G.G.の徒然山遊録

岐阜各務原市周辺の低山の山行記録、折々の雑感、書評などの雑文を記し、山に関する情報を提供します。

「伊吹山案內」の紹介

2017-07-07 | 書評

最近、近所の書店の古本コーナーで「伊吹山案內」を見付けて購入し一読し、山好きにとって良書であると思ったので、概要を紹介する。

1.発行年月日:2009.6.17
2.出版社:ナカニシ出版
3.著者:草川啓三
  「鈴鹿の山を歩く」「琵琶湖の北に連なる山」など著書多数
4.内容:
 伊吹山に関わる、花々、登山コース(バリエーションコースも含む)、周辺の山々、周辺の峠道と散歩道、円空上人(伊吹山太平寺で修行、各地に6000余体の円空仏を残す)や播隆上人(伊吹禅定、笠ヶ岳再興、槍ヶ岳開山)とのかかわり等がエッセイ調の文章で紹介されている。
5.読後感:
 発行は8年前と古く、従って記述内容も古い所もあるが、本書は通常のガイドブックとは異なり 半ばエッセイ的であるのを承知して読めば、内容的には左程、古さを感じない。
 伊吹山と言えば、今までは正面登山道(スキー場を経由)を登り、山頂のお花畑を眺めて降りてくるだけの山と認識していたが、本書を一読すると、その認識を改めなければならないのが分かる。
 種々の登山コースの存在、伊吹山好展望の山々、山麓の村々の歴史と峠道、山岳仏教とのかかわり等今まで知らなかった 種々の側面を知ることで伊吹山をより一層、身近で、興味深い、愛着の持てる山として見直す契機になった。山好きの人に一読を強くお勧めする良書である。


「年を取るのが楽しくなる教養力」(斎藤 孝著)の読後感

2017-01-24 | 書評

「年を取るのが楽しくなる教養力」を読んで、多いに参考になったので読後感を述べる。

■タイトルは「年をとるのが楽しくなる教養力」とあるが「教養力」という語に多くの方が違和感を持つと思うので、これを「知的生活」と置き換えるとしっくりしよう。
■2017.1.5に日本老年学会・日本老年医学会から64歳以上を凖高齢者、75歳以上を高齢者、90歳以上を超高齢者とする提言があったのはご承知の通りである。
 このニュースが示唆しているのは、人生は90年時代になろうとしている事であろう。そこでは、社会の第一線を退いた後を如何に充実した人生を生きるかが大きな問題になるが、本書はそれに答える多くの事例、ヒントを提供し、時宜を得ている。
■事例・ヒントは古今東西の優れた先人の文学、芸術などに裏打ちされているので説得力がある。
■主として、これから停年を迎える年代の人を対象にしているようであるが、70代、80代の高齢者が読んでも十分に納得できる手引書である。
■副次的には、読書案内にもなっているのも親切である。
■因みに言及されている分野・領域と筆者のコメントは次の通りであるが、内容は多くの読者が共感できよう。

・趣味:人生の大きな支えになり得る
・習い事:学びの真髄に触れられるチャンスである
・社会貢献:社会貢献は充実度が大きい/但し、ハードルが高いと思う
・社交:社交は人生をより豊かにする/特に男性諸氏に有益な提言であると思う
・孤独:孤独との付き合い方の提示
・老いと死:避けないで向き合う方法の提示

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「中東複合危機から第三次世界大戦へ」(山内昌之 著)を読んで

2016-03-20 | 書評

1.はじめに:
「第二次冷戦」、「ISによる世界的なテロ」、「第三次世界大戦勃発の危機」の視点から現状分析をしている。その理解を助けるため、危機の背景となる中東の地政学的な重要性、覇権を競う大国の政治情勢、イスラーム思想の概要、諸イスラーム帝国・王朝の歴史などにも触れていて、現在のシリアを中心に繰り広げられているカオスの実態が深く理解できるようになる。以下に主なる項目の概要を示す。

2.第二次冷戦:
シリアを舞台に各国の利権を巡り、ロシア、イラン(全体主義、権威主義的国家)vs欧米(民主主義国家)の冷戦の構図が発生している。
アメリカ弱体化の間隙をぬって3大大国(ロシア、イラン、トルコ)が覇権を争い権謀術数を尽くしている。
特にロシアとイランの動向に注意。
(1)  ロシア:ソ連邦時の領土回復を狙う/既にシリア内に2ヶ所の海軍基地(タルトゥス、ラタキア)を有する。
(2) イラン:シーア派イスラーム世界の拡大を目論む/歴史を誇る大国/石油・ガスの巨大な埋蔵量/国民国家を長年維持してきた団結力/核保有を目指している/キャスティングボートを握る強国

3. ポストモダン戦争:
ISとの戦いは国家間の戦いでなく世界的なテロとの戦いの様相を呈している。
欧米、ロシア、中国などの資本主義的価値観を否定し、過去に例の無い超領域の大量無差別殺人を常套手段にしている超過激なイスラム原理主義者との闘争である。
3.1 ISその他の超過激派の発生土壌:
(1)イスラームの内部分裂:過激派の派生を止める自浄能力が欠如している。
(2)多くの国が弱体化、破綻国家化:過激派発生の温床になっている。
(3)民主化・自由化が不適:「アラブの春」で起きた民主化・自由化の試みが失敗に終わり、多くの国が崩壊した。
3.2 中東の地理的重要性:
以下の重要性のために諸大国の覇権争いの場になり易い。
・中東は地政学的に重要地点であり  ・石油、ガスの埋蔵量が膨大である。
・地政学的にマッキンダー理論でいうハートランド(中核地帯)である。
3.3 イスラームの教え:
(1)「大文字のイスラーム」:狭義のイスラームで、排他的、攻撃的
   「小文字のイスラーム」:内面的な日常の信仰
(2)ムハンマドの教えは神の目の前の平等性、と弱者の救済
(3)小文字のイスラームの「六信五行」を行うのは大変な忍耐と持続性が要求される厳しいものである。
3.4 イスラームの歴史:
(1)  シーア派とスンヌ派の分裂:1300年前の亀裂が今も続き、中東危機の大きな要因のひとつになっていて事例は枚挙に事欠かない。
(2)アラブ帝国:アッバス朝が最盛期の大帝国(1200年に滅亡)だった。
(3)オスマン帝国:イスラーム長老を行政官僚とした。後、第一次大戦後、脱イスラームで政教分離、女性解放などの近代化革命に成功した。
(4)イラン帝国:シーア派を信奉するイラン人による国民国家としてのイスラーム大帝国を設立→パフラヴィー朝の時にイラン革命に成功→イラン・イスラーム共和国を樹立し今日に至る。近未来の核保有を目指している。
3.5 ISはカリフ国家か:
ISは脱領域性、超民族性を過剰に強調し、英米法体系より遥か昔に登場したイスラームの規範を厳格に適用しようとしている。
理念はさておいても、勢力拡大や発展のプロセスでの暴力、無差別テロはムハンマドの教えに反する。

4.  ロシアとトルコ戦争の危機:
(1)ロシアはシリアの権益を守るためアサド政権(シーア派)を支持、トルコ(スンヌ派)は反アサドで、共通の敵はIS(スンヌ派)。
(2)ロシア機撃墜事件(2015.10.31)の背景は・ロシアのプレゼンス脅威への対抗と・同族である反アサドのトルクメン武装組織をロシアが空爆したため。アメリカとNATOもトルコ支持。
冷戦が熱戦化すれば第三次世界大戦の導火線になる可能性ある。

総括:
(1)良書である
現在の中東、特に、シリア於けるカオスの過去、現在、将来展望などが豊富なデータに基づき良く分析・考察され説得力のある労作である。
昨今の複雑な危機的状況の本質及び背景がこの一冊で理解できるようになる点では可成りの良書と言えよう。
(2)読み難い:
以下、列挙するように読み難く、理解するのに相当のエネルギーを要するが、我慢して一読するに値する。
(1)まえがき、序章とあるが本書で何を言わんとしているのか明確になっていない。
(2)章・節のタイトルと中身が不整合:タイトルを見ただけでは何を述べようとしているのか分からない。
(3)一つの章の中で、複数のテーマを取り上げていて、焦点が分かりにくい。
(4)文章がこなれていない。全体的に推敲が不十分に思える。
(5)カタカナ語の頻出。
 


「大世界史」を読んで

2015-11-25 | 書評

 中東では有志連合がシリアの「イスラム国」を必死に空爆中であり、ヨーロッパでは、ギリシャの財政危機、多数のテロと大量の難民流入等で混乱の極みである。11月13日には、パリで「イスラム国」によるテロで130人もの市民が犠牲になったばかりである。
  中東とは何処を指すのかも知らなかった私には、此のような混乱の真因はとても理解できなかった。
たまたま、書店で、タイトルと著者に惹かれて、本書の中身を見て、これは今の混乱を理解するのは大いに役立ちそうだと判断し、購入し、世界地図を傍らにして、読み始めた所、内容は斬新で、衝撃的、刺激的で目からうろこの記述が多々有り、中東とヨーロッパの混乱理解に大いに役立ったと思う。テーマが時宜を得、多岐に渡り、内容が重く、濃密であるので、再読、再々読の価値があると思う。
   「イスラム国」に代表される中東を中心に発生している混迷とその不可解さは将に「事実は小説よりも奇なり」の権謀術策の世界であり、その理解は本書に出会うまでは初めからギブアップであった。
   著者は現在起きている事件、騒乱などは何らかの形で過去-歴史と繫がりがあるので、歴史を学ぶことが現実の人間、社会を理解するための重要な手がかりとなると言っている。
  こうした歴史に軸足を置いたスタンスで、今起きているシリアの政情不安イスラム国によるテロ中国の南沙諸島進出ドイツの突出とEU崩壊の危機、トルコのイスラ回帰の動き等々が鋭い視点で分析され、説得力があり、「目からうろこ」の解説が提示されている。
 全く初耳で、衝撃的な話題もある。即ち、EUが崩壊してヨーロッパに再び戦火が広がる可能性、「第二イスラム国」の誕生の可能性、スンニ派とシーア派の対立から中東諸国に核拡散する可能性、最も恐ろしいのは超過激的な「イスラム国」が核武装する可能性等があることである。
  本書の第一章で言っている。“おそらく我々は、今、そうとも知らずに、「新しい時代を」を生きている。20年、30年後に振り返った時、「あの時が歴史の転換点だった。」と思うだろう。”と。だとすれば、私達は、世界各地、特に中東の動向から目を離さず、注視し続ける必要があろうと痛感した次第である。

 


「おとなの教養」を読んで

2014-12-29 | 書評

最近、池上 彰氏著の「おとなの教養」を大変、興味深く読んだので、読後感と内容の要約を紹介します。

読後感:

  新書版のベストセラーのコーナーに「おとなの教養」が並んでいたが、タイトルからして、“今更、教養なんて”と余り興味を惹かなかったが、著者が説明上手の池上 彰さんであるので思わず手に取ってみた。内容は予想に反して、「目から鱗」の記述が各所に散りばめられており、視野を広げるのに頗る有益であった。話題が広範囲に渡っているので、教養に自信のない方は勿論、あると自負している方にも一読を勧めたい一冊と思う。
  なお、著者は『「自分自身を知る」ことこそが現代の教養だろうと私は思います。』と言っています。でも「自分自身を知る」と言うとなんだか哲学的で分かり難いので、私なりに翻訳し、現在の「自分の立ち位置を知る」と言い換えて読んで見ると文脈に合うような気がした。
  以下に、各章の「目から鱗」の箇所を幾つか紹介します。
このうち、序章の内容が特に、「目から鱗」でした。欧米では、ギリシャ・ローマ時代から、その時々の「現代の教養」がリベラルアーツとして発展して来た歴史と、最近の日本の大学でのリベラルアーツの取り組みが詳細に語られていて興味深い。 

内容の要約:

序 章:
教養の起源はギリシャ・ローマ時代に遡り、現代でも、「リベラルアーツ」として、その基本理念を欧米の
名門大学は引き継いでいるそうである。遅ればせながら日本の大学でもリベラルアーツの考え方の
導入を行いつつある。
■リベラルアーツの起源は「文法」「修辞学」「論理学」「算術」「幾何学」「天文学」「音楽」の7科で、ヨーロッパの大学では20世紀まで教えらていたそうである。
■工科大学で有名なアメリカのMIITに音楽科があるのは大変に興味深い。
■欧米で発展してきたリベラルアーツの7科に因んで著者は、現代のリベラルアーツとして以下に述べる「宗教」「宇宙」「人類の旅路」「人間と病気」「経済学」「歴史」「日本と日本人」の7項目を選定し、解説している。

第一章 宗教:
■神(ゴッド):ユダヤ教、キリスト教(ゴッド)、イスラム教(アッラー)は同一の神を戴いている。
各宗教の信者数(比率)
キリスト教徒(33%)、イスラム教徒(23%)、ヒンズー教徒((14%)、仏教徒(7%)であるが、一番遅く生まれた(7世紀)イスラム教徒が一番多くなるかもしれない。
宗教紛争の本質:教義などの違いによる争いでなく、土地や資源を巡る争いである。

第二章 宇宙の誕生:
何とも壮大で、神秘的で、私如き凡人には不可解な宇宙科学へ案内してくれる。
ハッブルの大発見:1929年にハッブル(米)は巨大な望遠鏡で銀河を観測し、宇宙は膨張し続けていて、その
膨張速度は距離に比例している事を発見し、「宇宙膨張説」を提唱した。
■インフレーション138億年前にビッグバンに先立ち“無”から超高温・超高密度の火の玉ができた。
 これが宇宙の始まりと言われる。
■ビッグ バン:インフレーション直後に超高温・超高密度の火の玉が大爆発(ビック・バン)により粒子が撒き散らされた。
■ヒッグス粒子:ビッグバンで飛び散った粒子がヒッグス粒子により減速されて質量を持つようになり引力で
 集まって大きくなり、やがて星が生まれた。
 因みに、この粒子の存在を予言したヒッグス(米)とアングレール(仏)の両氏は2013年にノーベル物理学賞を受賞している。

第三章 人類の旅路:
 ■生命の誕生:43億年前に海中で誕生
 ■人類の誕生:ミトコンドリアのDNA調査で、アフリカ大陸で誕生し世界に分散して行ったことが分かった。
 ■白人の誕生:アフリカ生まれの人類は強い紫外線から身を守るために肌が黒い(黒人)が、突然変異で
  肌が白い人(白人)が誕生し、彼らは紫外線の弱い北方へ移動して行った。
 ■ネアンデルタール人とホモ・サピエンスとの違い:ネアンデタール人とホモ・サピエンスとは
  別人種であるが、両者が数十万年前の同時期に生存したことがある。その後、ネアンデタール人が
  絶滅したのは、彼らの文化程度が我々ホモ・サピエンスのそれよりも低く、旨く環境に適用できなかった
  ためらしい。

第四章 人間と病気:
■環境と病気:花粉症は吸血ダニが環境の清潔化に伴い減少したが、ダニに対する免疫システムは
人間の体内に残っていて、スギ花粉が入ってくるとダニと間違え活性化し、その結果、発症すると言われている。
■病気と共に進化してきた:突然変異で猛威を振るうようになったウィルスに耐えた者のみが生き残ってきた。
■病気は歴史を変える
・スペイン風邪が第一次大戦で両軍の兵士にスペイン風邪(発生はスペインでなくアメリカと言われる)が
 蔓延し、戦争継続が出来なくなった。
・アメリカインディアンの激減はヨーロッパ移民が持ち込んだウィルスによると病死が原因と言われる。
中世に流行ったペストで多くの農民が死に、その結果、農民の地位が向上し、農奴解放へと
 つながっていった

第五章 経済学:
■経済理論が世の中を動かしている
 ある経済理論も一時的には旨く機能するが、やがて行き詰まり、それを補填した新たな学説が誕生してゆく。
 即ち、アダムスミスの「自由放任主義経済」から始まって→マルクスの「社会主義経済」(失敗)→
 「ケインズ経済学」(莫大な赤字財政)→フリードマンの「新自由主義経済」(格差拡大)→最近では
 「行動経済学」が注目を集めている。


第六章 歴史:
 ■歴史は権力者により書き換えられる:事例として、北朝鮮、韓国、中国の歴史は為政者の都合の
  良いように脚色されているようである。
 ■歴史との付き合い方:歴史とは勝者、権力者などの記録であり、言わば「氷山の一角」であり、知られざる
  歴史も沢山あるのを知るべきである。
 ■愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」:初代ドイツ帝国宰相のビスマルクの言葉とされているが、
  言わんとするところは、「自分の狭い経験だけで物事を判断しないで、広く他人の例に学ぶのが良い。」と
  言うことである。

第七章 日本と日本人:
■日本人の定義:明治に戸籍法が制定されるまで法的には決まっていなかった。
 標準語などの普及により日本人として共通意識が育まれた。
日本、日本人の認識:国家からの押しつけ、教育、或いは外国との接触などによる相違の自覚などより
 認識するようになる。