ごとりん・るーむ映画ぶろぐ

 現在584本の映画のあくまで個人的な感想をアップさせていただいています。ラブコメ、ホラー、歴史映画が好きです【^_^】

輪廻(清水崇監督)

2008-01-07 | Weblog
ストーリー;昭和45年に群馬県のあるホテルで発生した一家心中と、それに巻き込まれたほかの宿泊客や従業員など合計11人の集団殺人事件。ある映画監督はこの事件の映画化に執念をもやし、加害者よりも被害者に焦点をあてた新たな映画を作成しようとする。そしてオーディションが始まるが…。
出演;優香、椎名桔平、杉本哲太
コメント;「呪怨」や「稀人」については正直厳しい見方をせざるを得なかったのだが、この映画はまぎれもなく傑作だろう。一応ホラー映画に分類されているが、黒澤清監督の「地獄の警備員」や「CURE」などがそうであるがごとく、既存のハリウッド映画のような表面的な恐怖ではなく、ホラー映画に姿を借りたスタイリッシュな画像が連続してあらわれる。テレビ番組などではさしたる興味もひかなかった優香の演技がまたすばらしい。新人女優としての演技、「前世の記憶」にひきずられる生身の人間としての演技、そしてラストで新たな世界にめざめたときの演技と微妙な役回りなのだがそのすべてが自然体。イヤミなところがない演技で、アイドル出身とはいえ、こうした淡々とした「ホラー」映画の中ではその「微妙な美人さ加減」がまた魅力的である。一応観客へのサービスのために最初の10分間は、恐怖のアイデアを秀逸に描く。鏡を使った恐怖やエレベーターを使った恐怖。そして田舎道で何者かに囲まれた気配のみを感じた恐怖など日本人の精神構造に深く迫る恐怖を描き、その後は「エルム街の悪夢」シリーズなどをはるかに超越した夢と現実の二重構造、写真と現実の二重構造、昭和45年と平成 17年の時代の二重構造をけれんみなく描写していく。大学の講義の場面では黒澤清監督も大学教授役で出演し、さらに図書館での「恐怖」の演出の見事さには唖然とするほど感動した。「知のネクロフィリア」ともいわれる図書館には多数の人間の知識と理論が死蔵されているわけで、本棚とその上の空間はたしかに現実離れした存在。それを逆手にとった演出であるわけで、携帯電話がポトリと落ちてくるあたりのリズム感は携帯電話が平成の今の産物で、しかもそこで通話されている内容も現在であるのだから、その場に取り残されるのは理にかなう。その後カメラは図書館の俯瞰を撮影するのが見事なほど空虚な中に照明にてらされた知識の「死」が照らし出されるという構造だ。
 いわゆるゾンビ映画としても秀逸で、一度死んだ人間が再びゆったりと立ち上がるシークエンス、あるいは今生きている人間がいきなり過去に葬り去られるシークエンスは実は唐突なようで実にゆっくりと、しかも計算されたリズム感覚で撮影されている。どちらかといえば無名の俳優が多く出演しているが、身体訓練もしっかり画面になじみ、微妙な人間の身体のブレが画面の固定とオーバーラップして、不可思議な映像空間を作り出している。ラストのシーンでは実は、ホラー映画にありがちな終わり方のようで実はそうではなく、何もない空間にセルロイドの人形、オレンジ色のスーパーボール、そして冷ややかに「外」から眺める観察者と「内」で拘束されている人間の「身体」だけが撮影される。表面的なラストだけではおそらく「そうなのかな」という終わり方だが、実は観察者の「目」と観察される側の「目」を画面はしっかり画面の中心で撮影しており、本当の主人公がだれだったのかはラストで観客が思い知ることになる。黒澤清以後、ホラー映画に入れ込むには実は寂しい状況が続いていたが、久方ぶりに見る日本映画の名作「ホラー」映画ここに誕生、といった感想で、ハリウッドの映画とは一味もニ味も異なる映像と役者とのリズムと視線のコラボレーションの奇妙な合体がここに終結したというところか。ミニシアター系統で公開中だが実にもったいない。まだ日本でもアメリカでも本当の意味での清水崇はまだ評価されていなかったのだ…。

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