イジメ過去最多歯止めは厭なことは「やめて欲しい」で始まり、この要請に順応できる人間としての成長を求めるロールプレイで(1)

2022-12-09 05:49:59 | 教育
  イジメ加害者にイジメという攻撃を強いる要因は広く知られていることの説明だが、怒り、憎しみ、恨み、嫉み、嘲り(面白がって笑う)、間違った優越感の誇示(その裏返しとしての蔑み)等々の負の感情の発露に基づく。この感情をコントロールするキッカケを与えることができれば、イジメの未然防止に役立つ。役立たせようとして学校で行っている方法の一つがロールプレイングであり、略してロールプレイと呼ばれている。role(役割)+playing(演じること)で「役割演技」と呼称されているが、前以って用意しておいたシナリオに基づいて演じさせるのとイジメの様々にある場面のみを設定してアドリブ(即興劇)で演じさせる二つの方法が行われている。どちらもイジメ加害者とイジメ被害者、イジメ傍観者等を登場人物に仕立てて、実際の状況に即してそれぞれの役割を演じさせることでイジメの成り立ちやイジメの展開、さらにイジメ加害者とは何か、イジメ被害者とは何か、イジメ傍観者とは何かなどなどの感じ方や思いを見つめさせて客観的視点を持つように仕向け、その視点を自身の行動にまで反映させて、その行動の善悪が判断できる成長を促し、イジメ未然防止に応用する。果たして学校で行っているイジメ未然防止目的のロールプレイは誰もが抱えることになる負の感情をコントロールする仕掛けとなっていて、イジメの未然防止に一定程度役立っているだろうか。どうも、そうではないようだ。

 不登校とイジメが過去最多との記事を読んで、両弊害を終息させる方法はないにしても、歯止めをかける方法ないのだろうかと考えてみた。学校教師や教育評論家といったことを職業としている優れた人材ができていないことを教師として学校教育に携わった経験ゼロの人間が考えつくはずはないと思われそうだが、戦前生まれの比喩となるが、竹槍でB29に向かうが如くに解決困難な障害に突っかかっていくのも悪くはない。歯止めに関してはイジメの問題に絞って取り上げるが、イジメの歯止めは学校という社会の生活環境の改善となって現れて、不登校生徒数もかなり減少することになると思う。

 2022年10月27日付NHK NEWS WEB記事が2021年度の小中学生の不登校が2020年度+約4万9000人、+25%の24万4940人で過去最多と出ていた。内訳は小学生8万1498人、中学生16万3442人。不登校の小中学生増加は9年連続、10年前との比較で小学生3.6倍、中学生1.7倍。特に中学生は20人に1人が不登校となっている。増加要因を調査した文科省はコロナ禍の影響を挙げている。学級閉鎖だけではなく、感染への不安による自主休校など「感染回避」で30日以上休んだ児童・生徒数は小中学生と高校生で合わせて7万1704人、2021年度に比べて休みが2倍以上に増えたと記事は伝えている。2021年度の感染児童・生徒数は約59万人。コロナ禍での生活環境の変化や学校生活での様々な制限が交友関係などに影響、登校する意欲が湧きにくくなったのではないかと分析しているという。この分析を素直に受け止めると、日本国内コロナ患者第1号発症確認は2020年1月初旬のことで、それまでの不登校の小中学生増加8年連続は説明がつかなくなる。コロナ禍の影響もあるだろうが、学校社会の一般的な人間関係から受ける児童・生徒のそれぞれの感受性に問題点を置くべきだと思う。

 日常的な人間関係は良好なコミュニケーションのみで成り立っているわけではない。良好なコミュニケーションを取れる人間と仲間を組むことになるが、厄介なことにある日突然、良好が険悪に変じて人間関係を阻害することになり、往々にして不登校やイジメという形を取ることになる。険悪へと変じたなら、良好なコミュニケーションを取れる新たな仲間を早急に求めるべきだが、妬まれはしないかなどと恐れてグズグズするうちに新しい仲間をつくる機会を逃してしまったりする。

 不登校が過去最多となったことについて。

 清重隆信文部科学省児童生徒課課長「不登校の要因が複数の場合もあるので、一人ひとりにあった対応を進められる環境整備に取り組み、学びの保障に努めたい」

 不登校の小中学生が9年連続の増加という記録を前にしながら、環境整備を今後の取組みとする発言となっている。しかもあるべき人間関係の構築に的を絞った問題意識の提示を全面に出すべきを、そうはなっていない。教育行政の専門家の発言だから、間違ったことは言っていないように思えるが、問題の根本にある原因の改善に立ち向かわなければ、懸案の放置とさして変わらないことになるが、9年連続の増加という事態そのものが懸案となっている問題放置そのものを示すことになる。この長年の放置は何を言おうと、今後共実を結ぶ期待可能性を抱かせないことになる。

 同じ日付(2022年10月27日)のNHK NEWS WEB記事が文部科学省が同日発表した2021年度の全国の学校に於けるイジメ認知件数が61万件超で、コロナ禍で一斉休校が行われた2020年度より約9万8000件増の過去最多だと伝えている。

 内訳は
▽小学校50万562件
▽中学校9万7937件
▽高校1万4157件
▽特別支援学校2695件
 
 イジメ原因の自殺児童・生徒368人。内訳は
▽小学生8人
▽中学生109人
▽高校生251人

 368人もの児童・生徒。1学級生徒数約30人としても、12学級の児童・生徒を1年間にイジメで死に追いやってしまった。考えられない恐ろしい数字である。

 イジメを含めた不登校等の「重大事態」は2020年度から+191件の705件で過去2番目。SNSなどインターネットを使ったイジメ件数は2020年度+約3000件の2万1900件で過去最多。文部科学省はイジメ増加の背景に不登校と同様にコロナ禍で学校行事の制限や給食の黙食などが続いたことで人間関係を築くのが難しくなっていることがあると見ているという。

 清重隆信文部科学省児童生徒課課長「(コロナ禍による)さまざまな行事の制限で子どもたちに大きなストレスがかかっている。スクールカウンセラーなどによる相談体制の充実に努めたい」

 コロナ禍の前からイジメも不登校も深刻な状況にあったのだから、コロナ禍にのみ目を向けた対応は問題意識を狭くする。安倍内閣が内閣の最重要課題の一つと位置づけた教育の再生を議論し、実行に移していくための「教育再生実行会議」の設置を閣議決定したのは2013年1月15日。1999年以前は成人の日であった1月15日の閣議決定とは何か象徴的である。第1回会議は2013年1月24日に開催。2013年2月26日に第一次提言がなされた。

 《教育再生実行会議の提言の概要》(文部科学省)から「いじめの問題等への対応について」(第一次提言)(2013年2月26日)を抽出。

🔴 心と体の調和の取れた人間の育成に社会全体で取り組む。道徳を新たな枠組みによって教科化し、人間性に深く迫る教育を行う。
🔴 社会総がかりでいじめに対峙していくための法律の制定
🔴 学校、家庭、地域、全ての関係者が一丸となって、いじめに向き合う責任のある体制を築く。
🔴 いじめられている子を守り抜き、いじめている子には毅然として適切な指導を行う。
🔴 体罰禁止の徹底と、子どもの意欲を引き出し、成長を促す部活動指導ガイドラインの策定 

 「社会総がかりでいじめに対峙していくための法律の制定」の謳い文句どおりに『いじめ防止対策推進法』が2013年(平成25年)6月28日に公布。〈体罰禁止の徹底と、子どもの意欲を引き出し、成長を促す部活動指導ガイドラインの策定〉の謳い文句に添って体罰禁止を主眼とした『運動部活動での指導のガイドライン』を2013年5月27日に発表。道徳の教科化が2018年に小学校、2019 年に中学校で全面実施。だが、2021年度の全国の学校でのイジメ認知件数は過去最多。いじめ防止対策推進法の施行に伴って2013年度からイジメの定義は、〈当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為 (インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。〉とされているが、それ以前は、〈当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの〉とされていた。イジメを幅広く捕捉するために言葉を和らげたのかもしれないが、イジメは児童・生徒なりの人格や喜怒哀楽の自然な感情を歪める心身に対する硬軟の攻撃そのものであって、いじめ防止対策推進法施行以前の、〈心理的、物理的な攻撃〉とする解釈の方がより適切な表現に思える。

 心身に対する硬軟の攻撃とは心理的・肉体的痛めつけであって、心理的と肉体的とが合わさって命そのものとなるから、イジメは命に対する痛めつけ、命の痛めつけそのものであり、体罰が心理的・肉体的攻撃を用いた命の痛めつけでもあるのだから、イジメの範疇に入り、イジメと体罰は命の痛めつけという点で同質同士の仲間関係にある心理的・肉体的攻撃ということになる。

 安倍晋三が2013年1月に閣議決定、「教育再生実行会議」設置から9年経過したが、いじめと対峙していくために制定した2013年6月のいじめ防止対策推進法施行も、道徳の教科化も、イジメ・不登校の抑止に役に立たなかった。その結果の過去最多ということである。例えコロナ禍の影響があったここに来ての増加傾向だとしても、施策の全てが抑止要因としての働きを一貫して見せることはなかった。

 イジメも不登校も児童・生徒間の人間関係の結果値の一つであるが、このことは人間が他者との関係で存在する相互性の社会の生き物であり、児童・生徒同士が学校社会を主舞台として他の児童・生徒との関わりで相互に自己を存在させている生き物である以上、断るまでもないことで、上記NHK NEWS WEB記事がネタ元とした『令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について』 (文科省・2022年10月27日)が児童・生徒の問題行動のうち、公立小学校のイジメに限定して、人間関係という視点からどの程度に捕捉しているか、主だった内容を眺めてみることにする。NHK NEWS WEB記事から既に触れているが、先ずこの画像を載せておく。
  ② いじめを認知した学校数は29、210 校(前年度29、001 校) 全学校数に占める割合は79.9%(前年度78.9%)
③ いじめの現在の状況として「解消しているもの」の割合は80.1%(前年度77.4%)
④ いじめの発見のきっかけは、
 ・「アンケート調査など学校の取組により発見」が54.2%(前年度55.4%)と最も多い
 ・「本人からの訴え」は18.2%(前年度17.6%)
 ・「当該児童生徒(本人)の保護者からの訴え」は10.7%(前年度10.1%)
 ・「学級担任が発見」は9.5%(前年度9.6%)
⑤ いじめられた児童生徒の相談の状況は、「学級担任に相談」が82.3%(前年度81.5%)と最も多い
⑥ いじめの態様のうちパソコンや携帯電話等を使ったいじめは21、900 件(前年度18、870 件)。総認知件数に占める割合は3.6%(前年度3.6%) 
⑦ いじめ防止対策推進法第28 条第1 項に規定する重大事態の発生件数は705 件(前年度514 件)

 (イジメ解消の条件は次のようになっている。)

 「解消している」状態とは、少なくとも次の2つの要件が満たされている必要がある。ただし、これらの要件が満たされる場合であっても、必要に応じ、他の事情も勘案して判断するものとする。

① いじめに係る行為の解消;
 被害者に対する心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)が止んでいる状態が相当の期間継続していること。この相当の期間とは、少なくとも3か月を目安とする。ただし、いじめの被害の重大性等からさらに長期の期間が必要であると判断される場合は、この目安にかかわらず、学校の設置者又は学校いじめ対策組織の判断により、より長期の期間を設定するものとする。

② 被害児童生徒が心身の苦痛を感じていないこと;
 いじめに係る行為が止んでいるかどうかを判断する時点において、被害児童生徒がいじめの行為により心身の苦痛を感じていないと認められること。被害児童生徒本人及びその保護者に対し、心身の苦痛を感じていないかどうかを面談等により確認する。

 イジメ発生件数に対して解消割合は80.1%。だが、年々のイジメ件数が減らない状況は解消が一時的に終わっていて、3ヶ月後か、あるいはそれ以上の月数を経て、あるいは年次を超えて標的を変えることなく再発させているか、標的を変えて、新たなイジメを発生させている様子を窺わせると同時にイジメ解決が事後対応、あるいは対処療法となっていて、事前予防、あるいは原因療法となっていないことを証明することになる。

 (5) いじめの発見のきっかけ(公立小学校のみ抽出)

(注)(A)と(B)の構成比は「(A)+(B)」合計件数に対する(A)、(B)それぞれの件数の割合。(1)~(5)と(6)~(12)それぞれの構成比は「(A)+(B)」合計件数に対する各件数の割合。

(A)学校の教職員等が発見(公立小学校342、274件 構成比69.0%)

(1)学級担任が発見(公立小学校47、177件 構成比9.5%)
(2)学級担任以外の教職員が発見(養護教諭、スクールカウンセラー等の相談員を除く) (公立小学校6、274件 構成比1.3%)
(3)養護教諭が発見(公立小学校1、022件 構成比0.2%)
(4)スクールカウンセラー等の相談員が発見(公立小学校494件 構成比0.1%)
(5)アンケート調査など学校の取組により発見(公立小学校287、307件構成比57.9%)

(B)学校の教職員以外からの情報により発見(公立小学校153、820件 構成比31.0%)

(6)本人からの訴え(公立小学校81、261件 構成比16.4%)
(7)当該児童生徒(本人)の保護者からの訴え(公立小学校50、902件 構成比10.3%)
(8)児童生徒(本人を除く)からの情報(公立小学校14、721件 構成比3.0%)
(9)保護者(本人の保護者を除く)からの情報(公立小学校5、683件 構成比1.1%)
(10)地域の住民からの情報(公立小学校293件 構成比0.1%)
(11)学校以外の関係機関(相談機関等含む)からの情報(公立小学校620件 構成比0.1%)
(12)その他(匿名による投書など) (公立小学校340件 構成比0.1%)

 (A)を見てみると、学校社会に於ける生徒にとって最も身近な存在である学級担任のイジメ発見は9.5%と多くはなく、「アンケート調査など学校の取組により発見が」半数以上の57.9%を占めているが、アンケート調査が主体ということなら、学校が用意したものであっても、間接的な把握にとどまる。

 (B)から窺い得ることは「本人からの訴え」と「当該児童生徒(本人)の保護者からの訴え」が合計合わせて26.7%、約3分の1近くを占めるているということと、想像するに生徒それぞれにとってイジメがかなり深刻な程度に達している、あるいは限界に近づいていて、我慢できなくなって訴え出たという状況が見て取れる。そして訴え出るまでの間、学校側は様々な対策に取り組んでいながら、イジメを把握するまでに至っていなかった裏の状況が見えてくる。
 

 (7) いじめの態様:

冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる。(公立小学校282、582件 構成比57.0%)
仲間はずれ、集団による無視をされる。(公立小学校61、127件 構成比12.3%)
軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする。(公立小学校124、059件 構成比25.0%)
ひどくぶつかられたり、叩かれたり、蹴られたりする。(公立小学校31、218件 構成比6.3%)
金品をたかられる。(公立小学校4、393件 構成比0.9%)
金品を隠されたり、盗まれたり、壊されたり、捨てられたりする。(公立小学校25、430件 構成比5.1%)
嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする。(公立小学校47、742件 構成比9.6%)
パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる。(公立小学校9、264件 構成比1.9%)
その他(公立小学校21、907件 構成比4.4%)

 イジメの種類の多さに驚くが、学校はこれだけのイジメの方法を把握していながら、事前予防、あるいは原因療法に役立たせることができないでいる。
 

 (9)学校におけるいじめの問題に対する日常の取組

 (注3)構成比は各区分における学校総数に対する割合

職員会議等を通じて、いじめの問題について教職員間で共通理解を図った。(公立小学校数18、859校 構成比98.4%)
いじめの問題に関する校内研修会を実施した。(公立小学校数17、229校 構成比89.9%)
道徳や学級活動の時間にいじめにかかわる問題を取り上げ。指導を行った。(公立小学校数18、695校 構成比97.5%)
児童・生徒会活動を通して、いじめの問題を考えさせたり、児重・生徒同士の人間関係や仲間作りを促進したりした。(公立小学校数16、390校 構成比85.5%)
スクールカウンセラー、相談員、養護教諭を積極的に活用して教育相談体制の充実を図った。(公立小学校数17、626校 構成比91.9%)
教育相談の実施について、学校以外の相談窓口の周知や広報の徹底を図った。(公立小学校数16、456校 構成比85.8%)
学校いじめ防止基本方針をホームページに公表するなど、保護者や地域住民に周知し、理解を得るよう努めた。(公立小学校数17、561校 構成比91.6%)
PTAなど地域の関係団体等とともに、いじめの問題について協議する機会を設けた。(公立小学校数8、602校 構成比44.9%)
いじめの問題に対し、讐察署や児童相談所など地域の関係機関と連携協力した対応を図った。(公立小学校数7、140校 構成比37.2%)
インターネットを通して行われるいじめの防止及び効果的な対処のための啓発活動を実施した。(公立小学校数16、531校 構成比86.2%)
学校いじめ防止基本方針が学校の実情に即して機能しているか点検し、必要に応じて見直しを行った。(公立小学校数18、036校 構成比94.1%)
いじめ防止対策推進匡第22条に基づく、いじめ防止等の対策のための組織を招集した。(公立小学校数18、307校 構成比95.5%)

 〈学校におけるいじめの問題に対する日常の取組〉のうちのどれかは役立った事例や学校もあっただろうが、全体的には役立たなかったことになる。例を上げてみると、〈インターネットを通して行われるいじめの防止及び効果的な対処のための啓発活動を実施した。>が、〈公立小学校数16、531校 構成比86.2%〉も占めている状況に対して2021年度のSNSなどインターネットを使ったイジメ件数は2020年度+約3000件の2万1900件で過去最多という状況はイジメ解決がやはり事後対応、あるいは対処療法となっていて、事前予防、あるいは原因療法となっていないことを証明することになる。

 (10) いじめの日常的な実態把握のために、学校が直接児童生徒に対し行った具体的な方法(いじめを認知した学校)

アンケート調査実施

①【いじめを認知した学校】

②【いじめを認知していない学校】の統計も取っている。

 
以上見てきた中で何よりも問題なのは、〈 (9)学校におけるいじめの問題に対する日常の取組〉である。イジメ認知件数が年々増加して過去最多となっている状況を前にするなら、「日常の取組」が機能している学校が存在するかもしれないが、全体的には機能不全に陥っていることを示す。当然、その原因調査が行われていなければ、イジメや不登校、あるいは暴力行為が増えた、減ったの結果値だけを辿ることになる。特に「児重・生徒同士の人間関係や仲間作りの促進」は人間関係がイジメや不登校発生の主たる要因となっていると見なければならない以上、イジメや不登校の事前予防・原因療法を「促進」する取組でもあるが、他の取組同様に機能不全の観点から眺め返してその原因を探らなければ、機能することのない"促進"に向けた無駄な努力を続けることになるだろう。

 《学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント》(文部科学省)には次のような記述がある。
  
 〈いじめ問題に関する基本的認識

 1.「弱いものをいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識を持つこと。
 2.いじめられている子どもの立場に立った親身の指導を行うこと。
 3.いじめは家庭教育の在り方に大きな関わりを有していること。
 4.いじめの問題は、教師の児童生徒観や指導の在り方が問われる問題であること。〉等々・・・・・

 「2」番目は事前予防・原因療法をすり抜けたイジメや不登校に対する事後対応・対処療法ということになる。このことはイジメや不登校が過去最多という現状、横行を恣にさせている現状からみても証明できることであって、当然、「教師の児童生徒観や指導の在り方が問われる」ことになっているが、その問われ方は主として事後対応・対処療法の場でのこととなり、「1」の〈「弱いものをいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識を持つこと。〉は現実には生かされていない単なるタテマエ、単なる標語に陥っていることになる。イジメを受ける生徒が見つかってから、不登校となる生徒が出てきてから、指導に取り掛かるという手順だけが見えてくる。

 人間関係教育に関しては次の記述がなされている。
 
 〈適切な教育指導

 ③ 学校教育活動全体を通して、お互いを思いやり、尊重し、生命や人権を大切にする態度を育成し、友情の尊さや信頼の醸成、生きることの素晴らしさや喜び等について適切に指導すること。特に、道徳教育、心の教育を通して、このような指導の充実を図ること。
 また、奉仕活動、自然体験等の体験活動をはじめ、人間関係や生活経験を豊かなものとする教育活動を取り入れることも重要であること。〉――

 イジメの加害生徒や被害生徒、不登校生徒には耳に届くことはない、具体性の全くない美しい言葉の羅列に過ぎないだろう。

 実際問題として学校・教師がイジメ問題について具体的にどう取り組んでいるのか、《いじめ対策に係る事例集》(文部科学省初等中等教育局児童生徒課/平成30年9月)からいくつかの事例を見てみることにする。文飾は当方。

 冒頭部分に次のような断りが記載されている。〈本事例集の作成に当たっては、各教育委員会や学校等から募集した多くの実際の事例の中から、いじめの防止、早期発見及び対処等の点で特に優れていると判断した事例や学校現場において教訓となると判断した事例を掲載しました。また、事例ごとに文部科学省のコメントを付記し、着眼点を整理しましたので、事例とあわせて御参照ください〉――

 要するにイジメ解決の対応がスムーズに進めることができなかった事例や早期発とはいかなかった事例等々は文科省の募集に応じなかったケースがあることが考えられ、逆に満足のいく対応ができた事例のみが募集に応じた可能性は否定できず、募集に応じた事例はさらに篩を掛けられて、「いじめの防止、早期発見及び対処等の点で特に優れていると判断した事例や学校現場において教訓となると判断した事例」が主として掲載の栄誉を受けたということになる。結果として文科省のコメントは肯定的な評価という形を取るはずである。このことを前以って承知して読み通さなければならない。

 公立中学校 明らかに法のいじめに該当するので、いじめとして扱うべきもの等の具体例 Case 01 加害・被害の関係性に気づきづらい事案

事例の概要
❶ 関係生徒
●【被害】中学1年男子A(1名)
●【加害】中学1年男子B(1名)

❷ いじめの概要
 BがAに対し女子生徒の嫌がることや、女子生徒への告白を「やらないと痛い目にあうぞ」「先生にはC(無関係の生徒)にやらされたと言え」などと強要してやらせていた。

 中学校における普段の二人の様子は、主従関係があるようには見えず、普段は一緒に行動していた。周囲には仲良くしているように見え、何もなく過ごしていた。Aは性格がおとなしく静かなタイプであり、そのことがBにとってAは自分の言う通りになる都合のよい相手であったようである。

 今回の事案以外にも、同様のケース(BがAに命令すること)は複数あった。違う小学校出身の男子に「アホと言ってこい」、あるいは、違う小学校出身の女子に無差別に「告白してこい」「身体を触ってこい」などと、昼休みに廊下で命令していた。

 Bが今回の出来事を起こした動機については、本人曰く特にこれといった理由はなく、ただ楽しかったようである。関係教職員は、違う小学校出身の同級生に、自分の存在をアピールしようとしたのではないか、と見ている。

 AとBに事実確認をしていく中で、二人は小学校6年生のときにけんかをし、それ以降、勝ったBがAとの間に主従の関係をつくって命令に従わせていたことが判明した。小学校では当時「けんか」と判断し、事後の関係性に気づいておらず、小中間の引き継ぎも行われていなかった。

 よって、学校は、Aを自分の弟子として、見下して命令していたこと、過去の暴力で支配しようとしたこと、Aをターゲットにし続けたこと、長い期間続いていること、AがBの暴力に怯え命令に従っていたこと、やりたくないことをやらされたこと、嫌なことを隠していたことといった理由から、いじめと認知し、事案に対応した。

事態の経緯及び対応
❶ 本事案を教師が把握することとなった経緯
●昼休みに廊下で騒がしく女子が逃げ回っていたのを確認したこと
●他クラスの女子生徒が自学ノート(自主学習ノート:小学生の家庭学習)に「Aくんが身体を触ってくるので注意してください」と担任宛に書いていたこと
●同じ小学校出身の男子3名(A・Bと同クラス)が「小学校の時からAがいじめられている」と担任に相談したこと

❷ 教師が生徒から事情聴取した内容
Aより: 命令に従わないと「殴るぞ」と(Bから)言われていた。先生に事情を聞かれた時は、『命令をやらされたことは、Bからの命令ではなく、C(同じ小学校出身で小学校のときにAに嫌がらせをしていた)に命令されたと言え』と(Bから)言われている。
Bより: CがAに命令をしていたが、自分は友達だから身体を張ってでも(Aを)守ってあげなければならない。
Cより: 特別何かを命令したり、いじめたりしていない。

❸ 教師が指導した内容
A: 自分が嫌なことを強要されたときは、誰かに相談すること。Bと一緒にいることが苦しいと思うなら距離を置くことも考えること。
B: 師匠と弟子の関係は友人同士には成り立たないので解消すること。今まで自分がAに対して行った嫌がらせを謝罪し、友だちとして生活すること。嘘をつかないこと。いじめは許されないこと。
C: 人に対して嫌がらせをしないこと。

❸ 本事案を連絡した際の保護者の反応
A保護者: 事柄の内容、小学校のときから続いていたこと、本人が相談してくれなかったことすべてにショックを受けていた。
B保護者:「はぁ…そうですか。うちの子だけですか?」という無関心な反応。
(Bの母親にAの自宅へ謝罪に行くよう促し、本人と母親が謝罪へ)

❺ 教師から周囲の生徒に対する説明
 嫌がらせを受けた女子生徒にはAが行った行為はA本人の意思ではなく、やらされていた行動だったと伝え、納得をしてもらうことができた。

 学年生徒へは集会の時間を使い、「知っていること、見たことは教えて欲しい。いじめのないクラス、学年、学校を目指そう」と呼びかけた。

❻ 本事案に関して職員間の共通理解を図るための方法
 学校全体及び学年の生徒指導担当が複数で事案に対応した。事実を把握した初期の段階で、生徒指導担当は、管理職・学年団・部活動担当職員を招集し、事実の共通理解と今後の対応について協議を行った。
 後日、校内生徒指導委員会にて、他の学年生徒指導担当職員へ報告した。それ以外の教職員には職員会議で報告した。

❼ 指導後のA、Bの関係性・様子及び生徒指導担当の支援
 部活動がスタートしてからはA-B間の生活リズムの違いもあり、自然に良い距離ができていった。Bは部活動での仲間が増えたことや多くの先生に関わってもらうことで、明るく前向きに生活できている。

 Aも現在では新しい友人と仲良く、楽しそうに過ごしている。AとBが顔を向き合わせても、ごくごく自然体で対等に接しており、現在では主従関係があるようには感じられない。

 生徒指導担当教諭は、定期的にA本人に声かけをし、いじめが継続されていないか確認している。

本事例に対するコメント
●本事例は、一見すると、対等な関係性の下で仲良く過ごしている2人の友人が、実際には加害-被害の関係(非対称的な力関係)にあった事案である。「いじめの防止等のための基本的な方針」においては、いじめの認知について、「けんかやふざけ合いであっても、見えない所で被害が発生している場合もあるため、CE景にある事情の調査を行い、児童生徒の感じる被害性に着目し、いじめに該当するか否かを判断する」としている。いじめは教職員の目の届かない所で起きる場合があることに留意しつつ、児童生徒の感じる被害性に着目して、適切に認知することが重要である。
●学校が事実確認を進めた結果、本件をいじめと認知したことは適切な判断だったと言うことができる。なお、学校がいじめと判断した理由のうち「見下して命令していたこと」や「Aをターゲットにし続けたこと、長い期間続いていること」は、いじめか否かを判断するに当たっては考慮に入れる必要がない要件ではあるが、教職員においては、このような背景事情にも留意しつつ、適切な支援・指導につなげていくことが重要と考えられる。
●本事例のように、加害者と被害者の関係性に気づきづらい事案の場合は、当該児童生徒の表情や様子をきめ細かく観察するなどして、注意深く確認する必要がある。この点、生徒指導担当教諭が、Aの様子を継続的に確認していることは有効な取組と言える。

 この事例はイジメ加害者と被害者の関係性に気づきづらいものとしているが、イジメは本来的には教師に気づかれずに行うものだから、簡単には気づかれないのが当たり前であって、結果としてイジメの殆どが一定程度かそれ以上に進行したところで被害者本人が担任に訴えるか、たまたま目撃したほかの生徒が訴えるか、同じく教師がたまたま目撃することになって表面化するパターンを踏むことになるから、個別的に解決に乗り出す事後対応・対処療法の形式を取ることになっている。教師は学校教育者である以上、このことを自覚していなければならない義務があるはずだが、この義務に反して気づきづらい事例に入れているとしたら、教師として鈍感なのか、自分たちでイジメを発見できなかったことに対する責任回避意識を働かせているかどちらかだろう。

 加害者B自身は「これといった理由はなく、ただ楽しかった」こととしていて、関係教職員はBがAにさせていたことは違う小学校出身の同級生に自分の存在をアピールしようとしたと解釈していた。Aが命令なのか、指示なのか、自身の思い通りにBを行動させるのは一種の支配欲求から出た行為であって、その具体化がBを介した女子生徒に対しても支配を及ぼそうとする嫌がることや告白の強要であり、その支配欲求どおりにBを行動させることができた点に"楽しさ"を感じていたのだろう。如何なる行為・行動にも意味や目的があり、である以上、教師がBの「これといった理由はなく、ただ楽しかった」をそのまま受け止めるのは教育者としてあまりも素直過ぎる。

 BのAに対する支配行為には関係教職員の見立て通りに自己存在アピール目的が果たして加わっていたのだろうか。そのような目的があったとしたら、AがしていることはBがやらせていることだと自身の存在を表に出していなければ、自己存在アピールとはならない。他クラスの女子生徒が自学ノートに担任宛に「Aくんが身体を触ってくるので注意してください」と書いていることはA自身の存在のみを視野に入れた言葉であって、B自身の存在は見ていない言葉の成り立ちとなっているし、教師が嫌がらせを受けた女子生徒に対して、〈Aが行った行為はA本人の意思ではなく、やらされていた行動だったと伝え、納得をしてもらうことができた。〉としていることも、Aが嫌がらせを行っていた際にはBの存在は見えない状態になっていたことになり、見えない状態の存在はどうアピールもしようがない。但しBはAに対する支配行為を通して思い通りのことをさせることで達成感や満足感、肯定感を手に入れ、これらを手に入れることがAに対する自己存在をアピールする道具としていたことと解釈すべきだろう。学校教師が生徒の行動の目的や意図を読む目を欠いていたなら、事前予防・原因療法は夢のまた夢で、事後対応・対処療法すら、満足な決着を見ることなく、どこかが抜け落ちた解決しかできないことになる。

 公立中学校 明らかに法のいじめに該当するので、いじめとして扱うべきも Case02「大丈夫」と答えたので苦痛を受けていると判断しなかった事案

 事例の概要
❶ 関係生徒
●【被害】中学2年女子A(1名)
●【加害】中学2年女子B(1名)

❷ いじめの概要
●被害生徒Aは、加害生徒Bと同じグループの一員であるが、グループ内での立場が弱く、からかいやいじり、嫌がらせが起こるようになった。
●Aは、グループの一員であるため、自分がされて嫌だと思うことは嫌だと言えていると主張しており、いじめ被害を認めようとしない。

事態の経緯及び対応
❶ 事態の経緯
●Aはグループの一員として行動をともにしていたが、弱い立場のように見えたため、他のメンバーからからかわれたり、いじられたりすることがあった。Aは、常に同じ役割を担わされているわけでなく、言い返したりもしていることを例にあげ、いじめではないと主張している。

</>❷ 学校の対応
●客観的に見て、いじめに当たる事案としてとらえ、いじめ対応チーム会議を開き、対応した。
●Aから、どのような言動を受けているのか丁寧に聞き取るとともに、Aの心情に寄り添った指導を行った。
●Bを直接指導することをAが望んでいないため、教育相談の中で示唆的に指導を行った。
●学年集会を開き、いじめアンケートの結果をもとにした講話を行った。
●学年集会や教育相談を通じて、いじめについて指導を行った後、経過観察を行い、Aへのいじめにつながる言動があった時は、加害生徒に対し、その場でただちに指導を行った。

●本事例に対するコメント
❶ いじめ防止対策推進法の視点から
●「からかいやいじり、嫌がらせ」の行為があり、被害児童生徒が「心身の苦痛を感じている」(いじめ防止対策推進法第2条第1項)のであれば、「いじめ」として認知して適切な措置を講じる必要がある。
●本事例では、被害生徒がいじめ被害を認めていないため、いじめの定義に該当しないようにも思われるが、グループ内における当該生徒の立場など背景事情を考慮し、いじめ事案として捉えた上で、いじめ対応チーム会議(学校いじめ対策組織)を開催して対応した点は評価することができる。

❷ 児童生徒への支援・指導の視点から
●本事例では、加害生徒への指導をAが望んでいなかったために、教育相談の中で加害生徒に示唆的に指導を行うに留まっているが、示唆的な指導だけでは、必ずしもいじめの解消に結びつかない場合があることを認識しておく必要がある。

●グループ内のいじめについては、「いじめの防止等のための基本的な方針」において、「特定の児童生徒のグループ内で行われるいじめについては、被害者からの訴えがなかったり、周りの児童生徒も教職員も見逃しやすかったりするので注意深く対応する必要がある」とされている。こうしたことも踏まえ、グループ内のいじめを早期に発見するためには、「日頃からの児童生徒の見守りや信頼関係の構築等に努め、児童生徒が示す小さな変化や危険信号を見逃さないようアンテナを高く保つとともに、教職員相互が積極的に児童生徒の情報交換を行い、情報を共有することが大切」(基本方針)である。
●「いじめの防止等のための基本的な方針」で示しているいじめの解消の考え方も参考としつつ、Aに対する「からかいやいじり、嫌がらせ」が予期しない方向へ推移することのないよう、加害・被害生徒とも日常的に注意深く観察することが重要である。この点、学校が経過観察を行い、いじめにつながる言動があったときにただちに指導を行ったことは適切な対応であると考えられる。

❸ 保護者対応の視点から
●被害生徒の心情やグループ内での様子、いじめの状況について、経過観察の結果を踏まえ、保護者にも定期的に説明・報告することが重要と考えられる。

 被害生徒Aは〈グループ内での立場が弱く、からかいやいじり、嫌がらせが起こるようになった。〉――グループ内での立場の弱さがどのような理由で生じたのか、何がキッカケで「からかいやいじり、嫌がらせ」を受けていることを発見するに至ったのかの理由と、「からかいやいじり、嫌がらせ」の具体的内容は記載されていない。当たり前のことだが、事例集とはただこういうことがあった、ああいうことがあったと起きたことの事実を並べるだけではなく、他の参考に供する目的の情報として作成する。容姿や動作の点で、あるいはテストの成績の点で身体的を除いた攻撃の標的にされたのか、発見は生徒か教師の目撃によるものなのか、アンケートによる発見なのか、発見時のイジメの進行度合いも、発見が早かったのか遅かったのかの問題にも繋がることになるから、知らせるべき重要な情報としなければならない。だが、一切曖昧なままとなっている。

 〈Aは、常に同じ役割を担わされているわけでなく、言い返したりもしていることを例にあげ、いじめではないと主張。〉。対して学校側の対応を改めて。
 
●客観的に見て、いじめに当たる事案としてとらえ、いじめ対応チーム会議を開き、対応した。
●Aから、どのような言動を受けているのか丁寧に聞き取るとともに、Aの心情に寄り添った指導を行った。
●Bを直接指導することをAが望んでいないため、教育相談の中で示唆的に指導を行った。
●学年集会を開き、いじめアンケートの結果をもとにした講話を行った。
●学年集会や教育相談を通じて、いじめについて指導を行った後、経過観察を行い、Aへのいじめにつながる言動があった時は、加害生徒に対し、その場でただちに指導を行った。

 Aのイジメ否定を本人のプライドからと見てのことだろう、「客観的に見て」イジメ事案とした。だが、「からかいやいじり、嫌がらせ」の具体的な内容の提示もなく、それに対して客観的にどう判断するに至ったのか、その道筋も示さずにイジメだと結論した。後先からすると、順番が違うように見えるが、Aに対して丁寧な聞き取りを行い、Aの心情に寄り添った指導を行ったとしているが、丁寧な聞き取りがどのような言葉を用いて行われたのか、心情に寄り添った指導がどのような性格の内容のものなのか、さらにBに対して教育相談の中で「示唆的に」行ったとしている指導が厳密に言うと、どういった言葉をどういったふうに用いて、どういった効果を結果としたのか、さらにさらに学年集会や教育相談を通じて行ったとしているいじめについての指導は一般的なものか、当該学校独自の内容に基づいてしたことなのか、学校当事者のイジメについての諸々の認識を知る上で重要なことだが、肝心の知りたい情報は何一つ見えてこない。

 ところが文科省は「本事例に対するコメント」で"示唆的指導"については、〈加害生徒への指導をAが望んでいなかったために、教育相談の中で加害生徒に示唆的に指導を行うに留まっているが、示唆的な指導だけでは、必ずしもいじめの解消に結びつかない場合があることを認識しておく必要がある。〉と取り上げていて、共通理解の対象としているようである。もしかすると言葉の意味どおりにイジメはいけないといったことを一般論で仄めかしただけのことなのだろうか。

 Aがイジメではないとする根拠は、〈自分がされて嫌だと思うことは嫌だと言えていると主張して〉いることと、〈常に同じ役割を担わされているわけでなく、言い返したりもしていることを例にあげ〉ていることの2つとなっている。だが、自分がされて嫌だと思うことは嫌だと言ったり、言い返したりしているものの、自分がされて嫌だと思うことを完全に止める効果を与えることはできず、繰り返されている状況を窺うことができ、完全には止めることができない点に一定程度の上下関係が固定化されていることを意味することになる。この上下関係が「からかいやいじり、嫌がらせ」が繰り返される原因であって、そこに軽度ながら、イジメを見ないわけにはいかないということなのだろう。

 このような場合のイジメに関わる教師の指導は「自分がされて嫌だと思うこと」をA本人自身がか、担任が代わってか、相手に明確に告げて、「からかいやいじり、嫌がらせ」の対象から外すよう求めて、お互いが嫌だとは思わない、冗談で済ますことができる「からかいやいじり、嫌がらせ」にとどめることをルールとするよう決めさせることだろう。あとはこのように決めたルール通りの関係を築くことができるかどうかを見守り、できたなら、今までできていなかったことができるようになったのだから、お互いに人間的にそれなりに成長していることになるということを伝えて、「成長している」、「成長していない」をイジメの加害・被害を含めたそのときどきの児童・生徒の人間関係を向上させるキーワードにすべきだろう。例えば、「イジメを働くのは成長していない人間のすることだ」といった使い方をする。

 文科省が「本事例に対するコメント」の中で述べている「いじめの防止等のための基本的な方針」(2013年10月11日 文部科学大臣決定 最終改定2017年3月14日)とは、「いじめの定義」から始まって「いじめの防止等のために学校が実施すべき施策」、「いじめ防止基本方針の策定」等々イジメ防止を目的としたマニュアルで、学校・教師は学習指導要領に対するのと同じくこのマニュアルに従ってイジメ対応を行っているように見受ける。例えば「7 いじめの防止等に関する基本的考え方 (1)いじめの防止」で、〈いじめは、どの子供にも、どの学校でも起こりうることを踏まえ、より根本的ないじめの問題克服のためには、全ての児童生徒を対象としたいじめの未然防止の観点が重要であり、全ての児童生徒を、いじめに向かわせることなく、心の通う対人関係を構築できる社会性のある大人へと育み、いじめを生まない土壌をつくるために、関係者が一体となった継続的な取組が必要である。〉云々とあるようにイジメの未然防止に関しては「心の通う対人関係の構築」、「社会性のある大人へと育み」、「いじめを生まない土壌の形成」等、このように抽象的な理念を謳うだけで、具体的な取組抜きのマニュアルとなっているから、学校の文科省のマニュアル追従の習性上、既に二つ挙げた事例だけではなく、以後の事例についても同じだろうが、事前予防・原因療法とならずに事後対応・対処療法ということにならざるを得なかったのだろう。

 明らかに法のいじめに該当するので、いじめとして扱うべきもの等の具体例  Case03 公立中学校 双方向の行為がある事案

事例の概要
❶ 関係生徒
●【被害】中学2年男子A(1名)
●【加害】中学2年男子B、C、D、E(4名)
❷ いじめの概要
●中学2年男子Aが、同級生B、C、D、Eからあだ名で呼ばれている。
●AもB、C、D、Eに同じようにあだ名をつけて、グループの輪に入ろうとしているが、自分の行為だけ、周囲から否定されている。
●Aは他の4名と仲良くやりたいと思っており、あだ名をつけられていることは、友情の証と捉えている。Aも他の4名に自分と同じようにあだ名をつけているが、なぜか自分の行為は否定されているような気がしている。

 事態の経緯及び対応
●生徒指導部会での報告、対応策の検討、職員会での情報共有を行った。
●Aに対して、今の気持ちを聞くための面談を行った。
●Aは加害生徒への指導を望んでいなかったが、あだ名に込められた正しくない言葉遣いや、人を傷つける言葉遣いは、他の4名のために良くないことから、耳にした時点で指導することを確認した。
●同様に他人にあだ名をつけている行為について、仲の良さをはき違えないようにと指導した。
●B、C、D、Eには個人面談を行い、Aに対する感情や、振る舞い方について話を聞き、アドバイスと指導を行った。

 本事例に対するコメント
●本事例では、あだ名で呼ばれることに対して、当該生徒が心身に苦痛を感じていることも勘案し、いじめに該当すると捉えて対応している。本事例のように、双方向の行為がある事案については、「いじめの防止等のための基本的な方針」にあるとおり、「けんかやふざけ合いであっても、見えない所で被害が発生している場合もあるため、背景にある事情の調査を行い、児童生徒の感じる被害性に着目し、いじめに該当するか否かを判断する」ことが必要である。
●本事例では、被害生徒Aが、加害生徒4名にあだ名をつけてグループの輪に入ろうとしているが、その行為が否定されている状況にある。Aは加害生徒4名と仲良くしたいと思っているためか、当該4名への指導を望んでいないようだが、Aの感じる被害性に着目して、個人面談や指導など必要な対策を講じたことは適切であったと考えられる。
●加害生徒に指導を行う際は、友情や親しみに由来するあだ名であっても、相手に心身の苦痛を与えてしまう場合があることを、あわせて理解させることが考えられる。

 AはB、C、D、Eのグループの一員になりたいと思っているが、なれないでいる。B、C、D、EはAをあだ名で呼び、Aも仲良くやりたいと思って、親密さを演出する目的でか、4人にあだ名を付けて、〈グループの輪に入ろうとしているが、自分の行為だけ、周囲から否定されている。〉と思っている。否定の根拠はあだ名に正しくない言葉遣いが込められていることと人を傷つける言葉遣いを投げつけられること、さらに4人をあだ名で呼んだとき、受け入れられないこと、多分、「あだ名で呼ばないでくれ」、「ちゃんと名前で呼べ」と言われているのかもしれない点に置いているのだろう。4人はAのあだ名に正しくない言葉遣いを込めていることからか、Aからあだ名で呼ばれると、同じ性格のあだ名と疑い、拒絶反応を示しているのかもしれない。

 但しAは正しくない言葉遣いがあだ名に込められていても、人を傷つける言葉遣いを使われてても、加害生徒への指導を望んでいなかった。この関係性はA自身を4人の人間よりも自分という人間を下に位置させて下位権威とし、4人の人間をAという人間よりも上に置いて上位権威とする構造を取っていることになる。このように上下の関係性を築いていても、グループの輪に入ろうとしているところに現れているようにAは苦痛を感じていなかった。教師たちはB、C、D、EをAに対するあだ名に正しくない言葉遣いが込めている点と人を傷つける言葉遣いを投げつける点で指導するに至ったのみで、Aの4人に対する上下関係を当然視している態度に対等な関係の必要性から指導の目が向いていたかどうかは窺うことはできない。文科省の「本事例に対するコメント」に、〈本事例では、あだ名で呼ばれることに対して、当該生徒が心身に苦痛を感じていることも勘案し、いじめに該当すると捉えて対応している〉と書いてあるが、指導前は、〈AもB、C、D、Eに同じようにあだ名をつけて、グループの輪に入ろうとしている〉こと、〈Aは他の4名と仲良くやりたいと思っており、あだ名をつけられていることは、友情の証と捉えている〉としているのだから、あだ名に苦痛は指導開始後、教師たちに諭されて、そう思うようになった可能性は否定できない。

 素(す)の人間関係は地位の上下や年齢の上下、男女の性別の違い等に関係なしに対等でなければならない。対等の意識は相互に同じ一個の存在と見ることによって成り立つ。人間関係が例え児童・生徒の間でも対等の意識に裏打ちされているべきである以上、Aが自分という人間をB、C、D、Eという4人の人間よりも下位権威と看做して下に置き、4人を上位権威に位置させて自分よりも上に置く上下意識(上下の権威主義)は時と場合に応じて自身をいつ卑下する場所に立たせかねない危険性を抱えるゆえに阻止しなければならない。上下関係のもとでの卑下や服従、妥協が当たり前になると、自分という人間を小さくすることになる。

 人間を小さくする学校教育は考えられないが、テストの成績にばかり目を向けると、テストの成績順位を受けた上下関係が形成されて、成績の悪い生徒に自己達成感の機会を与えず、自信喪失させ、結果的に児童・生徒の人間を小さくする手助けをすることになりかねない。 

 公立小学校 明らかに法のいじめに該当するので、いじめとして扱うべきもの等の具体例

Case04 グループ内のトラブル(その1)

事例の概要
❶ 関係児童
●【被害】小学3年女子A(1名)
●【加害】小学3年女子B、4年男子C(2名)

②いじめの概要
●11 月中旬、3日間に渡って、登校班で登校中、小学3年女子Aが、同じ登校班の小学3年女子Bと小学4年男子Cから「足を踏まれる行為」を複数回受けた。Aは心身ともに苦痛を感じていた。その行為を見ていた登校班の児童が担任に報告。しかし、担任は、事実関係を確認したところ、「足踏み遊び」の中で起こった行為であったとして、校内の「いじめ対応チーム」に報告しなかった。
●11月下旬、Aは学校を欠席し、その日にAの父親が来校した。学校は、父親の訴えにより、「しつこく足を踏まれる行為」を受けたことで、Aが心身ともに苦痛を感じていたことを初めて知った。
●学校は加害・被害児童の聞き取り調査を行い「しつこく足を踏まれる行為」を確認し、児童どうしの謝罪をもって事案終結としていた。加害及び被害児童の保護者には、面談による報告や謝罪の場に同席させることもなく、電話連絡に留まっていた。
●12 月中旬、Aが1週間連続して学校を欠席した。欠席の理由は「同じクラスのBが怖い」であった。
 12 月下旬、Aの父親が、BとCの保護者を家に呼び出し、謝罪させるという事態が発生した。学校が市教育委員会に「いじめ」の報告をしたのはその直後であった。

事態の経緯及び対応
❶ 学校が「しつこく足を踏まれる行為」を確認した直後の対応
●管理職、生徒指導、担任で今後の指導について協議。
●BとCから聞き取りを行うとともに、BとCがAに謝罪する場を設定。
●加害・被害児童の保護者に指導の結果を電話にて報告。
●Aの不安解消のため、集団登校時に教諭が同行。
●その後、Aは連続1週間の欠席。Aの保護者がBとCの保護者を家に呼び出して謝罪させるという事態に発展した。(情報不足。Aの連続1週間欠席の理由
❷ 学校が市教委にいじめを報告した後の対応
●「いじめ対応チーム」にて、今後の指導について協議。
●加害・被害児童の保護者に直接会い、事実関係とともに指導方針を伝える。
●「ケース会議」を継続して開催(市教委やスクールカウンセラーも参加)。
●Aが別室で学習できる体制を構築。
●進級時にBと違う学級・登校班になるよう配置。その結果、Aは、3学期は別室で、4月以降は教室で毎日学習している。

成果
●この事例により、「いじめの定義」「早期発見における取組」「いじめに対する措置」等が学校において徹底されていないことが明確となり、全教職員で「学校いじめ防止基本方針」を確認するとともに、「学校いじめ対応マニュアル」を作成する契機となった。
●いじめの認定後、別室で学習できる体制の構築、進級時の学級・登校班編成により、被害児童が安心して登校できるようになった。

本事例に対するコメント
❶ いじめ防止対策推進法の視点から
●11 月中旬の「しつこく足を踏まれる行為」について、担任は、Aが心身に苦痛を感じていたにもかかわらず、「足踏み遊び」の中で起こった行為であるとして、校内のいじめ対応チーム(学校いじめ対策組織)への報告を行わなかった。これは、いじめ防止対策推進法第23条第1項が求める「いじめの事実があると思われるとき」の「学校への通報」が適切に行われなかったケースと言うことができる。この時点で、いじめの疑いがあるとして学校いじめ対策組織へ報告し、組織的な対応をとる必要があったと考えられる。
●また、学校は、加害・被害児童に聞き取り調査を行った際に、Aの足を踏む行為がしつこく行われた旨を確認していたことから、この時点で、いじめと捉え、学校いじめ対策組織への報告等の必要な措置を講ずる必要があったと考えられる。

❷ 児童生徒への支援・指導の視点から
●学校は、「しつこく足を踏まれる行為」を確認した後、聞き取りや謝罪の場の設定等の対応をとったが、Aの不安は解消されなかった。その後、いじめと認知し、学校いじめ対策組織での指導方針を踏まえ、別室での学習体制の構築や進級時のBと異なる学級・登校班への配置等の措置を講じた結果、Aが安心して登校できるようになった。
●これを踏まえると、より早期の段階から、いじめを認知した上でAの心情に寄り添った対応を行うべきであった。

❸ 保護者対応の視点から
●11 月下旬にAの父親が来校し、Aが心身ともに苦痛を感じていることを把握した時点で、「しつこく足を踏まれる行為」がいじめに該当すると判断し、今後の指導方針等を丁寧に説明する必要があった。Aの不安が解消されなかったために、Aの父親がBとCの保護者を家に呼び出し、謝罪を求める事態に至ってしまった。

 被害児童小学3年女子Aは加害児童小学3年女子B、4年男子Cから「足を踏まれる行為」を複数回受け、心身ともに苦痛を感じていた。目撃児童が担任に報告。担任は事実確認を行った。被害児童の女子Aは足を踏まれる行為がエスカレートするのを恐れて、はっきりしたことは言えなかったのだろうか。加害側の児童が遊びだと証言したために担任は加害側の言い分のみ従ってイジメとしての対応は放置した。被害児童女子Aがはっきりとしたことが言えない性格なのは自分から担任に訴えることはできずに目撃児童が訴えた事実から窺えるし、結局のところ、学校を欠席することで嫌がらせからの回避策としたところにも現れている。

 勿論、学校を欠席したのは遊びだと判定後のことではあるが、担任は足を踏む行為が女子Aに対して女子Bと男子Cとの間でのみ行われていたのか、踏まれる側がAにターゲットを絞った一方通行のものなのか、両者間でターゲットが不定期的に入れ替わる両方向のものだったのか、あるいは登校班の中で一般的に行われていた遊びだったのか、B、Cから聞き取りをするのではなく、被害児童Aからも根気よく聞き取りをすべきだったし、登校班の他の児童からも同じ聞き取りをすべきだった。遊びはしたり、されたり、両方向からの相互性をルールとしていて、ターゲットを固定した一方向をルールとしていた場合、それが他愛のないことに見えても、遊びではなく、攻撃の部類に入るイジメそのものとなる。担任はこういったことに気を配るだけの教育的配を欠いていた。

 Aの学校欠席と入れ替わりの父親の来校で実際には「しつこく足を踏まれる行為」を受けていて、Aに苦痛を与えていたことを学校側は初めて把握することになり、加害・被害児童の聞き取り調査、「しつこく足を踏まれる行為」を確認、11月下旬以降、児童同士の謝罪を以って事案終結としたが、12 月中旬、Aが1週間連続して学校を欠席。理由は「同じクラスのBが怖い」。イジメとされて根に持ち、睨みつけるか何かしたのかもしれない。学校は人間関係の修復を理想の解決策とすることができずにAを3学期は別室で学ばせ、進級時に別の学級に移し、登校班も変える、より安易な隔離政策で問題の決着を図った。

 「自分の成長は学校での毎日の生活や家での毎日の生活を自分がどう過ごしていくか、どう送っていくのかによって決まっていく。あの子が面白くないといったことは自分の成長という問題から比べたら、どうでもいい小さな問題ではないか。どうでもいい小さな問題とすることができずに足踏んだりする嫌がらせをする。成長していない人間のすることではないのか。クラスメートや同級生に何かするんだったら、お互いの成長に役立つことをして欲しい」ぐらいのことは日々話して聞かせておかなければならないだろう。イジメの事前予防に役立つ可能性は否定できない。この点については文科省の「本事例に対するコメント」も何ら触れていない。イジメ事例から事後対応・対処療法のみに目を向けて、事前予防・原因療法の可能性に目を向けることを忘れているらしい。

《イジメ過去最多歯止めは厭なことは「やめて欲しい」で始まり、この要請に順応できる人間としての成長を求めるロールプレイで(2)》に続く


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イジメ過去最多歯止めは厭な... | トップ | イジメ未然防止目的のロール... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

教育」カテゴリの最新記事