ダスト・トレイル理論で一躍有名になったアッシャー博士は、1999年の暮れに某出版社が
行なったインタビューの中で、2001年にアジアで見えると予報した流星雨について、次の
ように言い放ったそうです。
「私が計算で重大なミスをしていない限り、アジアで2001年に流星雨が見られる
確率は100%です。私自身、日本で流星雨を観測するので、楽しみにしています。」
自信の漲ったコメントで、天文ファンにとっては新興宗教の教祖様といった感じでした。
その頃、博士らは出現数予想を15000個/時としていました。しかし、2001年の後半になって
から8000個/時と下方修正されます。少し自信喪失したのか、再計算で精度を上げた結果
なのか、よくわかりませんが、話半分としても4000個/時ですから1秒に1個以上の割合で
流れるレベルに相当します。それでも現存する日本人が国内では誰一人として見たことの
ない流星雨になるとも言えるのです。2001年も夏を過ぎると天文関係の雑誌はその話題に
多くの紙面を割き、書店には臨時に刊行された関連書籍が並び、TV番組でも取り上げられる
ようになると、一般の方々の間にもその話題が急速に広がっていきました。
そして11月18日(日曜日)がやってきました。天気予報によれば、全国的に高気圧に覆われ
始めるものの、関東から東海の沿岸部は雲が発生しやすいとのこと。fornax8が観測場所
として事前にマークしていた八ヶ岳東麓は内陸部のため、天気に大きな崩れはなさそう。
同行する友人と共に車2台で目的地へ迷わず直行し、渋滞に巻き込まれることもなく夕刻
に到着。天気はほぼ快晴です。高標高地のせいか、気温は既に氷点下になっていました。
まだ、機材のセットアップを始めるには早過ぎるため、友人が持参した少し大きめの対空
双眼鏡で土星や星雲星団等の一般天体を観望するなど、余裕をかまして深夜を待ちます。
22時過ぎからゆっくりと機材のセットアップに取り掛かることに。日周運動で東から西へ
移動していく星を電動追尾してくれる赤道儀と呼ばれる架台を2台組み上げ、一方には銀塩
カメラ3台を搭載し、もう一方には動画記録用の高感度白黒CCDカメラを取り付けました。
23時過ぎ、しばらく空を眺めていると、東の空に光の点が現れ、西へ向って大きなアーチ
を描きました。光度は1等級程度と決して明るくはないものの、差し渡しが100度を超える
長経路の流れ星で、飛んできた方向からして明らかにしし座群の流星です。その数分後、
再び長経路で継続時間の長い流星が天頂を切り裂いたのです。短い願い事だったら5回
以上唱えられそうでした。どうやら世紀の大天文ショーが幕を開けたようです。交通量調査
等で使うカウンターを防寒服のポケットに忍ばせ、とりあえず流星数のカウント開始。日付
が変る頃には、早くも1分に1個程度のペースで流星が飛ぶようになり、その数が少しずつ
増していくのがわかりました。
1時から1コマ6分半の露出時間で連続撮影を開始。初っ端から狙っている方向に明るめの
流星が飛び込み、幸先いいスタートです。2コマ目を撮っている最中、うみへび座付近に
眩い閃光が走りました。この夜初めての火球出現です。運良く1台のカメラの写野の端に
入ったようでした。永続痕(えいぞくこん)と呼ばれる煙のようなものが流れた所に残り、
形を変えながらしばらく漂っているのが肉眼で見えました。そうこうしているうちにも、
ダスト・トレイル理論で予報された第一ピーク(2時24分の予報)に向けてどんどん流星数
が増加していきます。
2時過ぎには複数の流星が同時に出現する、いわゆる「豆まき現象」が目立ってきました。
火球クラスの明るい流星も増加傾向を示し、ピーク時には一体どうなるのか、胸の鼓動が
高鳴ります。その時間帯から、しし座の方向を中心に狙った構図でビデオの録画を開始。
カメラのビューファインダーを覗いていても、短い間隔で流星が出現しているのが分かる
状況です。第一ピークの時間を過ぎてもなお流星数は増えていきました。たった2時間半
で、一晩で見た流星数の自己記録を遥かに上回ってしまい、4桁の大台に乗るのは時間の
問題という感じ。
3時過ぎからコンパクトデジカメでも撮影を開始。ダスト・トレイル理論がはじき出した第二
ピーク(3時13分の予報)の前なのに、既に空のあちこちで豆まき現象が起こっていました。
同時に2~3個流れるのは当たり前で、4~5個もまとめて飛ぶような派手な振舞いです。
撮影結果がその場で分かるデジカメでは、たった1分の露出で複数の流星が写っている
のが確認でき、釣りで言うところの入れ食い状態という感じになってました。露出時間の
長い銀塩カメラの方は、1コマに一体いくつの流星が写っていることか。
【コンデジでとらえたしし座流星雨2001(輻射点方向)】
ニコンCOOLPIX885 2001年11月19日撮影(1分×6画像合成)
※画像をクリックすると、大きい画像が別ウィンドウで開きます。
注目の3時13分になると、空のいたるところで止め処もなく流星が流れて、あちこちに
火球が残した永続痕が漂っているという、とんでもない光景が目の前に広がりました。
豆まき現象は同時出現数にして7~8個にも達し、もはや正確な出現数をカウントするの
が不可能な状況。これぞガキの頃から待ち望んでいた本物の流星雨に相違ありません。
友人共々、星の矢が飛びまくる空を呆然と眺め、火球が飛ぶ度に「うぉー」と叫ぶだけでした。
【コンデジでとらえたしし座流星雨2001(地平近く)】
ニコンCOOLPIX885 2001年11月19日撮影(1分×4画像合成)
※画像をクリックすると、大きい画像が別ウィンドウで開きます。
(続く)