菅義偉の「頂いた質問にきちんとお答えするようにしてまいりました」は事実か、GoToトラベル答弁から検証してみる

2020-12-07 09:12:59 | 政治
 
 引き受けてくれる出版社があるかどうか分かりませんが、現在、『教師用必読本 イジメの根絶に向けて小1から人間を哲学させる』を執筆中で、ブログを今月一杯と1月前半を休むことにしました。悪しからず。早くに終わるかもしれません。そしたら、再開するつもりです。よろしくお願いします。

 

 2020年参院本会議2019年度決算質疑(一括質問・一括答弁形式。下記質疑だけを抜き取る。)

 芳賀道也(無所属、国民民主党・新緑風会会派所属)「朝日新聞の報道によると、総理は今国会の冒頭(2020年10月26日)から11月6日目だけで62回も『お答えを差し控えさせて頂きます』と回答を拒否、民主主義を否定する答えない姿勢を繰り返しています。この総理の答弁を聞いて私は戦前の5・15事件を思い出しました。『話せば分かる』は犬養毅の言葉です。昭和6年に内閣総理大臣となり、翌年5月15日、5・15事件によって射殺されました。

 当時の記録によれば武装した軍人9人が総理官邸に侵入したとき、犬養は落ち着いていて、『お前たち、何を騒ぐか』と一喝し、胸にピストルを突きつけられながらも、『話せば分かる』と言って、一同を客間に導き、そして振り返って身を乗り出して何か言いかけたとき、将校が『問答無用、射て』と言う。これに応じてピストルが発射され、犬養は凶弾に倒れました。

 この記録が示すように『話せば分かる』という精神こそ、民主主義の基本を成すものである。『問答無用』という暴走こそ、ファシズムの象徴です。『問答無用』は質問も答も必要がない、答えないということです。『問答無用』、まさに総理が質問によく使う『お答えは差し控えさせて頂きます』と全く同じです。言葉こそ丁寧ですが、答えないという、答えは要らない問答無用は民主主義を破壊する言葉のテロだと言ってもいいのです。

 さらに菅総理が何度も繰り返す『お答えは差し控えさせて頂きます』が大臣や最高裁の答弁にも伝染し、国会で質問に答えないが蔓延。国会の存在意義を脅かし、民主主義の危機を招いています。

 菅総理、問答無用、『お答えは差し控えさせて頂きます』は封印し、命を懸けて民主主義を守ろうとした犬養毅元総理の『話せば分かる』の精神を最も大切にする、総理大臣に変わることを国民に約束して頂けないでしょうか」

 菅義偉「今国会での答弁についてお尋ねがありました。今国会の答弁に当たっては頂いた質問にきちんとお答えするようにしてまいりました。例えば仮定の質問や人事に関する質問など、政府としてお答えを差し控える必要がある場合もありましたが、その場合に於いてもその理由をできる限り申し上げてきており、ご理解を頂きたいと考えております」


 犬養毅の5・15事件の例まで持ち出して、安倍晋三も政府側証人も散々に使ってきた菅義偉の答弁差し控えは「民主主義を破壊する言葉のテロ同然だ」との趣旨で詰め寄ったが、短い答弁で簡単に退けられてしまった。

 菅義偉が言っている「答弁に当たっては頂いた質問にきちんとお答えするようにしてまいりました」とは誠実な答弁に終始していることの言い替えである。第三者から見た場合、その真偽は如何ということになるが、第三者のことは無視して、「仮定の質問や人事に関する質問など、政府としてお答えを差し控える必要がある場合もある」と自己答弁の正当性のみを主張している。但し国民の大方がそのような答弁で納得しているなら、その正当性は成り立ち得る。

 なぜなら、日本国憲法前文で、〈国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。〉と規定している以上、政府は自らの権力を国民の信託の上に成り立っていると見なければならない、あるいは成り立たせていなければならないからである。この「国民の厳粛な信託」は国民主権が命ずるところとなる必然性を原理としているはずである。

 安倍晋三は「桜を見る会」の政治の私物化疑惑では「個人に関する情報」であることを楯に答弁回避を繰り返してきた。この問題に関する朝日新聞の世論調査では安倍晋三の説明に「納得できぬ」が68%、共同通信世論調査では84・5%。黒川弘務東京高検検事長の定年延長を法解釈を変更して2020年1月に閣議決定したことについての朝日新聞の世論調査は「適切ではない」55.6%に対して「適切だ」が14.2%。当時官房長官だった菅義偉は安倍晋三の対応に一蓮托生の二人三脚でいたから、毀誉褒貶は分かち合わなければならない。

 日本学術会議が推薦した学者の一部を任命しなかったことの菅義偉の説明は十分だと思いますかの朝日新聞の世論調査は「十分だ」が15%、「十分ではない」が63%。国民の多くがこれらの対応は国民の信託の上に成り立たせていないと見做した。逆に国民の信託を損なう政治姿勢だと見てきた。

 確かに現在の自公政権は国民の信任を受けた。いわば国民の信託の上に成り立っている。だからと言って、やることなすことの全てが許されるわけではない。個々の政策に於いて国民の信託に適合しているかどうかは別問題である。世論調査で政府の政策に「説明不十分」、「不適切」とする国民の判断は国民の信託を踏み外していることの現れ以外の何ものでもない。憲法の大原則である、あるいは国民主権をベースとした国民の信託を損なってまで許される答弁回避、答弁差し控えは存在しないはずだ。

 このことについては2020年11月30日の当「ブログ」に書いてみた。

 要するに菅義偉の「今国会の答弁に当たっては頂いた質問にきちんとお答えするようにしてまいりました」が国民の信託を損なう状況を招いている以上、言っていることとは反対にきちんと答えていなかった、不誠実な答弁に終始していたということになる。安倍晋三や菅義偉らしいと言えば、らしいと言える。二人の不誠実な答弁は今に始まったことではないからだ。

 菅義偉のGoToトラベル答弁が誠実な答弁となっているか否かを知るために以下の国会質疑を取り上げてみる。

 2020年11月25日予算委員会

 枝野幸男「GoToトラベルが感染拡大を増長したのではないんですか。人の移動が活溌になれば、感染が広がるというのはこの感染症が問題になってから、一貫して政府自身も仰っしゃり、国民のみなさんに対して、だから行動制約を求めてきました。第1波、第2波では活動を7割から8割減らすこと、人と人との接触を減らすことを政府のみなさんが求めてきました。

 先ず春先、7割、8割減らすことを求めてきたのは間違いだったのですか。総理、どうですか。総理自身が時の官房長官として時の政府、国民に求めてきたんですよ。総理、如何ですか」

 田村憲久(厚労相)「当時、そういう話し合いの中で接触制限、8割を減らすという話がありました。ただ、その後はですね、色んなことを経験で我々も学んできたわけでありまして、これは専門家の方々が分科会でも申し上げておりますけども、5つのリスクの高い場面があると。例えば宴会等の場所、それから長時間に亘る大人数での飲食の伴う場所、さらにマスクを外して会話をするような場面、そしてそれぞれの行動をする中に於いて転換点が、例えば仕事をやっている中でちょっとコーヒーを飲みにいくときにマスクを外してそこで色んな話をする。

 それからもう一つは狭いところで共同生活をするような場所等々ですね、そういう危険な場面というものを、そういうものにどうやって感染防護しながら対応していくか、こういうことになってきたわけでありまして、そういう意味ではただ単に行動制限と言うよりは色んな我々の経験を元でですね、今まで色んな対応を今までしてきているところでございます」

 枝野は「GoToトラベルが感染拡大の原因ではないのか」と聞いた。対して田村は原因であるとも原因でないとも答えずに「これまで色々と学んできた経験」を元に「今まで色んな対応を今までしてきているところでございます」と政府対応の正当性を暗に主張するのみで、政府対応と現在の感染拡大との関連については何一つ触れていないのだから、誠実な答弁とは決して言えない。実質的には手をこまねくだけだったから、感染拡大に応じたいくつかの指標に対して「過去最高」という形容詞がつくことになっているはずだ。

 枝野幸男「(5つのリスクの回避)ということを求めてきたにも関わらずこんなに増えてきてしまっている。過去最高になってきてるんじゃないですか。明確にこの間、政府がやったことはGoToトラベル、GoToイート、そのことによって、直接感染が広がったかどうか、エビデンス(根拠)はない。でも、なぜ広がってるかは分からないんですから、それが理由ではないというエビデンスもないんじゃないですか。

 人の移動が活溌になれば、感染が広がる。GoToトラベルは人の移動を政府が推奨した、勧めていた。これは間違いですね。今も勧めているんですね。全面中止ではないですから、総理」

 枝野は政府側が前々からGoToトラベルが感染拡大の原因ではないとしているのだから、「では、現在の感染拡大の原因は何なのか、そのしっかりとしたエビデンスを示して欲しい」と求めるだけで済む。「そのエビデンスを示すことができなければ、GoToトラベルが感染拡大の原因ではないとするエビデンスにしても成立させることはできなくなる」といった論法でいくべきだった。刑事捜査では容疑に対する裏付け捜査が常に求められる。裏付け捜査なしでは容疑はいつまでの容疑の段階から犯行の事実にまで進めることはできない。

 菅義偉「先ず政府の仕事は国民の命と暮らしを守ることで、そうした中でGoToトラベル、今日まで約4千万人の人にご利用頂いていております。そして現実的にコロナの陽性になった方は180人であります。元々このGoToトラベルを進めるに当たって、当然、政府の分科会のみなさんに意見を聞きながら進めさせて頂いております。まさにこのGoToトラベルによって地域経済を支えていると、これ、事実でないでしょうか。

 そして先週(11月)20日の日に専門家の分科会の提言においてGoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない、こうしたこともご承知だと思います。先ず専門家委員会のみなさんから20日の日に提言を頂いた。その提言を尊重し、感染拡大地域に於いてGoToトラベルの運用のあり方について早急に検討して頂きたいということでありましたので、私たちは20日の翌日にコロナ対策の全体会合を開いて、新たに感染拡大防止のために予防措置として医療体制を守るために一部の地域に一時的にそうした方向を決定したということでございます」

 「一時的にそうした方向を決定」とは重症化しやすい高齢者、医療施設・介護施設での国費による集中的検査の実施、GoToトラベルは感染拡大一部地域での一時停止措置、飲食店関連の営業時間短縮等を指す。

 菅義偉は分科会の提言どおりに「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」と、現在の感染拡大状況が何に原因しているのかのエビデンス(根拠)を提示しないままに、つまり裏付け捜査なしに断言し、GoToトラベルのみに免罪符を与えている。この答弁は「今国会の答弁に当たっては頂いた質問にきちんとお答えするようにしてまいりました」と当人が発言していることに反した、国民の信託に対応していない不誠実な答弁ということになるだけではなく、感染拡大の原因が分からないままに手探りで上記対策を講じていることになる。

 NHKが纏めた「日本国内の感染者数と死亡者数」からこの質疑前日の2020年11月24日時点の累計死亡者数を見てみると、2015人となっている。12月5日時点で2508人。11日間で43人増加。確かに欧米から比べたら、感染者数も死亡者数も桁違いに少くない被害で済んでいるが、それでも死亡者を出している状況が進行している最中に、つまり国民の命を守ることができていない状況下で、「政府の仕事は国民の命と暮らしを守ることだ」とさも守ることが実践できているかのように実際とは違うことを言うのは死者を数のうちに入れていない冷淡さからくるおこがましいばかりの不誠実な答弁、開き直りだと看做されても仕方がないはずだ。

 枝野幸男「GoToトラベルの延べ人数ですね、さらにその中で感染した方が100何人とか仰ってますけども、それは感染者に対してGoToトラベルのチェックをしたんですか」

 赤羽一義(公明党・国交相)「ご利用されました4千万弱について先ず全員に検温をしております。その後全てフォローさせて頂いておりまして、今言われた180数名のみなさんも、保健所から連絡を受けた人間全て、その数値を保有しております。詳しく申し上げますと、その中でチェックイン、チェックアウトまでの滞在期間に感染された方は47名でございまして、その方々から他への感染があったということは聞いておりません」

 赤羽一義も、GoToトラベルが感染拡大の原因とするエビデンスは存在しないとする同じ主張に立っていながら、現在の感染拡大が何に原因するのかのエビデンスを明確に提示しないままに収めてしまう、この片手落ちは不誠実であることに麻痺しているからだろう。

 この麻痺はチェックアウト後の感染状況については触れていない点に現れている。何日か後に症状が出て、医療機関でPCR検査を受けて陽性と判定されたなら、感染経路と濃厚接触者の有無を聞かれることになる。そういったケースがゼロということは考えられないし、症状が現れない無症状病原体保有者についても触れていないのは対策の政府の一員として余りにも不誠実に過ぎる。

 かのノーベル生理学・医学賞受賞の「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」によると、〈感染しても30~50%では症状が出ない(無症候の割合はもっと高い可能性もある)〉と記している。「症状が出ない」の無症状と「無症候」の違いが分かりにくいが、前者は風邪程度の症状で終わって、後者は風邪の症状も現れないの違いだろうか。いずれにしても無症状病原体保有者は中間を取ったとしても、PCR検査の結果陽性と判断されながら、40%は症状が外に出ない無症状病原体保有者が存在すると仮定できることになる。

 となると、コロナに感染していながら、症状が出ないためにPCR検査を受けない無症状病原体保有者にしても、同じ割合程度存在すると仮定することができる。と言うことは、GoToトラベルの利用者の延べ「4千万弱について先ず全員に検温」し、パスしたとしても、無症状病原体保有者に関しては検温は効果がないことになる。少なくとも検温は万全ではないということに備えていなければならない。だが、検温パスを以って感染防止の安心材料とするのは早計に過ぎることになる。政府はこのことを認識しながら、旅行業界その他に検温に万全を期すよう注意を促しているのだろうか。一般にも要注意事項として情報発信しているのだろうか。 

 枝野幸男「大体がそもそもですね、感染経路不明者が半数近くに上っているんじゃないですか。今、どうなっていますか。感染経路不明者半分ぐらいじゃないですか」

 発症後7~10日間程度は感染可能期間だとネットで紹介されている。チェックインからチェックアウトまでの滞在期間中に感染しながら、無症状であることから自身の感染に気づかないまま、1週間前後の間、社会経済活動を行いながら、他に感染させていることも気づかないでいる例は感染経路不明者が50%前後もいることから、類推可能となるはずである。「新型コロナウイルス国内感染の状況」(東洋経済オンライン/ 2020年12月6日)によると、2020年12月4日時点でPCR検査件数は累計4,218,058件となっている。

 約1億3千万人近くある国内人口のうち、抗体検査等も含めて検査を受けた人数は500万人に満たない。残りの約1億1千万人のうち、無症状病原体保有者が1割だとしても、1千万人となる。感染者1人が平均して何人に感染させるかを表す指標「実効再生産数」は地域格差があって、沖縄は3.2、関東圏1.2、関西圏1.6、九州北部2.1ということらしいが、全て1以上だから、例え1としたとしても、計算としては1千万人が1千万人に感染させることになる。

 但し実際には一挙に感染させるわけでもないし、感染させる場合も感染させない場合もあるから、無症状病原体保有者1千万人から1千万人への感染はあくまでも計算上のことと押さえておいて、感染経路不明者50%以上という事実が無症状病原体保有者が感染拡大の無視できない大きな要因となっていると見做すだけの認識は必要である。

 このような認識からすると、菅義偉を筆頭に政府の公式見解としている「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」のそのエビデンス(根拠)はかなり怪しくなる。

 西村康稔(経済再生担当相)「連日、感染経路については現場のみなさんが努力されて、確認をしているところでありますけども、例えば北海道、感染拡大しておりますが、直近の数字で(感染経路不明者は)25.9%、東京は54.8%、大阪は64.8%。こうした報告を見ながら、対応しているところでありますが、ただ、その日、分からなくても、数日の内に濃厚接触者等、過去の行動から分かってくるケースもありますので、私共は日々確認をしながら対応しているところであります」

 枝野幸男はGoToトラベルのキャンセル料について質問を変えるが、あとになってGoToトラベルの質問を混じえたりするが、省略する。

 西村康稔の不誠実な誤魔化し答弁もここまでくれば見事と言うしかない。枝野幸男は「感染経路不明者が半数近くに上っている」ことの理由を聞いている。対して西村康稔は北海道と東京と大阪の感染経路不明者の割合で答え、その答で済ませた。さらに高が知れている「数日の内に濃厚接触者等、過去の行動から分かってくるケース」を持ち出して、それが感染経路不明者の減数に役立つかのように言う。

 東京都の「モニタリング項目(3)  新規陽性者における接触歴等不明者数」を見ると、接触歴等判明者数よりも接触歴等不明者数(感染経路不明者数)の方が相当数多く推移している。しかもこの接触歴等不明者数はPCR検査を受けた中から拾い出した数で、PCR検査を受けないで社会経済活動を行っている接触歴等不明者(感染経路不明者)がかなり存在して、東京都の場合は感染の半分に影響を与えている可能性を見なければならない。

 どう逆立ちしても、菅義偉の「頂いた質問にきちんとお答えするようにしてまいりました」は「お答えを差し控えさせて頂きます」とGoToトラベル答弁から見ると、「きちんと答える」ことにはなっていない。もし自分ではきちんと答えていると頭から信じているとしたら、安倍晋三と同様、自分を愛するあまり自分を過大評価して、例え間違っていることでも客観視することができずに全て正しいことをしていると思い込む自己愛性パーソナリティ障害を患っていて、その病に災いされているからだろう。

 菅義偉の不誠実な答弁態度は田村憲久や赤羽一義、西村康稔等、他の閣僚にも伝染していて、それが当たり前となっているようだ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 安倍晋三「桜を見る会」国会... | トップ | 安倍晋三の持つべき常識から... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

政治」カテゴリの最新記事