野田内閣の“一体改革”となっていない社会保障と税の一体改革

2012-01-21 10:09:03 | Weblog

 「社会保障と税の一体改革」と言う以上、社会保障と税はそれぞれが相互対応の関係を持った具体像を描いていなければならない。それぞれの具体像が非対応の関係にある構成となっていたなら、一体改革とは言えない。

 1月17日(2012年)の内閣記者会とのインタビューで野田首相は次のように発言している。《野田首相インタビュー(2)】支持率横ばい「(消費税増税は)拍手喝采のテーマでない」》MSN産経/2012.1.17 18:52)

 記者「日経の世論調査では、一体改革の素案に対して反対が56%、賛成36%。あまり、良くない結果がでています。総理自ら、積極的に一体改革の意義を訴えていかないと広がっていかない」

 野田首相「やっていきます。チャンスがあればどんな場面でも説明をしていきたいと思います。

 ただ、これ私だけでは限界があります。当然私が先頭にたたなければなりませんが、内閣をあげて、岡田副総理だけではなく、安住財務大臣だけではなく、内閣をあげて、政務三役が、例えば地域に出ていくとき、あるいはメディアのみなさまに訴えるとき、国民のみなさまと膝つきあわせて議論をするときに、しっかりと改革の必要性を訴えていくということ。

 是非野党にも協力をしていただきながら、政府与党一丸となって訴えていくことが必要だと思いますし、当然、自分はその先頭にたっていきたいと思います」

 説明不足だという認識があったからこそなのだろう、野田首相が自ら先頭に立って社会保障と税の一体改革の意義を説明し、訴える意気込みを示しているが、そうである以上、社会保障と税のそれぞれの改革は既に相互対応の関係を持って内容が具体化されていることを前提としていなければならない。

 一体改革であるはずなのに相互対応の関係を持たずに社会保障と税が別個に具体化されていたなら、どこが一体改革なのか説明しようもないし、訴えようもない。

 岡田副総理も説明不足を指摘している。同じ1月17日の自らの記者会見。

 岡田副総理「消費税率を引き上げることは国民に伝わっているが、段階的に5%引き上げる分で何をするのかは十分に理解されておらず、政府の説明も必ずしも明確ではない」

 野田首相と岡田副総理の発言を裏を返すと、説明能力を欠いている、あるいは説明責任を果たしていなかったということになるが、知らぬが仏、自らの説明能力の程度には気づいていないから、総理の座、副総理の座にそれぞれが澄まし顔に座っていられる。

 いずれにしても社会保障と税の一体改革はそれぞれが相互対応の構成を持って具体化されていた。与野党協議を経るのか、与野党協議を経ずに国会で審議というプロセスを経るのか今のところ不明だが、少なくとも野田内閣の案としては“一体改革”と言える相互対応の完成度を果たしていた。

 不足は国民に対する説明のみであった。

 ところがである、昨1月20日(2012年)になって、5大臣による関係閣僚会合を開催、増税分の5%の使い途を一部訂正した。

 社会保障と税の一体改革は“一体改革”と言える相互対応の完成度を果たしていなかったということである。

 完成度を果たしていなければならなかったはずなのに、簡単にブレて、変更したということはニセモノの完成度だったと言える。

 これまで政府が説明してきた増税分5%の使途。

 1%分(約2.7兆円)――医療・介護・年金・子育て等、社会保障制度充実化財源として1%分(約2.7兆
             円)
 1%分(約2.7兆円)――高齢化に伴う社会保障費の自然増
 1%分(約2.7兆円)――基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げ
 1%分(約2.7兆円)――税率引き上げに伴う政府の支出増
 1%分(約2.7兆円)――国債発行を減らす分(以上「asahi.com」

 《引き上げ5%分“社会保障費に”》NHK NEWS WEB/2011年1月20日 19時27分)

 5大臣が誰なのかは記事は岡田副総理の名前以外は挙げていない。まあ、主なところでは安住、小宮山といったところなのだろう。

 「asahi.com」記事の「税率引き上げに伴う政府の支出増」に関して、「NHK NEWS WEB」記事は、「1%程度は引き上げに伴う物価の上昇などによる支出の増加に充当」と解説している。

 消費税増税によって政府関係の経費が約1%分、約2.7兆円分価格増となる。それを消費税で賄おうとしていた。

 国民は消費税ばかりか、消費税増税による物価上昇分も自分で賄わなければならない。何とも不公平なことをことをやらかそうとしていたばかりか、消費税は社会保障に使われ、回りまわって国民の利益に寄与するという説明は全部が全部ホントではなかった。

 従来の使途について、〈民主党内からも、社会保障費以外に使われるのはおかしいといった指摘や、公共事業費や防衛費に使われるのではないかといった懸念が出ていた〉。

 新たな取り決めは5%分を全額社会保障費に充当。

 うち1%程度に当たる2兆7000億円を社会保障の充実に向けて、低所得者の保険料の軽減や待機児童の解消等の使途とする。

 残り4%程度に当たる10兆8000億円は基礎年金の国の負担分を2分の1に維持する財源や高齢化に伴って増える公費の負担の補填等、現在の社会保障制度安定化財源に充当。

 要するに4%の使途は従来どおりで、「引き上げに伴う物価の上昇などによる支出の増加に充当」するとしていた1%分を低所得者の保険料の軽減や待機児童の解消等に振り向ける変更を行ったことになる。

 岡田副総理(記者会見) 「多くの国民は、消費税率を10%にすることは分かるが、何のためなのか分からないと感じている。来月以降、野田総理大臣と閣僚らで、手分けをして、いろんな場で説明したい」

 説明不足だけを言っているが、社会保障のこれこれの改革にはこれだけの財源を必要とする、必要とする財源から消費税の税率を算出するという、先に社会保障の改革を持ってきて、それに対応する消費税増税という税の改革を持ってくる手順を取ることによって相互対応の一体改革となるはずだが、5%増税分の使途変更は逆に税率(に相当する税収)を使途に当てはめることになって、先に増税率ありの手順を踏むことになり、社会保障の改革にはこれだけの財源が必要だからという相互必要性からの算出にはならないことになる。

 この不備をどう説明するのだろうか。

 税率算出の根拠を失うばかりか、社会保障と税の二つの改革に相互対応性を欠いていたことになって、一体改革だとしてきたことの根拠さえ失う。

 また、ブログに書いてきたことだが、消費税増税に対する低所得者の逆進性対策としての給付付き税額控除をバラ撒きだとする意見や消費税を増税しなくても財政再建は可能だとする意見についても、それを否定する、国民が納得できる説明責任も果たすべきであろう。

 この二つの説明責任を果たしてこそ、消費税増税に対する国民理解の説明ともなるはずである。

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