米国軍と韓国軍の挑発に乗った朝鮮が拡声器を攻撃、韓国軍は撃ち返したが、
安倍政権には救い
2015.08.20 櫻井ジャーナル
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201508200000/
5月20日、朝鮮半島の軍事境界線付近で砲撃戦があったようだ。現地時間で午後3
時52分に朝鮮軍が韓国軍が設置しているプロパガンダ用のラウド スピー カーを
砲撃、韓国軍が報復として155ミリ砲を撃ち返したとされている。砲撃戦の前、
韓国側は11年ぶりにラウドスピーカーを使ったプロパガ ンダを再開す ると表
明、それに朝鮮側は反発し、ラウドスピーカーを撤去するように要求していた。
また、17日からアメリカ軍と韓国軍の合同軍事演習が始 まっているが、 その中
止も求めていた。
アメリカの世界戦略を作成する際に中心的な役割を果たしてきたのはネオコン/
シオニスト。ソ連が消滅した1991年当時、アメリカの大統領 はジョージ・ H・
W・ブッシュ、国防長官はリチャード・チェイニー、次官はポール・ウォルフォ
ウィッツで、国防総省はネオコンが支配していた。
そのネオコンが1992 年に作成したDPG(国防計画指針)の草案、 いわゆるウォ
ルフォウィッツ・ドクトリンはアメリカが「唯一の超大国」なったという前提
で、ソ連のようなライバルが出現することを防ぐため、 潜在的なライ バルを潰
していく意思を示している。ソ連の消滅、冷戦の終結で世界が平和になると思っ
た人がいるとするならば、それはアメリカ支配層の本質を 知らず、歴史 を学ん
でいなかったということだ。世界支配を妨害していたソ連が消えたことでアメリ
カの支配層は世界制覇に向かって暴走をはじめた。今回の砲 撃もベースに はこ
の指針がある。
この指針は国防総省のシンクタンクONA(ネット評価室)で室長を務めてきたア
ンドリュー・マーシャルの戦略をベースにして、ポール・ウォ ルフォウィッ ツ
国防次官、I・ルイス・リビー、ザルメイ・ハリルザドといったネオコンが書き
上げたもの。マーシャルはONAが創設された1973年から今 年1月まで室 長を務め
た親イスラエル派で、冷戦時代はソ連の脅威を誇張して発信、ソ連消滅後は中国
脅威論を叫んでいた。
マーシャルが退任した後、後任は彼の弟子ではなく空軍のジェームズ・ベーカー
退役大佐が選ばれている。つまりONAのプロパガンダ色は薄く なったのだ が、
その一方で国防長官は戦争に消極的なチャック・ヘーゲルから好戦的なアシュト
ン・カーターへ交代、5月には次の統合参謀本部議長としてバ ラク・オバマ 大
統領は、ロシアをアメリカにとって最大の脅威だと主張しているジョセフ・ダン
フォード海兵隊大将を指名した。カー ターは2006年にハーバード大学で朝鮮空
爆を主張した人物だ。
ウォルフォウィッツ・ドクトリンが作成された後、アメリカは日本もアメリカの
戦争マシーンへ組み込もうとする。その始まりが1995年に発 表された「東アジ
ア戦略報告(ナイ・レポート)」。その後の展開は何度も書いてきたので、今回
は割愛する。
そして1998年、アメリカでは金正日体制を倒し、朝鮮を消滅させて韓国が主導す
る新たな国を建設することを目的とした作戦、OPLAN 5027-98が作られた。この
年の8月、朝鮮は太平洋に向かって「ロケット」を発射、翌年の3月には海上自衛
隊が能登半島の沖で「不審船」 に対し、規定 に違反して「海上警備行動」を実
行している。
日本で「周辺事態法」が成立した1999年になると、金体制が崩壊、あるいは第2
次朝鮮戦争が勃発した場合に備える目的でCONPLAN 5029が検討され始めた。日本
は朝鮮戦争に備えるためにアメリカ軍が日本や太平洋地域に駐留することを認め
たという。なお、この5029は 2005年に OPLAN(作戦計画)へ格上げされた。こ
のほか、朝鮮への核攻撃を想定したCONPLAN 8022も存在している。朝鮮占領の準
備が着々と整えられ、あわよくば中国を支配しようとしているようにも見える。
2003年3月、アメリカ軍がイギリス軍などを引き連れてイラクを先制攻撃した頃
に空母カール・ビンソンを含む艦隊が朝鮮半島の近くに派遣 され、また6機の
F117が韓国に移動し、グアムには24機のB1爆撃機とB52爆撃機が待機するという
緊迫した状況になった。
こうした動きを韓国の盧武鉉やアメリカ支配層の一部がブレーキをかけるのだ
が、その盧大統領は2004年3月から5月にかけて盧大統領の権 限が停止になり、
08年2月には収賄容疑で辞任に追い込まれた。次の大統領は軍需産業と結びつい
ている李明博だ。
李政権時代の2009年10月に朝鮮は韓国に対し、韓国軍の艦艇が1日に10回も領海
を侵犯していると抗議、11月には韓国海軍の艦艇と朝 鮮の警備艇が交戦し、10
年3月には、韓国と朝鮮で境界線の確定していない海域で韓国の哨戒艦「天安」
が爆発して沈没する。
2010年5月頃から韓国政府は朝鮮軍の攻撃で沈没したと主張し始め、11月に韓国
軍は領海問題で揉めている地域において軍事演習を実施、 朝鮮軍の大延坪島を
砲撃につながった。そして12月にKORUS FTA(自由貿易協定)の締結が合意された。
2010年11月にWikiLeaks が公表した2009年7月付けの文書によると、韓国の玄仁
沢統一相はカート・キャンベル米国務次官(当時)と会談、朝鮮の金正日 総書
記の健康状態や後継者問題などについて説明している。
金総書記の健康は徐々に悪化、余命はあと3年から5年だと低いとしたうえで、息
子の金正恩への継承が急ピッチで進んでいると分析していた。 確かに金総書記
の健康状態は悪かったようで、2011年8月に死亡している。
この会談で玄統一相は朝鮮が11月に話し合いへ復帰すると見通していたのだが、
実際は10月に韓国の艦艇が1日に10回も領海を侵犯、11 月に両国は交 戦、話し
合いどころではなくなった。玄統一相の分析が正しいなら朝鮮が自ら軍事的な行
動に出る可能性は小さく、同相もそうした流れを望んでい るように読め るのだ
が、そうした流れを止めるようなことを韓国軍はしている。
以前にも書いたことだが、現在の朝鮮政府は軍事的な緊張を高めたくはない環境
の中にある。天然ガスを韓国へ送るパイプライン、資源の開発、 あるいは鉄道
の建設を考えているロシアは2年ほど前から朝鮮に接近し、朝鮮がロシアに負っ
ている債務の90%(約100億ドル)を帳消しにし、10億ドル の投資をする とロ
シア政府は提案しているのだ。朝鮮がこの提案に合意すれば、韓国にとっても利
益になる。つまり、アメリカの好戦派にとっては許しがたい事 態だ。
その好戦派は安倍晋三政権に対し、「安全保障関連法案」を成立させ、集団的自
衛権を行使できるようにしろと命令しているはずだが、日程通り には進んでい
ない。沖縄の問題も迷走し始めている。「今、日本には危機が迫っている」とい
うイメージはアメリカの好戦やは安倍政権にとってはありがたいは ず。
アメリカと中国との経済的な関係から、アメリカが中国と軍事衝突するはずはな
いと高をくくっている人もいるようだが、マーシャルと同じよう にアメリカの
戦略に大きな影響力を持っていたフリッツ・クレーマーは内政より外交を優先、
外交の本質は政治的な強さと軍事力だとし、経済面は軽視してい た。これはネ
オ コンのメンタリティーだ。相手を屈服させれば問題ないということなのだろう。