面白い話はない。すでに自死を決意しているように思える。自死を決意した自分自身を点検しているような書きぶりである。

 そして「或阿呆の一生」。芥川の心象の変遷をたどりながら記したものだ。そのなかに、これがある。民衆について書かれた同じようなものが、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」にもあったような気がする。ドストエフスキーのは、抽象的な民衆を愛することはできるが、具体的にそこに存在する民衆は愛すことはできない、というような文が。

誰よりも十戒を守った君は
誰よりも十戒を破った君だ。
 
誰よりも民衆を愛した君は
誰よりも民衆を軽蔑した君だ。
 
誰よりも理想に燃え上った君は
誰よりも現実を知ってゐた君だ。

君は僕等の東洋が生んだ
草花の匂のする電気機関車だ。

 第九巻に収載された文を読んでいくと、芥川の不安とは、狂人となる不安が大きかったのではなかったかと思う。

 芥川龍之介全集、第十巻は書簡である。これも読んでいこう。

 

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