河野太郎の「日本外交危機説」は安倍晋三の「地球儀を俯瞰する外交」が中国外交に無力の示唆を兼ねる

2018-01-12 10:48:54 | 政治

 自分が能力があると思っている程には能力のない河野太郎が2018年1月8日、地元・神奈川県茅ケ崎市での会合で〈中国の途上国への外交攻勢を引き合いに出しつつ、外相の積極的な海外出張などに理解を求めた。〉と2018年1月8日付「朝日デジタル」記事が伝えている。

 無料記事部分からのみ引用。

 河野太郎「今、日本の外交はかなり危機に直面していると言わざるを得ない。中近東やアフリカでは、中国が建てたビル、国会議事堂、中国がつくった橋、道路。どこへ行っても建設現場には中国語の看板がかかっている。

 中国は政府の途上国援助(ODA)基準を定める経済協力開発機構(OECD)に加盟していないから、国際ルールに縛られない。中国が使うお金は、世界中のほとんどで日本のODAと民間投資を足した金額の何倍もだ。

 今までと同じことをやっていたのでは、日本の国益を守れない。外交の中身で勝負しなければいけない時代になってきた」(下線箇所は解説文を会話体に直す)――

 言っていることは中国のカネに物を言わせた対外援助が実を結ばせている開発途上国への影響力はハンパではなく、日本の比ではない。これでは日本の国益を守れないから、外交の中身で勝負して日本の国益を守らなければならないというものである。

 「政府開発援助大綱」(外務省)なるページに次のことが記載されている。  

 援助実施の原則 

(1) 環境と開発を両立させる。
(2) 軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する。
(3) テロや大量破壊兵器の拡散を防止するなど国際平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入などの動向に十分注意を払う。
(4) 開発途上国における民主化の促進、市場経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う。

 確かにこれらの原則に縛られない中国の援助は有利に進めることができるが、しかし基本的な元手となるのはこれらの「原則」ではなく、あくまでも「資金」という名のカネである。

 発途上国は自国の資金不足を原因として先進国にインフラ整備、その他の資金援助を求める。資金が潤沢であるなら、どの国も援助など求めない。当然、ビルや国会議事堂、その他の施設整備、橋、道路、その他の諸々のインフラ整備に関わる先進国の対開発途上国援助が無償か有償か、その割合、有償であったとしても、返済期間をどのくらい長く設けることができるのか、利子をどれ程の低利にしているのか、利子のみ返済の据置期間を設けることができるのか、設けるとしても、どのくらい長く据え置きを許すのかといった資金援助条件が援助を受けるについての決定権を握るのであって、最終的には開発途上国の援助に向けることができる援助先進国の資金力が援助条件に余裕を与えることになってモノを言うことになる。

 いわば資金力の裏打ちのない外交は、あるいはその中身がどのようなものであっても、対外影響力は資金力相応に限定される。あるいは資金力と外交の力は相互関連性を持ち、外交の中身の決定に幅を持たせて対外影響力に姿を変えていくことになる。

 このことに関してはインドネシア高速鉄道計画の国際入札を巡って日本と中国が激しく争ったものの最終的に中国に負けたことを一つの例として挙げることができる。日本の入札案はインドネシア政府による債務保証に拘ったが、中国のはインドネシア政府の財政支出や債務保証を必要としない入札案となっていて、その分、インドネシア政府は身軽に応じることができたのだろう、いわば資金力が明暗を分けた。

 河野太郎が外相就任以来、諸外国訪問に精を出しているのは自身の外交能力を優秀だと信じているからだろう。ところが中国と日本の国の資金力の違いに視点を置かずに外交の中身のみで対外影響力を決定することができるかのような主張は外交能力が優秀だとの思い込みは思い上がりに過ぎないことの証明としかならない。

 「2016年世界の政府債務残高対GDP比 国別ランキング・推移」Global Note/2017年10月12日 年度更新日:2017年4月21日)から、国の資金力に影響を与えることになるIMFの統計に基づいた日中米の対GDP比政府債務残高を見てみる。        

1位   日本 239.27%
15位   米国 107.11 %
108位 中国 44.29%  

 GDPの世界第1位はアメリカ、第2位は中国、第3位は日本の順となっているが、国の借金は日本が第1位の約GDP比239%、中国は第108位の約GDP比44%しかない。開発途上国援助は高利回りの事業というわけにはいかず、大盤振舞いとは逆に予算を絞ることになるはずだから(高利回りなら、借金を増やしても賭けに出ることもあり得るが)、河野太郎が言っている「中近東やアフリカでは」、「どこへ行っても建設現場には中国語の看板がかかっている」は毎年の政府予算を窮屈にしている政府債務残高の反映でもあるはずである。

 河野太郎が対外影響力は「外交の中身で勝負しなければいけない時代になってきた」と言っていることが正しいとしたら、安倍晋三にしても「外交の中身で勝負」してきたはずだから、「中近東やアフリカでは」、「どこへ行っても建設現場には日本語の看板がかかっている」という状況になっていていいはずだが、そうはなっていない。

 《第183回国会における安倍晋三所信表明演説》(2013年1月28日)  

 安倍晋三「外交は、単に周辺諸国との二国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった、基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していくのが基本であります。
 大きく成長していくアジア太平洋地域において、我が国は、経済のみならず、安全保障や文化・人的交流など様々な分野で、先導役として貢献を続けてまいります」――

 「二国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して」「戦略的な外交を展開していく」

 当然、アジア太平洋地域のみに限定して俯瞰する外交ではなく、世界に存在するありとあらゆる国々を総合的に関連付けて俯瞰した外交を第2次安倍政権5年で推進してきたことになる。

 安倍晋三は記者会見や国会答弁で訪問国数や首脳会談数を挙げて、それで以って自身の外交能力がさも優れているかのように自慢するが、「総理大臣の外国訪問一覧」外務省/平成29年11月16日)から、その数を見てみる。 

 第1回目の2013年1月16日から19日までのベトナム・タイ・インドネシアへの東南アジア訪問を1回と数えていて、最後の記載は2017年11月9日から11月15日の APECダナン首脳会議出席でベトナム、ASEAN関連首脳会議出席でフィリピンの2カ国訪問を59回目としているから、国の数で全体を見た場合、100カ国以上訪問。日本を訪れた外国首脳とも会談しているから、訪問国を優に上回る数の首脳会談をこなしていることになる。

 いわば安倍晋三の地球儀を俯瞰する外交を以ってしても、中国の対外影響力に及ばない。河野太郎の「日本外交危機説」は安倍晋三の「地球儀を俯瞰する外交」が中国外交に無力の示唆を兼ねることになる。

 ただ単に河野太郎自身が気づいていないだけで、安倍晋三に対して「お前さんの地球儀を俯瞰する外交は中国の資金力を前にして大して役に立っていないよ」と言っているのと同じである。

 日本が中国以上にGDPを成長させ、尚且つ対GDP比政府債務残高を中国以下に抑えなければ、中国以上の対外影響力を望むことはできないだろう。

 河野太郎はこういったことを抜きに「外交の中身」が対外影響力の切り札であるかのように云々する。動きや発言は派手に見えるが、いくら派手に動いて達者に発言したとしても、何も変わらないだろう。

 勿論、外国訪問に政府専用機与えられたとしても、同じである。
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文韓国政府の従軍慰安婦日韓合意否定検証は韓国側の日本軍強制連行・強制売春関与の歴史認識への回帰

2018-01-11 11:26:41 | 政治

 韓国前大統領朴槿恵が救助隊も含めて300人以上の死者を出したセウォル号事件への対応不備や長年の友人である立場から朴政権への国政介入、あるいは大統領の権力を私物化して企業合併介入や資金横領、娘の大学不正入学に関与した崔順実ゲート事件等の一連の不祥事により2016年12月9日、韓国国会が憲法裁判所に対する弾劾訴追案を可決、2017年3月10日、憲法裁判所は大統領弾劾相当と判断、罷免を宣告。

 この弾劾・罷免を受けた2017年5月9日の大統領選で当選した文在寅が2017年5月10日に政権を発足。文在寅は大統領選挙中、日韓合意の見直しを公約として掲げていた。

 要するに朴政権が日本の安倍政権と取り交わした従軍慰安婦問題日韓合意を最初から正しい合意だと見ていなかった。だが、外野にいて、手出しできなかった。手出しできる立場に立つことができて、韓国政府として合意検証を開始した。

 そして2016年12月27日合意検証結果を公表、1月9日(2018年)に韓国の康京和(カンギョンファ)外相が日韓慰安婦合意に関する新方針を発表。文在寅大統領は翌1月10日の年頭記者会見で検証結果についての自らの考えを述べている。

 では最初に日韓合意検証に対して韓国政府がどのような方針で臨もうとしているのか、1月9日の韓国外相の発表を見てみる。

  「2015年の日韓慰安婦合意に関する新方針(要旨)」朝日デジタル/2018年1月9日18時17分)  

 (昨年12月27日、外相直属チームが合意の検証結果を発表して以降)外交省や女性家族省を中心に、被害者や関係団体の声に耳を傾ける一方、隣国である日本との関係を正常に発展させていく方法を真剣に検討してきた。その過程で何より、被害者の尊厳と名誉を回復しなければならないと肝に銘じた。

 また、両国関係を超えて、普遍的な人権問題である慰安婦問題が人類の歴史の教訓であり、女性の人権を拡大する運動の国際的な道しるべとして位置づけられるべきだとの点も重視した。あわせて北東アジアの平和と繁栄に向け、両国の正常な外交関係を回復しなければならないことも念頭に置いて、政府の立場を慎重に検討した。
 一、韓国政府は慰安婦被害者の方々の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けてあらゆる努力を尽くす

 二、この過程で、被害者や関係団体、国民の意見を幅広く反映しながら、被害者中心の措置を模索する。日本政府が拠出した「和解・癒やし財団」への基金10億円については韓国政府の予算で充当し、この基金の今後の処理方法は日本政府と協議する。財団の今後の運営に関しては、当該省庁で被害者や関連団体、国民の意見を幅広く反映しながら、後続措置を用意する

 三、被害当事者たちの意思をきちんと反映していない2015年の合意では、慰安婦問題を本当に解決することはできない

 四、2015年の合意が両国間の公式合意だったという事実は否定できない。韓国政府は合意に関して日本政府に再交渉は求めない。ただ、日本側が自ら、国際的な普遍基準によって真実をありのまま認め、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けた努力を続けてくれることを期待する。被害者の女性が一様に願うのは、自発的で心がこもった謝罪である

 五、韓国政府は、真実と原則に立脚して歴史問題を扱っていく。歴史問題を賢明に解決するための努力を傾けると同時に、両国間の未来志向的な協力のために努力していく

 本日述べた内容が被害者の皆さんの思いをすべて満たすとは考えていない。この点について深くおわびを申し上げる。今後も政府は真摯(しんし)に被害者の皆さんの意見に耳を傾け、追加的な後続措置をまとめていく。

 日韓合意は「被害当事者たちの意思をきちんと反映していない」ために「被害者の尊厳と名誉の回復」には繋がらない合意であることを根拠に新方針として「慰安婦被害者の方々の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けてあらゆる努力を尽くす」ことその他を挙げている。

 そして日本政府に対しては「国際的な普遍基準によって真実をありのまま認め、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けた努力を続けてくれることを期待」している。

 要するに日韓合意は「国際的な普遍基準」に則った「真実」の追求によって成り立っているとは言い難い。韓国政府としては「合意に関して日本政府に再交渉は求めない」ものの、今後共「真実と原則に立脚して歴史問題を扱っていく」と宣言、日韓合意を全面否定している。

 但し全面否定の具体的根拠には触れていない。

 この1月9日の韓国外相の新方針を発表翌日の1月10日に文在寅大統領は年頭記者会見で検証結果についての自らの考えを述べている。
 

 「年頭記者会見要旨」産経ニュース/2018.1.10 12:50)   

 一、平昌冬季五輪を南北関係改善と朝鮮半島の平和の転機としなければならない。

 一、従軍慰安婦問題を巡る日韓合意は両国間の公式的合意という事実は否定できないが、誤った問題は解決しなければならない。

 一、慰安婦問題を巡り韓国は、外交的な問題の中、十分に満足できなかったとしても現実的に最善の方法を探した。

 一、合意に基づき日本が拠出した10億円は問題解決に向けて良い目的で使えるなら望ましい。

 一、日本が心から謝罪するなどして、被害者たちが許すことができた時が本当の解決だ。

 一、日本とは心を通わせた真の友人となることを望む。歴史問題と未来志向の協力を分離して努力していく。

 一、今年が朝鮮半島の平和の始まりとなるよう最善を尽くす。その過程で日本や米国、中国など国際社会と協力する。(共同)

  文在寅は「従軍慰安婦問題を巡る日韓合意は両国間の公式的合意」ではあるが、「誤った問題は解決しなければならない」との表現で誤った合意と批判している。

 と言うことは、検証結果に基づいて“誤った公式合意”と看做すことに同意しているということであろう。いわば文在寅にしても日韓合意を全面否定している。それゆえに「合意に基づき日本が拠出した10億円は問題解決に向けて良い目的で使えるなら望ましい」との仮定願望の形で言いつつ、その実、「良い目的で使えないのではないのか」と疑問を投げかけている。

 要するにいくらカネを積まれても、誤った合意に拠出されたカネなのだから、カネの趣旨自体が如何わしい性格を帯びることになるということなのだろう。

 もし韓国が日本に対して政治的にも経済的にも強い立場に立つことができたなら、「使えるなら望ましい」といった仮定願望を使わずに「使うことはできない」と断言する形で拒否することになったに違いない

 また、強い立場に立つことができないゆえに日韓合意は公式的合意として認めるが、誤った合意である以上、「日本が心から謝罪するなどして、被害者たちが許すことができた時が本当の解決だ」と、“心からの謝罪”を求めることになったのだろう。

 文在寅が何を以って誤った合意だと日韓合意を全面否定し、日本政府からの「心から謝罪」があって初めて「本当の解決だ」としているのだろうか。

 2015年12月28日の日韓合意では、〈慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。〉ことを認め、〈 安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。〉ことを受け入れている。

 安倍晋三が日韓合意で認めた韓国人女性慰安婦に対する「当時の軍の関与」とは、以前からも国会その他で表明していたが、日韓合意後の2016年1月18日の参院予算委員会で、慰安所の設置・管理、慰安婦の移送、業者の慰安婦募集への要請のみだと答弁している。

 いわば常々表明しているように韓国人女性の拉致・誘拐を手段とした強制連行・強制売春には日本軍の関与はなかったとする答弁となっている。

 安倍晋三のこの「当時の軍の関与」に関わる歴史認識に基づいた日韓合意を文在寅政権は「慰安婦被害者の方々の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やし」にはならない誤った合意だと全面否定している関係を取っているということになる。

 当然、後者の歴史認識は韓国人女性の拉致・誘拐を手段とした強制連行・強制売春には日本軍の関与があり、この一線は譲ることはできない「真実と原則に立脚」した歴史認識としていることになる。

 この歴史認識は朴政権も掲げていて、日韓がギクシャクする原因となっていた。要するに文在寅は元々の韓国に於ける歴史認識へと回帰したに過ぎない。

 安倍晋三が主導する歴史認識が事実か、韓国の元々の歴史認識が事実なのかによって、いずれが胡散臭い歴史の改竄に手を貸しているのかが別れることになる。

 すべての問題点はここあることに留意しなければならない。

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安倍晋三の北方四島経済協力「特別な制度」さえ構築できずに平和条約締結前進可能を言う話術のペテン

2018-01-09 11:26:30 | 政治

 【追記】(2018年1月9日 18時01分)  少々蛍光灯で、気づくのが遅すぎたが、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」にロシアは棄権票を投じて加盟していない。だが、北方四島の先住民はアイヌ民族であった事実に変わりはないから、ロシア側が歴史を経てロシア領であることを回復したという論理を取るなら、ロシア人が住む歴史以前にアイヌ民族が先住していた歴史を以ってして、アイヌの土地として回復すべきであるという論理も成り立つはずである。日本とロシアは先住民族であるアイヌ民族を外してロシア領だ、日本領だと争っていたに過ぎないと。

 安倍晋三が地元山口を訪れていた2018年1月8日、下関市で開催の自身の後援会で挨拶、今年5月に訪ロし、プーチンとの首脳会談の希望を伝えた上で平和条約締結に関して発言したと2018年1月8日付 「NHK NEWS WEB」が伝えている。

 安倍晋三「おととし、ロシアのプーチン大統領と隣の長門市で合意した長門合意にのっとり、この1年間で前進があった。

 事情が許せば、5月にロシアを訪問したい。4島の帰属問題を解決し、平和条約を締結するため、1歩でも2歩でも前進させていきたい」

 「1年間で前進があった」と言っていることは2016年12月に訪日したプーチンとの2度の会談で北方四島で「日露双方の法的立場を害さない『特別な制度』」の構築に関する協議の開始に合意し、この合意に基づいて共同経済協力が進んでいることを指している。

 北方四島で経済協力を進めて、最終的に四島の帰属を決め、平和条約締結に結びつける。安倍晋三が描いているシナリオである。

 だが、このシナリオに於ける日露双方が共同経済協力の基本的な枠組みとする安倍晋三提唱、プーチンと合意したものの、「特別な制度」の構築は一向に進んでいない。何をどう協力していくのか、共同経済協力の分野の選定が進んでいるのみである。

 「日露双方の法的立場を害さない」とは、国家の三要素である「領土・国民・主権」は全て国々の憲法その他の法律の制約下にあるから、そのような立場を害さないために日露共に自国の法制度を離れるということであろう。

 このことはロシアにとっては北方四島に於ける主権の一時的な棚上げを意味して、北方四島を実効支配しているロシア側にとってより不利となる、日本側にとっては四島の帰属問題に希望を見い出すことができる「特別な制度」と言うことができる。

 もしロシア側がゆくゆくは帰属問題の交渉に応じて、一島でも二島でも返還する気でいたなら、「特別な制度」の構築に反対しないはずだ。

 だが、ロシア側は「共同経済活動はロシアの法律に基づいて実施される」と主張、いわばロシアの主権を譲らないでいる。

 この姿勢は帰属問題の交渉に応じるのか応じないのか、あるいはロシア側は経済という果実だけを求めているのかどうかを占うことになる。

 この二度目の首脳会談を終えた安倍晋三とプーチンは共同記者会見を行っている

 「日露共同記者会見」(首相官邸/2016年12月16日)    

 阿比留瑠比「幹事社の産経新聞の阿比留と申します。

 平和条約締結に関しては、先日の日本メディアとのインタビューで、大統領は、我々のパートナーの柔軟性にかかっているとも述べられています。かつては、引き分けという表現も使われました。大統領の御主張は、何か後退しているような印象があるわけですが、日本に柔軟性を求めるのであれば、ロシア側はどんな柔軟性をお示しになるのか、お考えをお聞かせください」

 プーチン大統領「 あなたの質問に完全に答えるために、私は、せめて非常に端的に、手短に、いずれにせよ歴史について述べなければなりません。

 尊敬する阿比留氏、私はそのようにあなたの名字を聞き取りましたが、尊敬する同僚、友人の皆様。

 確かに日本は1855年に『南クリル列島』の諸島を受け取り、ロシア政府及び天皇陛下との合意に従い、プチャーチン提督は最終的にこれらの諸島を日本の管轄下に引き渡しました。なぜなら、それまでロシアは、これらの島々は、ロシア人航海者によって開かれたため、ロシアに帰属していると考えていたからです。平和条約を締結するために、ロシアはこれら諸島を引き渡しました。

 ちょうど50年後、日本はこれでは不十分であると考え、1905年の戦争ののちに、これらの軍事行動の結果として、更にサハリンのもう半分、サハリンの北部を最終的に取りました。

 ところで、ポーツマス条約のある条で日本は、この領土からロシア国民をも本国に送還する権利を得ました。彼らは残ることもできたが、日本は、この領土から、サハリンからロシア国民を本国に送還する権利を得ました。更に40年後、1945年の戦争ののち、今度はソ連が、サハリンを自国に取り戻しただけではなく、『南クリル列島』の島々をも取り戻しました」

 プーチンが「日本は1855年に『南クリル列島』の諸島を受け取り」と言っていることは千島列島の択捉島と得撫島の間に日露の国境線が引かれ、樺太に関しては国境を設けず、これまでどおりに両国民混住の地とすることになった1855年2月7日(安政元年12月21日)締結の日露和親条約(プーチンが言っている「平和条約」)を指す。

 さらにプーチンが「ちょうど50年後、日本はこれでは不十分であると考え」と言っていることは日露和親条約締結50年後の1895年6月8日に日本が日露和親条約の効力を放棄することを取り決めた「日露通商航海条約」の締結を言う。

 但し日本は日露和親条約の効力を失うことになるが、1875年締結の樺太での日本の権益を放棄する代わりに得撫島以北の千島全島をロシアが日本に譲渡し、日本の領土とすることを取り決めた「樺太千島交換条約」の効力を確認、発効させている。

 「1905年の戦争」と言っているのは勿論、日露戦争のことで、戦争の結果、日本は南樺太(南サハリン)を日本領とし、ロシアは樺太に関しては北樺太のみを領土とすることになった。プーチンが「サハリンのもう半分、サハリンの北部を最終的に取りました」と言っていることはこのことを指す。

 南樺太を領土とした日本は在住ロシア人を南樺太外に移動させたと言うことなのだろう。そしてプーチンは「更に40年後、1945年の戦争ののち、今度はソ連が、サハリンを自国に取り戻しただけではなく、『南クリル列島』の島々をも取り戻しました」と第2次世界大戦の結果、南樺太も千島全島もロシア領土として取り戻したと告げている。

 全体の趣旨は樺太と千島列島は日露の歴史の過程でそれぞれが領土とし合うことがあったが、元々はロシア領であり、日本の敗戦、ロシアの戦勝でロシアが全ての領土を取り戻したとなる。

 このプーチンの北方領土に関わる歴史認識が日露共同経済協力に於けるロシア側の「共同経済活動はロシアの法律に基づいて実施される」との主張にそのまま反映されていることになる。ロシア領土である以上、ロシアの主権下にあるとの謂(いい)である。

 プーチンのこのような歴史認識を見る限り、ロシアは北方四島を日本に返還する気はなく、ロシア主権下の日露共同経済協力によって経済的果実のみを成果にしようと目論んでいる。「日露双方の法的立場を害さない『特別な制度』」の構築が進まないままに協力分野のみが決められていく状況は経済的果実のみを追うプーチンにとっては好都合の展開となっているはずだ。

 誰が見ても2016年12月の合意に基づいた北方四島に於ける日露共同経済協力に関わる協力分野の選定だけが「この1年間で前進があった」が実情であるにも関わらず、その「前進」をベースにすれば、「4島の帰属問題」と平和条約締結交渉を「1歩でも2歩でも前進させて」いくことができるかのように言うのは話術のペテンそのものである。

 2016年12月19日の当「ブログ」に北方四島の先住民はアイヌ民族だから、アイヌ民族への返還を求めたなら、プーチン・ロシアの「第2次世界大戦の結果北方四島はロシア領となった」とする論理を打ち破ることができるといったことを書いた。

 返還の根拠は日本も締結国となっている「先住民族の権利に関する国際連合宣言」に依る。    

 「第28条 土地や領域、資源の回復と補償を受ける権利」 

 〈先住民族は、自らが伝統的に所有し、または占有もしくは使用してきた土地、領域および資源であって、その自由で事前の情報に基づいた合意なくして没収、収奪、占有、使用され、または損害を与えられたものに対して、原状回復を含む手段により、またはそれが可能でなければ正当、公正かつ衡平な補償の手段により救済を受ける権利を有する。〉――

 最終的にはアイヌ民族自身が決めることだが、原状回復を手段として北方四島をアイヌ領土とし、最後に、〈アイヌ民族と現住ロシア人、そして元島民等の日本人を含めた共生国家樹立の構想を打ち立てたなら、国際的な世論を喚起できるように思えるが、どうだろうか。〉と締め括った。

 安倍晋三の北方四島がさも返還されるかのように見せかける話術のペテンよりもマシなアイデアであるはずだ。
 

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安倍晋三の鈍感・無知な点は金正恩が独裁者ゆえに核保有を体制死守の最大国益としている点に気づかぬこと

2018-01-08 11:43:16 | 政治

 安倍晋三は北朝鮮に経済的圧力を加えることで北朝鮮の核の放棄を狙っている。そのような狙いに基づいた発言を改めて振返ってみる。

 「第72回国連総会一般討論演説」(外務省/2017年9月20日)    

 安倍晋三「9月3日,北朝鮮は核実験を強行しました。それが,水爆の爆発だったかはともかく,規模は,前例をはるかに上回りました。
 前後し,8月29日,次いで,北朝鮮を制裁するため安保理が通した,「決議2375」のインクも乾かぬうち,9月15日に,北朝鮮はミサイルを発射しました。いずれも日本上空を通過させ,航続距離を見せつけるものでありました。

 脅威はかつてなく重大です。眼前に,差し迫ったものです。

 我々が営々続けてきた軍縮の努力を,北朝鮮は,一笑に付そうとしている。不拡散体制は,その,史上最も確信的な破壊者によって,深刻な,打撃を受けようとしています。

 ・・・・・・・・・・

 対話とは,北朝鮮にとって,我々を欺き,時間を稼ぐため,むしろ最良の手段だった。

 北朝鮮に,すべての核・弾道ミサイル計画を,完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法で,放棄させなくてはなりません。そのため必要なのは,対話ではない。圧力なのです」

 「対話」を否定し、「圧力」こそ、北朝鮮に対して「完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法」での核・弾道ミサイル計画放棄の道だとしている。

 この一般討論演説5日後2017年9月25日の「衆院解散記者会見」(首相官邸/2017年9月25日)    

  少子高齢化と北朝鮮の脅威を「国難」と掲げて。

 安倍晋三「圧力の強化は北朝鮮を暴発させる危険があり、方針転換して対話をすべきではないかという意見もあります。世界中の誰も紛争などを望んではいません。しかし、ただ対話のための対話には、意味はありません。

 ・・・・・・・・・

  対話の努力は時間稼ぎに利用されました。北朝鮮に全ての核、弾道ミサイル計画を完全な、検証可能な、かつ不可逆的な方法で放棄させなければならない。そのことを北朝鮮が受け入れない限り、今後ともあらゆる手段による圧力を最大限まで高めていく他に道はない。私はそう確信しています」

 「対話の努力」はミサイル・核開発の「時間稼ぎ」に利用されだけで、「今後ともあらゆる手段による圧力」こそが「核、弾道ミサイル計画」の完全放棄の方法だと信じてやまない発言となっている。
 
 北朝鮮はミサイル発射実験ばかりか、2017年9月3日に6度目となる核実験を強硬。国連安保理はこの実験を受けて9月11日、新たな制裁決議を全会一致で採択した。中露の反対で石油禁輸は見送ったものの、北朝鮮の石油精製品の輸入を従来量の3割削減となる年間200万バレルに制限。石炭等の資源輸出に次いで2番目に輸出額が大きい、8割近くが中国向けの繊維製品の輸出を禁止する等の内容となっていて、北朝鮮を追い詰めることになる相当厳しい制裁であったはずであり、安倍晋三が望んでいる最大限の圧力に相当したはずである。

 だが、北朝鮮はこの制裁決議の僅か4日後の9月15日午前、全部で6回目となる北海道上空通過、太平洋沖落下の中距離弾道ミサイルの発射実験を敢行。

 さらに2017年11月29日正午、米本土到達可能な新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星(ファソン)15」の発射に成功。国連安保理は2017年12月22日、同国に対する追加制裁決議案を全会一致で採択した。

 一見すると、北朝鮮は国連の制裁に屈しない姿勢をICBM発射で示したように見えるが、金正恩は2018年1月1日の「新年の辞」で、「米国が冒険的な火遊びをしないようにする強力な抑止力がある。米国は決して我が国を相手に戦争できない。核のボタンは私の事務室の机の上にいつも置かれているのが現実だ」と米国を牽制する一方で、2月のピョンチャンオリンピックに言及、「大会が成功裏に開催されることを心から望む。われわれは代表団の派遣を含めて必要な措置をとる用意があり、このために、双方の当局がすぐに会うこともできる」と述べて南北対話を提案、韓国もこの提案に応じて、南北共に閣僚級の代表と次官級の高官が参加する高位級会談の1月9日の開催が決まった。

 この急遽決まった南北対話への急激な展開は北朝鮮が国連の制裁や日米それぞれの独自制裁に安倍晋三が望んでいる通りに追い詰められてきた窮余の策に見えないことはない。

 但し二つの見方ができる。一つは経済制裁の輪からせめて韓国だけを切り崩して、経済的に一息つき、その余裕分をミサイル開発や核開発の資金に向ける。

 もう一つは韓国との対話と糸口として米国との対話に応じる。トランプは南北対話を歓迎しつつも、自分の圧力政策が対話に繋がったとし、状況次第での米朝直接対話の可能性に触れている。と言っても、核放棄を対話の条件としていることに変わりはない。

 安倍晋三も断るまでもなく、トランプと同様の姿勢を見せている。各党党首へのインタビューを扱った1月7日(2017年)のNHK「日曜討論 2018年 政治はどう動く」から、その発言を見てみる。

 島田キャスター「外交安全保障、大きな課題を抱えている北朝鮮を巡って韓国と当の北朝鮮が9日にも2年ぶりの高給会談を行う見通しとなりました。今回の南北間の対話再開、これがどう進んでいくことが重要と見ていますか」

 安倍晋三「私たちは北朝鮮に政策を変えさせるために様々な手段を使って、あらゆる手段を使って最大限圧力を高めていく。これは北朝鮮に政策を変えさせて、北朝鮮の側から話し合いたいと言ってくる状況をつくるためにであり、そのために昨年、トランプ大統領とも、その方針で合意をし、その考え方に則って国連に於いて厳しい制裁且つ決議を採択して北朝鮮向けの石油製品9割、供給制限をすることになりました(北朝鮮の輸出の9割が制裁対象になることの間違い)。

 今回そうしたことに於いてですね、ピョンチャンオリンピックに向けて協力していく姿勢を北朝鮮が示した。オリンピックは平和の祭典ですから、私はこうした変化は評価したいと考えています。

 しかし大切なことは北朝鮮に核ミサイルを放棄させる。そして拉致問題を解決していくことでありますから、そのためにしっかりとまずは国連決議を全ての国が履行していくことが大切だろうと考えております」

 そして例の如くに「対話のための対話は意味がない、完全、検証可能な且つ不可逆的な形で核ミサイルを廃棄することにコミットさせる。そしてそれに向けて具体的な行動を取るということが必要。それがあって初めて意味のある対話になっていく」と締め括っている。

 いわば核放棄に繋がらない対話は時間稼ぎに過ぎない、繋がる対話のみに意味があるとの趣旨で圧力の結果をそこに置いている。と言うことは、安倍晋三の持病である潰瘍性大腸炎の治療薬を信じ切っているように圧力の結果を信じ切っていることになる。でなければ、「北朝鮮の側から話し合いたいと言ってくる状況をつくる」といった発言は出てこない。

 確かに国連安保理の厳しい様々な制裁は北朝鮮の経済的体力を弱体化させる。だが、安倍晋三が「対話の努力は時間稼ぎに利用された」と言っていることは金正恩が独裁者であり、独裁者としての国家的意思を見誤った発言に過ぎない。

 独裁国家は民主国家と経済上の国益を一致させることができても、国民統治に関しては基本的人権の点で国益を一致させることができない。その点で国益を一致させたなら、独裁国家はたちまち独裁国家でなくなる。

 独裁者は独裁体制を危険に陥れる国内の勢力に対しては言論の抑圧や集会の制限、あるいは禁止等の方法を用いて強権的な取締まりを行い、国外の勢力に対しては軍事的手段で独裁体制を守ろうとする。

 北朝鮮の金正恩にとっては国外の勢力からの独裁体制を死守する唯一無二の保障が核ミサイルの装備であって、そうである以上、放棄することはあり得ない。

 以前トランプが核放棄の条件として北朝鮮の国家体制の保障を口にしたことがあるが、金正恩は父子継承の金一族の独裁体制の国民統治と民主体制のそれとの国益上の利害の不一致・価値観の不一致が一度の保障によって解消されない永遠性を弁えていて、独裁体制死守の絶対的保障をアメリカ本土攻撃可能な核ミサイルの保有から変える意志を持っていないはずだ。

 北朝鮮が独裁国家体制を取る間は永遠に相交わることのない、常に相反する国民統治方式の軌跡を相互に描くことになる以上、「今後ともあらゆる手段による圧力を最大限まで高めて」いって、「北朝鮮の側から話し合いたいと言ってくる状況」を作ることができたとしても、その話し合いにしても「時間稼ぎに利用される」ことに変わりはない。

 つまり最大限に高めた圧力が北朝鮮の核ミサイル装備の放棄に繋がる保証はない。既に米本土到達可能なICBMを保有したとしていることが北朝鮮の強みとなるはずだ。この強みを背景に以後、様々な時間稼ぎで北朝鮮を確固とした核保有大国に育てていくことになるだろう。

 安倍晋三にしてもトランプにしても、鈍感・無知な点を相共通させて、金正恩が独裁国家体制指導者として核保有を独裁体制死守の最大国益とせざるを得ないことに気づかずに圧力によって核ミサイルを放棄させることができるとあくまでも固く信じている。

 北朝鮮が核保有を放棄せざるを得ない状況に追い込まれたとき、それは金正恩にとって祖父から父親へ、父親から自身へと受け継いできた父子継承の独裁体制を守る手段を失って、独裁体制の終焉を意味することになり、暴発の始まりに転換しない保証はない。

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金正恩の「核のボタンは私の机の上に」とトランプの「私の方が強力」はどちらがトランプカードの切り札とし得るか

2018-01-05 11:27:38 | 政治

 2018年1月1日、北朝鮮の金正恩が「新年の辞」を演説した。「日経電子版」(2018/1/1 11:15)  

 金正恩「(米本土到達可能のICBM発射成功に触れて)国家核戦力完成の歴史的大業を成就した。米国本土全域が我々の核攻撃の射程圏内にある。我々は如何なる核脅威にも対応できる。

 米国が冒険的な火遊びをしないようにする、強力な抑止力がある。米国は決して我が国を相手に戦争できない。

 核のボタンは私の事務室の机の上にいつも置かれているのが現実だ」

 記事紹介の発言を意味が通るように順序を変えて記載した。

 記事はその〈一方で2月に開幕する韓国の平昌冬季五輪に「選手団を派遣する用意がある」と語り、米国と全面対決を望まない意向ものぞかせた。〉と解説している。

 安倍晋三と同様に罰当たりで単細胞なトランプが翌日に素早い反応を見せた。

 「Donald Trump 日本語訳‏ @Mishimadou」  

北朝鮮の金正恩は先ほど "核のボタンは常に、自分の机の上に置いてある" と宣言したそうだ

そこで、消耗しきって食うにもこと欠く北朝鮮の政権にいる誰かに頼みたいのだがね

私も同じく核のボタンを持っていて、ただ私のははるかに巨大で強力、しかも実際に機能するのだと、彼に教えてやってくれんかな

(英文)

North Korean Leader Kim Jong Un just stated that the “Nuclear Button is on his desk at all times.” Will someone from his depleted and food starved regime please inform him that I too have a Nuclear Button, but it is a much bigger & more powerful one than his, and my Button works!

 北朝鮮がミサイル搭載の核保有を果たしたと宣言しているのに対して全体的な質と量から見た場合の米国の核はトランプが「核のボタン」に象徴させたように確かに「巨大で強力」な威力を備え、且つ核ミサイルを如何に「機能」させるかという点での米軍の運用能力にしても遥かに優ることは誰も否定しないだろう。

 だが、金正恩とトランプのどちらが先に核を使用し得るかと比較した場合は軍事力・経済力・国家資金力等を合わせた国の総合的な体力が米国よりも遥かに劣る北朝鮮の金正恩の方がそれらの劣勢を補う過剰反応を我慢のなさや強がりをキッカケに表に出しやすい誘惑を抱えることになり、核のボタンを先に押す危険性はトランプより高いと見なければならない。

 要するに北朝鮮が核のボタンを先に押す危険性を米国の核の方が「巨大で強力」な威力を備えていること、さらには米軍の核ミサイル運用能力が北朝鮮のそれよりも遥かに優秀で機能的であることを、いわばアメリカの核の壁が厳然と高く聳え立ち、例えようもなく頑丈であることをツイッターを通して金正恩に知らしめたとしても、核の先制攻撃を抑止する絶対的要件となる保証はないということである。

 にも関わらず、トランプは「自分も核のボタンを持っている」だとか、アメリカの核の方が「はるかに巨大で強力」、核ミサイル運用能力は米軍の方が優れていると、このことを以ってしてさも北朝鮮の核ミサイル使用を抑えることができるかのようにツイートする。

 単細胞でなければできないトランプの芸当であろう。

 劣勢を補う過剰反応からの北朝鮮による核の先制攻撃という危険性だけではなく、米国が政治的にも軍事的にも経済的にも世界に責任を負っている点で核の先制攻撃は困難であるのに対して北朝鮮の場合は北朝鮮を敵に回している世界に負う責任への負い目も少ないことから、核の先制攻撃はトランプ程には困難を感じないだろう。

 以上の2点から、金正恩が核のボタンをチラつかせることでトランプに対してトランプカードの切り札とし得る。その分、トランプの方は金正恩に向けて核について何をツイートしようが、切り札とすることはできないばかりか、却って金正恩に対して核の先制攻撃という切り札を切らせる引き金にならない保証はない。

 トランプがこういったことを弁えなかっただけではなく、ただ単に対抗意識を燃やしてアメリカの核の方が優れていると張り合っただけだとしたら、その単細胞は底なしとなる。

 トランプは金正恩が「新年の辞」で「核のボタンは私の事務室の机の上にいつも置かれているのが現実だ」と発言したのに対して「私も同じく核のボタンを持っていて、ただ私のははるかに巨大で強力」云々と遣り返しているが、核兵器発射の権限を自身に託されている、いわゆる“核のボタン”の所有格を米国という国に置くのではなく、「私の」と自身に置いている。

 金正恩の場合は独裁者=国家だから、“核のボタン”の所有格を「私の」と自身に置くことは許されるが、米国は米国民の民主的選挙によって選出されて国家運営を託された民主国家の大統領であり、核兵器発射はその民主制に則って国を代表して、あるいは国民を代表して行う重大な一つの権限となっている以上、誰が大統領であろうと、“核のボタン”の所有格は米国に置くべきであるのに対してトランプは独裁者のように「私の」と自身に置いている。

 このような心理は自身を絶対的存在と自己評価していなければ生じない。金正恩だけではなく全ての独裁者が自身を絶対的存在だと自己評価して疑わないが、トランプはそれに近い生き物だということである。

 自身を絶対的存在だと自己評価しているから、気に入らないマスコミ報道全てを“フェイクニュース”と片付けて、何ら反省せずに自らの絶対性を維持することができる。

 このように独裁者的色彩を帯びていながら、世界の民主国家の頂点に立つ米国の大統領を務めている。この点からして、罰当たりという評価は的外れとすることはできない。

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ミサイル発射・航空機爆撃での攻撃開始が優先的戦術の現代戦争では米海兵隊沖縄駐留の絶対的理由は存在せず

2018-01-04 11:05:15 | 政治

 昨年暮れにネット上で次の記事に出会った。「在沖縄米海兵隊は抑止力か否か」産経新聞IRONNA/2015年)  

 記事は慶応大准教授神保謙氏の対沖縄米海兵隊駐留必要論を、元官房副長官補柳沢協二氏の駐留不必要論を紹介している。発言の全文は記事にアクセスして貰うとして、沖縄に米海兵隊は必要かどうかに触れている点のみを取り上げてみる。

 神保謙「抑止効果は非常に大きい。4月末に改定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)でも、平時からグレーゾーン、小規模有事、大規模有事という流れに切れ目なく対応することが謳われている。事態ごとに必要な能力は異なり、その継ぎ目を埋めるためには陸海空の統合運用が重要になる。事態が急速に展開する可能性や非対称な攻撃が予想される中、継ぎ目を埋める能力をもともと備えているのが海兵隊だ。

 日本周辺では、東シナ海のグレーゾーン事態や朝鮮半島の不安定化の可能性があり、沖縄の位置を考えれば、戦域内に短時間内で展開できる海兵隊がいることの意義は大きい」――

 例えば中国を相手とした武力紛争に至らない軍事的対立状態を意味する「グレーゾーン」、小規模と大規模な軍事的非常事態発生を指す「小規模有事、大規模有事」を考えてみる。

 いずれかの事態発生に対して米国は日米安全保障条約に基づいて直ちに海兵隊を派遣するだろうか。日本は自衛隊を派遣するだろうか。先ずは外交の出番であろう。直接的な外交交渉、あるいは国連を舞台とした外交交渉で中国の意図を確認するはずである。

 分かりやすい例として中国が自国領土とする意図のもと、中国軍が尖閣に上陸、占領し、実効支配したとする。日米が共同して尖閣諸島を即座に取り戻すべく沖縄の米海兵隊と自衛隊部隊を直ちに尖閣諸島に向かわせて中国軍と戦闘を交えた場合、中国側が軍事的に一旦実効支配した尖閣諸島をどの程度まで兵力を送って守ろうと覚悟しているのか、それを見通さないままの派兵ということになって、中国側の兵力の追加派遣次第で小規模有事が大規模有事化する危険性を抱えることにもなるし、大規模化した有事が最悪全面戦争化しない保証はない。

 あるいは中国側は尖閣占領後、占領を実効支配の段階に持っていくために尖閣諸島に向かう日米艦船にミサイルの照準を合わせている可能性は否定できない。

 当然、中国側の覚悟を見極めるために外交というプロセスが必要となるばかりか、外交という手間の背後で中国側の覚悟に対応した日米側の軍事的準備が必要となる。

 いわば直ちに米海兵隊や自衛隊を「短時間内で展開」すればいいという問題ではないことになって、そうであるなら、米海兵隊が沖縄に駐留しなければならない正当な理由を失う。

 日米韓側がその動きを察知できていない状況下で北朝鮮が韓国支配を狙って韓国に突然侵略を開始した場合を例に取ってみる。1950年6月の朝鮮戦争当時、38度線を超えて韓国領内に侵入した朝鮮人民軍の陸軍部署と後に参戦した中国人民解放軍の陸軍部署が主体となって勢力範囲拡大の戦いを展開したのと違って、北朝鮮は最初に韓国領内に向けたミサイル発射に始まって、そしてよりピンポイントを狙うことができる戦闘機や爆撃機を使った空爆から侵略を開始するはずである。

 そのようなミサイル発射を主体とした空からの攻撃で韓国の陸海軍基地と在韓米軍基地の攻撃機能及び守備機能を壊滅させようとする。あるいは在日米軍の韓国派兵を前以って阻止する目的でミサイルや戦闘機の攻撃目標を在日米軍基地、さらには自衛隊の動きを止めるために自衛隊基地にまで含めるかもしれない。

 それに対して韓国軍も在韓米軍、さらに在日米軍も、加えて自衛隊も追随して発射された北朝鮮ミサイルに対して迎撃措置に出ると同時に北朝鮮人民軍のミサイル基地やコンピューターで割り出した移動式ミサイル発射地点に向けてミサイルの発射と攻撃機で応戦し、敵ミサイル発射機能や敵基地自体の機能麻痺に乗り出すはずである。

 横須賀の米海軍基地を母港とする第7艦隊の空母群は基地に停泊していたなら、朝鮮海域の対北朝鮮ミサイル射程内に向けて出港、日本海海域で北朝鮮の動向を警戒してパトロール中なら、艦装備ミサイルの射程内にまで移動、射程内に航行していたなら、北朝鮮ミサイルの標的となる危険性は避けられないが、直ちにという形でそれぞれがミサイルで応戦、空母艦載機はミサイル射程内に入る前から離艦、ミサイル攻撃と共に北朝鮮の全ての攻撃能力に対する壊滅に乗り出すはずである。

 北朝鮮は米軍との軍事規模の大差を前以って考慮して最初から核ミサイルを発射する危険性は否定できない。

 いずれの場合であっても、海兵隊や陸軍部隊が出動するのはお互い共に敵の攻撃能力をミサイル発射や空爆である程度か大方麻痺させてからということになり、このような戦術が現代の戦争の方法となっている以上、米海兵隊を沖縄に駐留させなければならない絶対的理由はないことになる。九州か中国地方の米軍基地に駐留させていても、ミサイル攻撃・空爆に次ぐ二番手として十分に機能することになる。

 神保謙氏は米海兵隊の沖縄ではなく、グアム駐留はダメな理由を次のように述べている。

 神保謙「事態発生後に数日間かけて戦域に入ってくればいいという議論はリエントリー(再突入)のコストを考慮していない。力の真空を作らないためには域内に強靱なプレゼンスがあることが重要だ。海兵隊の実動部隊が沖縄にいることは、南西方面への米国の安全保障上のコミットメント(確約)を保証する極めて重要な要素になっている」

 この考え方は現代の戦争の戦術に疎い発想に基づいている。先に例として挙げた中国の尖閣占領といったケースを除いて、攻撃が許される状況下での一般的な有事発生直後の「力の真空を作らない」役割は間髪を入れないミサイル部隊及び空爆部隊の攻撃能力にかかっている。ミサイル・戦闘機・爆撃機の攻撃能力が有事の大勢を決着づける。決して海兵隊ではない。

 戦争状態に入る前に敵の軍事力を叩く敵基地先制攻撃にしても同じ手順を取るはずである。

 では、元官房副長官補柳沢協二氏の不必要論を見てみる。

 柳沢協二「抑止力とは『相手が攻撃してきたら耐え難い損害を与える能力と意志』のことだ。その意味で沖縄の海兵隊は抑止力として機能していない。離島防衛は制海権と制空権の奪取が先決で海兵隊がいきなり投入されるのはあり得ない。

 日米防衛協力のための指針でも、米軍の役割は自衛隊の能力が及ばないところを補完すると規定されている。それは敵基地への打撃力だが、海兵隊の役割ではない。沖縄は中国のミサイル射程内に軍事拠点が集中しており非常に脆弱だ。

 米国はいざというとき、戦力の分散を考えるだろう。そもそも、本格的な戦闘に拡大する前に早期収拾を図るだろう。海兵隊を投入すれば確実に戦線は拡大する。つまり、いずれの局面でも海兵隊の出番はない。いざというときに使わないものは抑止力ではない

 (沖縄に海兵隊は必要ないとする理由について)どこかにいなくてはいけないから入れ物は必要だろう。しかし、それがピンポイントで沖縄でなくてはならない軍事的合理性はない。有り体に言えば『他に持っていくところがない』ということだろう。

 そもそも、抑止力と軍隊の配置に必然的な関係はない。海兵隊は米国本土にいてもいい。いざというときに投入する能力と意志があり、それが相手に認識されることが抑止力の本質だ。『沖縄の海兵隊の抑止力』といったとたんに思考停止し、深く掘り下げて考えないのは一種の信仰だ。沖縄県民はそこに不信感を持っている」

 「離島防衛は制海権と制空権の奪取が先決で海兵隊がいきなり投入されるのはあり得ない」と主張しているが、離島防衛に限らず、殆どの有事に於いて「制海権と制空権の奪取」が有事の主導権を握るカギであって、緒戦に於いてその役を担うのは特にミサイル部隊や空軍、そして空母群を擁する海軍であって、海兵隊の出番はその後になる。

 例えば1991年の湾岸戦争でも2003年3月19日開始のイラク戦争でも米空母からの巡航ミサイル発射と空軍の空爆で攻撃が始まった。後者の場合は3月19日から3月22日までの4日間で米軍が湾岸地域と地中海などからイラクのバグダッド一帯に発射した巡航ミサイル「トマホーク」の数が350基に達して、45日間の湾岸戦争時の288基を上回るハイペースだとマスコミは伝えている。

 陸軍+海兵隊の米軍地上部隊がクウェート領内からイラク領内へ侵攻、戦闘を開始したのはミサイル攻撃開始翌日の3月20日だが、それ以前の何日間で急遽地上部隊を整えたわけではない。

 イラク戦争の準備は2001年11月から1年4カ月をかけて行い、その間に米軍地上部隊をクウェート領内やトルコ領内に送り込んでいたと言う。中東に派遣していた空母やミサイル駆逐艦等を除いた空母群やミサイル駆逐艦群は横須賀基地その他から1週間程度から10日程度の日数をかけてペルシャ湾や紅海に向けて航行し、臨戦態勢に入っている。

 柳沢協二氏の「ピンポイントで沖縄でなくてはならない軍事的合理性はない」、さらに「海兵隊は米国本土にいてもいい」との発言を待つまでもなく、ミサイル発射・航空機爆撃で攻撃開始が優先的戦術となっている現代戦争では、その性質上、米海兵隊を沖縄に駐留させておかなければならない絶対的理由はどこにも存在しない。

 当然、安倍政権は普天間基地県外移転の沖縄県民の希望を「抑止力の維持」を口実に無視する理由はないことになる。
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