1.始めに:
カシミール3Dは1994年にDAN杉本氏が開発した登山愛好者向けの地図ソフトで、開発以来22年経過したが、フリーソフトでありながら未だに不断の改良が図られ、登山者の間で愛用され続けている。
因みに、2012年6月には、国土地理院主催の“電子国土賞”を受賞していることからも当ソフトが優れものであることが伺える。
カシミール3D単独でも実用性、有用性は高いが、ハンディGPS(以下、GPSと呼ぶ)と組合せると格段に実用性、有用性が高くなり、更には、利便性も大きくなり、最強の登山ツールに変身する。
カシミール3DとGPSのコンビを一通り使いこなすためのハードルは可成り高いが、その分、マスターして享受できる喜びは大きく、登山が格段に楽しくなろう。
以下に、筆者の活用状況を紹介するので、その優れもの一端に触れて頂きたい。これを契機に、本当に登山を楽しみたい方、特にリーダーの方にはカシミール3DとGPSのマスターにチャレンジすることをお勧めしたい。
なお、筆者が使用しているGPSは2010年に購入したGarmin社製のeTrex Vista HCxで、年代物ではあるが、未だに携行性(ガラケイと同サイズ)が良く、性能的な不満もないので、私の心強いパートナーとして愛用している。
Fig.1 ハンディGPSの外観
2.私が活用している機能:
私が活用しているカシミール3D単独の機能とGPSとの組合せ機能(以下、GPS機能と呼ぶ)に分けて説明する。
2.1. カシミール3D単独の機能:
山行計画の立案に強力なツールである。
この機能をマスターするハードルは低く、得られる効用は大であるので、全登山愛好者にマスターされることをお勧めしたい。
■計画ルート(以下、単にルートと呼ぶ)の設定ができる:
事例は鎌ヶ岳(以下の事例も同じ)を反時計方向に周回した場合の地図である。
青旗はウエイポイント(WPと略す。通過点の意。オリエンテーリングのチェックポイントと同じ)を示す。
Fig.2 設定したルート
■ルートの標高図で山行のイメージが把握できる:
登りの最後の高さ100mが可成り急峻であり、下りの三ッ口谷分岐までも急傾斜であるのが分かる。
Fig.3 ルートの標高図
■ルートの推定歩行距離の算出・・・Fig.3の右側の表に含まれている(4.3 km)。
登山道はストレートでなくジグザクであるので仮に15%増し(経験値)とすると、推定距離は約5 kmとなる。
■ルート推定歩行所要時間の算出・・・Fig.3の右側の表に含まれている(2:50)。
距離の伸び率(今の場合15%)に比例して、所要時間を伸ばすと3:20 となる。
■標高差:標高図を見れば最大標高差は約500m であるのが一目瞭然である。
■任意の地点に於ける3D展望(カシバードと呼ぶ)ができる:
登山に先立って、或いは、帰宅後に、山頂からの風景が楽しめ、山名の同定も出来る。
Fig.4 鎌ガ岳山頂から南方を展望した風景
2.2. GPS機能:
カシミール3DによりWP或いは計画ルートを前以て作成し、GPSにアップロードしておくと、山行時の現在位置確認、山行時のナビゲーションと山行後のデータ分析などができる。
2.2.1 現在位置の確認:
■GPSでの現在位置確認:
GPSの地図画面(縮小したカーナビ画面と類似した表示)上に現時点までの軌跡、現在位置と次に向かうWPが表示されている。この画面だけで、所定のルートを歩いてきたこと、これから向かうWPの方向と凡その距離が分かるので山行を継続するのに不安はない。
(注1)ポピュラーな山では登山道と標識があり、地図とコンパスがあればGPSは無くても問題ないが、マニアックな山で登山道や標識の無い場合にはGPSの威力は大きい。
今までの経験では、このような場合でも、地図画面によるナビで十分であった。
(注2)WPは常時表示されるとは限らない。その時は画面のスクロール、ズームアウトで対応できる。
(注3)どのナビゲーション方法でも同じであるが、画面確認頻度が低いとその間に多少コースアウトする恐れがある。然し、軌跡は残っていて、戻るべきルートと地点が分かるので慌てることはない。
■紙の地図上での現在位置確認:
予めカシミール3Dにてプリントした緯度・軽度(10秒間隔)入のルート地図(Fig.2)を携行し、時々、それにGPSが表示する緯度・軽度をプロットする。ルート全体に於ける相対的な位置、全体的な地形などが分かり山行の安心感が増す。
2.2.2 山行時のナビゲーション:
GPSには「WPによるナビ」と「ルートによるナビ」が用意されているが、2.2.1で述べたように通常はナビの必要はない。
■WPによるナビ:
次に向かうWPを選定し、「Go To」をクリックするとコンパス画面上に次のWPまでの距離と方向を示すポインターが表示されたナビゲーション画面になる。ポインターの方向に進めばWPへガイドしてくれる。
昔、鈴鹿の御池岳で道が不明確な10ヶ所の池巡りで当ナビを使用した時は効果的で予定した池を全て探訪できた。
■計画ルートによるナビ:
所定のルートを選択するとルートを構成しているWPの一覧が表示される。WPの名称、順番に間違いが無いことを確認し、「Navigate」をクリックすると、GPSのコンパス画面上に次のWPまでの距離と方向を示すポインターが表示されたナビゲーション画面になる。ポインターの方向に進めばWPへとガイドしてくれる。WPに到達すると自動的に次のWPに向かったナビゲーション画面になり、次々とWPを通過するようナビしてくれる。
但し、登山道はジグザグであり、巻道がありWPの方向とナビゲーション画面のポインターの方向は一致しないことが多く、又、確実にWPを通過しないと次のWPへのナビゲーションが始まらないこと等から、このナビは実用的でなく、筆者は使用したことがない。
2.2.3. 山行後のデータ分析:
山行終了後、カシミール3DによりGPSデータをダウンロードし、以下に示すように各種の山行記録データの分析ができる。
■歩行ルートのトラック(軌跡):
Fig.5はFig.1の 設定したルートと殆ど同じであり、計画したルートを辿ったことが分かる。
但し、山頂近くで直登を避け、巻道を辿った事が読み取れる。又、“道路修理”と記したWPが追加され、ここで登山道の修理がされていた事が分かる。
Fig.5 トラック(軌跡)図
■歩行トラックの標高vs距離:
横軸を距離に設定すると、実際に歩行した時の山容が分かる。
Fig.6がFig.3のルートの標高図と異なるのは登りの最後で巻道を辿ったので斜度が緩やかになったこと、及び頂上がフラットなのは山頂が横長で昼食時に動き回った為であるのが分かる。
Fig.6 トラックの標高図(横軸は距離)
■歩行距離・・・Fig.6の右側の表に含まれている(5.9 km)。
Fig.3 の標高図では推定歩行距離は約5kmであり、実際との差が大きすぎる。原因不明。
■歩行所要時間・・・Fig.6の右側の表に含まれている(5:07)。
Fig.3 の標高図では推定歩行所要時間は3:20で、Fig.7から昼食時間:1:00と休憩時間0:40とを加味すると5:00となり実際の所要時間と合致する。
■歩行トラックの標高vs時間:
横軸を実時間に設定すると、休憩、昼食などの歩行停止時間と場所が分かるので、面倒なコースタイムのメモ書きが不要になる。
Fig.7 トラックの標高図(横軸は実時間)
■デジカメ撮影場所の特定:
カシミール3Dに内蔵されているデジカメプラグイン(ソフト)を使用するとデジカメのExifデータとGPSのトラックデータ(位置と時間)の照合で、撮影場所が特定され、トラック図上にサムネイル(クリックすると拡大)表示されるので写真の整理に便利である。
Fig.8 デジカメ撮影場所の表示
3.GPS使用上の注意事項:
■GPSの信頼性は十分に高い。筆者は2010年9月に購入以来一度も不具合に見舞われたことは無いとは言え、電子機器であり、電池切れ、不時の故障、谷間などでGPS電波の受信障害などによるGPSの誤作動、更には破損なども想定しておく必要がある。
従って、紙の地図、磁気コンパス、予備電池は必携である。
■GPSの画面は小さいので表示される地図範囲は狭く、全体的な地形、登山道、WPなどは分からないので紙の地図(カシミール3Dにて10秒間隔で緯度・軽度と予定ルートを記入)でこの弱点を補う必要がある。この意味でも紙の地図は必携である。
4.最後に:
■GPS機能を使えば、山行時のナビゲーターとして道迷いの防止に有用で、山行後の楽しみも大きくなり、且つ惱の活性化の一助にもなるので、是非とも、カシミールとGPSの愛好者になられることをお勧めします。
■然し、GPS機能をマスターするためのハードル(GPS自体も高価)が高過ぎると思われる方は、せめて、カシミール3Dだけでもマスターして頂きたい。
登山ルートを自ら設定、確認するので、事前にルートを学習することになり、山行計画の精度向上、強いては山行の安全性の向上の一助となります。
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