自分が能力があると思っている程には能力のない河野太郎が2018年1月8日、地元・神奈川県茅ケ崎市での会合で〈中国の途上国への外交攻勢を引き合いに出しつつ、外相の積極的な海外出張などに理解を求めた。〉と2018年1月8日付「朝日デジタル」記事が伝えている。
無料記事部分からのみ引用。
河野太郎「今、日本の外交はかなり危機に直面していると言わざるを得ない。中近東やアフリカでは、中国が建てたビル、国会議事堂、中国がつくった橋、道路。どこへ行っても建設現場には中国語の看板がかかっている。
中国は政府の途上国援助(ODA)基準を定める経済協力開発機構(OECD)に加盟していないから、国際ルールに縛られない。中国が使うお金は、世界中のほとんどで日本のODAと民間投資を足した金額の何倍もだ。
今までと同じことをやっていたのでは、日本の国益を守れない。外交の中身で勝負しなければいけない時代になってきた」(下線箇所は解説文を会話体に直す)――
言っていることは中国のカネに物を言わせた対外援助が実を結ばせている開発途上国への影響力はハンパではなく、日本の比ではない。これでは日本の国益を守れないから、外交の中身で勝負して日本の国益を守らなければならないというものである。
「政府開発援助大綱」(外務省)なるページに次のことが記載されている。
援助実施の原則
(1) 環境と開発を両立させる。
(2) 軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する。
(3) テロや大量破壊兵器の拡散を防止するなど国際平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入などの動向に十分注意を払う。
(4) 開発途上国における民主化の促進、市場経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う。
確かにこれらの原則に縛られない中国の援助は有利に進めることができるが、しかし基本的な元手となるのはこれらの「原則」ではなく、あくまでも「資金」という名のカネである。
発途上国は自国の資金不足を原因として先進国にインフラ整備、その他の資金援助を求める。資金が潤沢であるなら、どの国も援助など求めない。当然、ビルや国会議事堂、その他の施設整備、橋、道路、その他の諸々のインフラ整備に関わる先進国の対開発途上国援助が無償か有償か、その割合、有償であったとしても、返済期間をどのくらい長く設けることができるのか、利子をどれ程の低利にしているのか、利子のみ返済の据置期間を設けることができるのか、設けるとしても、どのくらい長く据え置きを許すのかといった資金援助条件が援助を受けるについての決定権を握るのであって、最終的には開発途上国の援助に向けることができる援助先進国の資金力が援助条件に余裕を与えることになってモノを言うことになる。
いわば資金力の裏打ちのない外交は、あるいはその中身がどのようなものであっても、対外影響力は資金力相応に限定される。あるいは資金力と外交の力は相互関連性を持ち、外交の中身の決定に幅を持たせて対外影響力に姿を変えていくことになる。
このことに関してはインドネシア高速鉄道計画の国際入札を巡って日本と中国が激しく争ったものの最終的に中国に負けたことを一つの例として挙げることができる。日本の入札案はインドネシア政府による債務保証に拘ったが、中国のはインドネシア政府の財政支出や債務保証を必要としない入札案となっていて、その分、インドネシア政府は身軽に応じることができたのだろう、いわば資金力が明暗を分けた。
河野太郎が外相就任以来、諸外国訪問に精を出しているのは自身の外交能力を優秀だと信じているからだろう。ところが中国と日本の国の資金力の違いに視点を置かずに外交の中身のみで対外影響力を決定することができるかのような主張は外交能力が優秀だとの思い込みは思い上がりに過ぎないことの証明としかならない。
「2016年世界の政府債務残高対GDP比 国別ランキング・推移」(Global Note/2017年10月12日 年度更新日:2017年4月21日)から、国の資金力に影響を与えることになるIMFの統計に基づいた日中米の対GDP比政府債務残高を見てみる。
1位 日本 239.27%
15位 米国 107.11 %
108位 中国 44.29%
GDPの世界第1位はアメリカ、第2位は中国、第3位は日本の順となっているが、国の借金は日本が第1位の約GDP比239%、中国は第108位の約GDP比44%しかない。開発途上国援助は高利回りの事業というわけにはいかず、大盤振舞いとは逆に予算を絞ることになるはずだから(高利回りなら、借金を増やしても賭けに出ることもあり得るが)、河野太郎が言っている「中近東やアフリカでは」、「どこへ行っても建設現場には中国語の看板がかかっている」は毎年の政府予算を窮屈にしている政府債務残高の反映でもあるはずである。
河野太郎が対外影響力は「外交の中身で勝負しなければいけない時代になってきた」と言っていることが正しいとしたら、安倍晋三にしても「外交の中身で勝負」してきたはずだから、「中近東やアフリカでは」、「どこへ行っても建設現場には日本語の看板がかかっている」という状況になっていていいはずだが、そうはなっていない。
《第183回国会における安倍晋三所信表明演説》(2013年1月28日)
安倍晋三「外交は、単に周辺諸国との二国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった、基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していくのが基本であります。
大きく成長していくアジア太平洋地域において、我が国は、経済のみならず、安全保障や文化・人的交流など様々な分野で、先導役として貢献を続けてまいります」――
「二国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して」「戦略的な外交を展開していく」
当然、アジア太平洋地域のみに限定して俯瞰する外交ではなく、世界に存在するありとあらゆる国々を総合的に関連付けて俯瞰した外交を第2次安倍政権5年で推進してきたことになる。
安倍晋三は記者会見や国会答弁で訪問国数や首脳会談数を挙げて、それで以って自身の外交能力がさも優れているかのように自慢するが、「総理大臣の外国訪問一覧」 (外務省/平成29年11月16日)から、その数を見てみる。
第1回目の2013年1月16日から19日までのベトナム・タイ・インドネシアへの東南アジア訪問を1回と数えていて、最後の記載は2017年11月9日から11月15日の APECダナン首脳会議出席でベトナム、ASEAN関連首脳会議出席でフィリピンの2カ国訪問を59回目としているから、国の数で全体を見た場合、100カ国以上訪問。日本を訪れた外国首脳とも会談しているから、訪問国を優に上回る数の首脳会談をこなしていることになる。
いわば安倍晋三の地球儀を俯瞰する外交を以ってしても、中国の対外影響力に及ばない。河野太郎の「日本外交危機説」は安倍晋三の「地球儀を俯瞰する外交」が中国外交に無力の示唆を兼ねることになる。
ただ単に河野太郎自身が気づいていないだけで、安倍晋三に対して「お前さんの地球儀を俯瞰する外交は中国の資金力を前にして大して役に立っていないよ」と言っているのと同じである。
日本が中国以上にGDPを成長させ、尚且つ対GDP比政府債務残高を中国以下に抑えなければ、中国以上の対外影響力を望むことはできないだろう。
河野太郎はこういったことを抜きに「外交の中身」が対外影響力の切り札であるかのように云々する。動きや発言は派手に見えるが、いくら派手に動いて達者に発言したとしても、何も変わらないだろう。
勿論、外国訪問に政府専用機与えられたとしても、同じである。