有機化学にっき

気になった有機化学の論文や記事を紹介。

JACS ASAP

2006-12-18 19:16:15 | 新着論文
Palladium-Catalyzed Benzene Arylation: Incorporation of Catalytic Pivalic
Acid as a Proton Shuttle and a Key Element in Catalyst Design

芳香環C-Hの直接アリール化。bulky and electron richなPd触媒とピバル酸の組み合わせで活性な系を見出した。

以前の報告で見出したカーボネート架橋中間体に着目して、フッ素置換のないベンゼン環でも進行することを見出しています。
検討の途中で見出したのかもしれませんが、リガンドの選定や収率の向上にはかなり苦労したと思います。方向環sp2C-Hから脱プロトンを経由している機構は、かなり面白いし、酸性度の低いものでもリガンドと塩基の組み合わせで反応が進行するというのは展開性としても非常に面白いです。

中間体を見る限り、酢パラとbulky&electron rich phosphineで見出されていてもおかしくなかった気がしますが、フッ素置換の系から検討を丁寧にしていたから見出せたのでしょう。実用には難しいところがありそうですが、展開が非常に楽しみです。


JACS ASAP

2006-12-15 07:47:19 | 新着論文
Using Triethynylphosphine Ligands Bearing Bulky End Caps To Create a
Holey Catalytic Environment: Application to Gold(I)-Catalyzed Alkyne
Cyclizations

トリアルキニルホスフィンのカチオン性金錯体を用いた、acetylenic keto esterの分子内環化反応。高効率に加え、金触媒による1,7-enyneの 6-exo-dig環化は初めてと独特の反応性とのこと。

北大澤村先生のグループ。
トリアルキニルホスフィンは、その構造からリン原始周りの立体に影響を与えずに電子的に影響を制御できるメリットがあるそうです。しかし、配位モードがホスフィンからのη1のみでなくなったりすることから、触媒反応への応用は報告がなかったそうです。末端の立体障害を大きくすることで(トリアリールシリル基)制御しつつ、かつリン周りのキャビティーの大きな配位子を開発というコンセプト。
非常に速やかに環化が進み、また、ホスフィンを各種検討して電子的、立体的な影響を検討しています。現状では断定はできないようですが、コンセプト通りのキャビティーが重要な役割を担っているとのこと。

銅触媒でのホスフィンへのアルキン付加、リン配位子なのに酸化されにくいなど勉強になりました。キャビティーの考え方が立体的なものなのか、活性部位が安定化されているのか、いまいちわかりかねます。デンドリマー触媒のことを思い出しました。構造やこのタイプの配位子が使われると面白そうです。



JACS ASAP

2006-12-12 23:31:53 | 新着論文
Chiral Photocages Based on Phthalimide Photochemistry

新規光反応性保護基の開発。 2-phthalimido-3-hydroxy-propionate 誘導体。
光照射により脱炭酸しつつ、カーボキシレート誘導体を放出。不斉点があり、立体により効率に影響。

光により除去できる保護基は、生体内での濃度や量の制御が可能になるため生化学的な研究に重要とのこと。生化学の方はわかりませんが、固層合成や切り出しに光照射で除去できるortho-ニトロベンジル基などが例。
この場合だと生じるニトロソが反応性が高いため悪さをする場合もあるらしいとのこと。

今回筆者らの開発した新規保護基は、水溶性、副生成物の低毒性、高い量子収率に加え、不斉点があるため、立体によっての違いを検討できるとのこと。いまいち最後の例はピンときません。

放出するものとしてアセテートを例にしていますが、分子が大きくなるとホントに上手くいくのか?が気になります。
原料調整は容易そうなので、実際に不斉点の利用のメリットと、どれだけ広く使われていくかだと思います。広く使われていく保護基になるのではないかと思います。

これを使うだけの固層合成がたくさん報告される気がします。

いいか!? サンタの心を受け継いで、これからは、キミたちが、サンタになるんだよ!!

2006-12-07 19:01:19 | 日々の研究
サンタになれ!

音量を最大にして聞くことをお勧めしますw


島本和彦さんの漫画は「炎の転校生」「逆境ナイン」以来読んでませんね
どこでみたのか忘れたのですが、
あの石森章太郎先生と会った島本先生「同じ人間だ!!俺にもできる!!」

才能がどうだ、育った環境がどうだ、でもなく同類項のかっこが(人間)という分類をしたというエピソードを聞いたことがあります。

有機化学を研究されている皆様、ぜひとも自分の恩師なり世界の有名教授を
「たかが数百報しか論文出してねーじゃん」
「同じことくりかえしてるだけじゃねーか」
と(口に出してはいけませんが)、師匠を乗り越えるつもりで仕事にいそしんでください。

****************

それはともかく、夢をかなえさせてあげる立場にドンと座ってみたい!!
というわけで
ワールドビジョンジャパンもしくはフォスタープラン
への寄付を考えています。
決めた理由として
・¥出して終わりでなく継続性や自立支援という点
・税金控除と活動が国から認められている点
・後者は財団法人と立場はしっかりしている点

でしょうか。

どちらか一つなどと気にせずどかんと寄付できる甲斐性になれるよう頑張ります。

JACS ASAP

2006-12-04 21:04:47 | 新着論文
A Stable Schrock-Type Hafnium-Silylene Complex
Schrock型シリレン錯体、Hf=Siのシリレン遷移金属錯体の合成。


筑波大関口先生。
ジリチオシラン (Li)2Si(SiMetBu2)2を用いて、ハフノセンジクロライドと反応。残念ながら生じた錯体は熱的に非常に不安定。
PMe3錯体 (C5H4Et)2(PMe3)Hf=Si(SiMetBu2)2 としてX線結晶構造解析に成功。

メタロセン上の置換基Etはどのくらい必須なのでしょうか?
相当置換基検討していると思うんですよね
Cp*, tBu置換など比較のテーブルがあってもよかったかなと思いました。

かわい様へ

2006-12-02 18:32:04 | 新着論文
本日、クロネコヤマトで分子模型を送付いたしました。

申し訳ありませんが、包装は手元にあったビニール袋で
送付いたしました。
教育関係の方に使っていただけることを喜んでおります。
是非有効に活用頂き
多くの方に原子、分子からなりたっていることの面白さを
お伝えください ^o^

ダマスカス鋼とカーボンナノチューブ

2006-11-30 22:28:06 | 記事
Ancient Steel's Surprise Ingredient
Damascus saber is found to contain carbon nanotubes


「平原にのぼる太陽のごとく輝くまで熱し、次に皇帝の服の紫紅色となるまで筋骨逞しい奴隷の肉体に突き刺して冷やす、・・・奴隷の力が剣に乗り移って金属を硬くする」
という製法が伝えられているダマスカス鋼で作られた刀剣は
“もし絹のネッカチーフが刃の上に落ちると自分の重みで真っ二つになり、鉄の鎧を切っても刃こぼれせす、柳の枝のようにしなやかで曲げても折れず、手を放せば軽い音とともに真っ直ぐになる”

そんなダマスカス鋼の刀剣から多層カーボンナノチューブ(MWNT)が発見されたそうです。Nature 2006, 444, 286.
記録として人類最古のナのチューブだとか


レシピの再現できるようになるといいですね

追記

製造技術が失われていることを書くのを失念していました(^^;
こちらにダマスカス鋼を作ろうとした研究の歴史と発展が詳細に述べられています。
ダマスカス鋼の研究

Wikipedia
MWNTの話題がこちらにも載っていました。

Science, 2006, 314, 1124.

2006-11-30 19:35:15 | 新着論文
Reversible, Metal-Free Hydrogen Activation

phosphonium borateが可逆に水素を貯蔵、放出できることを発見


トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランへbulkyな二級ホスフィンを作用させると、ホウ素上でなく、芳香環のパラ位へ付加すること見出した。
さらにこのphosphonium borateをMe2SiHClで処理することで、過熱によりH2を放出し、H2を吸収するphosphine boraneと可逆反応を起こすことを報告。

時間がなくて読み込めませんでしたが、D2と反応させたり、H2をプロトン、ヒドリドとイオニックに開裂させる機構を検討しているようでした

H-Hがイオニックに切断というのが面白かったです。H-Hだけでなく、C-HやN-Hなども活性化したり、有機合成への応用としても期待できそうです。

JACS 2006, 128, 8754 & Org Lett. 2006, 5097

2006-11-29 20:26:37 | 新着論文
Catalytic Intermolecular Direct Arylation of Perfluorobenzenes


Mild and General Conditions for the Cross-Coupling of Aryl Halides with Pentafluorobenzene and Other Perfluoroaromatics

Pd触媒によるパーフルオロベンゼン(aromatic)のC-H活性化によるaryl化。
反応機構でcarbonateの橋かけ構造を提案。
さらにBuchwaldの配位子を用いることで、立体障害のある系、ArClでも進行することを報告。

Pdの触媒反応で、ArXとNuHという一般式で書き出せば、電子不足の芳香環もNu-Hとして反応できるのではというところが出発点のようです。
驚いたのが、C6F5Hだけでなく、F4, F3でも(収率や位置選択性に問題が多少ありますが)反応が進むということ。
反応機構も検討していて、カーボネートが架橋したC-H活性化を経ているのではとのこと。反応機構を説明するのに、基質のFの数と位置で競争実験を行い、生成物の分布から考察を行っています。機構の検証に使えるんだとちょっと感動。

Org Lettではオルト位の立体障害やClでも進行し、反応条件は温和・・・とbulky&electron rich phosphineのメリットがそのまま適用でした。

適用範囲が微妙ですが、面白い反応だと思います。
触媒毒になる可能性が高いですが、電子不足のヘテロ芳香環で同じような反応ができないでしょうか

Driving a Spike into Viruses

2006-11-24 21:58:53 | 記事
C&EN Nov. 20, 2006, p17.


<記事抄録>
脂質二重層にポリマーを突き刺してウィルスや病原菌を殺す

MITのAlexander M. Klibanov教授のグループが  Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2006,103, 17667. にてpolyethylenimine ポリマーでコーティングしたスライドガラスが、インフルエンザウィルスを不活性化することを報告した。ポリマーはスパイクのようにガラス表面から立って配置しており、ウィルスのlipid envelopeに突き刺さると考えている。

Klibanovのグループは以前、このアイデアがバクテリアに有効であることを報告しており、同様にウィルスの脂質膜にも作用すると考えていた。

疎水性ポリマーのlipophilicな性質により、細胞の脂質膜とインタラクションするのだが、そこでカチオン性=アンモニウム構造が鍵となる。ポリマー内の分子鎖が分子間力で丸まってしまうのを、電荷を持たせることで反発させ表面にスパイク構造を構築。

ポリマー薄膜はウィルスやバクテリアがくっつくことで不活性化しても、石鹸水で洗うことで再生可能だという。

記者は、将来ドアのコーティングなどの抗菌剤として使われるかもしれないと述べている。


単純な構造ながら、ポリマーの構造と性質を利用してこんなことができるとは面白い。
ある程度の規則性に気がついたのだが・・・配向膜とかフィルムとかのノウハウ使えねーかな?
日産化学さん、バイオに参入どーですかね? フィルム作ってる会社さんどーですかね?