「文春オンライン」が2020年5月20日、東京高検の黒川弘務検事長(63)が産経新聞社会部記者2人、朝日新聞社員1人と賭けマージャンをしていたと報じた。
この黒川弘務の賭けマージャン不祥事で何よりも問題としなければならないのは、新型コロナウイルス禍を受けた緊急事態宣言下での政府要請の外出自粛中の出来事であったこと自体が黒川弘務の検察官としての規範意識に則った行動であったかどうかということでなければならない。しかも検察庁ナンバー2の検事長の任にある。特大の規範意識を体していなければならなかった。
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道徳、倫理、法律等の社会のルールを守らない、犯罪を取り締まる組織検察庁ナンバー2の検事長なんぞ、逆説も逆説、シャレにもならない。
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2020年5月22日 衆議院法務委員会
無所属の山尾志桜里はマスコミ報道で賭けマージャン不祥事が発覚し、検事長を辞任することになった東京高等検察庁検事長黒川弘務の処分が懲戒ではなく、軽い訓告で終わったことの理由、経緯などを法相の森まさこと法務省刑事局長川原隆司に対して追及した。
政府参考人として呼ばれた法務省刑事局長の川原隆司は2019年1月8日のマスコミ報道で54歳と紹介されていたから、現在、55、6歳か。慶応大学を卒業、東京地検刑事部長や最高検検事を歴任している。だが、経歴に見合った理路整然な答弁を見せることができず、言葉の言い換えや言葉の詰まり、思った言葉を思ったとおりに発することができないときの「あー」とか「うー」とかの連発。その様子だけで黒川弘務の訓告処分が厳正な決定からは程遠い、最初から軽い処分ありきで決定されたことが分かる。
質疑の途中に青文字で寸評を加えることにした。
山尾志桜里「新聞の記事によりますと、賭けマージャンのあとのハイヤーの中が主な取材の時間であったような記事が出ておりますし、森大臣、個人的な時間であったと仰るのであれば、この賭けマージャンに於ける前後の時間帯も含めてこういった黒川検事長が検事長という立場で取材に応じるようなことがなかったという事実認定されていいんですか」
川原隆司「私共の調査結果に於きまして取材に応じていたか、応じていなかったという点について事実は認定しておりません」
山尾志桜里「事実の認定をしていないんだから、本当の個人的な時間の使い方だったのか、検事長としての取材を受けた、一定程度検事長としての公務の遂行に関わる時間帯だったのか、森大臣、ここは判断できないんじゃないですか。
判断をされてるんですか、個人的な時間帯だったと。これが森大臣の認識でよろしいんですか」
森まさこ「私は検察庁に登庁している職務の時間以外の行為であっても、東京高検検事長たる者、公私を問わず、国民から疑問を問われないように自分自身を律して行動していくものと思っておりますので、そういう意味で今回の処分になったものです」
森まさこの「東京高検検事長たる者、公私を問わず、国民から疑問を問われないように自分自身を律して行動していくもの」とは、規範意識を常に体した行動への法務大臣としての期待であり、森まさこ自身規範に添うことを信条としていることになる。信条としていなければ、こんなことは言えない。森まさこ自身も常に常に規範意識を体して行動しているはずである。
当然、「そういう意味で今回の処分になった」と言っていることは、黒川弘務は規範意識を常に体して行動している人物であるから、そういう人物であることを考慮に入れて、懲戒免職ではなく、訓告という軽い処分としたという意味を取る。
犯罪を取り締まる側の検察官が犯罪となり得る賭けマージャンをしていたとしても、規範意識に則った行動ですとしたら、前代未聞の法意識、人物解釈となる。森まさこが法務大臣に座っていることを考えなければならない。
山尾志桜里「今回の賭けマージャン、事実認定された中で事実認定された賭けマージャンが行われた時間帯というのはさっきから仰ったように個人的な時間帯だというのが法務大臣の認識ということでよろしいですか」
森まさこ「職務時間外という意味でございます」
山尾志桜里は賭博容疑を問われてもいい黒川弘務の賭けマージャンが森まさこの「公私を問わず」の規範意識に反している行動であることに目を向けずにハイヤー内で記者から取材を受けていたとしている報道の方に重点を置いて「公」か「私」かに拘った。賭けマージャン帰りに「公」の立場で取材を受けていたなら、賭けマージャン中も、「公」の立場でしか提供できない検察内部の情報を「私」の立場で漏らしていた可能性が出て、その処分に公私混同の罪を加えなければならず、「訓告」は軽過ぎることが証明できるからなのだろう。
山尾志桜里「森大臣ね、本当に答弁が、申し訳ないけれど、大事なところで言葉遣いが物凄く軽いので、個人的な時間帯かどうかということは一つの大きなことでしょ。勤務時間以外だと言うなら、勤務時間外だというふうに仰っしゃればいい。
個人的な時間なのか、取材に応じて検事長としての立場、一定の公務の遂行が行われていたのかと言うことは、これは今回川原刑事局長によると、事実認定していないということでした。
これ、再調査の必要性は色んな面であるんですけども、これ、再調査して頂けますか」
川原隆司「再調査につきましては先程大臣が答弁された通りでございますが、今回処分するに必要な調査は行ったものと認定しております」
法務省刑事局長川原隆司は予定の答弁だったのだろう、ここでは落ち着いて答弁している。
山尾志桜里「取材が行われていたかどうかは処分を認定するのに不必要だという答弁でありました。大臣、今回訓告されたわけでありますけども、何を以って訓告にしたのかどうかということを聞きたいんですけれども、一つ、賭けマージャン、違法になる賭けマージャンをしたということ。
二つ目。特定のメディアと不適切な癒着があったのではないかということ。三つ目、自粛中のいわゆる3密をしたということ。
まあ、そのほかもあるのかもしれないのですけども、何を訓告の対象としたのですか」
森まさこ「黒川検事長については東京高等検事長という立場でありながら、緊急事態宣言下の令和2年5月1日と5月13日の2回に亘り、報道機関関係者3名とマンションの一室で会合し、金銭を賭けて、麻雀を行っていたことが調査により判明を致しました。これらの事実関係が認められたことから、検事総長から監督上の措置として訓告されたものと承知を致します。
それ以上の調査については詳細については事務方から説明させます」
これまでの遣り取りを見ると、法務省内で刑事局長川原隆司が主体となって黒川弘務の聴取に当たっていたと受け取ることができる。聴取によって賭けマージャンの事実認定ができたことから、検察に報告、検事総長が「監督上の措置として訓告」したという経緯を踏んだことになる。
つまり、検察は聴取にノータッチだった。告発や告訴を受けなくても、犯罪事実や犯罪事実の疑いに基づいて捜査、取り調べはできる。タレントの間で誰それが麻薬を常習しているらしいという噂から開始される捜査、取り調べがいい例となる。黒川弘務の賭けマージャン相手の産経新聞の記者と朝日新聞の社員はそれぞれの社の取り調べで事実を認め、それぞれにその事実についての記事を報道している。つまり、賭けマージャンの事実を3人の記者は認定した。
当然、賭けマージャンが賭博罪に当たる犯罪であることから、警察自身が動くか、検事長の賭博であることから、検察が警察に指示をして取り調べに当たってもいい事案であるはずだが、法務省内で取り調べを完了させて、その取り調べ内容を検事総長に連絡、当然、法務省の取り調べ内容に基づいてということになって、訓告処分とした。
こういった一連の流れを見ると、「訓告」が正当な取調べに基づいた正当な処分ではなく、処分を「訓告」に向けるためのヤラセの疑いが出てくるが、この疑いをゲスの勘繰りとする答弁は以後も見えてこない。
【ヤラセ】「事実関係に作為・捏造をしておきながらそれを隠匿し、作為などを行っていない事実そのままであると(またはあるかのように)見せる・称することを言う」(Wikipedia)
確実に言えるのは森まさこは黒川弘務が犯罪構成要件となり得る賭けマージャンをしていながら、その規範意識を何ら疑っていないことである。疑っていたなら、処分の重大な一要件としたはずであるし、しなければならなかった。
山尾志桜里「そうするとですね、賭けマージャンの話、そして3名の記者とのこと、3名の記者との関係の話。ここがやはり焦点になってくるわけですね。
そうすると、この賭けマージャンの一定程度の常習性の有無。あるいは特定メディアとの癒着の固定化や常態化。この程度の問題が私はやはり大事だと思うので、ここはやはりしっかりと調査をして頂きたいと思うのですけども、調査の手法についてですので、刑事局長でも構いません、お伺いを致します。
先ず今回の調査の中でですね、今、黒川さんへのヒアリングと各報道局報道陣がいましたけど、黒川さんへのヒアリングはいつ、何回されたのですか」
川原隆司「今回の調査は今月19日火曜日から開始をしておりまして、昨日(2020年5月21日)、調査結果を取り纏めるまで、何回かに亘りまして、事務次官が必要に応じて複数回に亘り、聴取をしたということで、ところでございます。以上でございます」
黒川弘務の聴取は川原隆司が主体となって行ったのではなく、事務次官が主体となって行っていたことがここで判明する。但し川原隆司は聴取の回数を「何回かに亘りまして」と最初は言い、次に「複数回に亘り」と、どちらも回数を曖昧にする言い方となっている。
この曖昧に合わせてしまったのだろう、聴取が終わって、処分が出たのだから、「聴取をしたということでございます」と一定時間が経過した過去完了形とすべきところを、「聴取をしたということで、ところでございます」と、過去完了形と聴取からさして時間が経過していない現在完了形とを混ぜた言い方になってしまった。
この二つの曖昧さはニつ共に何らかのウソを介在させていることから発している。何もウソがなければ、聴取回収を何回かとはっきりと言うことができるし、しっかりとした聴取ではなかったからこそ、しっかりとした過去完了形で表現できずに聴取を終えたばかりみたいな言い方をしてしまった。
当然、このウソは検察庁ナンバー2の検事長の賭けマージャン問題なのだから、採るべき聴取記録も採らずに、残してもいないことを証拠立てることになる。
山尾志桜里「何回聴き取りを行い、何時間なのですか」
川原隆司「では、あのー、私の方から申し上げる調査は、フク、フク、複数回に亘り聞き取りをしているということでございます」
抗議、中断。答弁し直し。
川原隆司「先ず、あのー、今、私の承知している範囲で、お答えできる範囲でお答え申し上げますが、えーと、黒川検事長との聴取につきましては面談、直接なのか、電話なのか、というのがございまして、その全てについてを含めて、何回かということまで私は事実に関する資料ということはございません。
(終わろうとして、言い足す)ただ必要に応じて、電話や面談という形で聞き取りをしたということでございます」
抗議、中断。
法務省刑事局長の川原隆司は東京地検刑事部長や最高検検事を歴任した慶大卒の50代半ばの大の大人でありながら、山尾志桜里から聴き取り回数と聴き取り時間を聞かれただけで、言葉がつっかえ、言い回しも理路整然さを失ってしまう。聴取にウソがなければ、理路整然と答弁できたはずである。
分かったことは聴取記録を採らなかったこと、聴取は面談と電話を用いたこと。但しそれが事実解明のためにウソのない聴取であったなら、最初から「電話と面談という方法で聴き取りをした」と落ち着いて明確に答弁できたはずだが、ウソがあるから、「面談、直接なのか、電話なのか、というのがございまして」などと、聴取方法の必要のない解釈から始めることになったのだろう。
山尾志桜里「これはですね、複数回ということが明らかになるということですが、手元にここで産経新聞なんですが(必要箇所のみコピーしたものか、B5程度の用紙を左手に持って)、これも(答弁は)刑事局長で結構です。この産経新聞の件はですね、ちゃんと黒川検事長と、事実なのか、違うなら、どこなのか、ヒヤリングしたのかどうかということを聞きたいんです。
この(産経新聞の)記者の二人が数年前から賭けマージャンを続けていた。1ヶ月に数回のペースであり、(緊急事態)宣言後も5回程度あり、いずれも金銭の遣り取りがあり、そしてハイヤーを利用して主にその車内で取材を行っていたと。
こういうことを、事実かどうか分かりませんよ。ただこの新聞社は記者からの聞き取り内容を社内調査の内容ということで(記事に)上げているんですけど、この事実については黒川さんに当てたんですか。
当てたとしたら、それに対してどういうお答えだったんですか」
産経新聞は5月22日、東京高検の黒川弘務検事長と同社記者らが賭けマージャンをした問題を巡り、社内調査の結果とおわびを同日付朝刊一面に掲載しているとのこと。
川原隆司「えーと、こうー、調査、あの、昨日取り纏めたわけでございますが、それまでの時点に於きまして、私、あるいは産経新聞から、それぞれに社に於ける調査の状況であるとか、事案に対してどういうことか、というようなコメントは出ておりますが、それを念頭に置いた聴取は当然、しているところでございます」
山尾志桜里、席に座ったまま、「何ていう答だったんですか」
松島みどり委員長「その聴取をして、(黒川弘務から)どのような回答を得られたのか、答えられますか?」
川原隆司「そのような聴取結果、先ず先程、大臣、対象事実として答弁申し上げましたけれども、今年の5月1日と13日の日を跨いでおりますが、これについては申し上げますが、それぞれ産経新聞の記者と黒川検事長が賭けマージャンを行った事実、それから帰宅の際にハイヤーに同乗した事実等を認められております。
そのほか黒川検事長にその後も麻雀、ハイヤーの事実ということを、当然、確認したところでございますが、その結果、黒川検事長からは今回の5月1日、あるいは13日のメンバーとされています記者3人と約3年前から月に1、2回程度、同様な賭けマージャンをやっていたということ、あるいは帰宅の際に記者が帰宅するために乗車するハイヤーに同乗したというような聴取の結果を得ているところでございまして、そうした調査結果になってございます」
「文春オンライン」が黒川弘務の賭けマージャンスキャンダルを伝えたのが2020年5月20日、産経新聞は自社記者からの聴き取りを記事にしたのが2020年5月22日。法務省が調査を開始したのは2020年5月19日。文春側から、これこれを記事にすると前以って黒川弘務に連絡が入り、逃げられないと観念して検察庁と法務省に記事になることを伝えたのだろう。でなければ、法務省は文春報道の5月20日前日の5月19日から調査に入ることはできない。
当然、川原隆司の答弁は文春の報道を黒川弘務に当てた結果出てきた、既に述べている事実であるなのか、産経新聞の調査内容を当てた結果、別の事実が出てきて、それも加えて答弁しているいるのかでなければならないはずだが、既に明らかにしている法務省自身の調査結果をくどくどと繰り返す答弁となっている。
もし厳格な聴き取りを行っていたなら、その聴き取りに自信を持つことができて、繰り返しの答弁をする必要はない。繰り返しは事実と思わせたいときに特に使う。
つまり厳格な聴き取りを行わない片手落ちの調査で「訓告」処分とした。
山尾志桜里「黒川さん自体、数年前から特定の記者と月1、2回程度、賭けマージャンを継続しており、およそハイヤーの接待を受けていたということは認めているという話だったんですけど、森大臣、それなのになぜ、懲戒ではなくて、訓告なんですか」
森まさこ「事案の内容と諸般の事情を総合的に考慮し、適正な処分を行ったものでございます」
山尾志桜里「説明する意欲を突然なくした答弁なわけでありますけども、検察の信頼を回復させるために、本当は辞めたいんだけども、残るんでしょ。だったら、ちゃんと答弁してくださいよ。皆さんの資料にあるように人事院の指針は賭博をしただけでも減給、または訓告、常習だったら、停職をちゃんと国公法(国家公務員法)上に位置づけられた、こういった処分が決められているわけですよね。
ましてや黒川さんは検察官ですよね。検事長ですよね。戦後初めて定年延長されて、『余人を以って代え難い』と評価された検察ですよね。その人がこうやって自ら3年前から、もう賭け賭博を認めている状況が明らかになっていて、どうして国公法にも当たらない訓告で足りると考えたのか、実質的な理由をきちっと国民の前に明らかにしてくださいよ」
森まさこ「丁寧にご答弁を申し上げてまいります。事案の内容と諸般の事情を総合的に考慮したというふうに申し上げましたけれども、前例で賭けマージャンについてですね、問題になった事案でありますとか、様々な事案を参考に今回の事案を、諸般の事情を考慮し、例えばレートでありますとか、まあ、本人の態度も総合的に考慮し、処分したものでございます」
「前例で賭けマージャンについてですね、問題になった事案」のうち、検察官が行った前例はあるのか。あるとしたら、どのような「前例」で、どのように参考にしたのか、聞くべきだったし、森まさこ自身も明らかにしなければ、「訓告」が正しい処分なのかどうか、国民も野党も、誰も判断できない。
さらに森まさこは黒川弘務「本人の態度」も訓告という軽い処分にした理由の一つに上げているが、要するに黒川弘務の検事長としての規範意識は問題なしと見ていることになる。山尾志桜里は検事長でありながら、常習的に賭けマージャンをする規範意識とはどのようなものか聞くべきところを、規範意識にまで頭が回らなかったようだ。
山尾志桜里「じゃあ、レートはどうだったんですか。態度はどう認定されたのですか」
川原隆司「今、大臣が今回の処分を決めた理由は概略はご答弁しましたが、私ちょっと詳しくご答弁させて頂きたいと思います。
先ずマージャンの関係でございますが、今回の一連のマージャンの件、即ち、あの、先程申し上げました今年5月1日、13日以来ですね、そういった状況でマージャンを行っていたと言うことは認められるんですが、(今年5月1日、13日以外は)具体的な日付の特定した事実を認定するには至っておりません。
ただ、こういった状況だったといういうことを認定して、その中でそういったことを考慮して、えー、処分を決めているわけですが、この処分対象事実、そういった中で、処分対象を事実があった。5月1日、13日のマージャンというものにつきましては、これは旧知の間柄の間で、レートはいわゆる点ピン、これは具体的に申し上げますと1000点を100円と換算するものでありまして、これは勿論、賭けマージャンが許されるものではございませんが、社会の実情を見ましたところ、必ずしも高額とは言えないレベルであったということで、いうことを考えて、ですから、許されるものではありませんが、ということで、それで処分をしているものでございますが、処分の量刑に当たっての評価でございます。
で、さらにハイヤーの問題。仰っておられますが、これにつきましては5月1日、13日に記者の一人の家でマージャンを行ったのちにその家に住んでいない記者が手配したハイヤーに同乗して帰宅しておりまして、その事実は黒川検事長は(代金を)払っていないものでございます。
が、このハイヤーは黒川検事長個人のために手配したハイヤーを利用したというものではなく、記者が帰宅したハイヤーに同乗したものであることが認められることなどから、社会通念上、相当と認められる程度を超えた財産上の利益の供与があったとまでは認められませんでしたので、こちらの方は処分対象事実とはしておりません。
その上で黒川検事長のこれまで懲戒処分を受けたことがない、あるいは今般以来のこれまでの先例など、そういったことを総合的に考慮致しまして、今回の訓告という処分にしたものでございます」
法務省刑事局長川原隆司は賭けマージャンを掴まえて、「許されるものではない」と言いながら、、旧知の間柄の間でしたことであることと掛け金のレートが「必ずしも高額とは言えないレベル」である2点を「処分の量刑に当たっての評価」としているが、森まさこと同様、黒川弘務が検事長として常に体していなかればならない規範意識の欠如を「処分の量刑に当たっての評価」のうちには入れていない。つまり東京高検検事長であったとしても、規範意識の欠如を許していることになるし、黒川弘務にしても許される特別扱いを受けていることになる。安倍晋三のお友達だからなのだろうか。
規範意識の欠如が許される検事長というのはどのような存在なのだろうか。
山尾志桜里「中身の調査を尽くさずに出てきた表面上の結果をピックアップをして、そして人事院の基準よりも余程軽い処分で終わらせて、それについて説明もしないという状況で、法務大臣、どうやって森大臣が検察の信頼を回復するつもりなんですか」
森まさこ「人事院の基準についてはこれに当てはまる過去の先例等を調べた上で、法務省に於いては賭けマージャンについて行った賭博による減給、または戒告に当てはめられたことはないわけですけれども、懲戒処分以外の処分を受けている例等はございますが、そういったものを参考にしつつ、今回の、先程言った例等とありますとか、その他の事情を考慮して、処分を決めたものでございます」
先ず「人事院の基準についてはこれに当てはまる過去の先例等」を具体的に聞かなければ、量刑の正誤は判断できない。
「法務省に於いては賭けマージャンについて行った賭博による減給、または戒告に当てはめられた」例はないが、「懲戒処分以外の処分を受けている例等」を参考にして、訓告処分とした。
つまり最初から「懲戒処分」を視野に入れていなかった。これも検察官の賭けマージャンを規範意識欠如の最たる行為とは見ていないことからの懲戒処分回避なのだろう。
森まさこが黒川弘務が「検察庁に登庁している職務の時間以外の行為であっても、東京高検検事長たる者、公私を問わず、国民から疑問を問われないように自分自身を律して行動していくものと思っております」と規範意識に則った行動をしているかのように言うことができるのも、「懲戒処分」など、頭の隅にも置いていないからと見なければならない。
山尾志桜里「法務大臣、確認したいんですけれども、今されている事実認定に於いてこの黒川検事長の賭けマージャンね、罰金50万円の賭博罪とか、あるいは懲役3年もあり得る常習賭博罪、こういった罪で可罰的構成の存在があると考えているのですか。ないと考えているのですか」
森まさこ「今委員より司法の賭博罪の成否についてのご質問があったと承知しました。刑事処分については捜査機関が法と証拠に基づいて判断するものでございまして、法務省としてはお答えする立場にはございません」
「捜査機関が法と証拠に基づいて判断する」のは告訴・告発を受けた場合としている。そのうち黒川弘務を賭けマージャンの容疑で告訴するか告発する個人・団体が出てくると思うが、その事実が週刊誌報道と記者の証言、黒川弘務本人の証言によって認定されている以上、告訴・告発がなくても、検察自体が動いてもいいはずだが、「訓告」ありきだから、検察も警察も動かないということなのだろう。
山尾志桜里「ちょっと一点お願いしたいのは調査結果ということで、1、2、3、4と出ているんですけども、今ここに書かれていない調査結果というものもそれぞれの答弁から出てきているので、ちゃんと調査結果を紙にして提出して頂けませんか」
松島みどり委員長「後刻理事会で協議して――、ハイ」
山尾志桜里「最後に森大臣に最後にお尋ねしたいと思います。制度論に入りませんでしたけれも、森大臣、今回責任を痛感していると言っている。私も本当にそう思いますよ。『検察官、逃げた』を始めとする森発言、あるいは森大臣自身の戦後初めての定年延長人事は大失敗に終わっているわけです。
しかもその失敗を『その当時の判断としては正しかった』というふうに認めていないわけですから、これからも同様の失敗をすると思います。
そういう意味で森大臣、ご自身の責任のとり方って、大臣を辞めること以外にどういう責任の取り方があり得ると考えているのですか。答えてください、教えて下さい」
森まさこ「私自身の責任のご質問を頂きましたが、私自身の今般の事柄について大変遺憾であると考えておりまして、責任を痛感しております。安倍総理に対して進退伺を出したところであります。今後も検察の信頼を回復するように、また、後任を速やかに選ぶようにというご指示を受けてございますが、職責に当たることに決めたわけでございますので、信頼を回復するために全力で務めて参りたいと思います」
山尾志桜里「あのね、自らね、まっとうする自信のない大臣に法務大臣を続けさせる程、日本の社会って、そんなに(ふっとひと笑い。ひと間置いてから続けたから、「甘くはない」と言いたかったところを踏みとどまったのか)待ってられない状態だと思いますので、ぜひ考え直して頂いてご自身で辞任をして頂きたいと強く要求して、終わりたいと思います」
以上、まともな聴取も行わずに最初から「訓告」ありきの処分を決めたことが、森まさこと法務省刑事局長川原隆司の答弁から如実に浮かんでくる。特に黒川弘務の検事長としての規範意識の欠如に関係なしに訓告と決められたことは留意しなければならない。 |
森まさこは法務省が聴き取った事実関係に基づいて「検事総長から監督上の措置として訓告されたものと承知を致します」と答弁している。だが、この衆議院法務委員会があった同じ2020年5月22日の森まさこの朝の「記者会見」では処分の最終決定者は内閣だと明かしている。
記者「黒川検事長に対する処分は,訓告ということです。黒川検事長は,法務省の聞き取りに対して,賭け麻雀をしたと認めています。一方で,法務省として,賭け麻雀をしたと言われたのに,これは賭博罪に当たるものではないということで,この訓告処分をされたのでしょうか」
森まさこ「これについては,法務省内,任命権者であります内閣と様々協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ましたが,最終的には任命権者である内閣において,決定がなされたということでございます。
その際,賭け麻雀における過去の処分の例ですとか,刑法の賭博罪と人事院の規則の賭博についての定義の考え方ですとか,刑法の方は刑事処分が関連してまいりますので,人事院規則の方とは全く同じではないという説明も受けました。その中で刑法の賭博罪についても,立件される程度があるという説明もございました。様々なことを総合考慮した上で,内閣で決定したものを,私が検事総長にこういった処分が相当であるのではないかということを申し上げ,監督者である検事総長から訓告処分にするという知らせを受けたところでございます」
① 法務省と内閣が「様々協議」した。
② 任命権者である内閣が最終決定。
③ 内閣決定を森まさこが検事総長に伝えた。
④ 検事総長が森まさこに訓告処分を伝えた。
問題は③と④である。内閣決定を検事総長が覆すことができるだろうか。覆すとしたら、検事総長は内閣及び法務省と協議しなければならない。その事実は伝えられていないから、検事総長は単に内閣決定を了解し、了解の意を森まさこに伝えたということなのだろう。
大体が検事長の任命権者は内閣である。任命の責任に対して処分の責任を負うのも内閣でなければならない。この点から言っても、森まさこが「法務省内,任命権者であります内閣と様々協議を行いました」と法務省を内閣より先に持ってきているが、法務省が処分を主導したように見せかけるレトリックでdなければならない。
内閣は法務省の上に位置する。上に位置する内閣に法務省が訓告相当の処分が適当ではないかと決めた上でそのことを伝えたとしたら任命権者たる内閣に対して僭越行為となる。法務省の聴取で明らかになった事実を先ず内閣に提示してから、処分についての「様々協議」に入る中で法務省の処分についての考えを伝えて、その適否についてさらに「様々協議」するというのが常識的な流れとなる。
いずれにしても任命権者として内閣が訓告処分を最終決定した。法務省の検事長黒川弘務に対する聴取自体が訓告ありきのいい加減な体裁となっていることが森まさこと法務省刑事局長川原隆司の答弁からアリアリなのだから、任命権者という点からも、「訓告」は内閣発と見なければならない。
最初から「訓告」ありきの茶番に過ぎなかった。当然、森まさこと法務省刑事局長川原隆司の訓告処分ありきの答弁は内閣の意、実際には安倍晋三の訓告処分で手を打つ意を受けたものだった。
5月22日の衆院厚生労働委員会で安倍晋三は検事総長が処分の決定を行ったかのように答弁している。
立憲民主党の小川淳也が安倍晋三の黒川弘務定年延長の閣議決定に対する安倍晋三自身の責任を問い質した。
安倍晋三「先ず処分に当たってはですね、検事総長が事案の内容を諸般の事情を考慮して適切に決定の処分を行ったものと承知をしております。それを受けて、カズサ(「司」〈ツカサ〉の間違いか)として了承したということでございます。
黒川氏についてはですね、検察庁の業務上の必要性に基づき、検察庁を所管する・・・・」
小川淳也「総理の任命責任を聞いています」
安倍晋三「検察庁を所管する法務省からの閣議請議により閣議決定されるといったプロセスを経て、引き続き勤務させることにしたものであり、この勤務延長自体に問題はなかったものと考えております。黒川氏については法務省に於いて先程答弁させて頂いたように確認した事実に基づき、昨日必要な処分を行うと共に本日辞職を承認する閣議決定を行ったところです。
法務省、検察庁の(黒川勤務延長の)人事案を最終的に内閣として(小川淳也が何か抗議)、法務省、検察庁の人事案を最終的に内閣として認めたものであり、その責任については私にあるわけでございまして、ご批判は真摯に受け止めたいと思います」
検事長の任命権者は内閣でありながら、「検事総長が事案の内容を諸般の事情を考慮して適切に決定の処分を行った」としている。そして黒川弘務定年延長の決定も、自身の任命責任を脇に置いて、「法務省、検察庁の人事案を最終的に内閣として認めた」と主導したのは法務省と検察庁としている。
ここには任命責任者としての確たる責任意識は見えてこないばかりか、黒川弘務の規範意識の程度に向ける意識さえ見えてこない。だから、訓告という処分が可能になった。黒川弘務に対して公正・公平・中立の立場を維持できていたなら、規範意識の欠如に目をつぶった処分などできない。
眼をつぶることができるのは安倍晋三自身が森まさこ同様に責任意識を欠如させているからだろう。
安倍内閣の教育再生会議は第1分科会が「学校再生分科会」、第2分科会が「規範意識・家族・地域教育再生分科会」、第3分科会が「教育再生分科会」と分けれていて、第2分科会で規範意識の育みを受け持ち、「世界トップレベルの学力と規範意識を備えた人材を育成していきます」と高らかに謳っている。
検事長黒川弘務の規範意識を問題にせずに子どもたちの規範意識を育てようとしている。前者を問題にせずに訓告したことにウソがあるだけではなく、教育再生会議で「規範意識」を謳っていることにもウソがあることになる。