岸田首相は来週13日にも行う自民党の役員人事で、政権の骨格である麻生氏と茂木氏の2人を留任させる意向を固めたものの、本人たちには伝えずに人事構想を練っていた。「三頭政治」を掲げて陰に陽に情報を共有してきたこれまでとは、対照的な光景だった。
人事の最大の焦点だったのは茂木氏の処遇だ。当初、首相は茂木氏の「交代」を視野に検討していた。
理由は、茂木氏が首相を支える幹事長の立場にありながら、来年の自民党総裁選を見据えて「ポスト岸田」を狙い、官邸との事前調整なく発信を繰り返したことで、首相の怒りを買ったためだ。
高騰するガソリン代をはじめ、電気・ガス料金に対する政府の物価高対策の行方に注目が集まっていた8月末。茂木氏は講演で「経済対策を秋にまとめて補正予算を実行していきたい」とアピールした。首相はこの時点で補正予算についての指示は出しておらず、人事を終えてから自ら経済対策を打ち出し、政権浮揚につなげたい考えだった。年内の解散を模索する首相にとっては、「見せ場」の一つを奪われた形で、周囲に対し露骨に不満を伝えた。首相周辺も茂木氏の発言を「迷惑だ」と吐き捨てた。
人事を目前に、「総理と茂木さんの間には大きな溝ができている」(党幹部)状況となっていた。
茂木氏の交代に向けて頭を巡らす岸田首相に対し、「残すべき」と直接進言したのが麻生氏だった。これまで岸田首相を自民党内で支えてきたのは、第2派閥の麻生派(55人)のトップ・麻生氏と、第3派閥の茂木派(54人)を率いる茂木氏だ。茂木氏の幹事長としての働きぶりを「評価してよい」と語り、「安定した今の状況をわざわざ崩すべきではない」というのが麻生氏の考えだった。
複数の関係者によると、岸田首相は、茂木氏の交代にあわせて、同じ茂木派に所属する小渕優子元経産相の起用を検討した。小渕恵三元首相を父に持ち、「初の女性首相候補」との期待もあり、起用すれば目玉人事になりうる。小渕氏は最近、週刊誌に「初めて明かした首相の座」といったタイトルでインタビューに応じ、「人事で表舞台に出てくるということだろう」(自民党関係者)と永田町をザワつかせた。小渕氏は麻生氏との関係も良好なため、仮に麻生氏の意に反して茂木氏を交代させた場合でも、連携を維持できるとの算段もあったとみられる。さらに森喜朗元首相が地方紙のインタビューの中で、小渕氏の幹事長起用に言及したことも、抜擢の憶測を広げた。
しかし、幹事長交代を念頭に相談した首相に対し、麻生氏は続投を進言した。結果、首相は茂木氏の続投を決めた。ある自民党関係者は「麻生さんの言うことを聞かないといけないと思ったのだろう。押しきられた上での決断だ」と嘆息した。
茂木氏の続投は、「刷新感よりも政権の安定を優先した」(自民党中堅議員)と受け止められている一方、挙党態勢の構築を期待していた一部の議員からは「これまでと何も変わらない」とため息も漏れる。「小渕幹事長が消えた今、党役員をいじれないなら閣僚人事だ」(自民党関係者)といった意見も挙がる。
そこで焦点となるのが、内閣の大幅改造だ。首相は、女性閣僚の大幅増員や、官房長官など重要ポストへの女性起用で刷新感を打ち出すことを検討している模様だ。
ただ、女性閣僚の大量登用にはリスクも伴う。そもそも自民党の女性国会議員は、全体の1割しかおらず、閣僚を務められるだけの経験値や当選回数などを考慮すると、候補自体がかなり絞られるためだ。能力不足の議員を無理矢理起用すれば、不祥事や失言のリスクが高まる。